第九十九話 思惑2
南条が語った事は、これから友好を結ぼうとしているロメル王国についてのものだった。
これから深く付き合っていく事になる国の為、勿論その使者等には詳しく話を聞く事になる。
最初は距離感があったせいか、どうにも薄っぺらい情報しか語ってはくれず、言葉の壁もあり難儀していたとのこと。
しかしアレクシアを筆頭に交流が進むにつれて、思い描いている様な国ではないという事実も判明してきた。
その事実とは、物事に対しての価値観と言えばいいのだろうか、それが明らかに皇国よりはガラリア帝国に近いのだ。
簡単に言えば、自国に力さえあれば守るのではなく侵略を開始する国であるということ。
政の体制もあまり良いものとは思えず、正直上手くやっていける気がしないと南条は愚痴を零す。
「して、俺に何を頼みたいって?」
少し酔いが回ってきたのか、二人の口も滑らかになってきた。
「彼らは友好の為に来たのではなく、あわよくばこの地を属領にしたいと考えている節があります。」
「はっ、あいつらはこっちの内情を探る為の先兵ってことか。」
「はい。勿論王族の彼らもそれらは理解した上で付き合っているのでしょう。」
皇国の兵力等は彼らにとって未知数な部分が多かった為、刺激しないよう最低限の人員とそれなりの身分の者を送ったという所だろう。
次良は、刀一郎と共にいるアレクシアの笑顔を思い出し切ない感情が沸き上がった。
あの幼さで、どれほど複雑な感情を秘めて生きているのだろうかと。
「そろそろ本題に入れ…それで、俺に何をしてほしいんだ?」
話の流れからして物騒な頼み事であることは間違いないであろう。
そんな確信を持った次良は、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべ聞き入った。
「はい。彼らと友好的な関係を築きたい事には変わりありません。しかし、今のままでは到底無理でしょう。」
「だろうな。はなっから見下してるんじゃ、対等な関係なんて築けるわけがねえ。」
「ええ。ですので、場合によってはある程度の交戦も止むを得ずと思っております。」
ここまで聞けば、どんなに察しの悪い者でも何を言わんとしているのか理解出来るだろう。
「この話は陛下に通しておりません。すべての責任は私が取ります…最悪この首を差し出してでも。」
悲壮な顔で告げる南条に次良はおちょこを傾けてから応える。
「お前の首程度じゃ陛下の代わりにはなれねえよ。心配すんな、上手くやってやる。任せろ。」
「無理を言って申し訳御座いません。どうか…」
「もういいって。ほら、飲め飲め。今夜は無礼講ってな。ははっ。」
南条からも初めて笑みが零れ、この日は珍しく酔いが回るまで飲み交わしたのだった。
▽▽▽▽
イオリア島領主館前は俄かに騒がしくなりつつあった。
突如響いた衛兵の大声に仲間が駆けつけて見れば、二人の小柄な異人と倒れ伏す仲間の衛兵。
異常事態である事は誰が見ても理解出来る。
「言うまでもねえだろうが、射線をしっかり見極めろよ。そうすりゃ火筒なんて怖くも何ともねえ。」
簡単に語る次良だが、常人にはそれが恐ろしく難しい事である。
だが、刀一郎もまた常人ではない。
少し息を吐くと動揺を掻き消し、同時に射線に入らないよう次良と距離を取った。
「じゃあ、挨拶行くか。」
次良はそう語った後、天雷を背負ったままであるがその重みを感じさせぬ、正に無人の野を行くが如し歩みで歩を進める。
そのあまりに堂々とした振る舞いは、まさに覇者と呼ぶにふさわしいものであり、集まってきた十人ばかりの衛兵も思わず後退った。
「刀一郎、一応言っとくが…殺すなよ?」
火筒を向けられながら、まるで気にもしていないかのように振り向き、次良は語り掛ける。
パンッ!
よそ見をしたことに好機と見たか、衛兵の一人が引き金を引き、それが交戦の合図となった。
当然、放たれた弾が当たる訳もなく、ゆらゆらとした不気味な動きで次良はゆっくり距離を詰める。
どうやら、他の衛兵にも撃ってみろと誘っているようだ。
挑発に乗ってか恐怖に負けてか、次々と響く破裂音も当たらなければ空しいだけ。
一方刀一郎は、注意が次良に向いているのを良い事に、まずは一番近い衛兵の懐へ潜り込み勁を放つ。
触れられた衛兵は全身が波打つ様な感覚に襲われた後、為すすべなく崩れ落ちた。
「お?良い感じに使えてんじゃねえか。只、それだとちょっと強すぎるな。白目剥いてんだろ、そいつ。」
後ろから剣を振り上げ襲い来る衛兵には視線すら向けず、次良は語る。
言われ、刀一郎は倒れ伏した衛兵に目を向けると、確かに白目を剥きながら痙攣していた。
「打ち消してやらねえと、手遅れになりそうだな。」
そう語る次良は襲い掛かる衛兵を撫でる様に地に伏した後、歩き進めた道を引き返し刀一郎の元までやってきて、びくびくと痙攣する衛兵に手を当てがう。
すると跳ねあがっていた体も収まり、衛兵の男は眠る様に意識を失うのだった。
「こういうのは実戦で使い続けた感覚でしか分からねえ。このまま放っといたらこいつ死んでたぞ。」
衛兵達は何故か普通に会話をしている不気味な二人に恐れを抱きながらも、急いで次弾を装填していた。
「次から気を付けろ。まあ、殺しても良い場面ならどんどんやりゃいいけどよ。じゃあ、さっさと片付けるか。」




