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急報戦隊サイレンジャー ~呼ばれたら、行く。呼べないなら、見つけに行く~  作者: 智珠
第二巻

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19/94

第二巻 扉と出場記録抄

   鳴ったら出る 鳴らんでも出る

   出たら誰かが 待っている


             ── 第七支部 一階の壁書き


     呼ぶのは、負けじゃない。


*


> 【第七支部 出場記録抄 第二号】

> 巻 ── 第二。

> 期間 ── 八月から、十一月まで。

> 隊員 ── 五名。

> 回線 ── 八。

> 未着 累計 ── 零。

> 以下、記録を開く。


◆ この頁について


 読まなくても本編は読めます。先の巻の中身は載せていません。


◆ ここまでのこと


 災いが、作られている。火事も、崩落も、増水も、停電も。

 作った側は殺しに来ない。災いの周りから、声だけを消していく。


 火は見えている。人は叫んでいる。

 それでも、指令センターに掛かってくる電話は一本しかない。


 だから、呼べた人がいるかどうかで、全部が決まる。


 鳴瀬市を受け持つのは、特別災害対策機構〈サイレン〉第七支部。隊員は五名。

 受信回線は八本しかない。隊員が変身すると、その本数が減る。

 強くなることと、街が呼べなくなることが、同じ数字で動く。


 春に始まって、夏を越えた。行けなかった件は、まだ一つも無い。


◆ 言葉


・覚知(かくち)

 災害を知った時刻になる。各話はここから始まる。分まで書いて、秒は書かない。


・第一声(だいいっせい)

 通報者が最初に言った言葉になる。要約しない。聞こえたとおりに書く。

 各話の題は、その日の第一声になっている。


・所要(しょよう)

 覚知から着くまでの時間になる。短ければよいものではない。


・回線(かいせん)

 受信回線は八本しかない。隊員が一人変身すると一本、合体するともう一本ふさがる。

 ふさがった分だけ、市民が繋がらなくなる。毎回ゼロに戻る。翌日には八本に戻っている。


・保留(ほりゅう)

 回線が塞がって、待たせてしまった通報になる。締めに秒数まで印字する。

 三十秒待たせたか、四分待たせたかを、この作品は毎回書く。


・未着(みちゃく)

 行けなかった件になる。一度増えると、二度と減らない。今は零になっている。


・トリアージ

 倒す前に、腕輪が敵に色を出す。四つある。


  黒  中に人がいない。倒してよい

  黄  人がいる。待てる。人を出してから撃つ

  緑  自力で出られる。壊さず、逃がす

  赤  人がいる。危ない。必殺を撃てない


・急救斬(きゅうきゅうざん)

 個人の必殺になる。武器の名を頭に付けて叫ぶ。

 「サイレンアックス ── 急救斬ッ!」


・全消斬(ぜんしょうざん)

 サイレンオーの必殺になる。胸の放水口が全開になり、水が刃の形で出る。

 斬るのではない。押し切って、災いそのものを消す。


・決めの型

 変身のあと、右手を耳の高さに上げて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。

 道具も広さも要らない。三歳でも出来る。


◆ 空欄(くうらん)


 指令の用紙には、書く欄が決まっている。

 時刻の欄、場所の欄、人数の欄、背後の音の欄。


 欄が無いものは、書けない。

 呼ばなかった人のための欄は、この用紙に無い。

 助けようとして二人目になった人のための欄も、無い。


 欄の外にあるものを、一人だけ、白い付箋で数えている人がいる。


◆ 季節


 八月から始まる。夏の終わりから秋へ。

 夏は水難と熱中症と雷、秋は台風と増水になる。


 季節は一年で一巡して、三年で終わる。冬は三度来る。


◆ 鳴瀬市(なるせし)


