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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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19/35

第十七話 「春嵐」

連邦標準時

2314年3月15日 1時15分


シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス中佐



 我々第二戦隊は、ピエトロ大佐の第一戦隊と合流できた。


 だが、前方10光秒の位置から火星のデルタ戦隊が迫りつつある。


 これに対して我々は、第一戦隊と共同で横陣を形成し、デルタ戦隊を迎え撃つ構えだ。


 しかし――


「第一戦隊は誘導弾系統の残弾残り30%を切っています」


「我が第二戦隊も残り42%です」


 デメテルが冷静に状況を報告する。


「……アウトレンジ戦法は長くは保たんな」


「デルタ戦隊、旗艦エレバスを先頭に紡錘陣形を形成。我が戦隊に突撃する構えです」


 船務長からの報告。


「なるほど。猪突猛進、という訳だな」


「よし、我々は手負の第一戦隊より前へ出る!」


「荷電粒子砲が使える艦は射程に入り次第、撃て!」


「荷電粒子砲を撃った後は全艦三時方向に転舵加速!反航戦用意だ!」



「了解!」


 クルーの威勢の良い返事が響く。


 そして船務長に向き直り再び口を開く。


「デルタ戦隊との相対距離は!」


「現在、相対距離約9光秒! 会敵まで残り5分!」



 シリウス艦隊の帰路にデルタ戦隊が立ち塞がり、再び戦いが始まろうとしていた。



火星防衛艦隊 デルタ戦隊旗艦

ヘラス級装甲巡航艦「エレバス」


イヴァン・コスチェンコ中佐



「敵の陣形展開が早いのが気になりますね……」


 横にいる副長が敵の動きを訝しむ。


「ああ、それに未知の改装が施されているのも気になる」


「何か、我々の知らない新兵器を使うつもりなのでは?」


「かもな。だが、それが何なのか分からん」


「いまはただ突撃するしかあるまい」


「まずは相手の手札を切らせる。対策を考えるのはその後だ」


 それを聞いた副長は、まだ煮え切らない様子だった。



「敵艦隊、約半数が前に出る模様!」


 観測手の報告。敵には何か事情があるのだろうか?


「前に出なければならない理由があるのか?」


 艦隊の一部だけ前に出る時。


 それは敵が猛将であるか。


 もしくはもう一方が手負いであるなど、理由はいくつか考えられる。


「イヴァン艦長、推進系の加熱が限界です!」


 機関長が悲痛を堪えるように訴える。


「了解、機関長、加速停止! 残りは慣性で進む!」


「射程まであと何分だ!」


「現在、相対距離8光秒! 射程圏内まであと10分ほどです!」


連邦標準時

2314年3月15日 1時20分


シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス中佐



「荷電粒子砲、まもなく射程圏内!」


「よし!デメテルの振り分け通りに照準! 全艦、順次射撃開始!」


「敵旗艦に対し3隻同時射撃、続いて随伴艦に対して射撃します!」


 砲雷長が鋭い声で報告をあげた。


 そして次の瞬間、スクリーンに映る僚艦たちから一斉に光の一閃が放たれた。


 それから約5秒後、敵艦隊に複数の爆発が発生した。


「着弾! 敵旗艦大破、駆逐艦5隻、哨戒艦3隻撃沈!」


 船務長の報告が入る。


「よし、全艦ミサイル発射! 続いて着弾時刻を揃えて魚雷発射!」


「敵艦隊、陣形に変化あり! 八時方向に転舵する模様!」


「これは……反航戦の構えです!」


 スクリーンに映る敵の残存艦は、撃破された艦に見向きもせずに、こちらに側面を見せてきた。


「なるほど、素早く迎撃体制に移行したか。連邦艦隊や地球の艦隊とは質が違うな」


「こちらも二時方向に転舵! 予定通り反航戦に移行するぞ!」


「転舵後は敵艦隊にレールガンを撃て! 当たらなくても構わん!


