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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第二部 「機動艦隊、出撃」

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第五話 「ヴィシュヌの天秤」

◆自由恒星同盟の外交使節団の主要メンバー

カミッロ・ジュリアーニ 外務相

リカルド・ベルメホ B&B社 代表取締役

アルマンド・バルデス少将 第二艦隊提督

ラファエル・コルテス大佐 オリンピア艦長

デメテル オリンピア艦載AI


◆プロキオン自治政府の閣僚たち

アディティヤ・ラオ 自治政府首長

アルジュン・カプール 外務相

サミール・パテル 経済相

ラジェシュ・シン 防衛相

カラン・デーシュムク大佐 第一戦隊旗艦艦長

ローハン・ナイール大佐 第二戦隊旗艦艦長


連邦標準時

2314年5月14日 09時00分


プロキオン星系 第三惑星「アーユシュマーン」

低軌道上 ヴィシュヌ宇宙港

大会議室


アルマンド・バルデス少将


 長い通路を抜けた先に、円形の大会議室があった。


 中央には楕円形の卓が据えられ、その片側には既にプロキオン自治政府の閣僚たちが並んでいた。


 会議室に入った瞬間、閣僚たちの視線が一斉にデメテルへ集まった。


 嫌悪。


 困惑。


 そして好奇。


 その視線を一身に受けながら、デメテルは平静を装いつつバルデスの傍らに立っていた。


 そして、その向かいの中央――


 静かにこちらを見据える男こそ、自治政府首長アディティヤ・ラオであった。


「自由恒星同盟の皆様、プロキオンへようこそ。プロキオン自治政府の首長アディティヤ・ラオです。以後お見知りおきを」


「それでは、先にそちらから自己紹介をお願いできますか?」


 ラオが笑顔で歓迎の挨拶をしたが、他の閣僚の表情は硬いままであった。


 自由恒星同盟側の席に着いたジュリアーニが、穏やかに口を開いた。


「では、まずは私から失礼します」


「私は自由恒星同盟、外務相のカミッロ・ジュリアーニです。FSD政府の全権委任大使だと思って頂いて構いません。よろしくお願いします」


「それでは、他の代表も紹介しましょう」


 ジュリアーニが彼の左に座る次の人物へ手で合図した。


「はい、私はB&B社から参りました、代表取締役のリカルド・ベルメホです。本日は経済・産業面から、我々の提案をご説明できればと思います。よろしくお願いします」


 ベルメホは企業人らしく、笑顔を浮かべていた。


「……私は自由恒星同盟第二艦隊提督、アルマンド・バルデス少将です。よろしくお願いします」


「デメテル」


 バルデスがテーブルモニターに浮かぶホロアバターに呼びかけた。


『……第二艦隊旗艦オリンピアの艦載AI、デメテルです。早速皆様からの視線を感じて少々恐縮ですが、何卒よろしくお願いします』


 その言葉に、閣僚の何人かが眉をひそめた。

だがラオだけは、わずかに興味深そうに目を細めていた。


「……まるで人間のようだな。シリウス星系の技術力には感服致します」


 ラオが柔らかい表情で感想を述べて、周りの閣僚に目配せをした。


「それでは、こちらも自己紹介をしますね」


「ではまず――」


 ラオが彼の左手の人物に手で合図した。


「……はい。防衛相のラジェシュ・シンです」


「経済相のサミール・パテルです」


「外務相のアルジュン・カプールです。本日はお互いにとって有益な時間になればと思います。よろしくお願いします」


 カプールだけは笑顔で挨拶したが、その目までは笑っていなかった。


(ラオ首長以外の反応は芳しくないな)


 バルデスは内心で呟いた。


 外務相はそんな内心を知る由もなく、貼り付けられたような笑顔で語りかけた。


「まずは、自由恒星同盟の皆様のご用件をお伺いしたい」 


「はい、端的に言いますと、我が自由恒星同盟への勧誘であります」


「もちろん、すぐに結論を出せる案件ではないことは承知しておりますので。何か、疑問があればお気軽にお声掛けください」


「なるほど。では、こちらも正直に質問させて頂きますね」


「皆様は自由恒星同盟と名乗っておいでですが、以前のシリウス自治政府とは何が違うのですか?」


 カプールは笑顔のままであったが、その表情の奥底には試すような何かがあった。


 それに対してジュリアーニが同じく笑顔で応える。


「はい、もちろん国名や国旗が変わっただけではありません」


「地球連邦とは違い、各加盟国に対して対等な立場で、広範囲の同盟を組織する。これが自由恒星同盟の理念です」


 ラオとカプールは頷いたが、プロキオンの他の閣僚は眉を顰めたままであった。


「まあ、ひとりの政治家の主張だけ聞いても胡散臭いでしょう。実行力のある経済、軍事の代表からも補足をお願いします」


 ジュリアーニがベルメホとバルデスに、視線を向けた。


 そして、ベルメホから口を開いた。


「では、シリウスの企業代表として、我々の経済・生産面についてご説明しましょう。まず、我々は連邦が各自治州に置いている標準型宇宙港や連邦標準艦以外の設備や戦力があります」


