第七話 「最初の一撃」
連邦標準時
2314年3月4日 16時50分
◆シリウス艦隊がアルファ・ケンタウリ星系に到達して三日経過
シリウス艦隊 第二戦隊旗艦
装甲巡航艦「オリンピア」
アルマンド・バルデス中佐
CICのスクリーンに映る船外の景色は、静寂に包まれた連星系の美しさに満ちていた。周囲は人類有数の拠点とは思えないほど静かだ。
それでも、シリウスとの往来船が数隻、遠方に小さく見える。もっとも、彼らのセンサーで我々の存在を知ることはできないが。
「バルデス艦長、要望通り星系内の通信を傍受・解析しましたが、我々を察知したと思われる動きは確認できませんでした。」
「あるいは、察知していないフリをしているか、だな。ええ?」
デメテルがテーブルモニター上で羊皮紙を読みながら報告する。それに砕けた調子で返し、場の空気を和らげる。
――普段は陽気な艦長を演じているが、そうでない一面もある。
アルファ・ケンタウリ到達からの三日間、彼は現地の情報を徹底的に洗っていた。その過程で、普段は表に出さない“生真面目さ”が顔を覗かせていたのも事実だ。
だが、艦の士気を保つためにも、役に徹さなければならない。
「ふふ、そうですね。ここの政治家さん達のことですから、日和見を決め込むつもりなのかもしれませんね」
「真面目な話、この星系の経済状況を考えれば、我々の勝敗が見えない限り動けないのでしょう」
彼女の言葉に、バルデスは内心で同意する。
だからこそだ。
彼らは気付かないフリをして、余計な混乱を避けているのかもしれない。
この先、どちらが勝ってもいいように。
「あ、艦長。光学スキャンに星系の反対側からガガーリンへ帰投する一個戦隊を確認しました」
「距離、約18000光秒(5光時)。スクリーンに投影します」
船務長の報告と同時に、正面スクリーンに航行中の艦隊が映し出される。
間髪入れずにズーム。
――損傷状況からして、海賊と交戦していたようだ。
船体各所に点在する黒い斑点。おそらく自爆ドローンによるものだろう。
「どうやら海賊とやり合ってたみたいだな」
「ええ。彼らが静観している要因の一つと思われますね。やはり、加速を決断した司令官の判断は正しかったようです」
「ああ、予定通りの速度だったら、今頃補給を終えてこっちに向かってきていたかもしれん」
「船務長、他に反応はあるか?」
「いえ、やはり民間船ばかりですね。情報通りなら、もう一つ戦隊が居るはずですが」
「まあ、ガガーリンで待機中ってとこだな」
全員、拍子抜けしたような空気が流れる。
「とはいえ、ここが敵領域であることに変わりはありません。何があるか分かりませんからね」
「船務長? センサーには注意を払ってくださいね?」
「ああ。でもお前も見てるだろ? デメテル?」
「ええ。不真面目な当直では不安ですから」
皮肉を返され、船務長は頭を掻きながらモニターへ向き直る。
「はぁ。真面目にやりますよ! ……ん?」
その声色が変わった。
即座に振り返る。
「何だ?」
船務長が答えるより先に、デメテルが割り込んだ。
「太陽系JP方向、距離約五光秒先に艦影多数! 一個艦隊規模です!」
彼女は抱えていた羊皮紙を取り落とし、スクリーンを指差す。
「一個艦隊……つまり連邦艦隊か!」
「船務長、後続の第一戦隊に光学通信送れ! 我、敵と遭遇せり、だ!」
「は、はい!」
脳内にアドレナリンが走る。
第一戦隊とは約一光秒の間隔を取っている。アルマダの不調を考慮した配置だ。
だが、この状況では即座に合流しなければならない。
一個戦隊で四倍の数を誇る正規艦隊を相手取るのは無謀だ。
約十秒後、スクリーンに司令官が映る。
その表情は、明らかに想定外の事態を物語っていた。
『……ここで遭遇するのは予想外だが、相手もこちらに気付いているだろう』
『そして規模も、いい意味で予想外だ』
距離の都合で通信にはわずかな遅延がある。
返答を考えようとした瞬間、デメテルがタイミングを指で示した。
