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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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第九話 「日和見の代償」

連邦標準時

2314年3月5日 09時40分


アルファケンタウリ星系 惑星ガガーリン

首都コーンウォール 閣議室


ベルドラン・シューマン 自治政府首長



 前回は紛糾した面子で再び閣議が開かれている。


 しかし、今回は皆が沈黙している。


 昨夜二二時過ぎごろに、星系外縁部で起きた戦闘の情報が入って来たのだ。


 結果は、シリウス艦隊が勝った。それも圧倒的優位で。


 不意に遭遇した両軍の艦隊は当初は連邦艦隊が倍の数を誇り、彼らの勝利かと思われたが。


 未知の武装、新兵器によるアウトレンジ戦法に手も足も出ず、惨敗を喫した。


 連邦第二艦隊は全滅し、生存者はまだ見つかっていないそうだ。


 更に分離した哨戒艦の一部が太陽系JP(ジャンプポイント)を封鎖した。民間船の通航も制限されている。


 ――先に沈黙を破ったのは、外務相だった。


「今こそ、シリウス政府に味方するべきでしょう!」


「この気を逃せば、我々は両者から信用を失いかねない!」


「戦後の勝者につくのは早い方がいい!」


 すると防衛相がゆっくりと挙手して口を開いた。


「いや、太陽系にはまだ彼らの8倍以上の艦隊がいる」


「仮にそれらを打ち破ってもこちらに戻る頃には、無視できない損害が出るはずだ」


「そこを突いて我が艦隊を出せば連邦に恩を売れる。悲願の重工業がこっちに進出してくれるかもしれんのだぞ?」



「しかし、防衛相もこのレポートを見たでしょう?」


「シリウス艦隊が2倍の連邦艦隊を全艦撃沈した。それも損失艦なしで」


「これは彼らの強さの上限が未だに見えないと言う事ですよね?」


 外務相が捲し立てるが、防衛相よりも先に経済相が両手で制して加勢した。


「――太陽系JP(ジャンプポイント)が封鎖されたんですよ!」


「この意味が分からないなんて事はないでしょう?」


「我々だけじゃない! 他の星系の経済も止まるんです!」


「そうなったら敵はシリウスだけじゃなくなる!」


 またか。正直な意見を述べるのは民主主義の美徳だが、こうも紛糾されると舵取りも大変だ。


 場を収める為にも、ここは首長の私が出るべきだろう。


「だが、我々への通告はまだない。向こうもまだ我々の出方を伺ってるのだ。」


 首長は、自分の見解と皆がまだ指摘していないことを言った。


「あと、今回シリウス艦隊が使った新兵器だ。」


 首長はテーブルに表示された戦闘ログを指で弾いた。


「AIの解析では、高エネルギー指向性兵器……要するに、既存のレールガンの射程を大きく上回る兵器だと推定されている。」


 場がざわめく。


「射程外から一方的に攻撃可能――」


「つまり、我々の防衛艦隊も同じ目に遭う可能性が高い。」


 防衛相が顔をしかめる。


「……つまり、防衛戦が成立しないということですか?」


「その可能性は高い。」


 短く、しかし重い断定だった。少し考え込んでから防衛相が口を開いた。


「昨日ガガーリンに戻った戦隊ですが…」


 テーブルに帰港した戦隊の画面が開いた。


「海賊からいくらか戦利品を得たようです。」


「ほう? これはシリウス艦隊が使った大型ミサイルと少し似ているな」


「これが20発か」


「ええ、哨戒艦に積みましょう。万が一、シリウス艦隊と戦闘になった際に斬り込めば一矢報いることはできます」


 防衛相と元軍人同士の会話を進める。


 そういえば、大昔の洋上戦では、このような大型兵器を魚雷と呼んでいたらしいな。


「あの訳の分からん指向兵器よりは再現できるな。軍港の整備員に弄らせろ。備蓄してある海賊ドローンも解体して資材にするんだ。」


「これなら地球から戻って来たシリウス艦隊を葬ることも夢ではない。地球連邦は大損害は受けても負けはしないだろう。戦後を考えればやはり…」


 そう話していると、外務相が挙手したので指名する。


「首長、それならば双方と連絡を取りましょう」


「シリウス自治政府と太陽系の連邦本部。両方に連絡船を出せばいい」


「いま封鎖されているのは太陽系JP(ジャンプポイント)だけです」


「最短ではないので2ヶ月ほど遅れますが、ウルフ星系から迂回すれば太陽系にも船を出せます」


 確かに外務相の言う通りだ。


 双方と連絡を取れば、どちらにもつきやすい。


 この後、どちらが勝っても勝者にすり寄れる。


「そうだな。まだどちらが勝つかわからんのだ。迂闊に介入すべきではない」


「連邦には忠誠の意を見せつつ、シリウス政府には外交窓口の開設を打診」


「これで行こう。」


 防衛相は不満気ではあったが、彼も頷いた。


 そして、全員が安堵したように頷き、その日の閣議は収束に向かった。



◆2日後、シリウス艦隊の太陽系への突入直後

連邦標準時

2314年3月7日 22時20分


太陽系外縁天体「エリス」近傍

アルファ・ケンタウリJP(ジャンプポイント)


