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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第九十八話 思惑1

イオリア島の港に入ったのは早朝のことであった。

荷物の積み下ろし等に船員が精を出している間、自由組はいつも通り一足先に散策に移る。

自由組とは言わずもがな刀一郎と次良のことである。


「おお、見た事ねえ魚が並べられてんな。旨いのか?」


「師匠、旨くなければ売り物にはしないでしょう。」


港から道沿いに立ち並ぶ建物はその殆どがなにがしかの店であり、見るものは多い。

異国の情緒に浸りながら歩く二人だが、一つだけ気になることがあった。


「しっかし、このあからさまなのは何とかなんねえのか?」


『ふん、異人どもめ。我の従者に対し何と無礼な視線か。天罰をくれてやろうかっ。』


「俺がいつお前の従者になったんだよ…」


次良が言っているのは、先ほどから向けられる侮蔑を含んだ視線のことだ。

行き交う人の殆どがチラリと目を向けてはひそひそと話し出す。

それは好奇などと呼んでいい感情ではなく、明らかなる(あざけ)りを含んでいた。


「師匠、この先は領主とやらの屋敷がある場所です。引き返した方が…」


『お前にしては珍しく妥当な提案だ。私もそれに賛成する。余計な面倒を起こすべきではない。』


『なんじゃ白、こんな無礼な者達の主にはそれ相応の苦言を呈してやらねばならんのだ。次良、構わず行くがよい。』


板挟みになった次良が、さてどうするかと悩みながら歩いていると、気付けば目の前には大きな屋敷。

門を守る衛兵らしき者に一層厳しい目を向けられると、内に悪戯心が沸き上がる。


「まあ、こいつの言うことも分からんでもねえな。俺は別に聖人でもねえ。国の代表として来てる身としちゃ舐められすぎるのもどうだろうな。」


そんなことを語る次良は、すたすたと門の前へと歩き進む。

すると、それを見た二人の衛兵がここは通さんといわんばかりに立ち塞がった。

当然のことであろう。

だが、問題なのはその顔だ。

体格の差から見下ろす形になるのだが、その表情はニヤニヤと締まりがない。


「ちょっと挨拶させてはもらえねえか?お互いの国の友好の為に…よ?」


「キャユレバッスメリガイライキュゴトゥル~。」


何を言っているのか分からない刀一郎達であったが、解することが出来たのか白姫だけは多少の苛立ちを見せた。


『流石にそれは無礼が過ぎよう。』


『白、お前いつの間に異国の言葉を…まあよい、それで何と言ったのだ?』


『ああ…我らは臭すぎて通せぬらしい。』


激昂してもおかしくない言葉を聞いた次良だが、別段変わる様子もなく問い掛ける。


「水浴びしてから来てっからそんなに臭くはねえはずだぞ?ちょっと挨拶するだけだって…な?」


「ハッハ~……ゲラウクイクリィッ!」


次良が肩をポンポンと叩くと、衛兵はもう相手もしたくないと言った感じに怒鳴りつける。

その瞬間、



ドサリッ!



何故か怒鳴った男は倒れ伏した。

状況が理解できないのか、隣に立つ衛兵も呆然としていたが、すぐさま目の前の男が何かしたのだと察する。

火筒を構えると、筒の先を向けながら後退り、大声を上げ援軍を呼んでいるようだ。


「おい刀一郎……門を斬れ。」


「……はっ?」


「聞こえなかったのか?…門を斬れと言ったんだ。」


その声には今まで聞いたこともないほどの凄味があり、刀一郎は動かされる様に踏み込むと門中央を断ち切る。

それとほぼ同時、衛兵の叫びが聞こえなくなり視線を向けると、既に地に伏していた。

いきなりの荒事に流石の刀一郎も動揺を隠せないが、次良がこんな行動に出たのには訳がある。

その理由とは、都を出る前、総大将南条兼続としたあるやり取りに起因していた。



▼▼▼▼



それは黒宵の我が儘に折れ、次良が航海に同道することが決まったすぐ後のこと。

もう夜も更けたある日、少し話がしたいと、総大将自らが自宅へ足を運んで来たのだ。


「あなた、南条さんが参られましたよ。」


「南条が?珍しいこともあるもんだ。」


静江が襖を開けると、その後ろには難しい顔をした南条の姿があった。

どう見てもちょっと一杯やりに来たという雰囲気ではない。


「どうした?いつも以上に難しい顔してんじゃねえか。ははっ、一層老けて見えるぞ。」


次良が軽口をたたくが、当の本人は表情を崩すことなく本題に入る。

実はこの二人、師弟の関係でもあり、私人としての南条は次良に頭が上がらないのだ。


「突然の来訪申し訳ありません。実は少しお願いしたきことがあり…」


ただならぬ雰囲気の元弟子に、少し危うさを覚えた次良は静江に声を掛ける。


「静江~、酒持って来てくれ~。この間もらった上等なやつあっただろ?あれが良いな。」


「いえ、自分は今日は真面目な話をしに来たので…」


「ん?俺の酒が飲めねえってか?偉くなったもんだな、おい。」


「いえ…はい、いただきます。」


そんな二人を微笑ましそうに眺めながら静江が盆を置き、一杯だけ酌をすると場を後にした。

そして南条はグイっと一杯傾けると語り出す。


「実は、ロメルという国についてなのですが…」

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