4話 胃薬を申請しよう!
朝、訓練所に集まった者達を眺め、号令を出す。
「整列!点呼開始!」
「第1班、全員揃いました!」
「第2班、全員揃いました!」
……
声が次々と上がる。
「第6班、揃いました!」
「第7班、揃ってまーす!」
「第8班、揃いました!」
「おい、第7班はどうした。」
「小隊長、いるよ〜!!」
「……あの馬鹿ども、またか。罰として訓練三倍だ。いつもいつも舐め――は?なんでいるんだ!?」
「俺たち心を入れ替えたんだ。今日からマジメに!!」
「そうだよ〜!」
「頑張ります!」
「…ダメだ、胃が…!!」
「どうした小隊長!!大丈夫か!?」
「お前たちのせいだぞ!訓練は特別メニューだ!!」
「は!?なんで!!」
「絶対良くないことを起こすからだ!前払いだ!!」
「理不尽すぎる!!」
「今までの行いのせいだし、仕方ないよ〜」
「いっぱい鍛えましょう!!」
「セラは煮炊きの魔道具を魔力を出して維持しろ。爆破するなよ」
「え〜お酒飲む訓練ないの〜?」
「無い!次、ボルクは素振りしろ。絶対に早く振らずにゆっくり型を確認しろ。」
「……はい、わかりました…。」
「カラムは俺と戦闘訓練だ。」
「え、嫌だけど?」
「勝ったら給料に色つけてやる。」
「やる!!」
「よし、他の班はいつも通り訓練しろ。行け。」
「はっ!」
――――――――――――
俺とカラムは訓練所に移動した。
周囲では他の兵たちが訓練を開始している。
空いていたスペースでカラムと俺は木剣を片手に向かい合う。
カラムは自分の身長の半分ほどもある長い木剣を、気だるげな構えで下段に構える。
そこに型はなく、自然と身についた自己流だろう。
だが、腰の位置と足の向きが妙に噛み合っている――本能で動くコイツらしいとさえ感じる。
「金ーー!!!」
「欲望丸出しの掛け声だな!」
バカ正直に真っ直ぐ突っ込んでくる。
下段から斜めに切り上げ。
剣筋は鋭いが、狙いが分かりやすく単純だ。
一合、二合とカラムの剣を弾く。
力は入っていないが、動きに迷いがない。
逡巡の隙に三合目でわずかに遅れ、さらに数合打ち合いながら数歩下がり、間合いを取る。
やれば出来るのに、惜しい奴だ。
足運びも悪くない。
反応も早い。
ただ、勘に頼った戦い方だ。
直線的で狙いがバレバレ、力も平均的。
いつも通りこのままなら危なげなく勝てるだろう。
振り下ろしをギリギリで躱したあと、出来た大きな隙に木剣を振り下ろす。
その瞬間、カラムがニヤリと笑った。
フェイントか?珍しい。
そう思ったが反射的に違和感を覚える。
――あの体勢、剣で受ける気がない。
カラムは既に剣を手放し、しゃがみ込み低い姿勢でこちらに突っ込んで来ていた。
「マウントもらったぁ!!!」
「なっ――!?」
反射的に膝を突き出す。
偶然膝がカラムの顎に直撃し、カラムが崩れ落ちた。
「……驚かせやがって、馬鹿め。」
息をつきながら木剣を下ろす。
訓練場の砂が舞い、風が汗を冷やした。
――――――――――――
「訓練はここまでだ。」
飯番が大鍋を抱えてこちらに向かってくる。
俺は訓練終了を告げる。
飯番の後ろを盗んで来たのであろうワインの瓶を片手に持ち、セラがフラフラと歩いてくる。
「おい、そのワインはお前の給料から引いておくからな。」
「えぇ〜、まぁ後払いで飲んでると思えばいっか!」
セラは酒を煽りながら、まだ地面で寝ているカラムに絡む。
俺はため息をつき、監督していた魔法兵に尋ねた。
「セラの様子はどうだった? かまどは無事か?」
「えぇ……意外とまともでした。ただ、酒を取り上げたら魔力が全く安定せず、少量飲ませたところでようやく安定しました。理屈は分かりませんが……」
「……飲ませたのか!?」
「おもし…いえ、爆破するぞと脅されまして!」
「お前!はぁ…爆発せず済んだなら上出来か…。」
俺は頭を掻きながら集まって来た全員の顔を見回す。
だが、もう1人がいない。
「おい、ボルクはどこだ?」
「訓練開始と同時に資材庫へ走っていくのを見かけたのが最後です!」
「……は?」
「小隊長の指示では?」
「そんな指示は出していない。嫌な予感がする。カラム、セラ、お前たちは着いてこい。行くぞ。」
全力で走りながら祈る。どうか資材庫が無事でありますように。
だが、扉の向こうから響く爆音と雄叫びで、希望は絶たれた。
扉を開けた瞬間、言葉を失う。
記憶にある理路整然と並んだ資材棚は跡形もなく、棚は倒れ、丸太は吹き飛び、細かな資材が床一面に散らばっていた。
「ボルク!! お前! お前!!!」
「うわっなんだこりゃ。ボルク、これ1人でやったのか!お前やっぱり凄いな!」
「すご〜!ボルクはいつも全力だね〜!!」
「あ、小隊長! 指示通り素振りをしていたであります!」
「……一応聞こうか。どうして素振りでここまで壊れる?」
「丸太で素振りをしていたからであります!」
「なぜ丸太なんだ。」
「孤児院にいた頃に丸太で素振りをすれば強くなる修行法があると読んだであります!」
「それは物語だろうが!」
「ですが、他にも書いていた修行法を試したら、本当に強くなれたのでこれもと思いました!!」
ボルクは誇らしげに笑い、折れた丸太を肩に担ぐ。
「……もういい。三人とも片付けだ! 急げ!」
砂と木片にまみれながら片付けを始める。
ボルクはひたすら「片付けも鍛錬になる!」と叫び、セラは笑いながら酒を煽り、カラムは呆れた顔をしつつも楽しそうに笑っていた。
「お前ら真面目に片付けろ!他の部隊に気付かれる前に終わらせるぞ!」
――――――――――――
「あー疲れたぁ!」
「何とか間に合ったね〜」
「いい鍛錬でした!」
「ボルク、お前は反省しろ……はぁ……」
どうにか片付けを終え、任務に出ていた別部隊との交代にも間に合った。
駐屯しているこの辺境の開拓村には、魔法で構築された外壁が村を一周取り囲んでいる。
その外壁周辺の哨戒と、ゴブリンなど弱い魔物の駆除、強い魔物が出たらできる限り村から離して死ぬのが俺たち辺境制圧部隊の仕事だ。
「さて、いつも通り外壁周辺の魔物の駆除および異変の確認を行う。先の部隊から特に異常はないと聞いているが――気を引き締めていけ。散開。」
門を出て散っていく各班を見送りながら、一息つく。
俺の役目は、ここで報告を受け異変に対応すること。
何か異変があれば、近くの班へと合図を送り、合図を受けた班のうち1人がこちらへ報告に来る。
つまり、俺はここで“何も起きないこと”を願う仕事をしている。
毎日、同じ祈りを繰り返す。
バカで最低なヤツばかりだが誰も死なず、誰も怪我せず無事に今日も終わるようにと。
しかし、今日はその祈りは無駄だったようだ。
高かった日も傾きあと少しで任務が終わる、そんな時に大きな爆音と共にビリビリと空気が震えているのを感じた。
5話は20:20に更新します。




