第022話 手が離れた
> 【第七支部 覚知記録】
> 覚知 ── 九月六日 七時四十八分。
> 入電 ── 携帯電話。発信地 ── 旧市街 二丁目。
> 第一声 ──「手が離れた」
> 出場 ── 第七支部 全隊。
「手が離れた」
尾花律子は用紙を引き寄せた。時刻を分まで書く。秒は書かない。第一声を、聞こえたとおりに書く。書いた言葉には主語が無い。無いまま書く。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです。今何処におられるか教えてください」
「旧市街の二丁目です。商店街の、アーケードの中の、坂井履物店です」
「お名前と、離れたのが何の手か教えてください」
「坂井です。娘です。私の手です。私が持ってた方の手が離れて」
尾花は書いた。旧市街二丁目、坂井履物店、通報者は店の娘。三語で足りる。
「今、けがをされた方が何処にいるか教えてください」
「父です。看板の下です。脚のところに、看板が乗ってます」
「その看板が、動かせる重さかどうか教えてください」
「無理です。二人で持ってたので。金具が付いたままで」
尾花は欄を一つ飛ばした。あとで埋める欄になる。飛ばした欄の数を、この人は毎日勘定している。
「坂井さん。看板を、ご自分で持ち上げようとしないでください」
「でも、父が」
「持ち上げて手が滑ると、二度目が来ます。持ち上げないでください」
「……持ち上げません」
「お父様に、意識があるかどうか教えてください」
「あります。喋ってます。煩いくらい喋ってます」
「お父様が、脚を動かせるかどうか訊いて教えてください」
「動くって言ってます。動くけど、痛いって」
尾花は用紙の右へ書いた。意識あり、会話可、下肢圧迫。三語で足りる。
この三語が揃っている日は、たいてい間に合う。揃わない日のことを、この人は数えない。
「坂井さん。アーケードの屋根から、まだ何か落ちてきそうかどうか教えてください」
「分かりません。さっきから、ずっと鳴ってます。ばたばた鳴ってます」
「鳴っている方の下から離れて、お父様の頭の側にいてください」
「はい」
「通話は繋いだままにしてください。切らないでください」
「切りません」
尾花は左手で当直へ回した。回してから、右手の受話器を持ち替えた。持ち替えても、耳から離さない。用紙の下の欄に、背後の音を書いた。風、金属、父親の声。三語になる。
*
七時四十八分の三階の食堂には、六人が揃っていた。
この日は台風十三号が近付いていて、市の警戒配備が朝から出ている。全員が支部にいる日は、三年で数えるほどしかない。
警戒配備というのは、出場が無くても全員が持ち場にいる態勢になる。出るためではなく、出られる状態でいるための時間になる。
この時間の食堂は、いつもより声が少ない。少ないのは、話すことが無いからではない。次に鳴る音を、全員が半分だけ聞いているからになる。
膳は寺尾剛が並べた。飯と、汁と、武藤とうふ店の豆腐と、漬け物になる。豆腐は朝と同じ時刻に届いていた。台風でも届く。
「班長、風の日でも来るんですね」
「来る。三年で一度も落としたことがない。落とさないから、こっちも切る」
寺尾は二文で言って、四丁を切り分けた。切り分けた角が揃っている。揃えるために、この人は朝の五分を使う。
七尾ひかりは、豆腐を先に食べ終えていた。ほかの五人がまだ半分残っている段階で、椀を置いている。
「早すぎませんか」
「早いです。次に何かあった時に、残っている方が困るので」
灰谷蒼汰は飯を食いながら、左手で索の端を触っていた。触って、指の腹で毛羽を探している。
「秋の索は硬くなります。四本とも二ミリ縮んでます」
逢坂澪はコーヒーを飲んでいた。砂糖も牛乳も入っていない。飲みながら、九月の風の記録を見ている。
台風十三号は、明日の未明にこの街の東を抜ける。抜ける前の朝が、一番風が回る。
回る風というのは、向きが定まらない風になる。定まらないと、物の飛ぶ先が読めない。
