11話 してん
「で、なぜ門から入って来なかったんですか?」
俺たちは訓練所の真ん中、横並びで正座させられていた。
そしてこの騎士を名乗るセドリックという男に怒られている。
「いやー流石に壊したらダメかなと思ってな。」
「前は大体壊してたんだけどね〜」
「門は門番に止められました!」
「あなた達は…もういいです。」
「そうか?訓練倍増とか無し?」
「…えぇ、もういいです。とりあえずここの主、あなた達のいた辺境でいうところの小隊長と同様の立場の方に紹介します。絶対に失礼のないようにして下さい。」
「「「はーい」」」
「ほんとに分かったのでしょうか…」
俺たちはそのまま立ち上がり、セドリックについて訓練所の端にある立派なテントまで歩いて行く。
セドリックはテントの前で1度立ち止まり名乗ると、入口にかけられた紋章入りの天幕をくぐる。
書かれている紋章は家を表しており、つまりこのテントはその家系に連なる誰かの物だという事になる。
俺達も続いて中に入ると中央には重厚な執務机があり、左右に立派な鎧が飾られていた。
その机の奥に1人の若い男が酷く疲れた顔で座っていた。
「リオネル様、少し良いでしょうか。今日から従士となる3人が到着しました。」
「…そうか。その3人か?入隊は許可するが邪魔だけはするなよ。」
若い男はこちらを軽く一瞥し答える。
答えた後はこちらに用はないとばかりに、書類へ目を落とし次々とサインをしていく。
ふと横が静かだと思い、2人の方を向くと誰も居なかった。
「引き締まったいい筋肉ですね!今度トレーニング一緒にしましょう!!」
「よろしくね〜!え〜これすっごく強いお酒じゃない!?蒸留だっけ?」
ボルクが若い男の隣に立って肩を叩き、セラが机の脇に置かれていた酒をくすねていた。
「…セドリック、何なんだこいつらは!?」
「分かりません。」
「おい、この筋肉ダルマ叩くな!痛い!!というか私に触れるな!聞いてるのかセド、こいつらを止めろ!!」
その後、我に返ったセドリックによって俺達は叩き出され、隊舎へと戻った。
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荒れた机の上を片付け、再び書類に目を通していく。
見ても見なくても結果は変わらないが、サインは書かなければならない。
「失礼します。セドリックです、リオネル様。」
「入れ。」
眉間に深いシワを刻んだ男が入ってくる。
物心ついた時からずっと見ている顔だが、最近は特に眉間のシワが目立つ。
「先程は失礼致しました。あの2人にはよく言っておきますので。」
「しっかりと教育をしておけ。あんなバカでも何か使える事があるかも知れん。」
「それは…承知致しました。」
「そういえば後ろにいたもう1人はなんだ?ただ同じ班のだけか?」
「いえ、あの男が班長のバカです。」
「バカしかいないのか…。まぁいいこんな状況だ。敵では無いだけマシと思うほかあるまい。」
「リオネル様…。公爵様は本気なのでしょうか。」
「あぁ、あの父上や兄達が前言を撤回することは有り得ない。だから…私は……」
言葉に詰まる。
しかし、唾を飲み込み、ゆっくりとそしてハッキリと口に出す。
「次で成果を出せなければ死ぬ事になるだろう。」
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薪のはぜる音だけが響く。
冷えた部屋の空気に、スープの温もりが拡がっていく。
穴や焦げあとのある古い食卓を囲み、皆こちらを向いて微笑んでいる。
その中の優しそうな青年が声を掛けてくる。
「カラム、今日は何してたんだい?」
「今日はねおばあちゃんの荷物を持ったり、素振りしてた!」
「そうかそうか、カラムは本当にいい子だなぁ。」
青年が嬉しそうに笑いながら頭を撫でてくれる。
次は綺麗な若い女性がこちらに問いかけてきた。
「カラムは大きくなったら何になりたいのかな?」
「おれ、兄ちゃんみたいな大人になるんだ!」
「お姉ちゃんみたいにはなってくれないの?」
「おれ男だもん!!」
「そうだね、カラムは男の子だもんねぇ。」
女性は困ったような顔で笑い、やはり頭を撫でてくれる。
手の感触に喜んでいると、痩せ気味だが健康そうな壮年の女性がスープをテーブルに並べる。
暖かい塩味の野菜スープ。
「はいはい、話もいいけど冷める前に食べちゃってよ。」
「またこれかー。」
「お肉が食べたいなぁ。」
「贅沢言わないの。食べられるだけでも感謝しなさい。」
「おれはこれ好きだよ!!世界で1番!」
「カラムはほんとに可愛いねぇ!母さんの分、少し分けてあげる。」
「やったぁ!!」
スープを食べ終わり、再び青年が話しかけてくる。
「なぁカラム、ちゃんと教えた訓練してるか?」
「うん!してるよ!!毎日朝に兄ちゃんに貰った剣で素振りしてる!」
「偉いなぁ!!その調子で頑張りたまえ弟よ!そしたら俺以上に凄い大人になれるぞ!」
「ほんと!?伝説の英雄王みたいになれるかな!?」
「あーあの伝説は憧れちゃダメじゃないかなぁ、軍の…あ!…ほら父さんって言ってごらん?」
「えー父さん強くないもん…」
「ははは、だって父さん?」
「おいおい、俺だって強いんだぞ?子供には分からない強さだけどな?」
「げ!父さん帰って来てたんだ、気付かなかった…。」
大きな手が頭に置かれ、雑に撫でられる。
痛いのに嫌いじゃない感触。
その大きな手の主に対して壮年の女性が声をかける。
「あなた、仕事は?まさかまた…」
「わー!!違う違う!ちょっと忘れ物取りに来ただけ!」
「こんな大人になっちゃダメよ、カラム。」
「分かった!!!」
火の粉の爆ぜる音がし、薪が静かに崩れ火が消えた。
………
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