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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第二部 「機動艦隊、出撃」

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第八話 「査問会」

◆自由恒星同盟の外交使節団の主要メンバー

カミッロ・ジュリアーニ 外務相

リカルド・ベルメホ B&B社 代表取締役

アルマンド・バルデス少将 第二艦隊提督

ラファエル・コルテス大佐 オリンピア艦長

デメテル オリンピア艦載AI


◆イプシロン・エリダニ自治政府の閣僚たち

ヴァルター・フォン・ショルツ 自治政府首長

オラフ・フォン・ハルシュタイン 外務相

ヴィリー・エアハルト 経済相

ヘルムート・ミュラー 防衛相

カール・フォン・ルックナー大佐 第一戦隊旗艦艦長

フェリックス・ラインハルト大佐 第二戦隊旗艦艦長



◆ヴィシュヌ宇宙港抜錨より二日後――

連邦標準時

2314年5月18日 10時20分



イプシロン・エリダニ星系 外縁部

プロキオンJP付近


FSD第二艦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス少将


「投射完了、イプシロン・エリダニ星系に到達」


 船務長が短く報告した。


「前方2光秒の位置に艦影多数、現地自治政府の防衛艦隊と思われます」


 スクリーンに警戒態勢の艦隊が映った。


 その艦隊は一隻残らずこちらに主砲を向けており、警戒態勢であることが一目で理解できた。


 バルデスらの第二艦隊は、プロキオン艦隊の第一戦隊を伴ってFTL航行を終え、イプシロン・エリダニ星系の外縁部に到達した。


 しかし、この宙域に歓迎の空気はなく緊張感が漂っていた。


「一目で分かる厳重な警戒態勢ですね」


「プロキオンとは別種の緊張感があるな」


「まるで敵を迎撃するような構えですね」


 デメテルとバルデスが会話を交わしていると船務長が再び報告を上げようとしていた。


「エリダニ艦隊より入電。『停泊先へ誘導する。我に続け』とのことです」


「誘導に従い、前進しろ」


「了解、加速開始、自治政府艦隊に続け!」


 第二艦隊の使節団は緊張感に呑まれつつあった。



連邦標準時

2314年5月18日 14時40分

イプシロン・エリダニ星系 惑星ブラウボーデン

首都ノイ・ベルリン 自治政府本部 閣議室


 閣僚たちが集まり、何かを待つような沈黙に包まれた閣議室。そこに職員がひとり入室した。


「プロキオンJPで待機中の第一戦隊より入電、自由恒星同盟の艦隊が我が星系に到着したようです」


 職員の口調は冷淡で極めて事務的であった。


「定刻通りか。少なくともラテン人にしては時間に正確らしいな」


「さて、本題に入ろう。我々は自治権存続の岐路に立っているわけだが……」


「まずは君たちの意見を聞こう」


 首長のヴァルター・ショルツが独り言を零した後、その場の閣僚たちに話を振った。


 真っ先に手を挙げたのは外務相のオラフ・ハルシュタインだった。


「まず、前提としてシリウス艦隊は太陽系で連邦に対して、死者六十万人以上の被害を与えています」


「先の太陽系攻勢での死者数は連邦のプロパガンダも含まれてるとは思いますが……」


「我々は距離的に太陽系とシリウス、そのどちらからも遠い位置にあります」


「その上でどちらに付くか、という話であれば双方の戦力と国力だけでは判断できません」


「ただ、連邦も壊滅した火星に代わって月面で戦力を整備中との情報もあります」


「判断するなら、この情報も加味するべきです」


 ショルツ首長は外務相の発言を聞き、頷いてからヘルムート・ミュラー防衛相に視線を送った。


「私は戦力だけで判断するならば、シリウスに付くべきかと思います」


 ショルツが眉を片方吊り上げ怪訝な表情をするがミュラー防衛相は続けた。


「まず現在、連邦艦隊の残存戦力の大半は、戦時徴用されたFTL非搭載の自治州艦隊です」


「その上、精鋭のタイタン、火星の艦隊は先の太陽系攻勢で壊滅しております」


「対するシリウス艦隊は、一個艦隊相当とはいえ、未知の新兵器と精鋭の将兵を揃えています」


「更に先日プロキオン星系も自由恒星同盟に加盟しました」


「我々の艦隊が加われば戦力は一時的かもしれませんが連邦艦隊と対等以上になりえます」


「連邦から独立し、新たな国家に参加するなら今しか無いかと」


 ミュラー防衛相は淡々と意見を述べた。


「なるほど、確かにそうかもしれないな」


「経済相の意見も聞きたい」


 すると、ショルツの呼びかけに経済相のが頷いた。


「はい、結論から言いますと、私は同盟加盟には反対です」


 それを聞き、ショルツは興味深そうな表情になった。


