22話 うえに
「おい!誰だこの変なハ…もがっ!?」
「黙ってろ!何を言おうとした!!」
俺はハゲへ話しかけようとしたが、リオネルによって防がれる。
口を抑えられている間にセドリックが一歩前へ進み話し始める。
「…私の名はセドリック・フォン・グラウムント。ここは我が軍の管理下にあるダンジョンです。許可を得てここに居られるのですか?」
「これはこれはご丁寧に。我が名はヴァルグラード…ただのヴァルグラードです。あぁ、許可は得ていませんよ。」
「まともに名乗る気すらもないと言うことですか。ならば即刻退去して頂きます。ここで得た物は全て軍の物となりますのでお渡し願えますか。」
「信じて頂けないのは残念です。それとその指示には従えませんね。信念に沿って動いておりますゆえ。」
「剃って…クッフフ」
「一つ伺いたいのですが、この辺りでなにか異変…新しいダンジョンなど見ておりませんか?」
「こちらの指示に従って頂けない貴方に答える事はありませんね。」
「それは残念です。」
「なら、食べ物持ってない〜?」
「…食べ物?持っていませ、ん…って貴女はあの酒場にいた酒樽の化け物!」
「ん?セラ知ってんのか?」
「え〜?誰だろ知らないかな〜?」
「あの時の金貨17枚!忘れたとは言わせませんよ。」
「忘れた〜!!」
「くっこの、抜け抜けと…!!」
「ぬけぬけと……フヒッ」
「そういった個人的な話は後にして頂けますか。即刻退去を求めます。」
「…まぁ丁度良いでしょうか。」
「…どういう意味ですか?それに軍属として力づくでも従っていただきます。」
「やれやれ、やはりアイゼルンの方は頭が固いですね。」
「頭……ブフハッ」
「……貴方は先程から何を笑ってるのですか?」
「え!あ、いや……失礼した。」
「リオネル、はっきり言ってやれよ。」
「そんな失礼な真似出来るわけがないだろ!?ハゲてるなんて!」
「リオネル様!?それは言ったも同然です!」
「あ〜あ〜言っちゃった〜隠してそうだしみんな触れなかったのに〜」
「だな。見てみろよ、横の毛を上に集めてるぞ。」
「ブハッ…!カラム貴様!!」
「……これは今は亡き国で愛されし髪型。決してハゲ隠しでは無い。文化だ。ハゲじゃない。」
「え、じゃわざわざ剃ってるのか?上だけ?」
「……剃ってない。」
「それはハゲと…いや、貴族としては威厳ある要素の1つだ。あまり気に病むな。」
「……貴様らはもう絶対に許さん。死にたいヤツから前に出ろ。」
「ヤバいぞ、怒っちゃったよ!」
「貴様がハゲを煽るから!」
「あ?リオネルが笑ったからだろ!」
「お二人共!そんな場合じゃありません!!」
「あれ〜?ボルクは〜?」
ふとセラが零した言葉を聞き、ふと後ろを見ると部屋の入り口で震えている筋肉の塊が小さく蹲っていた。
「は?ボルク!大丈夫か!?」
「ボルク!!」
俺とセラは慌ててボルクに駆け寄り、声をかける。
声に反応したのか少しだけ顔を上げ、見えた表情は怯え切り弱っていた。
「どうしたんだよ!」
「……勝てない…助けられない……俺は……どうしたらいいんだ…」
「ただのハゲじゃ…ないんだな。」
「これはマズいかもね〜…。」
「ようやく理解して頂けましたか?その方だけは入った時から気付かれていた様ですが。」
振り返るとハゲがすぐ側に立っていた。
間に居たハズのセドリックとリオネルが驚いた様にこちらを向いたのが見えた。
「お前は……何だ。」
「ヴァルグラードです。…まぁ昔は大層な肩書きもついてましたが、今はただのヴァルグラードです。」
「そうか、よ!!」
不意を打つつもりで、とにかく素早く剣を振るう。
鞘も半ば付いたままハゲの首へと吸い込まれるように当たる。
しかし、手応えはまるでなかった。
「やっ、うわっ!?なんだ!すり抜けた?」
「え、何が起きたの〜?当たったよね〜?」
「分かりません!こちらからも当たったように見えましたが……。」
ハゲが掻き消えるように目の前から消え、セラの後ろに現れる。
「まずは貴女だ。……金貨を返せないなら別の物で返して頂く。」
「セラ!!」
セラの元へと走るが、間に合わない。
男が背後からセラの肩を掴み、顔を首へ近づけて行く。
マジか。確かに剣を持ってなかったが……。
このハゲの攻撃手段は噛み付きなのか!?
絶対に嫌だ。
そう思った瞬間、ハゲの身体が仰け反るのが見えた。
「うっ……!酒臭っ!!」
「今だ!食らえ!!!」
そしてそのまま背後から魔法剣でリオネルに切られ、数歩後退する。
しかし、傷どころか服にも跡すら残っていなかった。
「なんて酒臭い血だ…。戦闘中だぞ!?」
「バカな…。無傷だと……。」
「リオネル様!お下がり下さい!!」
ハゲが何やらフラフラしている内にリオネルが下がり、俺の横に来る。
「セドリック、あれどうやったら倒せるんだ?」
「……分かりません。あの行動、恐らく書物で見た吸血鬼…ヴァンパイアだと思いますが。」
「で、どうしたらいい?」
「書物には杭を心臓に刺す……あとは確か清いものが苦手とありました。」
「もしかして酒って清いのか?」
「さっきの反応に拠ればあるいは…。」
「セラ、頼む酒を使わせてくれ。」
「ん〜しょうがないな〜でもあと2本しか無いよ〜」
「え、入る前はカバンにぎっちり詰まってたよな?」
「それが何〜?」
そっとセラから目を逸らし、ワインを両手に持ちハゲに構える。
「作戦は決まりましたか?」
「待ってくれたのか?」
「何をしても変わりませんし、こちらにとっても都合が良いんです。」
「そうかよ。じゃあ大人しく浴びやがれ!」
俺は右手に持った瓶をハゲの頭上、天井に向け全力で投げつける。
瓶は狙い通りハゲの真上で割れ、ハゲに降り注ぐ。
「ワインを浴びれば毛も生えてくるんじゃないか?」
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