火群迅は、飯を三口で食べ終える。それから汁を飲む。豆腐は最後に残す。理由を訊かれたことがない。訊かれていないので、答えたこともない。
久遠寺修司が食堂の入口に立った。立ったまま、中を見た。
「全員か」
「全員です」
久遠寺はそれだけ確かめて、二階へ下りた。この人が朝の食堂を覗くのは、警戒配備の日だけになる。
そこで、電話が鳴った。
六人のうち、五人が箸を置いた。ひかりだけは、もう置いていた。
*
分析に入ると、澪は喋らない。
左手で右耳を塞ぐ。盤面に旧市街のアーケードが出る。長さ二百四十メートル、屋根は波型の板が三千枚ほど並んでいる。
板の留め具は、一枚につき四本になる。四本のうち二本が抜けている区画が、東の端から数えて七区画目にあった。
三年前の補修の記録がある。記録には、その区画だけ載っていない。
アーケードは五十二年前に架かっている。架けた当時の図面は市に残っているが、その後の補修の図面は、店ごとに別々の業者が持っている。
風は南東から入って、アーケードの中を抜けていく。抜ける途中で、東の端の七区画目に当たって、そこで上へ回る。
上へ回る風は、板を下から持ち上げる。持ち上がった板は、留め具の残り二本で保つ。
保たなくなる風速を、澪は計算した。答えは毎秒十八メートルになる。
今の風速は、毎秒十六メートルだった。
「アンサー」
> ── はい。
「旧市街二丁目、アーケード東端。今日の最大瞬間風速の予測、時刻ごとに」
> ── 八時台、毎秒十九。九時台、毎秒二十二。以降、上がります。
「板が飛ぶ順番は」
> ── わかりません。留め具の実際の残り本数が分かりません。
アンサーは返事の前に一度、上を向いた。頭の受話器の形が、天井を向いてから戻る。この機械は分からないと言える。便利ではない。
澪は盤面のアーケードを残して、あとを消した。消してから、坂井履物店の位置に印を置いた。
印の場所は、東の端から数えて六区画目になる。飛ぶ区画の、一つ隣になる。
澪は左手を下ろした。
「座標、出た」
五人が動いた。下ろした瞬間に動く。この人の手が下りるまで、誰も一歩も出ない。
「旧市街二丁目、アーケード内、東の端から六つ目の区画、坂井履物店。屋根の留め具が抜けているのは一つ東の区画」
迅は最後まで聞いていない。「坂井履物店」で走り出している。澪は最後まで言い終えた。
久遠寺が受信席の後ろで立ち上がった。
「風は」
「十六です。回線は五本、空いています」
「第七支部 ── 出場!」
*
ポールは二本ある。迅が一番に握った。掌が焼ける。焼けるのを毎回やる。一階で装備を背負い、階段で地下三層へ下りる。
地下三層の扉が上がった。
「三層、開放!」
宮ヶ瀬佳代が盤の前に立っていた。台風の日は、この人は盤の前から動かない。
「一号から五号、出場!」
サイレンファイヤーの水槽は満載で、車体の後ろが沈んでいる。サイレンレスキューの右腕の黒い跡は、この日も落ちていない。
この日は救助工作の資器材の他に、油圧の器具を二台、余分に積んだ。積んだのは梅木になる。
「二台とも、昨日の夜に油を替えました。冷えている方が効きます」
外へ出ると、風が横から来ていた。車体が押される。押される向きが一定していない。
旧市街の商店街は、車が入れない。アーケードの入口で降りて、走ることになる。
入口の手前で、迅が一度止まった。止まって、上を見た。
波型の板が、端から順に鳴っている。ばたばたという音が、二百四十メートルの奥まで続いていた。
音は、奥へ行くほど遅れて届く。遅れて届く音が重なると、アーケードの中は一つの長い音になる。長い音の中では、人の声が埋まる。
商店街の店は、この日、二軒しか開いていない。武藤とうふ店と、坂井履物店になる。片方は台風でも豆腐を作る。もう片方は、台風の前に看板を下ろす。
迅は走った。走る足の下で、床のタイルが濡れている。屋根の隙間から入った雨ではない。まだ降っていない。どこかの店の前の水が、風で運ばれてきたものになる。