「そうですね。今の我々なら単艦戦力は従来の倍。対等です。距離がある内なら一方的に叩くことも可能です」
短い沈黙。
『ああ、デメテルの解析通りなら、あれは連邦直轄の第二艦隊だ。彼らの様子からして、別任務中だった可能性が高いが……』
「ん? デメテル、敵はどういう状況なんだ?」
「申し遅れました。敵艦隊周辺で大量の通信波を確認しています」
「ああ、なるほど。流石の速さだな。人間じゃお前に敵わん」
「とんでもないです。とにかく、彼らの射程に入る前に一度減速を」
「二個戦隊で横陣を敷けば、アウトレンジで攻撃可能です」
『そういう訳だ。第二戦隊は減速し、二分後に合流せよ』
「了解です司令。それでは失礼します」
通信が切れると、スクリーンは敵艦隊の映像へ切り替わった。
「みんな、聞いてたな?」
「「はい!」」
全員が頷きながら、既に手を動かしている。
「よし、総員戦闘配置だ。対艦戦闘用意!」
「待ちに待った実戦だ! 全員楽しんで行け!」
とはいえ、アクティブステルスをもってしても、この距離での探知は容易ではない。
――高度な観測機器でもない限りは。
シリウス艦隊のクルーたちは、正規軍との戦闘こそ初めてであったが、その動きに乱れはほとんどなかった。
歴戦の経験が、静かにその手順を支えていた。
◆ほぼ同時刻
連邦標準時
2314年3月4日 16時53分
地球連邦 第二艦隊旗艦
ヘラス級装甲巡航艦「オライオン」
連邦直轄第二艦隊提督
ヘンリー・ブラウン中将
白を基調とした艦内通路では赤色灯が点滅し、クルーたちが慌ただしく行き交っていた。
CICの中では、怒号にも近い声が飛び交っている。
「どういうことだ! なぜ艦隊がここにいる?」
「わかりません! 識別信号も確認できません! 通信を送りますか!?」
「あ、ああ! まずは彼らの意思を確認しなければ話にならん!」
「了解!」
我々は、シリウス星系で確認された異常なスキャン反応を調査するために航行していた。
だが――
道中で、予想外の敵と遭遇したらしい。
まずい。
艦種識別では、辛うじて連邦系統の艦艇であることは分かる。だが――
「提督! 不明艦隊の精密スキャン画像です! 投影します!」
「「……!」」
全員が息を呑む。
――あれは、どう見ても我々の知る連邦艦ではない。
明らかに、海賊対策の範疇を超えた重武装が施されている。
「あれほどの規模の艦艇を……どこで改修したのだ……」
思わず呟きが漏れる。
「船務長、不明艦との距離は?」
「はい、約四光秒です」
「航海長、会敵予想時刻は!」
「約三分後と思われます……」
時間がない。
「総員戦闘配置! 対艦戦闘用意だ!」
「何があるか分からん! 戦闘のつもりでかか――」
言い終える前に、報告が割り込んだ。
「提督! 不明艦、減速を開始しました!」
「減速だと……? 返信を待つ必要はないな」
CICに沈黙が落ちる。
もう避けられない。
戦闘になる。
減速――それは、彼らが通過するつもりがないことを意味していた。
「……! 不明艦に発――」
次の瞬間。
船体が大きく揺れた。
「損傷報告! 当該箇所のダメコン急げ!」
「砲雷長! 本当にまだ射程外なのか!?」
――そうだ。
敵が我々と同型艦であるならば、射程に入るまでまだ三分はあるはずだった。
「はい! まだ三分かかります!」
その直後、再び衝撃。
「二番砲塔、応答なし!」
「光学センサーに感あり! 複数の小型物体が高速接近中!」
「迎撃、間に合いません!」
報告と同時に、さらに激しい振動が艦を襲う。
今度は明確に――姿勢が崩れるほどの衝撃だった。
◆同時刻
連邦標準時
2314年3月4日 16時53分
シリウス防衛艦隊 第一戦隊旗艦
装甲巡航艦「アンドレア」
ピエトロ・カヴール大佐
シリウス連合艦隊の総旗艦を務めるのが、この大型艦である。
もっとも、先行する同型艦「オリンピア」と仕様はほぼ同一であり、並べば判別は難しいだろうが。
