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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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第八話 「自由恒星同盟」

◆同時刻

連邦標準時

2314年3月4日 17時00分


アルファ・ケンタウリ星系外縁部 太陽系側JP

シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス中佐



 この戦隊旗艦のCICには、初めての“戦争”を経験したことで、新兵の初陣かと思うほどの緊張感が満ちていた。


 最精鋭とされる彼らでさえ、正規軍を相手にするのは初めてなのだから無理もない。


 ――そう自分に言い聞かせた、その時だった。


 正面から飛来した実体弾が、本艦の装甲表面に数発命中したらしい。


 船体が軽く揺れる。

 すでに慣性制御の限界が近いという証拠だ。


 高エネルギー兵器の連続使用で、反物質炉が悲鳴を上げているのだろう。

 それに、荷電粒子砲の砲身冷却も、もはや一分では済まなくなってきた。


 試験では余裕を持たせていたはずだが……。


 スクリーンを見ると、我がオリンピアと、その左舷に並ぶアンドレアも、すでにレールガンの射程内に入っている。

 そしてそれは、眼前の敵も同じだ。


 アドレナリンが血を焼くように巡る。

 だが、この高揚感も悪くない。


 ――そう思った直後、連続して船体が揺れた。


「左舷前方および下部装甲に被弾! 損傷軽微! 装甲が弾いてくれました!」


 横で沈黙していた副長が報告する。


 その声は、わずかに震えているように聞こえた。


「よろしい! そのまま撃ち返せ!」


 そう返したものの、彼の緊張は確実にこちらにも伝わってくる。


 ――いや、違うな。

 これは緊張というより――


「……艦長のそれは興奮ですねえ」


 デメテルがテーブルモニターから、呆れたような視線を向けてきた。


 見透かされていたか。


「そうかもな! 砲雷長、まずはレールガンで残存する敵巡航艦の主砲を狙え!」


「荷電粒子砲は後方の僚艦も撃ってくれる! 雑魚は任せろ!」


「こっちの火力はすべて敵巡航艦に叩き込む!」


「「はい!」」


 砲雷長とデメテルの返事が重なった。


「ミサイルと魚雷は温存しろ! あいつらの武装はこっちには無意味だ!」


「砲戦火力で十分だ!」


「船務長! 可能な限り敵の観測を続けろ!」


「アクティブ探知もフルで使え! “彼ら”もどうせ見ている!」


 これだけ派手に戦闘をすれば、アルファ・ケンタウリ自治政府もいずれ感知する。

 ――もっとも、光速の関係上、認知するのは五時間後になるだろうが。


「了解です、艦長! しかし、一部の敵艦は反転離脱する模様です!」


「追撃に備えてタグ付けしておきます!」


「助かる。――デメテル! 司令官と繋げ!」


「残敵掃討について協議する」


 忙しい船務長に代わり、デメテルが即座に応じる。


 次の瞬間、スクリーンに司令官が映った。

 すぐ近距離にいるため、通信遅延はほとんどない。


『こりゃあ、博打だな! マンド!』


『どちらが沈んでも、この作戦は続行不可になるぞ!』


 司令官も明らかに興奮している。

 ファーストネームで呼ばれるのは珍しい。


「ええ! ですが敵はあと一押しです!」


「つきましては“残敵掃討”および機密保持について協議を――」


『ああ、決まっている。やるぞ』


『機密保持だが、そちらから哨戒艦を三隻引き抜けるか?』


「可能です。代わりに中破して放棄された敵哨戒艦を鹵獲します」


「戦力の穴埋めは徹底すべきかと」


『いい判断だ。では前進せよ!』


『ジャンプポイントへ急ぐ! 後衛も前進!』


「了解です!」


 一礼し、通信を切る。


 ――分かっていた。こうなることは。


 太陽系へ離脱する船を出すわけにはいかない。

 たとえそれが民間船であっても。


 スクリーンには、後退していた哨戒艦や駆逐艦が再び加速する様子が映る。

 別の画面では、次々と爆散する敵駆逐艦。


 ――勝敗は、すでに決していた。


「艦長、我が戦隊の哨戒艦三隻が先行します!」


「それと後方JPで待機中のトリエステも加速開始しました」


 デメテルが羊皮紙を読み上げる仕草で報告する。


 この状況でも演技を崩さないとは、大したものだ。


「了解。これで地球圏への情報漏洩は防げるな」


「戦力補充はトリエステに任せよう」


「鹵獲艦は曳航して連れていく。戦力は多い方がいい」


「ええ、到着までに応急修理と予備兵装の追加を行います」


 会話しているうちに、スクリーンにはデブリしか映らなくなった。


 残る敵は、奥で逃亡を図る半壊の駆逐艦のみ。

 それも間もなく撃破されるだろう。


「艦長! 敵第二艦隊、全艦戦闘不能!」


「ただし、前方の装甲巡航艦一隻に生命反応あり!」


