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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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第一話 「はじまり」

連邦標準時

2314年2月15日 14時20分


シリウス星系 惑星ノヴァ・マーレ

首都ヌエバ・グラナダ 閣議室



 惑星ノヴァ・マーレの空は、淡い緑に濁っていた。


 海中プランクトンが放つ窒素酸化物――教科書にはそう記されている。


 それでも、この星は人類に適合した環境を持っていた。


 唯一の大陸、その南部沿岸に築かれた首都ヌエバ・グラナダ。


 大通りでは連日、市民が行進している。


 地球連邦からの独立を訴えて。


 官庁ビル最上階。


 通りを見下ろす男たちは、皆スーツに身を固めていた。


 その頭上には、重い空気が垂れ込めている。


 中央に立つ男――


 薄くなった金髪のラテン系。


 シリウス自治政府首長にして、ビルバオ産業グループ代表。


 ミゲル・アルフォンソ・デ・リベラ。


 彼はしばし外を眺め、やがて席へ戻った。


「やれやれ……想定より規模が大きくなってしまったな」


 室内の視線が一斉にミゲルへ向く。


「カノバス君、何かね」


 指名された男が、静かに手を挙げている。


「はい。例の計画ですが――前倒しでの発動を提案します」


「理由は?」


「はい。弊社の新製品は既に必要量を確保しています」


「これ以上、待つ理由はありません」


「定刻通りなら、一時間以内に地球からの連絡船が到着します」


「彼らが離脱した時点で――」


「レコンキスタ計画を発動する、というわけか」


 ミゲルが言葉を引き取る。


 カノバスの声には、焦りではなく確信があった。


 だが――


「慎重に行くべきだ」


 別の男が口を開く。


「この計画は、失敗すれば我々の失脚どころでは済まないだろう」


 そのときだった。


 ――乾いた銃声。


 数発。


 そして、外の喧騒が一気に膨れ上がる。


 全員が顔を見合わせ、窓へ向かった。


 ミゲルも遅れて駆け寄る。


 眼下の光景に、彼は目を疑った。


「……連邦治安警察か?」


「市民に銃を向けているのか!」


 通りでは、デモ隊に銃を構える警察部隊。


 その背後から、武装した特殊部隊が展開していた。


「連邦の犬どもが……」


「歴史から何も学んでいないのか!」


「もう、うんざりだ!」


 室内の空気が一気に荒れる。


 だが――


「……静粛に」


 ミゲルの一言で、空気が止まった。


 振り返った彼の表情から、感情は消えていた。


「星系防衛軍は、元より我々の指揮下にある」


「海兵隊を出せ」


「連邦治安警察を制圧。武装解除後、拘束しろ」


 一拍置く。


「多少の流血は……やむを得ん」


「……相手は地球連邦ですよ? 時期尚早では?」


「構わん。準備はほぼ終わっているのだろう?」


「それに先に手を出したのは、向こうだ」


 短く、断定的だった。


「連絡船はどうします?」


「宇宙港に接舷次第、拿捕しろ」


「『デメテル』と入れ替えた後、送り返す」


「……よろしいのですね」


「ああ」


 防衛軍司令官は静かに頷き、退室した。



 約二時間後。


 数分間の銃声ののち、街は沈黙した。


 海兵隊は警察部隊を制圧。


 捕虜は海上の民間貨物船へ収容された。


 警察が正規軍に勝てるはずはなかった。


◆その日の夕刻

連邦標準時

2314年2月15日 18時30分


 窓外の空はオリーブ色に沈み、日没が迫っていた。


 会議室には、張り詰めた静寂。


 首脳陣は、ただ結果を待っている。


 足音。


 扉が開く。


 若い士官が駆け込んできた。


「報告します! 惑星上の連邦勢力はすべて制圧完了!」


「デメテルの調整作業は、一時間以内に完了予定です!」


 『デメテル』――


 シリウス自治政府が運用する総合型AI。


「更に、駆逐艦アルクトゥルス、哨戒艦ミラ、プロキオンの乗員は総員退艦!」


「これより作戦入力およびダメージ加工に移行します!」


「了解。ご苦労」


 ミゲルの短い返答。


 士官は敬礼し、退出した。


 ――無謀な反乱に見える。


 だが。


 勝算がないわけではない。


 テーブルモニターの作戦図を見つめながら、ミゲルは静かに呟いた。


 ――これは、賭けではないはずだ。


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