走った先の六区画目に、人が二人いた。
坂井の父は、床に仰向けになっていた。左の脛の上に、袖看板が乗っている。木の枠に、金属の枠が二重に付いたものになる。
娘は、父の頭の側に座っていた。電話を耳に当てたままになる。当てたまま、もう片方の手で父の額を押さえていた。
「消防です。手を離さないでください。そのままで」
ひかりが先に入った。入って、父の脚の側ではなく、頭の側に膝を突いた。
脚を見る前に、顔を見る。三年、この順番を変えていない。
「息、返すよ」
七つ数えた。数える長さを変えない。
「坂井さん。お父様の名前を、耳元で一度呼んでもらえますか」
娘が呼んだ。呼んだ声が、屋根の音に半分消された。それでも父には届いた。
父が返事をした。返事の声が、思ったより大きかった。
「煩いわ。おれは平気だ。看板がのっかっとるだけだ」
「平気ではありません。乗っているものを外すまで、動かないでいてもらえますか」
寺尾が看板の端に回った。回って、床との隙間へ指を入れた。入れてから、抜いた。
「まあ待て。俺が支える。ここは一度に上げるな、片側ずつだ」
二文で言って、油圧の器具を二台とも、看板の西側へ並べた。
東側から上げると、屋根の板が飛んだ時に、上げた隙間へ落ちる。西側から上げれば、落ちる先が塞がる。
誰もその理屈を口にしなかった。並べた場所で分かる。
蒼汰がアーケードの梁へ索を投げた。掛かってから、一度だけ引いた。動かなかった。
「上、任せろ。十二メートル。板が九枚浮いてます」
登った。登って、浮いた板を上から押さえる。押さえた板を、索で梁へ縛った。
九枚のうち、五枚まで縛ったところで、風が変わった。
南東から、東へ。回った。
残りの四枚が、一斉に上がった。上がってから、横へ飛んだ。
飛んだ先は、アーケードの外の道になる。道には人がいない。台風の日の朝の商店街は、店が開いていない。
開いていない代わりに、四枚の板は、向かいの武藤とうふ店の暖簾を掛ける腕木を折った。
折れた腕木が落ちて、店の前の水槽に当たった。水槽の水が、道へ流れ出た。
*
流れた水が、アーケードの床を東から西へ走った。
走った水に、飛んだ板の四枚と、折れた腕木と、留め具の錆が混ざっていく。混ざったまま、坂井履物店の前で立ち上がった。
高さはアーケードの屋根に届いた。届いてから、下から押し上げる。押し上げられた板が、また十数枚、外れて浮いた。浮いた板の下で、ばたばたという音がまた始まった。
迅が左手首の蓋を跳ね上げた。五人が同じ動作をした。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
> サイレン ── 起動。〈逢坂 澪〉〈灰谷 蒼汰〉〈寺尾 剛〉〈七尾 ひかり〉。応答、確認。
反射帯の光が足元から頭まで走った。装甲が下から順に組み上がる。五つの送話口が、同じ高さで止まった。
五人が同時に右手を上げた。耳の高さで止めて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
> 水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
> 声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
> 綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
> 梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
> 息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
>
> 特別災害対策機構、第七支部 ──
> 呼ばれたら、鳴らして、行く!
> 急報戦隊、サイレンジャー!
