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【8/28改訂】年下甘えん坊騎士を捨てて戦地へ赴いたら、瀕死の私に狂愛を囁く恋人の真実を知りました  作者: 恋せよ恋


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第16話 最前線での約束の抱擁、そして絶望

 ミレーユは北方国境の野戦病院で懸命に働いていた。連日、過酷な戦場から負傷兵が次々と運び込まれてくる。


 手当の甲斐なく命を落とす兵士も多く、この戦いが単なる小競り合いとはまるで局面が変わったことを、前線の誰もが肌で感じていた。相手が使っている兵器は、王国軍が装備しているものと同じ最新鋭のものだったのだ。


「王家は何を考えているんだ! これじゃ、兵士がいくらいても足りんぞ!」


「ああ、その通りだ! 俺たちの命なんざ、使い捨てだと思っているのさ!」


 負傷兵たちの間には、苛烈を極める戦況への焦りと王家に対する不満が燻っていた。



「ミレーユさん、大丈夫? あなた、昨日は夜勤だったでしょう。このままじゃ体が持たないわ。ここは日勤に任せて、早く休みなさい」


 先輩助手のアリサが気遣って声をかけてくれる。だが、そう言う彼女自身も休日を返上して働きづめだった。


「アリサさん、ありがとうございます。でも、包帯の交換が終わるまで手伝わせてください」


「……そう。助かるわ、ありがとう。……それにしても、重症者ばかりね。一体どうなってしまうのかしら」



 そんな極限状態の中、ミレーユの毎日は慌ただしく過ぎていった。毎日ヘトヘトになるまで働き、命を落としていく兵士を見送ることも増え、体だけでなく心までが擦り切れていた。


 ◇


 そんなある日、野戦病院からほど近い前線で多数の重傷者が発生し、現地へ直接出向いて応急手当にあたることになった。


 危険を伴う救急処置に、現場を長く知る最年長の老医師とミレーユが志願した。



「でも、あなたはまだ若いでしょう。私が代わりに行くわ」


「いいえ、アリサさん。……アリサさんには、帰りを待つ旦那様と二人のお子さんがいるじゃないですか。私は身寄りのない身ですから」


 ポツリと漏らしたその言葉に、アリサの目つきが変わった。


「バカなことを言うんじゃないわ! 身寄りがなかろうと、生きることを諦めるようなことを口にしちゃダメ! ミレーユさんを慕う仲間が、ここにはたくさんいるのよ! 『絶対に生き残る』って強く思わなきゃダメ! もっと自分の生に執着しなさい! いいわね、約束よ!」


 目に涙をため、顔を紅潮させて自分のために怒ってくれるアリサ。その言葉に、ミレーユの中で張り詰めていた緊張がプツリと切れた。


「……アリサさんっ。うっ……うぅ……っ、はい……っ!」


 力強く抱きしめられ、ミレーユはアリサの胸で声を上げて泣いた。抱きしめるアリサの体温に包まれながら、ミレーユは悟る。


(私……レオンと別れてから、人に甘えることを忘れていたのね)


 ◇


 現地に到着した最前線は、まさに地獄絵図だった。


 黒煙と激しい砲撃音の中、ミレーユと老医師は次々と運ばれてくる傷病兵の治療に追われた。血と硝煙の匂いに塗れながら、恐怖を感じる猶予すらないまま必死に命を繋ぎ止めていく。


「ミレーユ君! これで重症者の処置は一通り終わりだ! 一旦陣営まで下がろう!」


 老医師が叫んだ、直後だった。


 上空を仰ぎ見る間もなく、すぐ近くの地に敵の最新鋭砲弾が着弾した。


 視界を真っ白に焼き尽くす閃光。空を切り裂く飛翔音とともに、鼓膜を砕く凄まじい爆音がミレーユを呑み込んだ。



 それを最後に、ミレーユの意識は深い闇へと途絶えた。


 ◇


 瓦礫と土砂の中に倒れていたミレーユは、救護兵たちによって担架に乗せられたが、その容態は誰の目から見ても絶望的だった。


「息が浅いぞ! 急いで幕舎へ運べ!」


「頭を強く打っている! 慎重に運ぶんだ!」


 混乱が飛び交う中、途切れ途切れの闇の中にいるミレーユの唇から、かすかな声が漏れ出す。


「……レ……オン……ッ。レオン……」


 何度も、うわ言のように繰り返されるその名を、手当にあたる衛生兵たちは首をかしげて聞き取っていた。



「『レオン』……? 彼女の家族か? それとも診療所の職員か……?」


「わからない。だが台帳にそんな名の関係者は載っていないぞ」


 命の灯火が消えかかろうとする中で彼女が必死に呼び続ける存在を、誰も知る由はなかった。



 衛生兵が彼女の所持品から身元確認書を見つけ出す。


「身元保証人の欄に記載があるぞ! 『ケビン・フォード』……王都の診療所に勤務する医師だ!」


「フォード伯爵家のご出身のケビン先生か! 大至急、彼女が危篤状態であることをお報せしなければ……! ケビン先生なら、彼女が呼び続けている『レオン』のこともご存じかもしれない!」


「今日、王都へ向かう本営の緊急伝令が出る! それに便乗させろ! ケビン先生の診療所とフォード伯爵家へ『ミレーユ嬢、前線にて重傷。危篤』と打つんだ!」


 戦火の絶えない前線をあとに、命の報せを携えた一騎の早馬が、王都への道をひたすら駆け抜けていった。


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