 人口およそ七十万。海と川と山を一つずつ持つ地方中核市になる。


・旧市街  木造が詰まっている。路地の幅は一間半。車が入らない

・商店街  東の端の七区画は、屋根が無いまま骨組だけになっている

・湾岸   物流倉庫と工場。夜も動いている

・丘の上  新興住宅地。坂が急で、救急車が上まで行けない道がある

・川沿い  遊水地と堤防。三日降ると水が出る

・山側   集落が点在する。携帯の繋がらない場所がある

・中央駅前 地下街が三層ある。人が多い


◆ 五人の隊員


・火群(ほむら) 迅(じん) 二十七歳 サイレンレッド

 階段は二段飛ばし。扉の前で、手の甲を一度だけ当てて熱を見る。

 三年、真空引きの音が鳴りきるのを待ったことが無い。

 先に着いて、先に受けて、その分だけ先に傷を負う。

 「行くぞ。先に着く」


・逢坂(おうさか) 澪(みお) 三十一歳 サイレンブルー

 二階の席から降りてこない。飯を運んでもらう日が三年続いている。

 考えている間は左手で右耳を塞ぐ。手を下ろした時には、もう答えが出ている。

 付箋に日付と場所と件数しか書かない。名前は書かない。

 「座標、出た」


・灰谷(はいがい) 蒼汰(そうた) 二十四歳 サイレンイエロー

 最年少。索を三巻き持って歩く。雨の日は一巻き多い。

 結んだあと、必ず一度だけ引く。結び目を親指で押す。

 投げたものは必ず回収する。焦げても、千切れても、端だけは持って帰る。

 「上、任せろ」


・寺尾(てらお) 剛(ごう) 四十五歳 サイレングリーン

 最年長。人数分より一つ多く湯を出す。余った一つは自分が飲む。

 支えている間は動けない。だから、いつも最後に出てくる。

 打ち込んだ柱を抜かない。街に柱が増えていく。

 「まあ待て。俺が支える」


・七尾 ひかり(ななお ひかり) 二十九歳 サイレンピンク

 現場では走らない。走って入ると、押している人の手が止まるからになる。

 着くまでに息が上がる。整えるのに七つ数える。長さを三年変えていない。

 斬った回数と、助けた回数を数えている。数えていることは言わない。

 「息、返すよ」


・サイレンゴールド

   ─


◆ 五人を呼ぶ声


・サイレンアンサー

 第七支部の応答系になる。戦わない。合体しない。

 消火器ほどの円筒に、受話器の形の頭が乗っている。腕は無い。

 階段を一段ずつ降りる。いつも遅れて来る。返事の前に、必ず一度だけ上を向く。

 「わかりません」と言える。便利ではない。


◆ 支部の人々


・久遠寺(くおんじ) 修司(しゅうじ) 五十六歳 第七支部長

 短く訊く。感想を言わない。壁の紙に、今月の数字を自分の字で書く。

 「第七支部 ── 出場!」


・尾花(おばな) 律子(りつこ) 四十四歳 指令室・受信担当

 電話を取る。姿より先に声が出る。

 時刻を分まで書いて、秒は書かない。背後の音を三語だけ書く。

 現場には一度も出ない。六人は、この人に礼を言わない。

 「はい、鳴瀬市消防指令センターです」


・宮ヶ瀬(みやがせ) 佳代(かよ) 三十八歳 整備班長

 装備と機体を直す。新しい装備は、全部この人の手から出る。降ってこない。

 徹夜の日数を盛る。三日目と言った次の日も三日目と言う。

 毎回、作れなかったものを一つ言う。作れたものは言わない。


・戸倉 健/梅木 あかね/佐波 悠/速水/須永 整備班と通信

 掌を当てて温度で診る人。面を上げるのが速い人。工具を落とす人。

 地図を出す人。塔に登る人。


◆ 街の人


・武藤(むとう) 徳三(とくぞう) 六十八歳 旧市街のとうふ屋

 毎朝同じ時刻に店を開け、同じ時刻に支部へ届けに来る。

 豆腐を丁で数えない。「三十六だ。丁は言わん」

 礼を言わない人になる。


◆ 変身と名乗り


 左手首の蓋を、右手で跳ね上げる。開いた蓋が、受話器の形になる。


 「急報 ── 出場!」


> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。


 変身は、電話が繋がる工程になっている。だから、繋がらないことがある。


  水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!