口上が二百四十メートルの屋根の下を、東から西へ抜けていった。抜けた先の入口で、風とぶつかって止まった。
迅がブレスを塊へ向けた。
「トリアージ!」
> 判定 ── 黒。要救助者、内部に確認できません。
「黒」
迅は前に出た。出る前に、油圧の器具の位置を一度だけ見た。二台とも、まだ看板の下に入っている。
塊が、器具の方へ寄った。
寺尾が間に入った。入って、看板の上へ両腕を置いた。
「動かすな。片側だけ持ち上がると、脚が捻れる」
二文で言って、そのまま塊の側へ背中を向けた。背中を向けるということは、当たるということになる。
当たった。寺尾の背が二歩ぶん押された。押されても、腕は看板から離れなかった。
迅が斧を右手一丁で振った。振った先が、塊の腰にあたる場所になる。
斧が入って、水が割れた。割れた水の中から、留め具の錆が飛んだ。錆が迅の面の左側に当たって、線を一本引いた。
澪がソナーを構えた。撃つ前に必ず人数を言う。
「二名。坂井父娘。塊の中ではない。床の上」
撃たなかった。撃つと、床の二人まで音が届く。
澪は構えを解いた。解いてから、二人の頭の側へ回って、自分の背中を音の側に置いた。
蒼汰が梁の上から索を落とした。落とした索を、ひかりが受けた。
「上、任せろ。十二メートルの半分を下ろします」
ひかりは索を看板の金具に回した。回してから、寺尾を見た。
「班長、器具の圧を抜いてもらえますか。上ではなく、横へ引きます」
寺尾が抜いた。抜いた分だけ、看板が床へ戻る。戻ったところで、蒼汰が上から索を引いた。
看板が横へ滑った。滑って、父の脛から外れた。
外れた脛には、横に一本、赤い線が付いていた。骨は折れていない。押されていた時間が短い。
押されていた時間が長いと、外した後の方が危なくなる。外す前に決めることがいくつかある。ひかりはそれを、この日は一つも使わなかった。使わずに済む現場の方が、この人には多い。
ひかりが両手で脛を挟んだ。挟んで、上から下へ二度、掌で押さえた。
「血は通っています。冷やしてから運ばせてください」
塊が、坂井履物店の店先を崩した。崩した先の板を巻き上げて、アーケードの屋根を破って外へ出た。破れ目から、九月の空が見えた。
地下三層で宮ヶ瀬が盤を叩いた。
「この風では高く上げられません。低いまま使ってください」
五機が商店街の外へ並んだ。サイレンクレーンは入口で止まる。アーケードには入れない。入れないので、アウトリガーを外の道で張った。
サイレンメディックが裏の路地へ回り、後扉を開けたまま待つ。サイレンウイングは地上五メートルの高さで、屋根の上を横に抜けた。
抜けた風で、浮いていた板が三枚、逆に押さえつけられた。
「五機、連結!」
「特災合体 ── サイレンオー!」
サイレンオーが立った。
アーケードの破れ目から見上げた娘には、胴の下半分しか見えなかった。父は仰向けのまま、その破れ目の縁だけを見ていた。
商店街の外の道で、武藤とうふ店の主人が立っていた。この人には、左手だけが見えた。
その左手は、開いていない。握ったままになる。
塊がアーケードの屋根の上を、東から西へ走った。走った跡の板が、順に剥がれて飛んでいく。
サイレンオーが右腕を上げた。上げてから、下ろした。
下ろした理由は、下に商店街があるからになる。この位置で撃つと、水が屋根を残らず落とす。
寺尾の声が回線に入った。
「西の端まで持っていけ。あそこはもう屋根が無い」
サイレンオーが左腕を伸ばした。握ったままの左手が、塊の腰を掴んだ。掴んで、西へ引いた。
引かれた塊が、アーケードの西の端まで来た。西の端は、去年の台風で屋根が落ちたまま直っていない。
直っていない場所が、この日は役に立った。
迅が言った。
「今だ」
右腕の放水砲が開いた。
