第二巻 扉と出場記録抄
鳴ったら出る 鳴らんでも出る
出たら誰かが 待っている
── 第七支部 一階の壁書き
呼ぶのは、負けじゃない。
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> 【第七支部 出場記録抄 第二号】
> 巻 ── 第二。
> 期間 ── 八月から、十一月まで。
> 隊員 ── 五名。
> 回線 ── 八。
> 未着 累計 ── 零。
> 以下、記録を開く。
◆ この頁について
読まなくても本編は読めます。先の巻の中身は載せていません。
◆ ここまでのこと
災いが、作られている。火事も、崩落も、増水も、停電も。
作った側は殺しに来ない。災いの周りから、声だけを消していく。
火は見えている。人は叫んでいる。
それでも、指令センターに掛かってくる電話は一本しかない。
だから、呼べた人がいるかどうかで、全部が決まる。
鳴瀬市を受け持つのは、特別災害対策機構〈サイレン〉第七支部。隊員は五名。
受信回線は八本しかない。隊員が変身すると、その本数が減る。
強くなることと、街が呼べなくなることが、同じ数字で動く。
春に始まって、夏を越えた。行けなかった件は、まだ一つも無い。
◆ 言葉
・覚知
災害を知った時刻になる。各話はここから始まる。分まで書いて、秒は書かない。
・第一声
通報者が最初に言った言葉になる。要約しない。聞こえたとおりに書く。
各話の題は、その日の第一声になっている。
・所要
覚知から着くまでの時間になる。短ければよいものではない。
・回線
受信回線は八本しかない。隊員が一人変身すると一本、合体するともう一本ふさがる。
ふさがった分だけ、市民が繋がらなくなる。毎回ゼロに戻る。翌日には八本に戻っている。
・保留
回線が塞がって、待たせてしまった通報になる。締めに秒数まで印字する。
三十秒待たせたか、四分待たせたかを、この作品は毎回書く。
・未着
行けなかった件になる。一度増えると、二度と減らない。今は零になっている。
・トリアージ
倒す前に、腕輪が敵に色を出す。四つある。
黒 中に人がいない。倒してよい
黄 人がいる。待てる。人を出してから撃つ
緑 自力で出られる。壊さず、逃がす
赤 人がいる。危ない。必殺を撃てない
・急救斬
個人の必殺になる。武器の名を頭に付けて叫ぶ。
「サイレンアックス ── 急救斬ッ!」
・全消斬
サイレンオーの必殺になる。胸の放水口が全開になり、水が刃の形で出る。
斬るのではない。押し切って、災いそのものを消す。
・決めの型
変身のあと、右手を耳の高さに上げて、掌を外へ向ける。受話器を取る形になる。
道具も広さも要らない。三歳でも出来る。
◆ 空欄
指令の用紙には、書く欄が決まっている。
時刻の欄、場所の欄、人数の欄、背後の音の欄。
欄が無いものは、書けない。
呼ばなかった人のための欄は、この用紙に無い。
助けようとして二人目になった人のための欄も、無い。
欄の外にあるものを、一人だけ、白い付箋で数えている人がいる。
◆ 季節
八月から始まる。夏の終わりから秋へ。
夏は水難と熱中症と雷、秋は台風と増水になる。
季節は一年で一巡して、三年で終わる。冬は三度来る。
◆ 鳴瀬市
人口およそ七十万。海と川と山を一つずつ持つ地方中核市になる。
・旧市街 木造が詰まっている。路地の幅は一間半。車が入らない
・商店街 東の端の七区画は、屋根が無いまま骨組だけになっている
・湾岸 物流倉庫と工場。夜も動いている
・丘の上 新興住宅地。坂が急で、救急車が上まで行けない道がある
・川沿い 遊水地と堤防。三日降ると水が出る
・山側 集落が点在する。携帯の繋がらない場所がある
・中央駅前 地下街が三層ある。人が多い
◆ 五人の隊員
・火群 迅 二十七歳 サイレンレッド
階段は二段飛ばし。扉の前で、手の甲を一度だけ当てて熱を見る。
三年、真空引きの音が鳴りきるのを待ったことが無い。
先に着いて、先に受けて、その分だけ先に傷を負う。
「行くぞ。先に着く」
・逢坂 澪 三十一歳 サイレンブルー
二階の席から降りてこない。飯を運んでもらう日が三年続いている。
考えている間は左手で右耳を塞ぐ。手を下ろした時には、もう答えが出ている。
付箋に日付と場所と件数しか書かない。名前は書かない。
「座標、出た」
・灰谷 蒼汰 二十四歳 サイレンイエロー
最年少。索を三巻き持って歩く。雨の日は一巻き多い。
結んだあと、必ず一度だけ引く。結び目を親指で押す。
投げたものは必ず回収する。焦げても、千切れても、端だけは持って帰る。
「上、任せろ」
・寺尾 剛 四十五歳 サイレングリーン
最年長。人数分より一つ多く湯を出す。余った一つは自分が飲む。
支えている間は動けない。だから、いつも最後に出てくる。
打ち込んだ柱を抜かない。街に柱が増えていく。
「まあ待て。俺が支える」
・七尾 ひかり(ななお ひかり) 二十九歳 サイレンピンク
現場では走らない。走って入ると、押している人の手が止まるからになる。
着くまでに息が上がる。整えるのに七つ数える。長さを三年変えていない。
斬った回数と、助けた回数を数えている。数えていることは言わない。