「敵の陣形を掻き乱すんだ!」


 予想以上に早く適応してきた敵艦隊に対して、次の一手を士官たちに指示した。


「了解! デメテル! 全艦連動で転舵開始! 火器管制は頼んだぞ!」


 副長がデメテルに檄を飛ばす。


「お任せください!」


「あ、司令から映像通信の要請が入りました!」


「スクリーンに投影します!」


 返事をする間もなくスクリーンにカヴール大佐が映った。


『マンド、こちらも前に出て荷電粒子砲を撃つ! 援護を頼む!』


 スクリーン越しの司令が高揚しながら話しかけてきた。


「はい、こちらは全艦砲身が焼き切れました。トドメはお願いします!」


『ああ!』


「まもなくレールガン着弾!」


 スクリーンの敵艦隊が乱雑に回避軌道を取った。


 レールガンは一発も命中しなかった。


 しかし、敵の陣形は乱れた。


 そして――




火星防衛艦隊 デルタ戦隊旗艦

ヘラス級装甲巡航艦「エレバス」


イヴァン・コスチェンコ中佐



「上部主砲、下部主砲、応答なし!」


「右舷装甲溶断! 艦内急速減圧中!」


「機関室被害甚大! 慣性制御、維持できません!」


「左舷機関砲塔区画に火災発生! 消火困難!」


 先ほど、敵艦隊から高エネルギー反応が検出された。


 その直後。


 凄まじい衝撃と共に、各所から損害報告が雪崩れ込んできた。


 衝撃の瞬間、艦内照明が一斉に消える。

 次いで、非常用赤色灯が艦内を赤く染めた。


 そして――重力が消えた。


 艦内の人間も、固定されていない機材も、床を離れて宙へ浮く。


 本来なら聞こえるはずの応急修理班の足音もない。


 彼らもまた、無重力となった艦内を泳ぐように移動しているのだろう。


 さらに艦内のどこかで誘爆が起きた。


 再び衝撃。


 CIC外部から、鈍い衝突音とクルーの悲鳴が響く。


 暗闇と無重力で方向感覚を失い、壁や天井へ叩きつけられたのだ。


 連邦艦隊最強の装甲を誇るヘラス級装甲巡航艦。


 そのエレバスが、何一つ反撃できぬまま大破していた。


 ここまで一方的だと、逆に悔しさすら湧かない。


「……これが奴らの新兵器、か」


 誰にも届かない声で呟く。


 だが、すぐに気を取り直した。


「各部ダメコン急げ!」


「通信士! 通信機能は生きているか!」


「はい! 僚艦との通信は維持されています!」


 通信士が額に汗を浮かべながら答える。


「よし、戦闘継続!」


「敵との相対距離は!」


「現在約四光秒! 敵艦隊より発砲炎観測!」


 観測手の報告。


「全艦回避行動!」


 即座に命令を飛ばす。


 先行する僚艦群が、スラスターを噴射して回避軌道へ移った。


 ――いや、待て。


 なぜこの距離でレールガンを撃つ?