「サイレンオー ── 全消斬ッ!」
水が出た。斬るのではなく、押す形で出る。
押された塊が、屋根の無い区画で潰れる。潰れた先で、体が保てなくなる。板と錆と水に分かれて、道の側溝へ落ちていった。
商店街の東の端で、二百四十メートルの音が止まった。止まった後に残るのは、風の音だけになる。風の音は、屋根のある場所とない場所で高さが違う。
音が止まったのは、鳴る板が無くなったからになる。七区画目の屋根は、一枚も残っていない。
*
九時十二分に、坂井の父が搬送された。
搬送の前に、娘が父の耳元でもう一度何か言った。何を言ったかは、誰も聞いていない。
言われた父は、担架の上から天井の破れ目を見ていた。見たまま答えた。
「持ってたのはこっちだ。おまえのじゃない」
娘は返事をしなかった。返事の代わりに、父の手を持ち直した。
ひかりは、その二人の間に入らなかった。入らずに、担架の高さだけを合わせた。
合わせてから、扉を閉めて、閉めた側の手で二度、縁を叩いた。合図になる。
武藤とうふ店の主人が、折れた腕木を拾っていた。拾って、店の中へ運ぶ。運びながら、水槽の水を桶で汲み出している。水が減らないと、明日の朝の分が作れない。
この店は、三年で一度も配達を落としていない。落とさない理由を、誰も訊いたことがなかった。
迅がその横へ回って、桶をもう一つ取った。取ってから、何も言わずに汲み出した。
二人で汲むと、三分で終わった。終わってから、主人が迅の面の左の線を指した。
「そこ、切れとるぞ」
迅は面の左を触った。触って、何も言わずに手を下ろした。下ろした手には、錆が付いていた。
支部へ戻ったのは、十時を回ってからになる。
食堂の膳は、朝のまま置いてあった。飯は乾いて、汁は冷めている。豆腐だけが、まだ形を保っていた。
寺尾は膳を下げなかった。下げずに、汁だけ鍋へ戻して火に掛けた。掛けてから、豆腐を椀の中で一度、崩さないように寄せた。
「温め直すと味が落ちますよ」
「落ちる。落ちても捨てん。武藤が三年、一度も落とさずに持ってきとる」
二文で言って、火を細くした。
整備場では、戸倉が索を四本、掛け直していた。掛け直しながら、速水に言っている。
「屋根の上で九枚のうち五枚まで縛りましたよね。あの風で五枚は、多い方です」
「灰谷さんに言ってあげたらどうですか」
「言いません。もっとやれって言われるので」
梅木が油圧の器具を二台、拭いていた。拭いてから、油の量を計った。
「昨日入れた分が、二台とも半分残ってます。次も足ります」
宮ヶ瀬が工具を置いた。置いてから、一言だけ足した。
「縛る道具はあります。押さえる道具を作れていません」
毎回、作れなかったものを一つ言う。三年、欠かしたことが無い。
澪は受信席の裏で、旧市街の地図を見ていた。アーケードの東の端の七区画目に、印を一つ置く。
三年前の補修の記録に、そこだけ載っていない。載っていない理由を、この人はまだ知らない。知らないものを、この人は必ず地図の上に残す。
残しておくと、いつか並ぶ。並んだ時に、初めて形になる。三年、そうやって五つ溜まった。
地図には、丘の上三丁目の付箋も貼ったままになっている。
六人は、冷めた飯を食べ終えなかった。食べ終える回は、三年でまだ三度しかない。今日はその一つではない。
二階の受信席で、電話が鳴った。
> 【第七支部 出場記録】
> 臨場 ── 七時五十九分。所要 ── 七十三分。
> 保留 ── 一件。最長 ── 五十二秒。
> 未着 累計 ── 零。
> 損壊 ── 旧市街二丁目 商店街アーケード 屋根板 東端七区画 全損。坂井履物店 店先 破損。武藤とうふ店 暖簾腕木 一本。
> 傷病 ── 一名。左下腿挫傷。搬送。
> 本件、処理 ── 完了。
> ── 入電。