「それがどこにあるかは、まだ明かせませんが、皆さんが見積もっているよりも多いことは間違いないでしょう」


「外の艦隊を見て既にお気付きかと思いますが、我々の艦隊は既存の改装艦だけではありません」


「更に、今後加盟した星系には、無償で旧連邦艦の改装を行います」


「また、有償ではありますが、移動式造船施設の貸与の計画も進行中です」


 ベルメホの発言に区切りを見つけたジュリアーニが口を開いた。


「そして、食糧など民間分野についても貿易の用意がございます」


「皆さんもご存知の通り、我が首都星ノヴァ・マーレは農業が活発でもあります。皆さんから香辛料を輸入する代わりに、我々からは作物と重工業設備への投資を提供できればと考えております」


 沈黙。


「なるほど、互いにとって有益どころか、我々が少々得してしまうような内容ですね」


「何か裏があるのでは、と疑いたくなるほどです」


 カプールが笑顔のままで相槌を打つ。


 するとシン防衛相が挙手した。


「確かにあなた方の艦隊は一目で新型艦だと分かる。それで?」


「何か実績はあるのですか?」


 シン防衛相の質問に対して、バルデスが挙手した。


「はい、我々は改装した二個戦隊を以て、アルファ・ケンタウリでは、連邦第二艦隊主力――巡航艦四隻、駆逐艦二十隻、哨戒艦四十隻を殲滅しました」


「さらに太陽系では二個戦隊、帰路でも迎撃に出た二個戦隊を退けています」


『こちらがそのログです』


 バルデスが言葉を切ると、デメテルが静かに付け加えた。


 シン防衛相は自身の目の前のホロパネルを見て、一瞬だけ目を見開き、静かに頷いた。


 そして


「……この戦術、AIが補助しているのか?」


『一部ですが……』


『作戦行動にあたり、人間の反応速度を超える必要がある場合は、私がサポートしました』


 デメテルが補足し、シン防衛相が頷き質問を重ねた。


「なるほど、あなた方の戦力は、見掛け倒しではないようだ。ではもうひとつ」


「先ほどベルメホ殿が仰った生産能力についてです。具体的にはどれくらいのペースで、どれほどの生産能力があるのですか? せめてそれくらいは教えて頂きたい」


 ベルメホが、ジュリアーニに軽く目線を送ると静かに頷き、ベルメホが口を開いた。


「はい、秘匿中の第二工廠と合わせますと、年に装甲巡航艦を8隻以上、駆逐艦を20隻程度、哨戒艦は36隻程度。と見積もっております。前提ですが、これはシリウス星系のみのお話です」


「これから加盟して下さる星系や移動式造船所、更に民間造船所の軍需転用も含めれば更に増えるでしょう」


 その言葉を受けて、プロキオン側の席が明らかに騒めいた。


「とても、一星系の生産能力とは思えませんな」


「一体どうやってそれほどの施設を?」


 パテル経済相が興味深そうに尋ねる。


「そこは”まだ”企業秘密です」


 ベルメホが営業スマイルで答えた。


「なるほど、これならシリウスは新たな勢力の盟主、と言えるでしょう」


「ではその建造能力は、従来の連邦標準艦とは異なる、あなた方独自の新造艦という認識でよろしいかな?」


 他と違い、あまり動じなかったラオが静かに問うた。


「はい、当然、我々は既存の連邦標準規格艦とは別系統の独自の新型艦を既に生産しています」


『外に係留中の第二艦隊の約半数はその先行量産型です』


 デメテルが静かに補足して、新型艦と改装艦の外観図のみをパネルに表示した。


「ふむ、なるほど。先ほどから気になっていたのだが……」


 そう言うとラオの視線がデメテルに注がれた。


「機械に人格を与えるとは……」


 プロキオン側の方からそんな小声が漏れ出た。


 その声の音源がどこかは判然としなかったが。


「……少なくとも、いま目の前にいる彼女は礼儀正しい客人に見える」


「差し支えなければ、一体どんな手法で彼女を生み出したのか聞いても?」


 ラオがバツの悪そうな顔で尋ねた。


「申し訳ありませんが、それは機密事項ですので私も知らないのです」


 デメテルが申し訳なさそうに答えた。


「情報の統制も万全、と」


「同盟国としてはこれ以上なく相応しい」


 ラオが満足そうに頷いた。


『もし、加盟される場合の契約事項もここで改めて提示しますね』


 デメテルが事務的な声でホロパネルに条項を表示した。


「ふむ、現在進行中の紛争解決までの期間、自治政府防衛軍の指揮権の部分移譲、ですか」


「情勢を鑑みれば妥当な内容ですが……」


 シン防衛相が無表情で相槌を打った。


「軍の運用実績も、間違いなく地球連邦で最有力、戦力規模、生産能力も申し分ない」


「だが、まだ完全に信用できた訳ではない」


「そこは分かって頂きたい」


 シン防衛相は線引きをするように毅然とした口調で言い切った。


「ひとまず、いまお尋ねしたいことは以上です」


「皆様は、このあと正午の会食まで応接室にて待機をお願いします」


 ラオが笑顔でそう言って、午前の会談は終了した。


 少なくとも、プロキオン自治政府の心はわずかに動いた――


 バルデスにはそう感じられた。

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