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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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第二十話 「バルデスとノエル」

連邦標準時

2314年3月21日 11時45分


シリウス星系防衛軍海兵隊

第二旅団 第三分隊


ルイス・サモラ伍長



 ルイスは、三人の同僚と共に装甲宇宙服(AES)のスラスターを噴かしながら、オリンピアの船体に沿って宙を飛んでいた。


『急げ! 奴らを船内に入れるな!』


 分隊長の声がヘルメットの中に響く。しかしすぐに、別の声が入る。


『第三分隊は至急艦内に戻って下さい!』


『艦内に侵入者あり! 隔壁を爆破しながらCICに向かっています!』


『現在、下層デッキEV前で整備班と交戦中!』


 間髪入れずにデメテルが無線に割り込んできた。


『戦況は! 彼らは保ちそうか!』


 分隊長がデメテルに問いかける。


『こちらが不利です! 死傷者が出始めてます!』


『侵入者は何人だ!』


『一人ですが、なかなかの重装備です! 乗員のピストルでは歯が立ちません!』


 ——ありえない。ひとりで白兵戦など無茶が過ぎる。


『お前ら聞いたな! ロボットは他の分隊に任せてエアロックへ戻れ!』


 先頭を飛ぶ分隊長がこちらへ振り返り、ヘルメット越しに私たちに命令する。


「「了解!」」


 ルイスと仲間たちが同時に返事をした。


 しかし——


『悪いお知らせです。L2エアロックの外扉が封鎖されました』


『至急格納庫へ迂回して下さい!』


 デメテルが再び割り込んできた。


 味方の工兵たちは整備ボットに対抗する為、EMP装備に切り替えてしまい、そのような物理的な障害物には対抗できなくなっていた。


——対機械装備が裏目に出てしまったか…。


『クソっ! なかなか嫌らしい奴だな! 回り込むぞ!』


 先頭を飛ぶ分隊長が右へ方向転換して格納庫に向かう。ルイスたちも着いていく。


 方向転換して五秒ほど経ったところで、五十メートルほど前方の格納庫ハッチが爆発した。


『急げ! 破孔から入るぞ!』


「了解!」


 そして、ルイスたちは破壊されたハッチの淵で、格納庫の空気とデブリが抜け切るのを待った。


 三秒以内に空気とデブリの風が止んだ。


『行くぞ!』


 分隊長がレーザーライフルを構えて、破孔に突入していった。後を追う為、スラスターを噴かす。


 ——刹那。


 破孔からレーザー光が連続して飛び出した。音は無かった。


 レーザー光はすぐに止み、その直後に分隊長がゆっくりと戻ってきた。


 大小様々な赤い球体を伴って。



「分隊長!」


 ルイスはヘルメットの中で叫んだ。そして、すぐに手を動かす。


「クソっ! フラッシュ! グレネード!」


 ルイスはそう言って、装甲宇宙服(AES)の腰に付けていたグレネードを2つまとめて放り込む。


「アル! 分隊長のご遺体を船体に固定しろ! そのままには出来ない!」


「ああ!」


 同僚のアルが、金具で船体外部の突起に遺体を固定した。


 そして、ルイスは二つのグレネードによる爆発の光を確認してから仲間と共に破孔へ突入した。


「——居ない! どこだ!」


 先頭で突入したルイスは格納庫を見回しても、クルーの遺体やデブリばかりで敵を見つけられなかった。


 その時、無線に小さなノイズが断続的に走った。


 嫌な予感。


 ルイスは即座にスラスターを逆噴射し、体を捻って後方を振り返る。


 ——遅かった。


 さっきまで会話していた同僚たちが、何の前触れもなく、装甲宇宙服(AES)から赤い球体を噴き出しながら宙を漂っていた。


 被弾の瞬間すら、誰も認識できていなかった。


「——上か!」


 外部ハッチの上の天井付近に、大きなデブリを盾に持ちながら銃を構える兵士がいた。


 すぐに照準を合わせて引き金を引いた。


 だが、ルイスのHUDに複数の予測線が現れた。


 咄嗟に左方向へスラスターを噴かして回避する。


 だが、痛みは感じられなかった。


 ——外した? いや、反撃!


 ルイスが盾からはみ出た手を狙い引き金を引く。


 しかし、レーザー光が出ない。


 危機を感じ、更に回避する。


 今度はボロボロになったシャトルの背後に隠れる。


 ルイスは手にしたレーザーライフルに目を落とした。


 バッテリーパックに、赤熱した小さな穴。


 ——撃ち抜かれたのか。


「クソっ!」


 ルイスは悪態を吐きながら、シャトルの外板を拳で叩いた。


 そして、すぐに大きな衝撃がルイスの身を揺らす。


『サモラ伍長! 敵はL3通路に侵入! 追ってください!』


 デメテルが無線越しに情報を伝える。


「……無視、だと?」


 ルイスが歯を食いしばる。


「ふざけるな……!」


 シャトルの外板にルイスの拳が浅く食い込んだ。


 ルイスはシャトルの物陰から出て、爆破された格納庫内扉へ向かった。



連邦標準時

2314年3月21日 11時50分


装甲巡航艦「オリンピア」 CIC


アルマンド・バルデス中佐



 艦内に非常事態を示す耳障りなブザーが鳴り響く。CICも例外ではなかった。


 CICのクルー達も慌ただしく装甲宇宙服(AES)を着用し、携帯火器を各々手に取り、白兵戦に備えていた。


「敵兵がL3通路に侵入! まっすぐCICに向かっています!」


「皆さんも白兵戦に備えて下さい!」


 デメテルが慌ただしく動くクルーを急かした。


「……改装が裏目に出るとはな。海兵隊を減らした弊害だな」


 白兵戦装備に身を固めたバルデスが、レーザーピストルの調整をしながら呟いた。


 シリウス艦隊は、大幅な武装の強化と引き換えに、格納庫や海兵隊収容区画を大幅に縮小していた。今となっては、トリエステを除いた各艦には、連邦標準艦の半分以下しか海兵隊が居ない。


