第023話 下敷きです
> 【第七支部 覚知記録】
> 覚知 ── 九月九日 十時十二分。
> 入電 ── 公衆電話。発信地 ── 山側 柏木。
> 第一声 ──「下敷きです」
> 出場 ── 第七支部 全隊。
「下敷きです」
尾花律子は用紙を引き寄せた。時刻を分まで書く。秒は書かない。入電の欄に、公衆電話と書いた。この欄に公衆電話と書くのは、今年に入って四度目になる。四度とも山側からになる。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。今何処におられるか教えてください」
「柏木です。山側の、柏木の集落の、バス停の前の電話です」
「お名前と、下敷きになったのがどなたか教えてください」
「高城といいます。宮下さんです。隣の家の、宮下スミさん。七十四です」
尾花は書いた。山側柏木、宮下宅、通報者は隣家。三語で足りる。
「その家が今どうなっているか教えてください」
「杉が倒れて、縁側から座敷まで潰れてます。屋根が半分、下がってます」
「宮下さんの声が聞こえるかどうか教えてください」
「聞こえます。座卓の下にいるって言ってます」
尾花は用紙の右へ書いた。意識あり、会話可、家屋倒壊。ここまでは揃っている。揃っていない欄が一つある。
「高城さん。今、その電話は宮下さんの家から何メートル離れているか教えてください」
「八百です。走ってきました」
「走った時間を、覚えている範囲で教えてください」
「八分くらいです。途中で室谷さんの車に乗せてもらったので、それより少し短いかも知れません」
尾花はそこに八分と書いた。書いた欄は、所要の欄ではない。所要の欄の上に、まだ名前の無い空きが一つある。
「高城さん。杉を動かそうとしないでください。触らないでください」
「触ってません。動かせません」
「宮下さんに、体を動かさないで、こちらが着くまで待つように伝えられますか」
「伝えます。走って戻ります」
「戻らないでください。この電話を切らないでください」
間があった。二秒になる。
「……切りません」
尾花は左手で当直へ回した。回してから、右手の受話器を持ち替えた。持ち替えても、耳から離さない。用紙の下の欄に、背後の音を書いた。風、鳥、車。三語になる。
*
十時十二分の整備場は、床が乾いていた。
台風が抜けて三日目になる。三日目の空は高い。窓から入ってくる風に、湿ったところが無い。
乾いた日に出る出場は、たいてい台風の日より多い。降っている間は、誰も外へ出ないからになる。危ないのは、降り止んで、片付けを始めてからになる。
サイレンレスキューの右腕の付け根に、新しい擦り傷が二本ある。台風の日にアーケードの外で張ったアウトリガーが、風で振られた跡になる。
佐波悠が脚立の下でその二本を見ていた。見てから、指の腹でなぞる。梅木の見かたを、この人はそのまま真似ている。
「宮ヶ瀬さん。これ、放っておいて平気ですか」
「平気ではありません。放っておくと、次に振られた時に同じ場所が伸びます。今日中に埋めます」
宮ヶ瀬佳代は逆から言う。出来ていることを先に言わない。
サイレンクレーンのアウトリガーにも、同じ日の傷がある。四本目の張りが、半拍遅れる癖はそのままになっている。宮ヶ瀬は三年、その半拍を直していない。
三階では、寺尾剛が笊を洗っていた。武藤とうふ店の豆腐が、朝と同じ時刻に届いている。台風の翌日も届いた。三日目も届いた。
「班長、また四丁ですか」
「四丁だ。台風の日から一丁も増えとらん。増やせと言ったこともない」
二文で言って、笊を伏せた。
灰谷蒼汰は索を四本、床に伸ばして測っていた。秋の索は伸びない。硬くなる。
「四本とも二ミリ縮んだままです。もう戻りません」
七尾ひかりは、資器材の秋の並びを終えて、山用の背負い袋を出していた。山側の出場は、資器材を担いで歩くことになる。
袋の重さは十四キロある。この人は三年、同じ重さで担いでいる。減らすと足りなくなり、増やすと登れなくなる。十四で止めた理由を、誰にも言っていない。
