第4章 白衣の影 ― 再会 ―
医局の扉を開けた凪くんを待っていたのは、
長男・匠翔、次男・奏翔――そして、過去と向き合う時間。
医局のドアの前に立つと、
さっきまでの屋上の風が嘘のように止まった。
中からはキーボードの打鍵音と、低い話し声が聞こえる。
整然とした空気。温度は一定なのに、どこか冷たい。
凪が小さく息を吸い、ノックをした。
「――陽翔です。」
ドアを開けた瞬間、
空気が一瞬だけ張りつめた。
長男・匠翔が白衣の袖を直しながら顔を上げる。
その隣では、冷静な眼差しで書類を閉じる次男・奏翔。
匠翔:「……久しぶりだな。」
凪:「うん。……元気そうで何より。」
奏翔:「“うん”じゃない。“お久しぶりです”だろう。」
その一言に、環は思わず背筋を伸ばした。
柊は何も言わずに凪の隣に立つ。
凪:「……ごめん。つい昔の癖で。」
匠翔:「まぁいい。で、今日はどういう風の吹き回しだ?」
凪:「父さんからの依頼で、
院内システムの再構築を担当することになった。
アークシステムズとして正式に請け負う。」
奏翔:「……父上の判断か。珍しいな。」
匠翔:「父は“情”で動くところがある。
だが、病院の中に“感情”を持ち込むのは危険だ。
システムは“数字と結果”で動くべきだと思わないか?」
凪:「思うよ。でも、“数字の向こうに人がいる”ってことは
忘れたくないんだ。」
奏翔:「理想論だ。」
凪:「そうかもしれない。でも、
それで救われる人もいるはずだから。」
匠翔:「……昔から変わらないな。
医者にならなかったことを、まだ言い訳してるのか。」
その言葉に、室内の空気がぴんと張った。
柊がゆっくりと一歩前に出る。
柊:「すみません、ひとつだけ。
彼が選んだのは逃げじゃなく、
“支える場所”を変えたってことです。
――俺たちのチームは、その力を信じています。」
環も小さく頭を下げた。
「凪くんは、誰かの痛みをちゃんと見てます。
それって、医療の中でもすごく大事なことだと思います。」
奏翔は一瞬だけ言葉を止めた。
匠翔は視線を外し、書類を机に戻す。
匠翔:「……仕事なら、こちらも協力はする。
ただし、現場の判断は医師側が最優先だ。」
凪:「わかってる。現場を尊重する。それがルールだから。」
奏翔:「ならいい。」
凪:「……ありがとう。」
小さな沈黙のあと、ドアがノックされた。
海翔:「おーい、もう始まってる?」
柔らかな声とともに、海翔が顔を出した。
場の空気が一瞬だけ緩む。
海翔:「うわ、相変わらずピリピリしてんな〜。
ほら、みんな揃ったんだし、
父さんに報告行こうぜ。」
凪はほっと息を吐き、柊と環に目をやる。
その目には、ほんの少しの緊張と、確かな光が宿っていた。
――家族システムの再構築。
それはまだ、はじまったばかりだった。
厳しい言葉の裏にある“家族の正義”。
柊と環の支えが、凪くんの立つ場所を守ってくれた。
家族システムの再構築、その第一歩が始まる。




