23話 れいに
天井にぶつかり、割れた瓶からワインが降ってくる。
ハゲは避けることも無くワインを浴び、真っ赤に染まりながら薄い毛をかきあげ整える。
「もう二度と生えて来ませんよ。それでここからどうされるのですか?火でも付けてみますか?」
「……もしかして別に苦手とかじゃない?」
「えぇ、それなりに飲める方かと。先程のはあまりにも…。」
「ちょっとカラム〜?残り1本、返して。」
「すまん、セラ。1本無駄にした。」
「ん〜仕方ないよ〜」
「もう手は無いという事ですね。残念です、少しは期待したのですが。」
「何を…。」
セドリックが尋ねるのとほぼ同時に後ろへ吹き飛んで行った。
「なっ!?セド!無事か!!」
「オエッ…ゲホ、ゲホッ!!」
「ほう?盾を挟むとは中々良いですね。では次は…。」
「リ、リオネル様ッ!」
セドリックの方を向いていた、リオネルも同じようにセドリックの傍へと吹き飛ぶ。
「おや、主の方が弱いとは。話になりませんね。」
「き、ぎざまぁ!!」
「ああ、もう良いです。」
ハゲが2人の傍に移動したかと思えば、セドリックとリオネルが突然倒れる。
「さて、どちらからが良いですか?同時でも構いませんが。」
「セラ!魔法だ!!俺が時間を稼ぐ!」
「わかったよ〜!ちょっと詠唱する!」
俺はセラが後ろで詠唱を始めたのを聞きながらハゲに向かって走る。
あと少し、もう少しで剣が届く。
少しでも長く、時間を稼げば、セラの魔法さえ当てれば……。
走って来た勢いも載せた渾身の突き。
どうせまたすり抜けるだけだ。
だから視界を塞ぐ様に目を狙う。
少なくとも剣が目に刺さっている間は見えないだろ。
「全く期待外れですね。アレだけ私を煽っておきながらこの程度とは。」
「キャッ!?」
突き出した先にハゲは居らず、後ろからセラの小さな悲鳴が聞こえた後、詠唱が聞こえなくなった。
俺はゆっくり振り向きながらずっと思っていた事を聞く。
「おい、ハゲ。何故だ。」
「だからハゲじゃないと…。何がでしょうか?」
「一体何をしたいんだ。」
「何をと言われましても。それにこの戦いは貴方達が始めたのでしょう?」
「こっちが準備を整えるのを待ったり、殺そうともしない。変だろ。」
ハゲの目が少しだけ見開かれる。
前髪がないからよく見える。
「勘はいい様ですね。そうですね…殺す理由がありませんので。」
「なら何故戦うんだ?お前なら無視できただろ。」
「私にも都合があるのですよ。」
「それなら期待ハズレってことだし、そろそろ見逃してくれてもいいんじゃね?」
「…久方ぶりに激しい感情を抱きましてね。個人的に貴方達に目に物を見せてやろうかと。」
「あー…怒ってる?」
「もう少し早く気付くべきでしたね。」
ハゲが目の前に現れ、俺の首を掴み持ち上げる。
喉に受けた衝撃でつい、剣を取り落としてしまい辺りに金属音が響く。
「クハッ…!」
「貴方は特に散々コケにしてくれましたし、ゆっくりこのまま締め落として差し上げますよ。」
「クソ…ハゲめ!…」
ハゲは片手で俺を持ち上げている。
だがどれだけ暴れても緩みもしない。
「まぁ、私に会ったのは運が悪かったとでも思って下さい。」
「……ふざ…けるな!!そのせいで、誰かが死んでもか!!」
「えぇ。それに先程貴方が言った通り、殺してはいませんよ?」
「このまま、だと、死ぬ奴が居るんだ!!」
「それこそ運が悪かった、としか言いようが無いのでは?私には関係ありません。」
「…そうかもな。けど、俺は許せねぇんだ!!」
「何を……?」
俺は首を掴んでいる腕を殴り、抓り、引っ掻く。
しかし微動だにしない。
他には何か持ってなかったか、手の届くポケットを探る。
コイン、石、魔石、とにかく入っていた物をとある一点を目掛け投げつけていく。
そのどれもがハゲをすり抜け飛んでいく。
「グッ……ゲホッ……」
「もういいです。なかなか楽しい時間でしたが、もう手も口も出ない様ですし終わりにしましょう。」
「頼む……少しでもいい、得た物を分けてくれ…」
「本当に身勝手ですね。さような…その盾はっ!?」
「…ボクは、助けられる!英雄になるんだ!!!」
ボルクが盾を構え、後ろからハゲに突っ込んだ。
ハゲは半身をひねり、空いている手で盾を受け止めていた。
少しだけ俺の首を締めていた力が緩まり、視線もボルクに向いていた。
その隙に後ろのポケットへ手をやり、3人で見つけた銀色に輝くカミソリを取り出し全力で振り抜いた。
「そしてこれが俺の、俺達の幸運だ、ハゲ!!」
「今更何……を…した。何をしたァ!!!」
手応えは何か硬い物に当たり表面を滑る感覚と、少しの抵抗感だった。
そして、ハゲの頭頂部はスッキリしていた。
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