火群迅は非常階段の一番下にいた。立ったまま、靴の紐を結び直している。山側の日は、いつもより一度多く結び直す。
逢坂澪は受信席の斜め後ろに立っていた。尾花の背中が前に出るのを見て、自分の席へ戻った。
戻る途中で、須永に一言だけ渡した。
「柏木の中継、今日はどうなっていますか」
「落ちてます。三日前から一箇所。柱が傾いたままなので、直すには重機が要ります」
「重機が入る道は」
「その道が、今、杉で塞がってます」
澪はそれ以上訊かなかった。訊かずに、左手を右耳へ当てた。
*
分析に入ると、澪は喋らない。
盤面に山側の地図が出る。柏木は十一戸の集落になる。市の地図で、この集落の道は二本しか描かれていない。実際には四本ある。描かれていない二本は、舗装されていないからになる。
携帯の届かない場所が、集落の東側に広がっていた。届かない範囲は、地図には載っていない。
載っていないものを、澪は別の紙から拾った。郵便の配達順路になる。
配達は毎日ある。毎日ある物は、道が生きているかどうかを毎日教えてくれる。市の地図は五年に一度しか描き直されない。郵便の順路は、崩れた翌日に書き換わる。
「アンサー」
> ── はい。
「柏木、十一戸。倒木で塞がっている道と、車が入れる終点。三年分の配達記録から候補を」
> ── 候補を三つ出します。……三つとも、東の入口で止まっています。
「止まっている理由は」
> ── わかりません。地図に無い道があります。三本目までは辿れません。
アンサーは返事の前に一度、上を向いた。頭の受話器の形が、天井を向いてから戻る。
澪は三つの候補を並べて、二つ消した。残した一つに、宮下宅と公衆電話の位置を重ねる。
重ねると、八百メートルの線が引けた。その線の途中に、車の入れる終点が来る。
終点から先は、歩く。歩く距離が四百メートルになる。四百メートルを、資器材を担いで登る。
澪は左手を下ろした。
「座標、出た」
五人が動いた。下ろした瞬間に動く。この人の手が下りるまで、誰も一歩も出ない。
「山側柏木、東の入口から入って三つ目の分岐を左、舗装の切れるところが終点、そこから徒歩四百メートル、杉の倒れている一軒」
迅は最後まで聞いていない。「舗装の切れるところ」で走り出している。澪は最後まで言い終えた。
久遠寺修司が受信席の後ろで立ち上がった。
「歩きは」
「四百です。回線は五本、空いています」
「第七支部 ── 出場!」
*
ポールは二本ある。迅が一番に握った。掌が焼ける。焼けるのを毎回やる。一階で装備を背負い、階段で地下三層へ下りる。
この日は、五人とも背負い袋を担いだ。担いだのはひかりの十四キロと、ほかの四人の分になる。積み込んだのは佐波になる。
地下三層の扉が上がった。
「三層、開放!」
宮ヶ瀬佳代が盤の前に立っていた。この日は山側の地図を、盤の隅に出したままにしてある。
「一号から五号、出場!」
サイレンファイヤーの水槽が満載で、車体の後ろが沈んでいる。サイレンレスキューの右腕の擦り傷は、埋める前のままになる。
市街を抜けると、道が細くなった。細くなってから、上がりはじめる。
山側は空が近い。近いのに、届かないものがある。ブレスの盤面で、中継の受信を示す表示が一本落ちていた。
澪の声が耳に入った。
「柏木の中継、一箇所落ちたままになる。応答は届く。ただし、こちらから街へ返す声が半分になる」
迅は返事をしなかった。返事をせずに、速度を落とさなかった。
東の入口で、道の脇に軽自動車が一台止まっていた。郵便の車になる。
運転席に六十くらいの男が座っていた。降りてきて、迅の車の前に立つ。
何も言わなかった。言わずに、指で山の方を差した。差した先に、細い道が一本ある。
地図に載っていない三本目になる。
迅は頷いて、そちらへ入った。入った先で、舗装が切れた。
室谷は、後ろから付いてこなかった。
*
徒歩の四百メートルは、登りだった。
登りの途中で、道の右側に杉が一本、根ごと横になっていた。倒れているのは、宮下宅の一本だけではない。台風の日に緩んだ地盤が、三日かけて滑っている。