 こんなもの、新兵の訓練艦隊ですら回避できる。


 一体、何の意味が――


「敵艦より小型物体多数射出! 接近中!」


 スクリーンに、敵艦隊から放たれた無数の小型物体が映る。


 ――ドローンではない。


 いや、これは。


 戦史教本の記憶が脳裏を過った。


 ミサイル。


 半世紀以上前に廃止された旧式兵器。


 海賊の粗悪なドローンや脆弱な仮装巡洋艦相手では費用対効果が悪いとして、歴史の中へ消えた兵器だ。


 だが奴らは、それを復活させた。


 そして今、我々へ向けて放っている。


 もし、教本通りの性能ならば――


 対空レーザーで十分迎撃できるはずだ。


「全艦転舵!」


「側面対空レーザーで迎撃しろ!」


 だが――


 味方の陣形は既に崩れている。


 これでは。


 ――まずい。


 直感だけではない。

 計算でも理解した。


 この状態では、防ぎ切れない。


「……全艦、姿勢制御を優先!」


「陣形再編――」


 その瞬間だった。


「敵小型物体、加速!」


「迎撃、間に合いません!」


 無数のレーザー光が宙域を走る。


 だが、弾幕は散漫だった。


 回避運動で崩れた陣形。

 そのせいで迎撃密度が激減している。


 敵の小型物体群が、レーザー網をすり抜けてくる。


「……そういうことか」


 静かに呟いた。


「奴らの狙いは、これか」


 レールガンは命中させるためではない。


 回避を強制し、陣形を乱し、迎撃を破綻させる。


 その直後に――


 本命を叩き込む。


「……やられたな」


 その直後。


「僚艦に被弾多数!」


「敵艦隊後衛より高エネルギー反応!」


 まずい――


 そう思った瞬間。


 予想に反して、エレバスには衝撃が来なかった。


 だが。


 スクリーンに映る僚艦群が、次々と爆発した。


 重装甲のエレバス正面装甲ですら致命傷を受ける一撃。


 側面を晒した僚艦が耐えられるはずもない。


「先行艦、全滅……」


 観測手が絶望した声で報告する。


 スクリーンに映る僚艦は、既にデブリへ変わっていた。


 だが、観測手はすぐ次の報告を上げた。


 そして、それは意外にも朗報だった。


「後方より新手!」


「……識別信号あり! 連邦艦隊です!」


 絶望に沈んでいたCICに、わずかな光が差した気がした。


 悔しいが――


 どうやら、生き残れるらしい。



シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス中佐


 我々の波状攻撃と第一戦隊からの砲撃によって、デルタ戦隊はほぼ壊滅した。


 あとは、しぶとく生き残っている敵旗艦に止めを刺すだけ――


「艦長! 敵後方から新手です!」


「……識別信号あり! 連邦第四艦隊、第一・第二戦隊です!」


 デメテルからの報告。これ以上の戦闘継続は危険だった。


 既に荷電粒子砲は使い切っている。誘導弾の残弾も残りわずかだ。


 残弾、砲身寿命、機関負荷――その全てが限界に近づいていた。


「……潮時だな。司令と通信を繋げ」


 デメテルが静かに頷き、スクリーンに司令の姿が映し出された。


『ああ、マンド。新手だな。そっちも限界か?』


「ええ。撤退しましょう。誘導弾の残弾を全て発射して、急速離脱します!」


『ああ、これだけ叩けば十分だろう』


『トリエステと無人艦を回収して、シリウスへ帰投するとしよう』


「デメテル、地球連邦は……連邦艦隊は、立ち直るのにどれくらいかかる?」


「はい。早く見積もっても半年は戦略行動不能かと」


「作戦目標は達成したと判断して問題ありません」


『ならば、修理と補給を急がねばな。次の段階は早めに進める必要がある』


「ええ。ここらでリベラ首長の()()()()()()を連中に送りつけましょう」


『ああ、そうだな。通信終了』


 スクリーンから司令の姿が消え、再びデブリ漂う宇宙空間の映像へ戻った。


「第四艦隊、相対距離五光秒。誘導弾射程に入ります」


 船務長の報告。


「置き土産だ! 盛大にぶちかませ!」


「了解!」


 司令率いる第一戦隊、そして我が第二戦隊の両方から、ミサイルが一斉に発射された。

 さらに、少し遅れて魚雷群が続く。


「全艦加速! 第一戦隊に続け! エリス宙域へ撤退するぞ!」