  声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!

  綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!

  梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!

  息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!


  特別災害対策機構、第七支部 ──

  呼ばれたら、鳴らして、行く!

  急報戦隊、サイレンジャー!


 名乗るのは、装備になる。強さは名乗らない。締めに所属を言う。


 一階の壁に貼ってある紙には、七行ある。

 字が入っているのは、五行だけになる。


◆ 手に持つ道具


 共通の武器を〈サイレンギア〉という。柄を半回転させると形が変わる。


  筒先(つつさき) 流す  「筒先!」

  斧(おの)    割る  「斧!」


 個人の武器は五つになる。


・サイレンアックス 迅  二丁ある。普段は片手で一丁だけ使う

・サイレンソナー  澪  壁越しに撃つ。撃つ前に必ず人数を言う

・サイレンワイヤー 蒼汰 投げたら必ず回収する

・サイレンハンマー 寺尾 打ち込んだ柱は残る。街に増えていく

・サイレンナイフ  ひかり 斬った回数と、助けた回数を数えている


◆ 五つの機体


 五つとも、戦うために作った機械ではない。

 消防車と、救急車と、重機と、ヘリになる。合体する前に、まず消防車として働く。


・サイレンファイヤー 一号 緋  大型水槽付ポンプ車  胴と頭

・サイレンレスキュー 二号 黄  救助工作車      右腕

・サイレンクレーン  三号 深緑 クレーン付重機    左腕

・サイレンメディック 四号 桃  高規格救急車     右脚

・サイレンウイング  五号 藍  消防防災ヘリ     背と左脚


 発進の合図は、隊員ではなく整備班が出す。

 「三層、開放!」「一号から五号、出場!」


 傷は持ち越す。回線は毎回ゼロに戻るが、機体の傷は戻らない。


◆ 合体


 連結は三号のクレーンから始まる。

 アウトリガーを張って、四本目だけが半拍遅れる。三年、直していない癖になる。

 その半拍の間に、残りの四機が入る。


 「五機、連結!」

 「特災合体 ── サイレンオー!」


 全高四十メートル。装甲は被せていない。消防車がそのまま立っている。

 左の掌は開かない。三号が畳んだアウトリガーが、そのまま拳になっている。

 誰も直さない。誰も、そのことに触れない。


 全景はめったに出てこない。たいてい、見上げている人の視界の一部として出る。


◆ 向こう側


・災厄機関〈サイレンス〉

 災いを作る。そして、そこから出る声だけを消す。

 殺しには来ない。声を消すだけになる。


・ダンマリ

 黒い全身の戦闘員になる。顔に送話口が無い。消える時も、何も言わない。


・禍体(かたい)

 その回の災いが形を取ったものになる。火、水、崩落、停電、煙。

 人の形は取らない。倒しても、何も残らない。


・自力(ジリキ)

 幹部。素手で戦う。自分の怪我を、自分で手当てする。

 助けを呼ばない。呼べるのに呼ばない。差し出された手を取らない。

 「手は、自分で巻け」


・遠慮(エンリョ)

 幹部。傘を差している。顔は見えない。

 「ご迷惑ですから」


・首魁

   ─


◆ この巻で起きること


 夏の終わりから秋へ、四か月分の当直になる。

 腕輪が、黒以外の色を出しはじめる。


 助けられた人が、次の頁で誰かに同じことをする。

 誰も教えていない。それでも同じ形になる。


 未着 累計は、この巻の間も零のままになる。


> 以上、記録抄。

> 本編は、次の頁から始まる。

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