18話 のぞめ
扉の前、少し開けたスペースに張ったテントを片付けていく。
その後地面に座り、蒸かした芋と黒パンを齧り水で流し込む。
「このパンカッチカチです!!よく噛みましょう!」
「今日はこのワインにしよ〜…」
「静かに飯ぐらい食わせ……すぅ…」
「叫ばない、飲まない、寝ないで下さい。」
「あ、セドリックじゃん〜」
「おはようございます!!!」
「…………ぐぅ……。」
「はぁ…そんな調子で倒せるんですか?」
地面に横になっていたが、視線で居心地が悪かった俺は渋々身体を起こす。
「…さぁな。いくつか聞いていいか?」
「えぇ。しかし答えられそうな情報は多くありません。」
「なんでだ?」
「ここまでのボスは総員で戦えるのですが、ここは一度に5人までしか入れないからです。倒せば全員進めるらしいですが。」
「つまり戦った事が無いって事か?」
「ええ、今の部隊に戦った者は…。今ある情報は過去幾度か倒した記録、それも他部隊から聞いた不確かな物しかありません。」
「…負けても敵を見てから逃げられるだろ?」
「言ってませんでしたね。ボス部屋は入るとボスを倒すか、全滅するまで扉が開きません。」
「って事は…今まで何人入れたんだ?」
「前回は3度挑戦しました。合計は…すいません。」
あのダンジョンの物とどこか似た扉の枠を眺める。
そういえば出れなくなったな、あの時も。
「……成果はこの先、絶対にあるんだな?」
「えぇ断言します。過去、先に進んだ者たちは全員が何かしら成果を得ています。比にならない魔石や宝物、珍品の数々などここまでとは違います。」
「珍しいお酒〜!!」
「強いボスがいるんですね!うぉぉぉぉ!!」
目の端でパンを齧り、流し込みながら叫んでいる2人を眺め、改めてセドリックの目を見る。
「はぁ…。今更だが、どうやっても断る事は出来ない、だな?」
「残念ながら。」
「分かった。これが最後だ。今あるだけボスの情報を教えてくれ。」
「……お願いします。ここのボスは――」
俺はセドリックの説明を聞きながら、懐に手を入れコインを指で弄んでいた。
――――――――――――
セラとボルク、2人と共にゆっくりと開いていく扉の前に立っていた。
セラは手に杖と酒瓶、ボルクは途中の敵からもぎ取った大盾を手に構え、真剣な顔で中を見ていた。
俺も前へと向き直すが、部屋の中には灯りがなく、ほとんど何も見えない。
「あーその、悪かったな。こんなことに巻き込んで。」
「ん〜?何が〜?」
「殴ったせいでこんな羽目に…。」
「いや〜違うでしょ?絶対最初からこのつもりで転属させたね〜。」
「そうなんですか!?つまり期待されてるんですね!精一杯戦います!!」
「お前ら…。」
「誰もあなた達だけにするとは言ってませんよ。」
いつの間にか横にセドリックが小盾と長剣を携え立っていた。
「え?セドリックお前、何か拾って食ったか?」
「あなた達と一緒にしないで下さい!…言ったでしょう5人まで入れると。3人で挑ませるのは非効率なんですよ。」
「でも4人しか居ねぇぞ。」
「…さぁ扉が開きます。皆さん、覚悟はいいですか!」
「さてはお前も相当バカだな?」
扉が開ききり進もうと踏み出した時、セドリックの肩を男が掴む。
「おい!!セドリック何勝手なことしてるんだ!!!」
「周りの者へ必ず止めるように言っておいたのですが…。リオネル様申し訳ありません。必ずや倒して戻りますので。」
「その自信、何か秘策や勝算でもあるのか…?」
「えぇ、とっておきのがあります。…それに騎士たる私が死ねば撤退の言い訳も立ちます。リオネル様が生き残っていれば私の勝ちです。」
「父上がそんな…。おい!この愚か者は後ろに戻す。中に入るのは3人だ。誰か手伝っ」