地球連邦 第四艦隊所属

フォボス級哨戒艦「クリスティーナ」 CIC


ルーナ・トーレス士長



 静寂が支配するこの宙域は要衝アルファケンタウリ星系への中継点だ。


 故に地球連邦は海賊から民間船を守る為、哨戒任務を重点的に行なっている。


 そして今日は私達がこの哨戒任務を担当する。


 まだ先任の戦隊と交代して一週間しか経っていない。


 この退屈な任務はまだ終わらない。



「なあトーレス、今日の臨検数で賭けようぜ。」


「いいよ、いつもみたいにCR(クレジット)にする? それとも備蓄の酒にする?」


 と、横の席から同期のアントンがCICから上官が退室してる間に賭け事の話をし始めた。しかし、それでも任務中なので我々は担当モニターからは目を離さない。


「ん、じゃあ俺は4隻。賭け金は……100CR(クレジット)。トーレスは?」


「うーん、いや、0隻。賭け金はあんたと同じで」


「0だと?大きく出たな。女の勘も今日で機能停止って訳かい?」


「いやいや、直近の傾向から予想したまでのことよ」


 くだらない会話をしていると通路から足音が近づいてきたので、二人とも背筋を伸ばした。


 少し脱力したような足音。


 副長のプレストン大尉か。


 士官にしては若く、昇進も早いがひとつだけ問題点を挙げるなら――


「あ、副長も賭けに参加します?」


 アントンが無言で入室した副長に声をかける。


 だが、いくら副長が若いからって賭けは不味いだろう。


 そうだ、副長は賭け事が好きな男でもある。


 士官としては少々問題ではあるが、勤務態度に問題はなく、むしろ素晴らしいと評されている。


「ん? ああ、今回は遠慮しておくよ。今日は真面目な気分なんでな」


「ありゃ、珍しい。分かりました」


 アントンは副長の返答が予想外だったようだ。


「それで?今のところ異常はないか?」


と副長が尋ねてきた。


「はい、不審な船は居ませんね」


「大手貿易会社の貨客船しか――」


 ――私がいつも通りの報告をしようとしたが、モニターにはそれを揺るがす情報が映った。


「ん?どうした?」


「――JP(ジャンプポイント)に多数の投射反応。距離約5光秒、二個戦隊規模です」


 気を取り直して、見たままの報告をする。


「ん? どこかの自治政府の艦隊か?」


「いつもの定型文を送っておけ、タイタンの共同司令部にもログを――」


 副長がそう言い終わる前に、件の艦隊はこちらに向けて転舵している。


 そしてその艦首に発砲炎が――


「副長! 発砲炎です!」


「識別信号なし! 回避を!」


「そんな馬鹿な!」


「航海士!回避行動を取れ!」


 遅かった。船体が大きく揺れた。この距離から攻撃――?


「クソ!どこがやられた!」


「艦上部、底部のデッキが…根こそぎ飛ばされました…」


「つまり……通信機器も、か?」


「はい……」


 敵は投射完了後に、この宙域にいる軍船を見つけ次第撃ったということになる。


 それも5光秒の距離から。標準規格の連邦艦では射程外のはずだ。


「至近距離に投射反応! 未知の大型艦一隻、本艦後方に出現!」


 CICのスクリーンに青白い光を纏いながら巨大な宇宙船が表示される。


「なんだこれは? いや、しかし、この設計思想は間違いなく人類の物だな――」


 銀色の塗装、角張った構造物、地球連邦の標準規格艦に似ている。


 しかし、連邦艦にこんな船は居ない。


 ヘラス級装甲巡航艦を上回る大きさなんて、あり得ない!


「不明艦の艦首に熱源反応! 大きい!」


「攻撃か!? 回避――」


 副長がそう言い終わる前に私の意識は途切れた――



連邦標準時

2314年3月7日 22時25分


 この時刻を以て、アルファケンタウリJP(ジャンプポイント)を哨戒していた艦は全て消息不明となった。

 また同時刻に発生した強力な通信妨害により、付近を航行していた民間船からの通信もすべて途絶した。


 もし、ガガーリンの閣僚が異常を検知した時点で連邦へ報告していれば――


 結果は違っていたかもしれない。


 彼らの日和見の代償は重かった。

 最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖(さんたくるす)です。


 ちなみにCRクレジットの価値を日本円に変換するなら2026年現在で1CR=10円くらいのイメージです。

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