「現状ではこの星系の経済はほとんど自己完結しています。しかし、それは物流航路が少なく、警備が行き届いているからに過ぎません」


「もし、ここでどちらかに付くと、艦隊を供出することになるでしょう?」


「そうなったら誰が海賊から民間船を守るのです?」


「すぐに海賊天国になるだろうな」


 ショルツが彼の言葉を先回りして締めた。


「ええ、仮に我がブラウボーデンの物流航路が寸断された場合、あらゆる分野で物資が不足し、一年以内にハイパーインフレ状態になる見込みです」


「もし、同盟に加盟するつもりなら警備戦力の供出を控えさせるか、掃討作戦を依頼せねばなりません」


 ショルツは満足そうに頷き、内務相に視線を送った。


 すると内務相は予定調和と言わんばかりに、挙手し発言を求めた。


「アデナウアー内務相」


「はい、まず皆さんにお耳に入れるべき情報がございます」


 彼はオールバックの髪を少しかき上げながら、恭しい口調で室内のスクリーンを指さした。


「情報部が精査したところ、先の税務署類改竄のリーク情報ですが、発信者はシリウス星系から発信したようです」


「その発信者が何者かは分かりませんが、少々出来すぎた話に見えませんか?」


「連邦の不正を暴き、圧政から自治州を救うと喧伝する解放者。耳障りの良い言葉に惑われぬよう、慎重に判断すべきです」


 彼の説明に他の閣僚たちは顔を見合わせた。


 それを見てショルツが発言した。


「現状、ネットワーク上では市民の加盟の賛否は拮抗している」


「それはシリウスが新たな帝国でしかなく、大規模な戦争に巻き込まれるのではという懸念があるからだろう」


「彼の情報もだが、シリウス側に付くか地球連邦に付くのか、或いは中立を維持するのか慎重に決める必要がある」


「我々も地球連邦に不満が無い訳ではないが、安易に独立戦争に参加するのは危険だ」


「同盟には何かしらのメリットがなければ加盟はしかねる」


「というのが、私の意見だ」


 外務相が少し考え込む仕草をしてから挙手した。


「それならば、まずは同盟の使節団との会談は、まず質疑応答の時間を設けましょう」


「彼らの本音をできる限り探るべきです」


 その後、閣僚たちは質問事項の作成に取り掛かり、来る会談に備えた。



◆二日後――

連邦標準時

2314年5月20日 15時30分


イプシロン・エリダニ星系 惑星ブラウボーデン 低軌道上

ハーフェンシュタット宇宙港


ヨツビシ商船所属 貨客船「臨海丸」

船長 鈴木勝彦


 在りし日の地球に似た惑星の軌道上に、全長300mクラスの貨客船が入港した。月面宇宙港から、約二週間に及ぶ航海を経て船のクルーたちは一息つこうとしていた。


 彼らは表向きは一企業の商船クルーであるが、それとは別の顔も持っていた。


 彼らの正体は、地球連邦の海軍情報局(ONI)所属の情報工作員である。


「やはり美しい惑星だな、かつての地球そっくりだ」


 船長らしき男が、ブリッジの窓から見える眼下の惑星を見て呟いた。


「鈴木大尉、駐在員からの情報によると、一時間以内に自由恒星同盟の使節団が入港するそうです」


「ぎりぎり間に合ったか。では作戦開始だな」


「はい、"船員"たちに待機を伝達しますね」


「ああ、そうしてくれ」


 鈴木は傍に立つ"副船長"の方を向いて発言した。


「まずは世論工作からだ。先日の火星・タイタンの映像を、匿名の告発者経由で流せ」


「いいか? あくまで我々は民間商船のクルーだ。決して出所を悟らせるなよ」


「了解です」


 彼の部下たちは、商船のブリッジから整然と去っていった。



◆約一時間後――

連邦標準時

2314年5月20日 16時40分


惑星ブラウボーデン 低軌道上

ハーフェンシュタット宇宙港 大会議室


アルマンド・バルデス少将


 低軌道上の宇宙港の行政区画にて、簡潔に整えられた大会議室に二つの長机が少しの距離を置いて並べられていた。


 長机の背後には、地球連邦旗とエリダニ自治州旗が並べて掲げられていた。


 自由恒星同盟の旗も無ければ、歓迎の横断幕も無い。


 ただ二本の旗だけが、会談の性質を物語っていた。


「まずは、遠路遥々ここまでお越しいただきありがとうございます」


「私はエリダニ自治州の首長ヴァルター・フォン・ショルツです」


「時間は有限です。早速、会談を始めましょうか」


「まずは確認したいことがあります」


「先の貴方がたの太陽系攻勢では約六十万人の死傷者が出たと伺っております」


「それについてはどうお考えなのか、お聞かせ願いたい」


 ショルツ首長の畳みかけるような発言に、バルデスらFSDの使節団はやや困惑しつつも、ジュリアーニ外務相が冷静に発言した。


「はい、まず私は自由恒星同盟(FSD)の外務相カミッロ・ジュリアーニです」


「全権委任大使と思っていただいて構いません」


