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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season7 ― 家族システムのアップデート ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season7 ― 家族システムのアップデート ―
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第6章 運用テスト ― 揺らぐ信頼 ―

βテストが始まる。

理想と現実の狭間で、(なぎ)くんの信念が試される。

午前9時。


(なぎ)メディカルクリニックの会議室には、

新システムのモニターがずらりと並んでいた。


「患者カルテ共有・応答管理システム」――


(なぎ)が中心となって開発した、院内情報の一元化ツールだ。


医師とスタッフ、患者の声を可視化し、

“治療の流れと気持ち”を同時に追える仕組み。


(しゅう)は最終チェックを終え、静かに息を吐く。


「……準備、できたな。」


「はい。βテスト、開始します。」


クリックと同時に、

モニターに次々と患者データが流れ始めた。


リアルタイムで更新される文字列。


端末の光が会議室の空気を少しずつ変えていく。


「……すごい。動いてますね。」


「ここまでは順調です。

 あとはスタッフの入力速度に合わせて最適化して……」


そのとき、画面のひとつが赤く点滅した。


「……凪、これ。」


「え?」



 “ERROR:患者データ重複検知”



(なぎ)の手が止まる。

別の端末でも、同じエラーが連鎖するように点灯した。


「まさか……」


「すみません、すぐ確認します!」


急いでコードを追う(なぎ)の指先。


だが原因が見つからない。

入力システムの同期がずれている。


そこへ、医局から兄たちが入ってきた。


匠翔(たくと)

「……何をしている?」


(なぎ)

「βテスト中です。

 少しデータの重複が出ていて……今、修正を――」


奏翔(かなと)

「重複? それはシステムの根幹に関わる欠陥だ。」


(なぎ)

「一時的な処理ミスかもしれません。

 手動で再同期をかければ……」


匠翔(たくと)

「“かもしれない”では困る。

 医療現場では、ひとつのエラーが命を左右する。」


言葉が冷たく響いた。

(なぎ)は口を開きかけたが、飲み込む。


奏翔(かなと)

「感情を入れた設計など不要だ。

 “正確さ”と“速度”があればいい。」


(なぎ)

「……わかってる。

 でも、患者の“声”が抜け落ちたシステムなんて、本当の意味で救いにならない。」


奏翔(かなと)

「理想論だ。」


短い沈黙。

(しゅう)が静かに一歩前へ出た。


「今は、エラーの本質を見極めよう。

 理屈でも感情でもなく、事実で話そう。」


匠翔(たくと)は黙って腕を組み、モニターに目を向ける。


数分後、(なぎ)が小さく呟いた。


「……これ、外来端末との時間差だ。

 通信ログが重なって、データを二重に送信してる。」


「じゃあ、根本的なバグじゃないんですね。」


「はい……でも、これじゃ運用に耐えられない。」


「一旦止めよう。今日のところはテスト中断だ。」


匠翔(たくと)

「判断は正しい。……だが、これは危ういシステムだ。」


奏翔(かなと)

「そうだな。

 “人の感情”を扱う設計など、再現性がない。」


その言葉に、(なぎ)は手を握りしめた。

何も言い返せない自分が悔しかった。


「おいおい、そんなに責めなくてもいいだろ。」


いつの間にかドアの前に立っていた海翔(かいと)が、

少しあきれたように笑う。


「エラーくらい出るさ。

 だって、“人の心”だって完璧じゃないんだから。」


|(しゅう)が静かに頷いた。


「……それは、いい言葉だな。」


匠翔(たくと)は溜息をつき、

「とにかく、次の報告までに修正しておけ。」とだけ言い残して出ていった。

奏翔(かなと)も無言で後に続く。


会議室に残った凪は、肩を落としたままモニターを見つめた。

赤いエラーメッセージがまだ点滅を繰り返している。


「……凪くん。」


「大丈夫です。

 でも……悔しいですね。

 “心を支えるシステム”が、まだ形になってない。」


「焦るな。

 データが示すのは失敗じゃない、“次の課題”だ。」


「……そうそう。

 なあハル。

 おまえ、母さんの部屋の奥に置いてあったPC、まだ見てないだろ?」


「え?」


「あれ、村中(むらなか)先生が最近整理してたんだ。

 母さん、最後まで何か記録を残してたらしい。」


「……母さんの、記録?」


海翔(かいと)は軽く笑って、

「明日、先生に聞いてみな。」とだけ言い残して出ていった。


(なぎ)は立ち尽くしたまま、

暗くなり始めたモニターの光をじっと見つめていた。


――エラーの赤が、どこか遠い記憶の光のように揺れていた。

「エラー」は終わりじゃない。

それは、まだ見つかっていない“心の更新プログラム”のサイン。

――そして、母の記録が再び息を吹き返す。

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