↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season7 ― 家族システムのアップデート ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season7 ― 家族システムのアップデート ―
PR
4/10

第3章 風の記憶 ― そして、医局へ ―

屋上に吹く風。そこには、母・美鈴(みすず)の面影があった。

そして(なぎ)くんの前に、ひとりの兄が姿を現す。

屋上の扉を開けた瞬間、潮の香りを含んだ風がふわりと吹き抜けた。


青い空と海がひと続きになっていて、

病院の屋上とは思えないほど穏やかな光が満ちていた。


(しゅう)は目を細め、静かに言った。


「……いい場所だな。」


(なぎ)は頷きながら、視線をめぐらせた。


ハーブのプランターが整然と並び、

その奥に“美鈴(みすず)ガーデン”と刻まれた小さなプレートが立っている。


「母さんがね、

 “人の心にも風が通る場所を作りたい”って言って造ったんです。」


(たまき)はゆっくりと息を吸い、目を閉じた。


「……なんか、優しい香りがします。」


「ローズマリーとミントです。母さんが好きだった。」


風が3人の髪を揺らす。


時間がゆっくりと巻き戻っていくような静けさの中で、

(みお)が小さく微笑んだ。


「ここは、美鈴(みすず)さんの“もうひとつの診察室”だったの。

 患者さんを連れてきてはね、“風の声を聞いてごらん”って。」


(なぎ)はその言葉に小さく頷いた。


「……やっぱり、ここに来てよかった。」


「私は医局に戻るわ。

 あなたたちは、少し風と話していらっしゃい。」


そう言い残して、(みお)は静かに扉の向こうへ消えた。


――その背中を見送ったあと、

ふいに後ろから明るい声が響いた。


「おーい、ハル!」


(なぎ)が振り返ると、白衣の袖をまくり上げた男性が立っていた。

柔らかく焼けた肌と、人懐っこい笑み。

整形外科医・三男の(なぎ) 海翔(かいと)


「……海翔兄さん。」


「うわ、ほんとに帰ってきたのか!

 しかも“仕事”でって……ハルらしいな〜。」


「まぁ、いろいろありまして。」


「あはは、そう言うと思った。

 で、こっちの2人は?」


如月(きさらぎ)です。アークシステムズのプロジェクト担当です。」


「同じく事務担当の如月環(きさらぎたまき)です。お世話になります。」


「どうもどうも。ハルの仲間か。

 あいつ、昔から面倒見よくてさ、

 気づいたら何でも背負ってるタイプなんだよな。」


「……想像できますね。」


「海翔兄さん、余計なこと言わなくていいですから!」


海翔(かいと)は笑いながら手を振った。


「まぁまぁ。兄貴たちに会う前に笑っておいた方がいいぞ。

 あの2人、いまだに“白衣が(よろい)”だからな。」


「鎧……ですか?」


「理屈とデータでできてる兄貴たち。

 でも悪い人じゃない。

 ただ、ハルが選んだ道が理解できてないだけだ。」


(なぎ)は少しうつむき、風に目を細めた。

海翔(かいと)はその肩を軽く叩く。


「父さん、今日機嫌いいから。

 “おかえり”って、たぶん言ってくれるよ。」


「……そうだといいな。」


「じゃ、行くか。医局で待ってるぞ。

 あいつら、驚くだろうな〜。」


そう言って、海翔(かいと)が先に階段を降りていく。

(しゅう)(たまき)が視線を交わし、(なぎ)が小さく息を整えた。


――風が、背中を押した。

海翔(かいと)兄さんの言葉に、少しだけ心がほぐれる。

けれどその先には、理屈と現実の世界――医局が待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。