「そして、ご質問には可能な限り率直にお答えしましょう」


「まず、同盟政府としては、先の攻撃での犠牲者の方々には遺憾の意を表明します」


「民間人の犠牲は我々の本意ではありませんでした。我々は、あくまで地球連邦の軍事目標の無力化が目的であって、殺戮が目的ではないことをご理解いただきたい」


 ショルツ達エリダニ自治政府の閣僚たちは冷淡な表情のまま耳を傾けていた。


「なるほど、この話はひとまず置きましょうか。では次に、連邦の税務署類改竄の件ですが……」


「発信源がシリウス星系であるという情報が入っております」


「少々都合の良すぎる話に聞こえるのですが、その辺りについてはどうお考えなのか」


 ジュリアーニが答える。


「はい、それについては我々もそう認識しております」


「この騒動の発端としましては、我が首都星にてこの情報を受けてデモを行っていた市民が、連邦警察の武力的弾圧を受けた為、やむなく動いたのが始まりです」


「我々の自作自演、という訳ではありません」


 ジュリアーニの回答は概ね事実であった。


「なるほど、分かりました」


「ですが、あなた方は先の作戦で数多くの新兵器を投入していたようですね」


「突発的な反乱にしては準備が周到に見えますが?」


(痛いところを突かれたな。彼らは我々を新たな僭主とすら考えているのか?)


 バルデスが内心で唸っていたが、ジュリアーニは冷静に答える。


「はい、仰る通り我々はかねてから独立に向けて準備してきました」


「しかし、それとリークの件は別物です」


「ただ、市民保護のため計画が早まったに過ぎません」


 それを聞いて、エリダニ自治政府の方から手が上がった。


「ハルシュタイン外務相です。あなた方の大義は分かりました」


「我々が同盟に加盟したとしても、我々は星系内の艦隊を多くは動かせません」


「それに我々の経済は既に星系内で自己完結しております」


「今のところ、あなた方の同盟に加盟するメリットがない」


「むしろ、戦争に巻き込まれるデメリットの方が大きい」


「何か見返りはあるのですか?」


 それに対してベルメホが挙手した。


「B&B社の代表取締役リカルド・ベルメホです。それについては私がお答え致します」


 ベルメホが笑顔で開口した。


「弊社はシリウス星系において最大の企業グループであります。弊社の新兵器の運用ノウハウだけでなく、現在建造中の移動式造船所の貸与をお約束できます」


「重工業だけでなく、農業分野でも弊社は支援できます」


「ブラウボーデンの原生植物も、弊社の植物管理部門ならば、商業化も視野に入ります」


「総括しますと、我々は星系全体に大きな経済成長をお助けできます」


 唐突なビジネスマンの登場に、エリダニ自治政府の閣僚たちは驚きの表情を浮かべていた。


「失礼ですが、あなた方は外交使節団なのですよね?」


「なぜ、企業の方まで同行されているのですか?」


 エアハルト外務相が、困惑の表情で質問した。


「はい、我がシリウス星系では、国家の協力企業の多くも政治に参加しております」


「民間の意見も取り込む柔軟な政治こそが、健全な民主主義の継続に不可欠だと考えているからですね」


「ですので、地球連邦よりも健全な星間政治を実現すると、お約束できます」


 ジュリアーニが質問に答えた。


「なるほど、あなた方の理念も分かりました。では、もう一つ質問があります」


「加盟した星系の主権はどうなるのですか?」


 すると、デメテルがテーブル上に現れて答えた。


「人工知能デメテルです。私の立場でお答えするのは恐縮ですが」


「まず、自由恒星同盟(FSD)には明確な加盟条件は特にありません」


「各自治政府の主権を尊重し、個別に契約を結び同盟締結することができます」


「例えば、先日加盟したプロキオン自治政府は、余剰の一個戦隊の同行と引き換えに、各艦艇の近代化改修を契約しました」


「とにかく主権侵害の意図はありません」


 デメテルはそう言い切ると、静かに頭を下げて消えた。


「なるほど、高性能な軍艦だけでなく人工知能までお持ちなのですね」


「ひとまず質問は以上です。一旦意思決定の為、お時間を頂きたい」


「宇宙港のホテルを取っておきましたので、停泊中はそちらもぜひご利用ください」


 ショルツの言葉を受け、使節団の面々は一瞬驚いたが、すぐに納得しジュリアーニが答えた。


「分かりました。それでは今日の所は会談は終了ということでよろしいですか?」


「はい、長旅でお疲れでしょうし、皆さまもゆっくり休んでください」


「お気遣いありがとうございます。それでは失礼します」



 ジュリアーニのその言葉を以て、この日の会談は僅か五分程度で終了した。


 外交会談としてはあまりに異例の短さであった――


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