リオネルが残る部隊へ振り返った瞬間、背後で小規模な爆発が起き風が吹き荒れ、扉の内側まで転がっていく。
俺もセラもボルクでさえ風圧に耐えることが出来ずに扉の内側まで入ってしまった。
後ろ振り向き、扉の外側を睨み付けているとニヤついたおっさんとチョビ髭爺が前に出てきた。
「ふはは!愚者は貴方ですよ、リオネル様!!まさか勝手に扉に近づいてくれるなんてね!」
「おい、これで約束の通りにしてくれるんじゃろな!?」
「ファーロン卿!やはり貴方は…」
「どういう事だこれは!?貴様らこんな事してタダで済むと…」
セドリックとリオネルが戻ろうとするが、数人の剣士が出口を塞ぎ、さらに後ろから魔法兵が魔法を飛ばしてくるせいで戻れないようだ。
「庶子の癖に威張りやがって…。あぁ、そういえば公爵様より伝言ですよ。手間をかけさせるな、と。」
「そんな…俺はただ父の為、家の為に!!」
「跡取りはもう決まってるんですよ、邪魔をするなクズが。これで帰れば私も……。」
2人が踵を返し後ろへと戻っていくも状況は変わらなかった。
そして扉はゆっくりと閉じていき、視界は闇に包まれた。
――――――――――――――
しばらく扉を叩き続けるリオネルをぼんやりと眺めているといると突如、柱に掛けられていた松明が次々と灯されていく。
明るくなった部屋で見えるのはただ1つ、奥の壁中央に置かれた鎧、フルプレートだ。
それが動き出した。
「クソォ!!こんな所で!アイツら!!」
「リオネル様…」
動き出した鎧は奥へと吹き飛ばされ、最も近くに居た俺を狙ったようだ。
セドリックと同じように盾と長剣を携え、物凄い速度で駆けてくる。
俺は慌てて背を向け、走る。
視界の端ではボルクはリオネル達の傍で盾を構え、セラは魔法の詠唱を始めていた。
「セドリック!どうしたら良かった!?俺は家の為に動いてきた!」
「私たちがすべきだったのは…」
リオネルとセドリックが向かい合い話す会話が部屋に響く。
徐々に追いつかれ、真後ろに迫る鎧。
右手に持った剣を走りながら真横に振るう。
身長の半分程もの長さの剣をあの姿勢、速度、鋭さで振るとは。
急ブレーキをかけ、襲い来る剣をしゃがんでやり過ごす。
「貴族であることを放棄すること…だったのかも知れません。」
「そんな事は出来ない!!暫くは療養として軟禁され、然るべき後争いの種だと殺される!!!幼き頃より見てきただろ!!」
鎧は空振りし1歩たたらを踏むが、即座に姿勢を整える。
俺が立ち上がり再び走り出そうとする時には既に突きを繰り出して来ていた。
慌てて右に体を逸らし躱すも、そのまま顔目掛け切り上げてくる。
鎧側へ倒れ込むように躱し、相手の方へと進む。
「しかし、それでも生きる為にはそれしか無かった…そう思います。」
「そんな!……いやそうだな。結局俺は貴族位にしがみ付いていただけ…だな。」
目の前に来た相手の膝を抱え込むように掴み、全体重をかけ相手を押す。
足運びを変えるタイミングだったようで、拍子抜けするほど簡単に倒れる。
俺は倒れ込みながら手に持った剣を首の隙間を狙い突き立てる。
しかし、相手は何事も無かったかのように盾で殴りかかってくる。
慌てて盾を空いてる手で押し返しながら、反動で後ろに下がる。
「数々の御無礼、申し訳ありませんでした。」
「いい、俺の為を思ってのことだろう。感謝している。ずっと無理を言ってすまなかった、セド。」
再度鎧がこちらへと進み始める。
1歩踏み出した足がつく寸前、突如鎧の前の空間が爆発し俺は後ろへと吹き飛び、リオネルの足元まで転がされる。
飛ばされた先で上を見るとこちらを間抜け面で見下ろしてる2つの顔があった。
投稿時間色々試し期間中です。
明日は6:50頃に投稿いたします。