「あの敵兵は旗艦の艦長だろ!」


「なんでたかが士官一人にここまで追い詰められるんだよ!」


 一足早く準備を終えた砲雷長が、愚痴をこぼす。


「分かりません!」


「しかしまだ、海兵隊は第三分隊のサモラ伍長しか艦内に戻ってません!」


「通路も封鎖されたので、彼の到着は間に合いません!」


「皆さんも戦うしかありません!」


 デメテルのホログラムが慌ただしく羊皮紙を捲りながら相槌を打つ。


 艦内のクルーや船外の海兵隊の指揮を取っているのだろう。


「——艦長!」


 デメテルがこちらを振り向くと、外からクルーの悲鳴が聞こえた。音源はかなり近い。


「来ます! 皆さん構えて!」


 デメテルの報告を受け、皆が一斉に扉に向けてピストルを構えた。


 ドアがエラー音を吐き、静かに横へ滑る。


 全員が引き金に指をかけたまま、息を止めた。


 ——来る。


 現れたのは、連邦標準の黒い装甲宇宙服(AES)に身を包んだ男だった。


 その右手にはライフル。


 だが——


 男は、ゆっくりとライフルを背中の電磁石に貼り付けて、ヘルメットに手をかけた。


「撃つな!」


 誰かが引き金を引く、その寸前だった。


 バルデスの声がCICを制した。


 装甲宇宙服(AES)の空気が抜ける音がして、ヘルメットの中から中年の男が涼しい顔で皆の顔を見渡す。


 沈黙。誰も動かない。


 沈黙を破り、最初に口を開いたのはバルデスだった。


 バルデスはピストルを構えたまま、彼に問いかける。



「あんたがアテナの艦長か? 俺はアルマンド・バルデス中佐」


「このオリンピアの艦長だ」


 ノエルは安心したような顔をして口を開いた。


「ああ、アテナ艦長のノエル・アントン中佐だ。あんたと話がしたい」


 ——CICのクルーたちは拍子抜けといった様子で、互いに顔を見合わせた。



「良かろう。だが、それより、あんたの仲間はまだポッドで宇宙を彷徨ってるぞ」


「どうするつもりだ?」



 ノエルがスクリーンに目をやってから口を開いた。


「ああ、これは小官の自己満足だ、バルデス中佐」


「身勝手なのは承知だが、彼らの救助を頼みたい。すぐに治療が必要な者もいる」


 バルデスが銃を構えたままで口を開いた。


「まあ俺たちも蛮族じゃあない」


「戦時国際法はとうの昔に消えたが、俺たちも船乗りだ」


「無防備なクルーに危害は加えさせん。艦長の俺が保証する」


「しかし、アンタに対しては別だ」


 バルデスは冷静にピストルを構え続けていた。


 そしてノエルが一瞬だけ目を瞑り、口を開く。


「ああ、分かっている」


「……16人だ。ここへ来るまでに、16人のクルーを、この手で殺した」


「いや、減圧で散った者を含めたらもっと多いか」


「言い訳をするつもりはない。小官を撃っても構わんが——」


「冥土の土産に聞きたいことが山ほどある。食堂へ案内してくれ。ここじゃ落ち着かん」


 数秒。


 誰も動かなかった。


 バルデスは、ノエルの目を見たまま——


 ゆっくりと、ピストルを下ろした。


「……ああ、構わんが——」


「その前に、あんたが放った整備ボットを止めろ」


「話はそれからだ」



 バルデスの言葉を聞き、ノエルは静かに頷いた。


 そして、個人用端末を取り出して素早く操作した。



「——整備ボット、停止しました」


 それまで沈黙を保っていたデメテルが、静かに報告した。


「……案外素直なんだな。アントン中佐」


 その報告を聞いて、バルデスが初めてノエルを名前で呼んだ。



「まあな。では、一時休戦と行こうか。エスコートを頼む。バルデス中佐」


 バルデスは静かに頷き、口を開いた。


「ああ、いいとも。食事は……いるか?」


「アントン中佐にとっては最後のランチだろ?」


 バルデスが静かに問いかける。



「ノエルでいい。小官にはもう——」


「中佐の資格はないだろうからな」


「そちらが良ければ是非ともお願いしたい」


 ノエルは自責の念を噛み締めるように一瞬の間を置き、バルデスの申し出を承諾した。


「ああ、我が艦隊のパエリアはクルーに大人気なんだ。是非とも味わってくれ」


 バルデスが歩き出すと同時にそう言うと、ノエルは肩をすくめる動作をした。



 そして、二人の指揮官は互いに銃を床へ置き、CICを出た。

 最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖(さんたくるす)です。

 アントン中佐って聞くと、なんかスキー板履いた魔導士がチラつきますね…

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