「……脱出の様子はありません」


 映像では、敵艦の格納庫も損傷している。


 脱出手段が完全に失われたわけではないはずだ。

 それでも動きがない。


 ――異様だ。


「デメテル。敵艦に戦闘意思は?」


「ありません。熱源が武器庫に集中しています」


「艦を明け渡すつもりはないようです」


 ――連邦艦の構造はどの星系も共通。

 内部配置は把握済みだ。


 鹵獲阻止。


 それだけが目的だろう。


「……降伏すればいいものを」


 思わず漏れた言葉。


「艦長、本艦の205mmレールガンなら武器庫区画を貫通可能です」


「どうしますか?」


 それはつまり――即時処分。


「ああ、白兵戦の余裕はない。楽にしてやれ」


 迷いはなかった。


 戦術的にも、倫理的にも。


「かしこまりました。砲雷長? 火器制御は――」


「いや、いい」


「通路ならどこでもいいんだろ? 外さない」


 砲雷長が先に引き金を引いた。


 その腕は、わずかに震えていた。


 ――見なかったことにする。


 次の瞬間、敵艦側面に二つの穴が開いた。


 過貫通。


 そして、デブリと共に人影が宇宙へ放り出される。


 宇宙服すら着ていない。


 ――敵もまた、初陣だったのだ。


「……第一戦隊、前進」


「残敵掃討に向かいます」


 スクリーンには、第一戦隊がデブリの森を突き抜けていく様子が映る。


 飢えた狼の群れのように。


 ――圧勝。


 だが、歓声は上がらない。


 CICは沈黙に包まれていた。


 こうして突発的に始まった遭遇戦は、シリウス艦隊の圧勝で終わった。


 さらに、太陽系への離脱船は一隻も出さなかった。


 戦術でも、戦略でも勝利。


 そしてこの戦闘は、後に――


 「第一次アルファ・ケンタウリ沖会戦」


 と呼ばれることになる。



◆遭遇戦の終結から三日後

連邦標準時

2314年3月7日 18時00分


補給艦「トリエステ」

左舷側エアロック L-3



 アルファ・ケンタウリ星系の太陽系側に位置するジャンプポイントを目前に、補給艦トリエステを中心として連合艦隊は停泊していた。


 その側面には、鹵獲した装甲巡航艦と二隻の駆逐艦が貼り付くように係留されている。


 我々は太陽系へ突入する前に、各艦の弾薬や食料の補充、さらには鹵獲艦の修理・整備を行っている。


 食料に関してはリサイクルシステムがあるが――


 問題は、そのシステムを備えているのがトリエステだけであることだ。


 そのため、こうした作戦行動中であっても、有機物の補給と交換を行わなければならない。


 そして第二戦隊の指揮官である私は、トリエステへ移乗し、非番の時間を使って鹵獲された敵巡航艦の視察を行っている。


 エアロックの狭い扉を潜り抜けると、散乱した部品や遺体を人型サイズの整備ボットが淡々と片付けている光景が目に入った。


 これまで制圧してきた海賊船にも、任務の一環として何度か乗り込んだことがある。


 その経験で、死体にはある程度慣れてしまっていたが――


「目的は違えど、勇敢に戦った戦士であることに変わりはない」


「彼らの遺体は丁重に扱え」


 整備ボットに声をかける。


「かしこまりました。遺体は格納庫へ移送します」


「一時間後の転写開始前には、有機物及び遺体の収容作業は完了します」


 整備ボットは、いかにも事務的な文言を有機的な音声で発しながら、作業を続けている。


 私は一瞬その様子を見つめた後、視線を逸らした。


「……デメテル。ガガーリンからの通信はまだないのか?」


 デメテルを呼び出す。


「ええ、まだ何も。所属を問うことすらしてきません。やはり日和見を決めるつもりのようですね」


「彼らにとっても今回の戦闘は不意打ちだっただろうしな」


「で? 地球連邦本部へ送る声明はどんなものだ?」


「端末に送ってくれ。一応、司令官と確認する」


「はい。リベラ首長名義で既に署名済みですが、戦隊指揮官も目を通しておいた方が良いかと」


 私は鹵獲した巡航艦の食堂へ向かいながら、個人端末で声明文と映像を確認する。


 そこにはリベラ首長をはじめとするシリウス政府の閣僚が並び、首長が力強く演説している姿が映っていた。


 内容は要約すれば――中央からの搾取を示す証拠の提示、シリウス政府主導による新たな星間国家の樹立、そして他の自治政府への参加を呼びかける宣言である。


 新たな国家の名は――


 ――自由恒星同盟。


 それが、新たに生まれた祖国であり、地球連邦創設以来初となる新国家の名だった。

 最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖(さんたくるす)です。


 ここまでお読み頂いた方には、AI『デメテル』のモデルというか、発想元に心当たりがあるかもしれませんね。はい、HALOシリーズのAI『コルタナ』がアイデアの種になってます…。ちなみにHALOシリーズではReachが最推しです笑

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