第十四話 「白炎の復讐」
今回は短くなってしまったので、二話連続投稿とさせて頂きます!
連邦標準時
2314年3月14日 21時33分
タイタンから約10光秒の宙域
シリウス第一戦隊 旗艦「アンドレア」
ピエトロ・カヴール大佐
第一戦隊は、タイタン軌道でスイングバイを行いながら、駆逐艦アルマダを戦隊から分離した。そして、CICの後方スクリーンにタイタン軌道施設がアルマダの対消滅反応によって白い光に包まれ、崩壊する様が映し出されていた。
「…アルマダから対消滅反応を確認。タイタン軌道施設は壊滅しました。」
観測員の報告は我々にとって大きな戦果だった。しかし、その声は重く沈んでいた。
「…了解。」
今の攻撃で発生した犠牲者は、軍人だけではないだろう。大勢の民間人も巻き込んだだろう。マンド——バルデス中佐率いる特務戦隊による火星襲撃、そしてこのタイタン襲撃は我々の重大な戦争犯罪として記録されるだろう。
——あの光の中に、何人いた?
万単位の人命が消えたのだろう。取り返しのつかないことをした。見なければよかったな…。
だが、我がシリウス政府をはじめとする自由恒星同盟の独立の為。我々の同胞の未来の為には必要な犠牲だった。今はそう言い聞かせるしかない。だが、いつかこの罪に向き合う日が必ず来るだろう。
しかし、今はここにいる仲間たちを守る為にも、足を止める訳にはいかない。
スクリーンには、哨戒任務から帰投したと思われる敵の戦隊が、我が第一戦隊を前にして待ち伏せていた。彼らは横陣を敷いており、我々を迎撃する構えだ。
彼らは、我々がタイタンで起こした惨劇のツケを払わせようとしているのだろう。
「司令!現在の針路では短距離ジャンプは極めて困難です!」
航海長が作戦計画の遅延を示唆する報告をした。彼の言う通り、現在の相対距離では眼前の敵との交戦は避けられないだろう。
——今後の戦局を考えても逃げる訳にはいかない。
「やむを得ん…。マンド達には申し訳ないが、まずは敵を排除するぞ!総員!対艦戦闘用意!減速急げ!」
「了解!敵戦隊との距離、約7光秒!射程圏内まで約5分!」
◆2分後
連邦標準時
2314年3月14日 21時35分
タイタンから約12光秒の宙域
タイタン防衛艦隊 第二戦隊旗艦
装甲巡航艦「ベルファスト」
オズワルド・フォーク中佐
先日から続く通信障害に対して、タイタン防衛艦隊は木星圏の哨戒エリアを縮小し、警戒体制に入っていた。そして現在、我々は定時報告のためタイタンへの帰路についていた。
だが、タイタン軌道施設で大規模な対消滅反応が確認された。つまり、帰るべき母港を失い、守るべき大勢の同胞たちに大きな犠牲が出たのだ。
最初の報告が入った時、艦内の空気は悲壮感に包まれたが、付近を航行する不明艦隊を発見すると、それは復讐の炎に置き換わった。
涙する者、拳を握りしめる者、皆の反応は様々だった。だが、タイタンを故郷とするクルーは、惨劇を引き起こした犯人を討つ為、心を一つにしていた。
「…フォーク中佐、横陣展開完了しました。」
副長が妙に落ち着き払った声で報告した。
「…了解。砲雷長、主砲照準を不明艦隊に合わせろ。」
クルーに指示を出すフォークの声も落ち着いていた。
「はい、既に合わせてあります。射程に入り次第、発射可能です。」
「戦隊各艦も照準完了しました。」
砲雷長と通信士官から順に報告が上がった。そして、彼らもまた、この状況には不釣り合いなほど落ち着いていた。
「通信士、艦隊放送繋げ。」
通信士官は無言で頷き、コンソールを操作した。そして、フォークは深呼吸してからマイクを手に取った。
「戦隊諸君。知っての通り、我が母港、タイタン軌道港が何者かに破壊された。」
一息ついて、平坦な口調で言葉を紡ぐ。
「…多くの犠牲者が出ただろう。だが、いま、その犯人が我々の目前にいる。そして、司令部との通信は依然として通じない。」
「ならば、誰が、この未知の敵に、正義の鉄槌を下すのか。神か?裁判官か?」
「いや、違う。彼らは今すぐには助けてくれないだろう。だが、今、ここには君たちがいる。」
「故郷の友を弔う。これはタイタン人としての矜持でもある。我々の意地を見せつけろ!各艦、射程に入り次第、順次攻撃開始!以上!」
戦隊への演説を終え、こちらに顔を向ける士官たちを眺める。皆、覚悟の決まった良い顔をしている。
「かかれ!敵に一矢報いるぞ!」
彼らにも激励の言葉をかける。
「「了解!」」
士官たちは、それぞれのコンソールに向き直った。
「あと5分で射程に入ります!」
砲雷長の報告がCICに響き渡った。
——第一戦隊は崩れゆくタイタン軌道施設を背景に、離脱を図ろうとしていた。
しかし、復讐に駆られる者たちと対峙し戦闘が始まろうとしていた。
距離七光秒。逃げ場は、なかった。




