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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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第十六話 「追撃」

連邦標準時

2314年3月15日 1時10分


シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス中佐



 結局、我が第二戦隊は単独で地球圏の攻撃を行った。

 各自治州艦隊は無視したので、彼らはほぼ無傷ではある。

 だが、軌道施設に艦砲射撃を行い、地球圏にも甚大な被害を与えた。

 こちらの作戦目標は達成したと言えるだろう。


 火星、地球の壊滅。


 連邦の主要な軍事拠点は軒並み破壊したはずだ。


 地球連邦は、少なくとも半年はまともな艦隊行動ができないだろう。

 何しろ、太陽系の自治州艦隊には、FTL機関が搭載されていないのだから。


 つまり、彼らはたとえ無傷であっても、太陽系を出ることはできないのだ。


 そして、我々は地球圏攻撃後はスイングバイも用いて加速して火星方面へ離脱中だ。


 だが、問題はタイタンだ。

 第一戦隊が攻撃を行い、地球圏で合流予定だった。

 しかし、予定時刻を過ぎても彼らは現れず、一方的な通信しか送れていない。

 距離の問題から、第一戦隊からの返信はまだ届かない。


 それでも、万が一の為に予備の合流ポイントも決めてあった。


「まもなく、第一戦隊との合流ポイントに到達します」


「……前方! 距離約2光秒の位置に投射反応!」


 前方スクリーンに一個戦隊規模の艦隊が現れた。

 だが、最後に見た時よりも少なく見える。


「識別信号確認! 第一戦隊です!」


 航海長からの報告が続いた。


「ひとまず合流できそうだな。アンドレアに回線接続」


「司令に状況を確認せねばならん」


 そう言うと、船務長がコンソールを操作した。


 一瞬の間をおいて、スクリーンに第一戦隊のカヴール大佐が映った。


『……遅れてすまない。タイタンは壊滅した』


『だが、こちらも被害を受けた』


『第一戦隊はアンドレア以下、駆逐艦3隻、哨戒艦7隻になってしまった』


「なんと……ですが、司令がご無事で何よりです!」


「まずは、何があったかお聞かせ願えますか?」


 ――相対距離による僅かな沈黙。


『ああ、哨戒帰りのタイタン防衛艦隊との戦闘があった』


『しかし、こちらにも被害が出た上、連邦第四艦隊は取り逃したと思われる』


 一個戦隊相手に第一戦隊が苦戦するとは……


 タイタン防衛艦隊はそれほど精鋭揃いだったというのか?