滑っている地面は、歩くと分かる。踏んだ足の下が、半歩ぶん遅れて沈む。蒼汰が先に気付いて、列の間隔を広げさせた。詰めて歩くと、一度に全員が乗ることになる。
宮下宅に着いたのは、覚知から三十八分後になる。
縁側から座敷まで、屋根が斜めに落ちていた。落ちた屋根の下から、声が出ている。
「宮下さん」
迅が呼んだ。返事があった。
「はいはい。おりますよ」
思ったより大きい声だった。屋根が半分落ちた家から出る声としては、大きすぎる。大きい声が出るうちは、たいてい間に合う。
座敷の中央に座卓がある。その脚が四本とも立っていて、上に落ちた梁を受け止めていた。宮下スミは、その下にいる。
寺尾が屋根の縁を掌で叩いた。叩いてから、二度、位置を変えて確かめる。
「まあ待て。俺が支える。梁の端が二箇所、宙に浮いている」
二文で言って、ハンマーを構えた。座敷の畳へ、鉄の柱を二本、垂直に入れる。入れた柱が、浮いていた端を下から受けた。
柱は残る。この家の畳に、二本の鉄が立ったままになる。誰も抜かない。抜けば屋根が下りる。下りたら、次に住む人が困る。
柱の本数は、街の地図に書かれない。書かれないので、どこに何本あるかを知っているのは、打った本人だけになる。
蒼汰が倒れた杉の幹に索を掛けた。掛けてから、一度だけ引いた。動かなかった。
「上、任せろ。幹まで九メートル。二箇所取ります」
この人は、杉を切らない。切ると、残った側が動く。動くと、下の座敷がもう一度沈む。
ひかりが座卓の下へ入った。入る前に、袋を下ろして、中身を三つだけ出した。
「宮下さん。手だけ、こちらへ出してもらえますか」
出てきた手は、乾いていた。冷たくもない。三日目の秋の朝で、家の中はまだ暖かい。
「息、返すよ」
七つ数えた。数える長さを変えない。
「脚が動くかどうか、痛くない範囲で試してもらえますか」
「動きます。動くけど、出られんのですよ」
高城が坂の下から上がってきた。上がってきて、家の前で止まった。電話は切っていない。切らずに、携帯ではない受話器を、集落の入口に置いてきている。置いた受話器は、まだ繋がったままになっていた。
その受話器の向こうで、尾花はまだ聞いている。八百メートル先の風の音を、三十八分、切らずに持っている。
この人が切るのは、現場の隊員が着いたと言ったときだけになる。着いたと言われるまでは、通報者が黙っていても切らない。三年、一度も例外を作っていない。
倒れた杉の根が、動いた。
根に抱えられた土が、根ごと持ち上がる。持ち上がった土の中に、三日分の水が入っていた。水と土と根が混ざったまま、家の前で立ち上がる。
高さは杉の半分ほどになる。幅は、道を塞ぐだけある。
迅が左手首の蓋を跳ね上げた。五人が同じ動作をした。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
> サイレン ── 起動。〈逢坂 澪〉〈灰谷 蒼汰〉〈寺尾 剛〉〈七尾 ひかり〉。応答、確認。
反射帯の光が足元から頭まで走った。装甲が下から順に組み上がる。五つの送話口が、同じ高さで止まった。
五人が同時に右手を上げた。耳の高さで止めて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
> 水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
> 声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
> 綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
> 梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
> 息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
>
> 特別災害対策機構、第七支部 ──
> 呼ばれたら、鳴らして、行く!
