12話 はげめ
「ふぁぁあああ…寝みぃなぁ……軍ってのはどいつもこいつもなんでこんな朝早くに集まるんだ?」
「どこが朝早いんですか、ギリギリですよ!姿がありませんが、セラさんとボルクさんはどちらに?」
「知らね。その辺で飲んでたり走ってたりするんだろ。」
「あなた班長なんですよね!?」
「成り行きの班長だ!」
「はぁ。全く、なんであなた方のような人がこんなタイミングに…。」
「こんなタイミング?」
「リオネル様のご実家グラウベルク公爵家、私の寄親でもあるんですが…その家が成果を急いているんです。」
「……やっぱグラウベルク家だったか。」
「気付いてたんですか?」
「まぁ、な。」
「今の公爵様は…。…主の家に対してこんな事を言ってはいけませんね、忘れて下さい。」
「ま、だから俺はあのリオネル様とやらを手伝う気にはならねぇ。」
「あなたの過去に何があったかは知りませんし、わざわざ聞きません。しかし、ここは軍です。脱走兵がどうなるか…知らないとは言わせませんよ?」
「連帯責任、ね…。だからここに居んだろ。」
「あなたなりの覚悟ってことですか。」
「いや、昨日の夜抜けるかコインに賭けたんだが、抜けないって出やがってな。」
「バカなんですか!?まぁ出来る限り悪い様にしませんから大人しくしてて下さい。顔見知りでも死なれると寝覚めが悪いんですよ。」
「…あんがとよ。」
整列した俺たちの前にリオネルがゆっくりと歩いて出てくる。
昨日とはまるで違う、貴族様らしい綺麗で澄ました表情をしていた。
セドリックが前に1歩進み、声を張る。
「総員、傾聴!」
「前回の探索では無様な結果しか得られなかった。この探索にかかる費用は全て公爵様が出して下さっている。つまり、我々が晒した無様な結果は公爵様の期待を裏切り、顔に泥を塗ったのも同じだ。次は無い。数日後より再び探索に入る。全員今度は成果を得るまで帰らぬ覚悟を持ち訓練に励め!以上。」
「総員、礼!」
俺はリオネルを睨むことしか出来なかった。
――――――――――――――
「あれ〜?カラムなんでもういるの〜?」
「今日は早いですね!」
「俺だってたまには早起きぐらいするんだよ。」
「小隊長ならまた不吉だ〜前払いで罰だ〜って騒ぎそうだけどね〜」
「もっと受けたかったですね!」
「あなた達はもっと反省して見習って下さい。とにかく数日のうちに探索、ダンジョンへ向かいますので各自で準備を進めてください。」
「早速かよ!」
「昨日来たとこなんだけど〜…」
「いいですね!楽しみです!!」
「分かりましたか?」
「「「はい!」」」
睨みつつそう告げたセドリックは俺達の元から離れていく。
「ぷはぁ〜あの人優しいけど怖いね〜」
「圧だけなら小隊長以上じゃね?」
「いい筋肉してますよね!セドリックさんも!」
「さて、じゃあ準備に行きますか。」
「さんせ〜!」
「荷物持ちは任せて下さい!」
――――――――――――――
俺たちはセドリックに教えて貰った物資の集積所に向かう。
そこでは大量の物資を相手に大勢の人が奮闘していた。
「おぉ〜凄い量だな。制圧部隊とは大違いだ。」
「凄いね〜。あっ!見て!!塩漬け肉があんなにある!」
「あっちには石臼がありますよ!!」
「石臼は物資じゃなくて、ここの設備ないんじゃないか?」
穀物、塩漬け肉、水。
カバンに詰め込めるだけ詰め込もうと格闘していると、書類を手に持っている偉そうな人がこちらに詰め寄ってくる。
「おい!貴様らここで何をしている!」
「え?探索のための物資の調達?」
「ここは貴族様用の物資だ。従士、特に貧民のお前らみたいなのはあっちだ。分かったらさっさと向こうへ行け!」
「あっちってあのゴミ捨て場?」
「ゴミ捨て場とはいい表現だ。お前たちの様なのはゴミでも漁ってろ。」
「……ちっ…覚えてろよ、このハゲ。」
「ワシはまだハゲてないわ!!え…ハゲてないよね?」
「だ、大丈夫ですよ!ツルーノ様!」
「え、えぇ!全然まだ大丈夫です!!」
「ほら見ろ!ワシはハゲではないわ!!この貧民共が焦らせおって。」
「え?大丈夫しか言われてないけど?」
「英雄も髪の毛には悩まれていました!!」
「本人がいいって言ってるんだ。そっとしておいてやれ。」
「全部聞こえとるわ!!!!」
「じゃ、ゴミ漁りに行ってきまーす!」
「ま、待たんか!!…はぁ……どうにか隠せんかなぁ……。」
俺は何やらしゃがんでいたセラを引きずりつつ、もう1つの集積所に向かう。
明らかに物資の質が低い。
「えぇ〜…黒パンと芋と水しかないんだけど。」
「見てください!この黒パンカッチカチですよ!!」
「ボルク、カッチカチなんだぞ…?」
「えぇ!カッチカチですね!!!」
「もしかして顎が鍛えられそうで喜んでる…?」
「セラさん、違います!カッチカチなんですよ!!」
「流石にこれは分からん…。」
ボルクの新たな1面を知り、戦々恐々としているとこちらでも書類を持った兵士が寄ってきた。
「所属と名前をここに書いてください。」
「なんで?」
「持ち出しの記録を取る決まりなんで…。」
「俺文字書けないんだけど?」
「私は書ける〜!」
「名前だけなら書けます!」
「俺も勉強するか…。」
「その場合は代筆で書きますので。」
「じゃあ、リオネルのとこのカラムだ。」
「同じくセラだよ〜!」
「ボルクです!!」
「お貴族様を呼び捨てにするのは…!いえ、分かりました。持って行っていいのは各それぞれこの規定量迄です。」
「えっ、少なくねぇか?」
「途中で補給すると聞いてますが…。」
「ちょっとぐらいいいだろ。どうせバレないって。」
「既に私にバレてますよ!?」
「こっちにはお酒ないの〜?」
「余計に喉乾きますよ!?」
「石臼持って行って良いですか!」
「カバンに入りませんよ!?」
「なら何ならいいんだ!」
「さっき渡した紙に書いてる物だけですが…。」
「本当にあれだけか…。」
俺たちは静かに荷物をかばんに詰め隊舎に戻った。
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