 それに最後の一言は――


「……もしや、エリス宙域へ向かっているのでは?」


『ああ、恐らくそうだろうが――』


『彼らも今頃火星、タイタン攻撃の報を受け取っているだろう』


『救援の為、戻ってくるはずだ。』


「それもそうですね」


「自治州壊滅の事態を放置すれば太陽系内の結束も危ういでしょう」


「……では、ここからは共同でエリス方面へ?」


『そのつもりだ。敵は救援に戻るとは思うが、確証はない』


『奴らが一部の艦隊をエリス宙域に差し向けないとも限らん』


『待機中のトリエステが危ないかもしれん』


 ――彼らも数日前にはエリス宙域の異常を察知しているだろう。恐らく、状況確認の為に向かっているのだろう。


 そして、今は火星とタイタンはエリス宙域との距離がほぼ等しい時期だ。


 もしかすると、火星からも一部の艦隊が派遣された可能性すらある――



「となると、我々は帰路で合計六個戦隊規模を相手にする可能性がありますね」


 デメテルが現れて話の輪に入ってきた。


『六個戦隊? 太陽系の戦力は指揮系統が分散している』


『そこまでまとまった戦力を動かせるだろうか?』


 ピエトロ大佐が私が言いかけたことを指摘した。


「はい、仰る通り、彼らは我々の通信妨害を抜きにしても、指揮系統が違います」


「敵も全てまとめて、とはいかないでしょう」


「いま第一戦隊のデータを統合完了しました」


「それを踏まえて、私の予想を示しますね……」


 スクリーンに太陽系全体の戦術マップが表示された。そこに我々の現在地と連邦艦隊の予測位置を示す光点が現れた。


「第四艦隊は土星沖、火星から戦隊が出たならトロヤ群小惑星帯付近、か」


『どちらかを相手にしなければならんのなら後者だな』


「ええ、そうですね。このままエリス宙域に最短経路で向かうなら――」


「……いえ! 索敵システムに感あり!」


「第一戦隊の後方、約10光秒の位置に一個戦隊規模の不明艦!」


「識別信号あり!」


「火星のデルタ戦隊です!」


 デメテルがテーブルモニターの上で、小脇から慌てて別の羊皮紙を取り出し、報告書を読み上げる仕草をした。


「……デルタ戦隊。全艦の熱源反応、規定値よりやや高い」


「推進機関及び反応炉は過負荷状態、と思われます」


 彼女はスクリーンに乗り出す仕草をして、追加の補足情報を述べた。


『……故郷を焼かれた復讐者、という訳か』


『デメテルの予測はあくまで指揮系統に従っている艦隊のことだろう?』


「ええ、これまでの連邦艦隊のデータからの予測です」


「しかし、彼らの指揮系統は恐らく――」


 デメテルが俯いてしまった。


 彼女の言葉の先は、分かっている。火星軍港は特務戦隊が破壊した。恐らくその上層にあったであろう彼らの司令部も、今頃は火星地表の残骸と化しているだろう。


――彼らの指揮系統は失われた。我々の手によって。



『総員! 対艦戦闘用意!』


「総員! 対艦戦闘用意!」



 二人の命令は約2秒の時差があったが、ピエトロとバルデスが命令を発したのはほぼ同時だった。


◆2時間前

連邦標準時

2314年3月14日 23時10分


火星防衛艦隊 デルタ戦隊旗艦

ヘラス級装甲巡航艦「エレバス」


イヴァン・コスチェンコ中佐



「送信完了」


 ――間に合えば良いが。


 イヴァンは内心でそう呟きながら、艦長席のコンソールを操作した。


「タイタン方面から連邦直轄艦隊の通信を傍受しました」


「内容は?」


「はい、読み上げます」


「『タイタン軌道壊滅。被害甚大。派遣中の連合艦隊は直ちに帰還せよ』とのことです」


 通信士官の報告を聞き、イヴァンは一瞬沈黙した。


「タイタンもやられたのか」


「それに、連合艦隊? タイタンと連邦は共同作戦でも展開していたのか?」


「わかりませんが、文脈からすると恐らくは――」


「……エリス宙域の件、か」


 イヴァンは思い出したように呟いた。


「タイタンも壊滅したとなると、あちら方面からの増援も期待できないな」


「予定通り、例の敵は我々で対処する!」


 イヴァンの語気は強く、部下を鼓舞するには十分すぎるほどだった。


「Ураааааааа!!!!」



 彼らは迫りつつある戦闘に感情が昂りつつあった。


 そして、デルタ戦隊もまだシリウス艦隊の全貌を知らなかった。


 それでも彼らは未知の敵に対処する為、地球への針路を維持していた。



◆そして、約2時間後に戻る


連邦標準時

2314年3月15日 1時11分


火星防衛艦隊 デルタ戦隊旗艦

ヘラス級装甲巡航艦「エレバス」


イヴァン・コスチェンコ中佐



「約10光秒先に艦影多数。識別信号なし!」


「二個戦隊規模と思われます! スクリーンに拡大表示します!」


 観測手の報告。そしてスクリーンに銀色の艦隊が表示された。


 連邦標準艦の一般的な銀色塗装だが――


「……連邦標準艦に似ているが、明らかに何らかの改装が施されてるな」


「しかもそれが二個戦隊規模か」


「どこかの自治州艦隊でしょうか?」


「まだ分からん。通信士!一応所属を問い合わせろ!」


 イヴァンは通信などするまでもなく、彼らが火星攻撃の犯人だと目星をつけていた。


 だが、一応通信を送り確認することにした。しかし――


◆一分経過


「不明艦隊からの応答なし」


「不明艦隊、横陣を展開する模様。減速開始しました!」


 通信士官と観測手が続けて報告してきた。

 どちらも、声に澱みはなく、明瞭であった。


「……これ以上応答を待つ必要はないな」


「総員! 対艦戦闘用意!」



 イヴァンの判断は極めて冷静だった。


 そして、ここから始まる戦闘は後に――


 「地球=火星間の会戦」


 そう呼ばれた。

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