> 急報戦隊、サイレンジャー!
口上が坂を下りていった。下りた先の十一戸のうち、戸を開けたのは三軒になる。
迅がブレスを土の柱へ向けた。
「トリアージ!」
> 判定 ── 黄。要救助者、内部に一名。生存反応、あり。待機可能。
「黄」
二度目になる。前に見たのは、川の上だった。あの時は、待てる時間が十九分あった。
この日は、待てる側の脇に、もう一つ別の数字が並んでいる。屋根の下で座卓が保つ長さになる。それは誰にも分からない。
澪が言った。声の高さを変えていない。
「黄は待てる。ただし、この家の中の人は待てない。手が足りない。三と二に分ける」
迅は座敷の方を見た。見てから、土の柱の方へ歩き出した。
「二だ。俺と蒼汰。残りは家」
主語を言わない。理由も付けない。
寺尾とひかりと澪が座敷へ入った。柱の二本目を、寺尾がもう一度打ち直す。打ち直した分だけ、座卓の上の隙間が広がった。
土の柱が道を来た。来る速さは、歩く速さになる。速くないので、逃げれば当たらずに済む。
迅は逃げない。斧を右手一丁で立てて、道の真ん中に立った。
当たった。装甲の胸から下が、泥で埋まる。押された足が、二歩ぶん下がる。
下がった二歩の先が、家の前になる。
迅はそこで止まった。止まってから、斧の刃を土へ差し込んで、体を留めた。
「蒼汰」
「はい」
蒼汰が索を投げた。土の柱の上へ、三本目を掛ける。掛けてから、一度だけ引いた。
「上、任せろ。索、九メートル。引きます」
引いた。引いた場所が裂けた。裂けた隙間から、靴が片方だけ出た。
中に人がいる。誰なのかは分からない。
ひかりが座敷から走ってきた。走ってきて、隙間へ両腕を入れた。
「息、返すよ」
引き出した。出てきたのは五十くらいの男で、作業着を着ていた。目は開いている。何も言わない。
ひかりは道の端へ寝かせて、横向きにした。脈を見る。ある。
「意識あります。呼吸あります。搬送させてください」
誰も、この人が何故そこにいたのかを訊かない。訊く言葉を、六人はまだ持っていない。
訊く前に、土の柱が細くなった。細くなってから、道の上を家の方へ寄っていく。
澪が座敷の外へ出て、ソナーを構えた。撃つ前に必ず人数を言う。
「四名。座敷に三、道に一。柱の中は零。撃てる」
撃った。低い音が、土の柱の真ん中を通った。通った場所だけ、土が止まる。
止まった場所へ、迅が入った。斧は右手一丁のままになる。
「サイレンアックス ── 急救斬ッ!」
斧が土の柱を、下から上へ割った。割れた場所から、根が三本、外れて落ちた。
柱が崩れた。崩れた土が道を埋めて、そこから、また盛り上がった。
盛り上がった時には、杉の頭より高くなっていた。高くなった分だけ、細くなっている。細いものの方が、斜面では速い。
地下三層で宮ヶ瀬が盤を叩いた。
「山の斜面です。片側は水平になりません」
クレーンのアウトリガーは、片側を四十センチ長く出してから張ることになる。
五機が東の入口から上がってきた。舗装の切れる先へは入れない。入れないので、斜面の手前で止まった。
サイレンクレーンが、片側のアウトリガーを四十センチ長く出した。四本目が、半拍遅れて張られる。
サイレンメディックが道の途中で止まり、後扉を開けたまま待っている。サイレンウイングが尾根の上を一度、低く抜けた。
抜けた風で、倒れた杉の枝が一方向に揃った。
「五機、連結!」
「特災合体 ── サイレンオー!」
サイレンオーが立った。
坂の下の三軒から見上げた人には、胸から上しか見えなかった。斜面に立っているので、下半分が木に隠れている。
宮下スミには、何も見えていない。座卓の下から、音だけが届いた。
