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【8/28改訂】年下甘えん坊騎士を捨てて戦地へ赴いたら、瀕死の私に狂愛を囁く恋人の真実を知りました  作者: 恋せよ恋


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20/24

第20話 僕を赦さなくていいから、目を覚まして

 隣国では現君主が退位し、第一王子が新たな君主となった。その知らせが正式に公布されると、国境沿いの小競り合いも完全に途絶え、敵兵の姿も見かけなくなった。


 野戦病院に残された負傷兵も、傷の浅い者から順に王都への帰還を許されていった。

それでも、まだ馬車での移動に耐えられない重症者たちは残されている。彼らの回復を待ちながら、施設は少しずつ縮小されることになっていた。



 ミレーユのベッドの脇には、いつもと変わらずレオンが影のようにへばりついていた。

 片時も彼女のそばを離れようとしないその執着ぶりに、今日王都へ帰還することが決まっていたケビンが、呆れたように息を吐く。


「おい、レオン。ちょっとミレーユと二人にしてくれ」


「……断ります。僕は一刻もミレーユのそばを離れる気はありません」


「固いこと言うなよ。俺は今日王都に帰るんだ。親友に別れを告げる時間くらい、くれたっていいだろ」


 ケビンに半ば強引に押し出される形で、レオンは苦々しい顔のまま病室のドアの外へと追い出された。


 ◇


「ミレーユ、聞こえてる? 医学文献には、意識が戻らない患者さんでも、眠っている間に外の声は聞こえていたっていう報告もあるから、ミレーユも聞こえてるんじゃないかなって信じてるんだ」


 ケビンはベッドサイドの椅子に腰掛けて、優しく、親友の右手を握ると、ゆっくりとさすった。


「だからさ、そろそろ起きてよ。君が目を覚まさないと、あいつは一生君の介助人で終わるつもりらしいよ。しかも、嬉々として君に尽くしているから気持ち悪いよね。ふふふ」


 ケビンの声に、ミレーユの反応はない。


「あいつ、第一騎士団に退団届まで出したんだよ。僕が慌てて止めたけど、結局受理されなくてさ。今は特例で休職扱いになってる。だって、そんなことミレーユは望まないでしょう。だから、君が目を覚まさないと、大変だよ。我が国の優秀な騎士様が一人失われちゃうからね」


 ケビンの目に涙が盛り上がって、やがて頬を伝った。鼻の奥がツンとして、涙を堪えると自然と鼻声になってしまう。


「……ミレーユ、君と話したいよ。いろいろ聞いて欲しいこともあるしさ。早く起きてよ。……王都で待っているからね。絶対に帰ってくるんだよ。じゃあね、ミレーユ。先に帰るけど、また王都で会おうね」


 ベッドの上で深く眠り続けるミレーユの細い手を、ケビンがそっと布団の中へ戻した、その時だった。



 我慢の限界を迎えたようにガタンとドアが開き、レオンが病室へと入ってきた。


「ケビン先生。もういいでしょう。そろそろ僕と交代してください」


「……お前、本当に四六時中ミレーユのそばにいるつもりなのか」


「当然です。ミレーユが目を覚ますまで、僕はここを一歩も離れません」


「そうやって、また自分勝手に決めるのか?」


 ケビンの声が不機嫌そうに低くなる。


「ミレーユがそれを望んでいるのかも分からないのに」


「……」


「お前は一度、ミレーユを傷つけたんだぞ」


「分かっています」


「だったら——」


「分かっていると言っているでしょう!」


 レオンの叫びが、静まり返った病室に虚しく響いた。


「僕がどれだけ後悔しているか、あなたに何が分かるんですか! 僕はもう二度と、彼女を傷つけたくない。だから……!」


 互いに視線をぶつけ合い、睨み合う二人。その瞬間、二人の意識からミレーユの存在が消えていた。


『……やめ……て』


  掠れた小さな声が聞こえた気がした。



 ピタリと二人の動きが止まり、次の瞬間、二人は弾かれたように同時にミレーユへ視線を落とす。


「……今の」


「聞こえたか?」


「ああ。聞こえた」


「なんて……言ってた?」


 顔を見合わせ、二人は息を呑む。


「「やめて」」


 二人は目を見開いたまま、吸い寄せられるように再び彼女の顔を見つめた。

 けれどミレーユは目を閉じたまま、変わらず静かな寝息を立てている。どこまでも穏やかで、悲しいほどに変化のない寝顔だった。


 しばらくの間、二人は言葉を失い、ただ彼女の顔を見つめ続けることしかできなかった。


 ◇


 ミレーユが戦場で倒れてから、季節は厳しい冬を越え、柔らかな春を迎えていた。

 ケビンが王都へ戻ってから半年が経った。この間、負傷兵たちは回復した者から順に帰還し、最後まで残っていた重症者たちも、ようやく王都への移送が可能な状態となった。


 ミレーユの意識は、まだ戻っていない。


 それでも、時折うわ言のように「レオン……」と彼の名を呼ぶことだけはあった。

 そして、あの日、ケビンとレオンが口論していた際には、二人の声に反応するように『……やめて』と掠れた声を漏らした。


 その小さな変化を、レオンは決して忘れなかった。

 それは、いつかミレーユが目を覚ますかもしれないという、彼にとってかけがえのない希望だった。


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