「息、返すよ」
・サイレンゴールド
─
◆ 五人を呼ぶ声
・サイレンアンサー
第七支部の応答系になる。戦わない。合体しない。
消火器ほどの円筒に、受話器の形の頭が乗っている。腕は無い。
階段を一段ずつ降りる。いつも遅れて来る。返事の前に、必ず一度だけ上を向く。
「わかりません」と言える。便利ではない。
◆ 支部の人々
・久遠寺 修司 五十六歳 第七支部長
短く訊く。感想を言わない。壁の紙に、今月の数字を自分の字で書く。
「第七支部 ── 出場!」
・尾花 律子 四十四歳 指令室・受信担当
電話を取る。姿より先に声が出る。
時刻を分まで書いて、秒は書かない。背後の音を三語だけ書く。
現場には一度も出ない。六人は、この人に礼を言わない。
「はい、鳴瀬市消防指令センターです」
・宮ヶ瀬 佳代 三十八歳 整備班長
装備と機体を直す。新しい装備は、全部この人の手から出る。降ってこない。
徹夜の日数を盛る。三日目と言った次の日も三日目と言う。
毎回、作れなかったものを一つ言う。作れたものは言わない。
・戸倉 健/梅木 あかね/佐波 悠/速水/須永 整備班と通信
掌を当てて温度で診る人。面を上げるのが速い人。工具を落とす人。
地図を出す人。塔に登る人。
◆ 街の人
・武藤 徳三 六十八歳 旧市街のとうふ屋
毎朝同じ時刻に店を開け、同じ時刻に支部へ届けに来る。
豆腐を丁で数えない。「三十六だ。丁は言わん」
礼を言わない人になる。
◆ 変身と名乗り
左手首の蓋を、右手で跳ね上げる。開いた蓋が、受話器の形になる。
「急報 ── 出場!」
> サイレン ── 起動。〈火群 迅〉。応答、確認。
変身は、電話が繋がる工程になっている。だから、繋がらないことがある。
水を持ってく、火の現場 ─── サイレンレッド!
声を持ってく、知の現場 ─── サイレンブルー!
綱を持ってく、高の現場 ─── サイレンイエロー!
梁を持ってく、圧の現場 ─── サイレングリーン!
息を持ってく、生の現場 ─── サイレンピンク!
特別災害対策機構、第七支部 ──
呼ばれたら、鳴らして、行く!
急報戦隊、サイレンジャー!
名乗るのは、装備になる。強さは名乗らない。締めに所属を言う。
一階の壁に貼ってある紙には、七行ある。
字が入っているのは、五行だけになる。
◆ 手に持つ道具
共通の武器を〈サイレンギア〉という。柄を半回転させると形が変わる。
筒先 流す 「筒先!」
斧 割る 「斧!」
個人の武器は五つになる。
・サイレンアックス 迅 二丁ある。普段は片手で一丁だけ使う
・サイレンソナー 澪 壁越しに撃つ。撃つ前に必ず人数を言う
・サイレンワイヤー 蒼汰 投げたら必ず回収する
・サイレンハンマー 寺尾 打ち込んだ柱は残る。街に増えていく
・サイレンナイフ ひかり 斬った回数と、助けた回数を数えている
◆ 五つの機体
五つとも、戦うために作った機械ではない。
消防車と、救急車と、重機と、ヘリになる。合体する前に、まず消防車として働く。
・サイレンファイヤー 一号 緋 大型水槽付ポンプ車 胴と頭
・サイレンレスキュー 二号 黄 救助工作車 右腕
・サイレンクレーン 三号 深緑 クレーン付重機 左腕
・サイレンメディック 四号 桃 高規格救急車 右脚
・サイレンウイング 五号 藍 消防防災ヘリ 背と左脚
発進の合図は、隊員ではなく整備班が出す。
「三層、開放!」「一号から五号、出場!」
傷は持ち越す。回線は毎回ゼロに戻るが、機体の傷は戻らない。
◆ 合体
連結は三号のクレーンから始まる。
アウトリガーを張って、四本目だけが半拍遅れる。三年、直していない癖になる。
その半拍の間に、残りの四機が入る。
「五機、連結!」
「特災合体 ── サイレンオー!」
全高四十メートル。装甲は被せていない。消防車がそのまま立っている。
左の掌は開かない。三号が畳んだアウトリガーが、そのまま拳になっている。
誰も直さない。誰も、そのことに触れない。
全景はめったに出てこない。たいてい、見上げている人の視界の一部として出る。
◆ 向こう側
・災厄機関〈サイレンス〉
災いを作る。そして、そこから出る声だけを消す。
殺しには来ない。声を消すだけになる。
・ダンマリ
黒い全身の戦闘員になる。顔に送話口が無い。消える時も、何も言わない。
・禍体
その回の災いが形を取ったものになる。火、水、崩落、停電、煙。
人の形は取らない。倒しても、何も残らない。
・自力
幹部。素手で戦う。自分の怪我を、自分で手当てする。
助けを呼ばない。呼べるのに呼ばない。差し出された手を取らない。
「手は、自分で巻け」
・遠慮
幹部。傘を差している。顔は見えない。
「ご迷惑ですから」
・首魁
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◆ この巻で起きること
夏の終わりから秋へ、四か月分の当直になる。
腕輪が、黒以外の色を出しはじめる。
助けられた人が、次の頁で誰かに同じことをする。
誰も教えていない。それでも同じ形になる。
未着 累計は、この巻の間も零のままになる。
> 以上、記録抄。
> 本編は、次の頁から始まる。