高城には、左手だけが見えた。その左手は、開いていない。握ったままになる。
土の柱が斜面を下ってきた。下ってくる勢いで、木が三本、根から抜けた。
サイレンオーが左腕を斜面へ差し込んだ。握ったままの左手が、土の流れを横から受け止める。
止まった。止まった分だけ、柱の下側が細くなる。
寺尾の声が回線に入った。
「今なら家の側へは行かない。上へ逃がすな」
迅が言った。
「今だ」
右腕の放水砲が開いた。
「サイレンオー ── 全消斬ッ!」
水が出た。斬るのではなく、押す形で出る。
押された土の柱が、斜面を横へ流されていく。流された先は、家の無い谷になる。
谷で、体が保てなくなる。土と根と水に分かれて、そのまま沢へ落ちていく。
沢の水が、三分だけ茶色くなった。三分で戻ったので、下流の家は誰も気付いていない。
十一時三十一分に、宮下スミが座卓の下から出た。
出る時に、この人は自分で膝を立てた。ひかりが両脇に手を入れたが、力はほとんど要らなかった。
「三日ぶりに、外の風に当たりましたわ」
三日ぶりというのは、台風の日から出ていないという意味になる。倒れたのは今朝で、閉じ込められていたのは一時間ほどになる。
ひかりは、その言い方を直さなかった。直さずに、毛布を肩へ掛けた。
高城が家の前で立っていた。まだ立っている。走って戻ってきてから、一度も座っていない。靴の踵が両方とも潰れていた。八百メートルを走った靴が、そういう潰れかたをする。
澪が高城の前に立った。
「高城さん。集落の入口から、宮下さんの家まで八百メートル。走って八分」
「そうです」
「途中から、郵便の車に乗せてもらった」
「はい。室谷さんです」
澪はそれ以上、何も言わなかった。言わずに、盤面に八分と入れた。
入れた欄は、所要の内訳になる。この八分は、六人の所要には入らない。入らないので、記録に残らない。
記録に残らない八分を、澪だけが数えている。
室谷は、いつの間にか車に戻っていた。戻って、配達の続きに出ていった。誰にも何も言っていない。
*
支部へ戻ったのは、十三時を回ってからになる。
佐波がサイレンレスキューの擦り傷を埋めていた。埋めながら、須永に訊いている。
「柏木の中継、今日は直せたんですか」
「直せてません。道が開いたので、明日、重機が入ります」
「明日ですか」
「明日です。今日はまだ落ちてます」
須永は数字だけを置いて、意味を付けない。付けないので、誰も返事をしない。
宮ヶ瀬が工具を置いた。置いてから、一言だけ足した。
「山で使える中継を、まだ作れていません」
毎回、作れなかったものを一つ言う。三年、欠かしたことが無い。
澪は受信席の裏で、尾花の用紙を見ていた。所要の欄の上に、名前の無い空きが一つある。
そこに、尾花は八分と書いていた。書いた後で、線を引いて消してある。
消した理由は、書く欄が無いからになる。消しても、下の字は読める。
澪はその欄を見てから、自分の地図に付箋を一枚貼った。柏木の東の入口になる。
これで六枚目になる。付箋には何も書いていない。
三階の食堂で、寺尾が豆腐を切った。切った角が揃っている。
食べ終わらないうちに、二階の受信席で、電話が鳴った。
> 【第七支部 出場記録】
> 臨場 ── 十時五十分。所要 ── 三十八分。
> 保留 ── 一件。最長 ── 一分四秒。
> 未着 累計 ── 零。
> 損壊 ── 山側柏木 宮下宅 屋根 半壊。集落道 東の入口から三百メートル 埋没。
> 救助 ── 二名。搬送 ── 一名。氏名 ── 不詳。
> 通信 ── 柏木中継所 一基 停止中。復旧、未定。
> 本件、処理 ── 完了。
> ── 入電。