 こうして、シリウス連合艦隊は地球=火星間宙域を後にした。


 彼らが残した()()()()によって、増援として到着した連邦第四艦隊も半数近くが大破、あるいは轟沈した。


 そして、後着した第四艦隊は生存者救助を優先し、シリウス艦隊への追撃を断念した。


◆約5時間後


連邦標準時

2314年3月15日 8時20分


地球 メキシコシティ

連邦本部ビル 閣議室


ジェームズ・ハリソン 地球連邦大統領



 昨夜、太陽系各地で発生した奇襲攻撃。


 その被害報告を受け、閣議室には閣僚たちが集まり、長い楕円形のテーブルを囲んでいた。


「先ほど、被害集計が完了しました」


 大統領補佐官ベンジャミンが、ホロ画面を操作しながら報告を始める。


「今回の一連の襲撃により、火星軌道、タイタン軌道、そしてメキシコ軌道施設が壊滅」


「加えて、太陽系内に展開していた連邦艦隊戦力の約六割を喪失しました」


 各閣僚の端末へ被害ログが送信された。


 沈黙。


 誰も言葉を発さない。


 ログを確認した閣僚たちは、まるで悪夢でも見せられたかのように項垂れていた。


 やがて、その沈黙を破るように大統領が口を開く。


「……それで、攻撃してきたのはどこの誰なんだね?」


「まさか、何の声明も無しというわけではあるまい?」


「ええ。敵は離脱時に()()()()()()を送信してきました。中央スクリーンに投影します」


 ベンジャミンが操作すると、スクリーンに数名の人物が映し出される。


 その中央に立っていたのは、見覚えのある男だった。


『私はシリウス自治政府首長、ミゲル・リベラだ。そして、自由恒星同盟(FSD)初代大統領となる者でもある』


『単刀直入に言おう。我々FSD政府は、長年続いた地球連邦による辺境搾取に終止符を打つ』


『今回の太陽系奇襲攻撃は、地球連邦への宣戦布告だ』


『二月の連絡船については、我々が情報を遮断したのでな。背景も説明しよう』


『一月に公開された税務資料については説明不要だろう。そして、ヌエバ・グラナダで発生した連邦警察による武力行使――あれも看過できるものではない』


『我々はこの日のために準備を重ねてきた』


『安易に武力鎮圧を試みれば、長く、厳しい戦争になるだろう』


『早期解決を望むなら、こちらの条件を受け入れ、和平に応じることだ』


『条件は添付資料に記載してある。妥協は認めない』


『それでは』


 映像の中のリベラたちは軽く一礼し、通信は終了した。


 再び、閣議室に沈黙が落ちる。


「……ベンジャミン君。添付資料も共有してくれ」


「はい」


 スクリーンに簡潔な要求一覧が表示された。


 そして、一同は再び絶句した。


「……まず、連邦税の過徴収分返還。過去五十年分、か」


 大統領は額を押さえながら視線を上げる。


「払う払わないは別として……財務大臣、支払い自体は可能なのか?」


 汗を浮かべた財務大臣が重い口を開いた。


「……一括では不可能です。他予算を削減しても最低五年は必要でしょう」


「加えて、今回の被災地復興費用もあります。要求額を満額支払うのは現実的ではありません」


「そうか」


 大統領は短く返す。


「では次。各星系のFSDへの加盟自由化についてだ」


「同調しそうな星系は?」


 外務大臣が苦い表情で答えた。


「……シリウスだけでは済まないでしょう」


()()()()()()()()と想定すべきかと」


「一月に流出した税務資料改竄問題への反発は極めて大きいです」


「今回攻撃を受けた太陽系各自治政府を除けば、多くが同調に傾く可能性があります」


 大統領は深く項垂れた。


「……つまり、この時点で要求は呑めんということか」


 誰も否定しない。


「海軍大臣。反撃するとしたら、どれくらいで開始できる?」


 海軍大臣は怒りを押し殺した声で答えた。


「現状、連邦直轄艦隊で即応可能なのは一個艦隊規模のみです」


「しかも半数が損傷状態です」


「さらに、太陽系内造船施設の八割以上を喪失しました」


「自治州艦隊を動員するにしても、FTL機関搭載だけで三か月以上必要です」


「熟練技術者や将兵も多数失いました」


 一度端末へ視線を落とし、続ける。


「……早くても半年は必要でしょう」


 また沈黙。


 自治州艦隊にFTL機関を搭載させなかったツケ。