先ほど、デメテルおよびバルデス中佐から敵発見の報を受けた。
第一戦隊も戦闘配置に入り、艦内は慌ただしさを増している。
CICには焦燥感が漂い、室温の上昇すら肌で感じられた。
「デメテル、砲雷長! 各艦の目標振り分けはどうか?」
「完了しています! 全艦、光学センサーロック済みです!」
「あと2分で射程に入ります。入り次第、斉射可能です!」
二人の報告に頷きながら、ボトルコーヒーを口に運ぶ。
平静を装ってはいるが――
「司令官? そんな風にされても、緊張しているのは分かりますよ?」
デメテルが上目遣いで指摘してきた。
「ははは、バレたか。それはセンサー由来かな? それとも経験由来かな?」
「どちらで察したんだ?」
冗談めかして問い返す。
「……さあ、どちらでしょう?」
彼女は悪戯っぽく笑い、視線を逸らす。
その様子に、CICのあちこちから小さな笑いが漏れた。
――示しが付かんな。
敵は、アクティブステルスを起動している我々を探知したような動きを見せている。
本来なら、まだ気付くはずはない距離だ。
だが――
年始に我々が討伐した“海賊船”。
あれと何か関係があるのかもしれない。
あるいは――
今回の作戦は、完全な奇襲にはならない可能性もある。
「……当該交戦データ。艦長モニターに出しますか?」
デメテルが静かに囁く。
「いや、いい。集中するぞ」
軍帽を被り直し、正面スクリーンへ向き直る。
◆同時刻
連邦標準時
2314年3月4日 16時53分
シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦
装甲巡航艦「オリンピア」
アルマンド・バルデス中佐
「艦長、まもなく第一戦隊と合流できます。横陣展開、布陣進捗89%です!」
「あと一分で第一、第二、両戦隊の布陣が完了します!」
「おう、デメテル、そのまま続けてくれ。」
彼女の報告を聞き、左手のホルダーにあるボトルを手に取る。
軽く傾けると、半分以下の重さしか感じられなかった。
エスプレッソがもうすぐ無くなっちまうな。
インプラントにエスプレッソを念じると視界の端に注文完了の文字が浮かんだ。
あとで配膳ロボが皆の糧食と共に運んでくるだろう。
さて、実戦で正規軍を相手にするのはこれが初めてになる訳だが……
先の訓練では有効だった荷電粒子砲、アレはどこまで通用するか。
まあ訓練時の試射でデータは取れてる。
連邦標準規格の艦でアレに耐えられるヤツがいないことは頭では分かってるが――
「しかし、訓練では当たった。だが、あれは“動かない標的”だったからな」
砲雷長が不安そうに呟いた。
「大丈夫ですよ! 私が補佐しますので!」
とデメテルが彼のモニターに出て励ましている。彼女が不意に出現したので、彼が大きくのけ反った。
「っ! 急に驚かせるなよ!」
デメテルは”悪戯”まで覚えたか。
日を追う毎に彼女は人間らしさに磨きがかかっていくな。
「その辺にしてやれ、デメテル。あんまりクルーを驚かせるな。心拍数が上がったらストレス値も上がるだろ?」
「ふふ、そうでした。もっとも、ちょっと俯瞰したら彼にはプラス効果みたいですけどね!」
そう言い終わると反論を予感したのか忽然と消えた。張り詰めていた空気が和らぐ。
「よし、皆、そろそろゲームスタートだ。」
砲雷長のモニターに目をやると、デメテルに割り当てられた目標に各兵装が光学ロックされているのが分かる。そして……
「艦長、司令官と回線繋ぎますね!」
間髪入れずにスクリーンへ司令が映る。
『うむ、全艦斉射!』
司令官の合図で、各艦がミサイルを、続いて対艦魚雷を発射した。
誘導弾の群れがスクリーンに投影される。
更に続いて、駆逐艦及び装甲巡航艦の艦首荷電粒子砲が放たれた。
電磁気を帯びた光の一閃。
それが幾重にも伸びていく様はどこか美しくすら見える。三秒ほど経って……
「荷電粒子砲、着弾!全弾命中です!敵艦隊の約25%を戦闘不能に追い込みました!
