表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season7 ― 家族システムのアップデート ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season7 ― 家族システムのアップデート ―
8/10

第7章 母の記録 ― ログに宿る声 ―

深夜の病院。

村中澪むらなかみおの手に導かれ、凪くんは“voice_log”と名づけられたフォルダを開く。

夜の院内は、昼間とは別の顔をしていた。

昼の喧騒が嘘のように消え、

照明の淡い光だけが、無人の廊下を静かに照らしている。


なぎは会議室の端で、一人モニターに向かっていた。

エラーログの赤い点滅が、まだ消えない。

兄たちの言葉が何度も頭をよぎる。

――理想論だ。

――医療に感情を持ち込むな。


そのたびに胸の奥で何かが締めつけられた。

自分の信じてきた「優しさ」は、本当に力になっているのか。

誰かを救えるものなのか。


「……まだ、終わってない。」


凪が小さくつぶやいたとき、

ドアが控えめにノックされた。


陽翔はるとくん?」


振り向くと、村中澪むらなかみおが立っていた。

白衣の裾が静かに揺れ、

手には小さなUSBメモリを握っている。


「こんな時間まで残っていたのね。」


「先生……少しだけ、調べたいことがあって。」


みおは微笑みながら近づき、

手にしていたメモリをそっと机の上に置いた。


「――あなたのお母さんが、最後まで使っていた端末。

 そこに、まだ開かれていないフォルダがあったの。」


凪は息をのんだ。

母の名が刻まれたラベルが、

長い時間を超えて小さく光っている。


「見てみて。

 あなたが今、行き詰まっているなら、

 きっとこの中に“ヒント”があるわ。」


「……ありがとうございます。」


USBを挿し込むと、画面に小さなフォルダが開いた。

タイトルは「voice_log」。

そこには、患者たちの名前と日付が並んでいた。


クリックすると、

母・美鈴みすずの穏やかな声が流れ出した。


 > “今日の検査はよく頑張りましたね。

 > 治療は続くけれど、あなたの笑顔が何よりの回復です。”


 > “数値は少し下がったけれど、落ち込まなくていいの。

 > 数字は嘘をつかない。でも、心の回復は数字にならないのよ。”


 > “いつかね、この病院の中に

 > “ありがとう”が自然に響く場所を作りたいの。

 > それが私の夢。”


凪の目から、静かに涙がこぼれた。

母の声が、データを越えて胸に響いてくる。

今、自分が作ろうとしている“心のシステム”のすべてが、

この想いから始まっていたのだと気づいた。


澪はそっと凪の肩に手を置いた。


「お母さん、あなたを信じてたの。

 “この子は、人の心の動きを形にできる”って。」


「……母さん。」


モニターに流れる文字が、赤いエラーから白い光に変わっていく。

新しいアイデアが、ゆっくりと形を取り始めた。


「患者の声を記録するんじゃない。

 “声が、届く仕組み”にすればいいんだ……!」


凪はキーボードを叩き始めた。

涙で滲む画面の向こうに、

母の笑顔が微かに見えた気がした。


――風が、カーテンを揺らす。

あの日、屋上で感じたあの風と同じ、

優しい風だった。

母・美鈴みすずの声が、時を超えて流れ出す。

“ありがとうが響く場所を作りたい”

その想いが、次の設計図へと進化していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