 各自治州を完全には信用できなかった結果だった。


 表向きは統合国家。


 だが実態は、旧国家群の緩やかな集合体に過ぎない。


 北米管区もまた、かつての()()()()()()()という意識を捨て切れてはいない。


 人類は宇宙進出にはまだ早すぎたのか――


 そんな考えを振り払い、大統領は次の議題へ戻る。


「……アマツ重工の月面新造船所は徴用可能か?」


 アマツ重工。


 第三次世界大戦で本土を失い、月へ移住した旧日本系企業。


 宇宙進出以降も、連邦造船業を支え続けてきた企業だ。


「ええ。交渉は可能でしょう」


「なら徴用しろ」


 大統領は即断した。


「戦時急造艦を発注する。数を揃えろ」


「そして今回の戦訓を徹底的に反映した艦を作らせろ」


「……この蛮行を許すわけにはいかん」


「ここで独立を認めれば、地球連邦そのものが瓦解する」


 そこで経済大臣が挙手した。


「アルファ・ケンタウリについてです」


「現状、彼らの態度が不透明です」


「もしシリウス側につけば、太陽系食料備蓄は一年で枯渇します」


「まず貿易と連絡を復旧させねばなりません」


「最悪の場合、同星系占領も視野に入ります」


 ガガーリン。


 連邦最大の食料生産惑星。


 失えば、太陽系は飢える。


「……頭の痛い話だな」


 大統領は苦々しく呟く。


「つまり我々は、シリウス遠征を準備しながら、アルファ・ケンタウリも防衛せねばならん、と?」


「海軍大臣。航路警備は再開できるのか?」


「……太陽系防衛は手薄になりますが、一応可能です」


「現在残存戦力は?」


「直轄艦隊が一個艦隊」


「自治州艦隊を合わせても、二個艦隊規模です」


 大統領は深く息を吐いた。


「……なぜ、半個艦隊規模相手にここまでやられた?」


 本来なら有り得ない。


 二個戦隊程度なら、直轄艦隊一つで十分制圧可能なはずだった。


 海軍大臣が静かに答える。


「理由は単純です」


「我々は、戦争を想定していなかった」


 スクリーンに戦闘ログが表示される。


 銀色の艦隊。


 漆黒の宇宙を滑る異形の艦影。


「……連邦標準艦とは違うな」


「ええ。AI解析では、全艦が高エネルギー指向兵器を搭載」


「装甲は従来の倍以上」


「さらにミサイル兵器も運用しています」


「……平和ボケ、か」


「はい。連邦標準艦は海賊対策用でしかありません」


「このような対艦戦闘は想定していません」


「対して彼らは、完全に対艦戦闘特化の改装を」


 そして映像には、五光秒先から一方的に砲撃するシリウス艦隊が映し出される。


「それに我々は一光秒戦闘を前提としていました」


「しかし彼らは五光秒から攻撃してきたのです」


 大統領は静かに頷いた。


 つまり――射程外から殴られ続けた。


「火星では、無人艦による自爆攻撃も確認されています」


「生成AIによる人格模倣で港湾管制を欺いたものと思われます」


「……対策は?」


「警備プロトコル強化で対応可能です」


 だが、被害は取り返しがつかない。


「……被災地の国民は、反撃を求めるだろうな」


「ええ。このまま屈服すれば、来年の選挙にも影響します」


 誰も何も言えなかった。


 やがて大統領は立ち上がる。


「海軍大臣。戦力再編と近隣宙域警備強化を」


「外務大臣。各星系との連絡を強化し、離反を阻止しろ」


「財務大臣。戦時国債を発行しろ。過払い金要求は拒否だ」


「経済大臣。備蓄食料を配給制で各自治州へ開放しろ」


「……これは地球連邦存亡の危機だ」


「何としても乗り越えるぞ」


 閣僚たちは力なく頷いた。


 こうして地球連邦は、ようやく事態の重大さを理解し始めた。


 傷だらけの巨体が、ゆっくりと動き出す。


 地球暦では春を迎える季節。


 太陽系全域に吹き始めた嵐は――


 まるで、かつて地球に存在した気象現象。


 ――春嵐のようだった。


 最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖(さんたくるす)です。


あと3話ちょいで第一部は終わります。ここからは総力戦ってとこですね。

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