デメテルの報告に皆が安堵した。
3光秒、この距離で全弾命中か。
従来のレールガン主砲なら考えられない距離だ。
「艦長、荷電粒子砲は再充填完了!砲身冷却まであと25秒!彼らの射程に入る前に全艦連動で後退しますね!」
「ああ」
その間にミサイルを撃つこともできるが、残弾が心許ないので、事前に節約する方針を全艦隊に共有済みだ。
「続いてミサイル着弾!敵前衛、哨戒艦全滅しました!」
船務長からの報告が上がる。
「よし、順調だな。冷却急げ!次は沈み損ねた巡航艦を狙うぞ!」
そう、本艦オリンピアと司令座乗艦のアンドレアは大型艦を優先的に狙う予定なのだ。
しかし、この待ち時間はなかなか窮屈だな。
「そうだ!デメテル、司令官に冷却完了次第、順次射撃開始の許可を取って来い!」
「艦長ならそう言うと思ってもう通してありますよ!」
なんて気が利くヤツなんだ。ありがたいな。
「了解!やるなあ?」
「ええ、まあ。」
……恥ずかしそうな素振りを見せたような気がしたが、今は無視することにした。
艦長席のモニターで各種兵装、戦隊各艦の状況を確認している。
◆同時刻
連邦標準時
2314年3月4日 16時55分
地球連邦 第二艦隊旗艦
ヘラス級装甲巡航艦「オライオン」
連邦直轄第二艦隊提督
ヘンリー・ブラウン中将
「――損害報告!」
先ほどの衝撃で強打した頭を起こしながら尋ねる。
しかし、沈黙が広がるままだった。
顔を上げると右前方に溶断した破口が塞がれた跡が見える。
自動修理システムが間一髪で作動したらしい。
だが、ここにいる他のクルーは無事では無さそうだ。
――いや待て、溶断!?
ここが? 装甲巡航艦のCICだぞ? 艦隊で一番堅牢な区画だぞ?
猛烈な焦りで即座に意識が覚醒した。
「っ!…無事な者はいるか!」
大きな声で呼びかける。
「…」
静寂。
一瞬迷ったが、艦長用の端末で総員退艦の文字をタップした。
即座に艦内に警報が鳴り、合成音声による退艦放送が流れる。
遠くの方でローテンポな足音が聞こえる。
負傷者も多いらしい。
やはり、正解だった。
ここがやられるということは、他はもっと酷い損害を受けていることになるからだ。
さて、艦長席のモニターは生きてる。
これならひとりでも戦闘は継続できるだろう。
だが、他の艦は?
答えは否。
私が居なくなっては他の艦も今のように一方的に撃たれる的にしかならないだろう。
端末を操作し、艦隊リンクを通して、第二艦隊全艦につながる放送を開始した。
「こちら、旗艦オライオン。継戦可能な艦は全艦加速、信号を送れ!」
「継戦能力のない艦は直ちに反転し火星を目指せ!」
「どうやら敵は我々の射程外から致命打を放てるらしい」
「少しでも距離を詰めてレールガンをぶちかませ! 以上!」
艦隊放送を切って、端末に視線を戻す。
「ふう、私とて、決して無事とは言えないのだがな。」
そう呟いて、強打した額を流れる血を右手で拭った。
そしてモニターに目を向けると各艦から続々と信号が帰ってきた。
気絶してる2分の間に哨戒艦40隻は全滅。
だが駆逐艦は20隻中6隻は生きてるようだ。
そして装甲巡航艦は、本艦を含めて4隻全艦が生きている!
とはいえ、第二艦隊はこれで壊滅だ。
前衛を務める哨戒艦が全滅し駆逐艦も殆ど戦闘不能になった。
頼りの装甲巡航艦も無傷に近いのは2隻だけ。
第二艦隊の全艦が何らかの損傷を受けている。
そして、我が艦隊で最も堅牢な装甲巡航艦のCICがこの有様だ。
提督の私以外が全滅――
これはもう戦術的に負けたと言っていいだろう。
いや、敵の目的も掴めなかった以上、戦略的にも敗北だ。
端末でオライオンの各種兵装制御を艦載AIに譲渡する作業をしていると、再び振動。
再びあの小型物体が着弾したらしい。
大昔に廃止されたミサイルとかいう代物か?
先程の未知の致命打よりは大分マシとはいえ、今ので左舷の対空砲ユニットが吹き飛んだ。
同じ場所を狙われたらもう迎撃すらできない。
そして更に同じ規模の振動が連続した…
刹那。CICに警告音が鳴り響いた。
モニターを見ると先程よりもかなり大きな……ミサイル? がこちらに着弾する!
――いや、あれは魚雷とでも呼べばいいのか?
