第十一話 「戦闘準備」
今日から週末までは12時更新です。よろしくお願いします。
連邦標準時
2314年3月14日 20時00分
タイタンより約10光秒の宙域
シリウス防衛艦隊 第一戦隊旗艦
装甲巡航艦「アンドレア」
ピエトロ・カヴール大佐
司令――そう呼ばれるこの男は、装甲巡航艦アンドレアの艦長であり、第一戦隊の指揮官でもあった。
叩き上げの軍人らしい無駄のない視線が、CICのスクリーンに注がれている。
「司令、まもなく減速完了します。ご指示を」
副長の声は、横から聞こえてきたとは思えないほど冷静沈着だった。
「ああ、全艦ミサイル発射準備。目標はタイタン軌道港および燃料貯蔵区画。
並行して、全艦アクティブステルス解除。荷電粒子砲、発射準備だ」
ピエトロが言い終えた瞬間、CICに耳障りな警報音が鳴り響いた。
「司令――索敵システムに感あり! 七時方向より不明艦隊接近! 距離12光秒!」
「哨戒帰りの戦隊か! 航法士、接敵予想時刻は?」
「はい……標準時20時25分、我が戦隊の射程内に入ります!」
報告を受け、副長がすぐに口を開いた。
「司令、意見具申。減速を中止し、タイタンでスイングバイを行いましょう。
これによりタイタンおよび敵戦隊の双方に攻撃が可能です。時間短縮にもなります」
確かに、ミサイルならこの速度でもタイタン軌道軍港を攻撃できる。
さらに反転の手間も省ける。敵がまだこちらを敵と認識していない状況を考えれば、有効な策だ。
「加えて、限界が近い駆逐艦アルマダを分離し、“特務戦隊”と同様にタイタン軌道で自爆させては如何でしょうか。
本艦には収容余力がありますし……あの状態では帰還も難しいかと」
それならミサイルすら温存できる。戦術的には合理的だ。
だが――母艦を離れるという選択が、乗員にとってどれほどの意味を持つか。
それはピエトロも副長も理解していた。
「……確かにな。アルマダには申し訳ないが、不調艦を戦術資源に転換できる上、ミサイルも節約できる。最善策だ……採用する」
副長は無言で軍帽を深く被り直した。
「よし、減速中止。針路変更、タイタン軌道でスイングバイを行う。
アルマダ乗員は至急本艦へ移乗せよ」
「了解!」
「デメテル。この状況での軌道予測を基に戦隊の射撃制御は可能か?」
「はい。演算負荷は大きいですが、接敵までに完了します。
ただし、無電封鎖の解除が必要です」
「理由は?」
「私のコアは第二戦隊オリンピアにあります。
この端末単体では演算能力が不足しています。
僚艦端末を利用した分散処理で補えます」
予想通りだった。コアと切り離された状態では、性能が明らかに低下している。
「通信の暗号化は万全だな?」
「はい。私の量子暗号ならば、解析される頃には戦闘は終わっています」
「ならば許可する。頼んだぞ、デメテル。
戦隊総員、装甲宇宙服を着用せよ!」
「……了解。全艦に伝達します」
通信士官は一瞬だけ躊躇したが、すぐに暗号電文を送信した。
本来、装甲宇宙服は小型艦やデブリ宙域での作業用だ。
だがピエトロは最悪を想定していた。
第一戦隊は、後方から迫る連邦艦隊を背に、タイタンへ向けて進み続ける。
挟撃を避けるために――
◆第一戦隊のタイタン突入から30分後
連邦標準時
同日 20時30分
火星より60光秒の宙域
シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦
装甲巡航艦「オリンピア」
アルマンド・バルデス中佐
CICのスクリーンいっぱいに、赤い火星が広がる。
「特務戦隊、我が戦隊から離脱していきます」
船務長が淡々と報告する。
――苦楽を共にしたアルクトゥルスも、これで最後か。
誰もが一見平静を装っていた。
だが、その視線は例外なくスクリーンに向けられていた。
別れを惜しむように――。
予想外の戦闘はあったが、ここまでは計画通りだ。
あとは地球圏への同時攻撃。そして帰還。
「よし、第二戦隊、針路そのまま。全艦加速、投射準備。現宙域を離脱する!」
第二戦隊は、敵探知圏外から史上初の星系内短距離ジャンプを敢行するため、最大加速に入った。
次の瞬間、凄まじいGがクルーを座席に叩きつける。
慣性制御でも、この加速は完全には打ち消せない。
「増加コンデンサーの残量は!」
「60%! 転写開始まで10分!」
「各部点検急げ! いつでも撃てるようにしろ! 作戦の仕上げだ!」
「目標座標、計算完了! 規定速度到達後、転写開始可能です!」
だが、その直後――
「……対デブリ防楯、損耗大!」
「艦首武装、砲身冷却機構が作動しません!」
次々と異常報告が入る。
「……あと何回撃てる?」
「規定では……2回が限界です」
重い沈黙。
「……荷電粒子砲、エネルギー最大充填。砲身限界を超えても構わん」
「それでは一発で使用不能になります!」
砲雷長が思わず声を荒げた。
だがバルデスは静かに続ける。
「我々は物理的損害ではなく、“敵の判断”を破壊する必要がある」
「投射後、一撃で装甲巡航艦を沈める」
「その衝撃で、敵の思考を止める」
ヘラス級装甲巡航艦――連邦最大級の艦だ。
それが一撃で沈めば、戦局への心理的影響は計り知れない。
「慎重に戦う余裕はない」
その言葉に、デメテルが現れる。
「砲雷長、リスクは高いですが合理的です。
敵は我々の性能も限界も把握していません。
一撃で印象を固定すべきです」
砲雷長は葛藤しながらも、やがて頷いた。
「……了解。砲身充填開始」
数で劣るシリウスが勝つには、初撃で決めるしかない。
第一戦隊はタイタンを撹乱し、
第二戦隊が火星を叩く。
そして地球で合流し、最後の一撃を放つ――
それが、この作戦の骨子だった。
最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖です。
またしても短くなって申し訳ないです!