そんなことを考えているうちに私の視界が白く染まった。
◆同時刻
連邦標準時
2314年3月4日 16時59分
シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦
装甲巡航艦「オリンピア」
アルマンド・バルデス中佐
CICのスクリーンには、無惨に破壊された装甲巡航艦の残骸が、無数のデブリとなって漂う様子が映し出されている。
「……敵旗艦オライオンに魚雷命中。撃沈」
「続いて他の装甲巡航艦へ照準を振り分けます」
船務長の報告は、先程と違い冷静で、感情の入り込む余地がなかった。
「ああ、砲身冷却が済み次第、デメテルの補佐に従って次の目標を撃て」
一瞬、スクリーンの端に揚陸艇らしきものが発艦しようとしているのが見えた。
おそらく船務長も気付いていただろう。
状況から考えて、それは脱出艇――生存者を乗せた船だ。
だが、すでに発射された誘導弾を自爆させる間もなく、それは着弾した。
……これが戦争というものか。
今まで沈めてきた罪深い海賊とは訳が違う。
彼らは真面目に任務に就いていた軍人だ。
故郷に家族を残している者も多かっただろう。
――だが、同時にこれが我々の仕事でもある。
「艦長、敵艦隊、加速する模様です。まもなく相対距離二光秒を切ります」
どこからか、デメテルの声が報告を告げた。
姿は見えない。
……彼女にも、気まずさという感情があるのか。
「了解。デメテル、レールガン発射準備はできているな?」
「戦隊各艦は後退。本艦も後退しますが、この鈍足では間に合いません。アンドレアと共に迎撃態勢を取ってください」
「……まったく、旗艦を失ったというのにまだやるか。まるで仇討ちだな」
そう呟くと、姿を消していたデメテルが再び現れた。
「敵旗艦は、撃沈前に“遺言”を残していたようです。解析の結果、敵艦隊の残存艦はそれに従って行動しています」
デメテルは冷淡な表情で、事務的に報告する。
「なるほどな。敵にも優秀な指揮官がいたというわけか」
「……」
静寂。だが、それに呑まれている場合ではない。
「艦長、砲身冷却完了。撃ちます!」
微細な振動が体を伝う。高エネルギー兵器の連射で、慣性制御にも影響が出始めているらしい。
「いいぞ、砲雷長。そのまま魚雷も発射だ」
砲雷長から視線を外し、中央のテーブルへ目を向ける。
そこにデメテルが再び現れた。
「はい? ああ、残弾ですね。それなら――」
デメテルは問いかけを待たず、艦長席のモニターにも残弾状況を表示した。
「――ふむ。予定より早いが、戦闘後は補給艦と合流せねばならんな」
「ええ、すでに自動航行で連絡艇を出しておきました。明朝0700には、このジャンプポイントにトリエステが到着します」
「……対応が早くて助かる。ただ、一応許可を取ってからにしろ」
「特に連絡艇の無人航行はな」
「失礼しました。司令官も艦長も、99%このタイミングで要請されると予測していましたので……」
「冷却完了。荷電粒子砲、撃ちます!」
砲雷長の報告が、会話を押し流す。
「……まあいい。だが、それは理由にはならない。一応、実行前に形式だけでも提案しておけ」
「承知しました」
妙だな。
こういうことは訓練時にやめろと言ったはずだ。
デメテルほどのAIなら、その程度の判断は容易なはずなのに――
――まさか、今の戦闘で“ストレス”でも生じたのか?
そんな考えが頭をよぎる。
その間にも、両艦はレールガンの射程に入り、双方の撃ち合いが始まった。
とはいえ、こちらは巡航艦二隻のみ。
だが荷電粒子砲の圧倒的な射程優位により、現時点では一発の被弾もない。
――だが、ここからは違うかもしれない。
最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖です。
かなり一方的でしたが、なんとか艦隊戦を描くことができました。時間表記や速度、距離の整合性を合わせるのに少々苦労しましたが…。
次回もお昼の12時に投稿するので、お昼休みにでも読んでくださると幸いです。
最後に少し個人的な話をしますね。私は超能力や魔法の類なしで既存の科学理論に則った技術しか登場しない宇宙戦記モノが好みでして…。その理想を達成したうえで繰り広げられるスペースオペラ、或いは戦記物の類に心当たりのある方はコメントで教えてくださると嬉しいです…。
私はこうした理想を叶えて下さる作品が僅かしか見つけられず、ならば自分で書こう!と考えて半年ほど前から構想を練ってきました。ですので、書いてて非常に楽しいです笑




