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星間戦争史 ―人類は再び星々に国境を引く―  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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13/35

第十一話 「戦闘準備」

今日から週末までは12時更新です。よろしくお願いします。

連邦標準時

2314年3月14日 20時00分


タイタンより約10光秒の宙域


シリウス防衛艦隊 第一戦隊旗艦

装甲巡航艦「アンドレア」


ピエトロ・カヴール大佐



 司令――そう呼ばれるこの男は、装甲巡航艦アンドレアの艦長であり、第一戦隊の指揮官でもあった。


 叩き上げの軍人らしい無駄のない視線が、CICのスクリーンに注がれている。


「司令、まもなく減速完了します。ご指示を」


 副長の声は、横から聞こえてきたとは思えないほど冷静沈着だった。


「ああ、全艦ミサイル発射準備。目標はタイタン軌道港および燃料貯蔵区画。

 並行して、全艦アクティブステルス解除。荷電粒子砲、発射準備だ」


 ピエトロが言い終えた瞬間、CICに耳障りな警報音が鳴り響いた。


「司令――索敵システムに感あり! 七時方向より不明艦隊接近! 距離12光秒!」


「哨戒帰りの戦隊か! 航法士、接敵予想時刻は?」


「はい……標準時20時25分、我が戦隊の射程内に入ります!」


 報告を受け、副長がすぐに口を開いた。


「司令、意見具申。減速を中止し、タイタンでスイングバイを行いましょう。

 これによりタイタンおよび敵戦隊の双方に攻撃が可能です。時間短縮にもなります」


 確かに、ミサイルならこの速度でもタイタン軌道軍港を攻撃できる。

 さらに反転の手間も省ける。敵がまだこちらを敵と認識していない状況を考えれば、有効な策だ。


「加えて、限界が近い駆逐艦アルマダを分離し、“特務戦隊”と同様にタイタン軌道で自爆させては如何でしょうか。

 本艦には収容余力がありますし……あの状態では帰還も難しいかと」


 それならミサイルすら温存できる。戦術的には合理的だ。


 だが――母艦を離れるという選択が、乗員にとってどれほどの意味を持つか。

 それはピエトロも副長も理解していた。


「……確かにな。アルマダには申し訳ないが、不調艦を戦術資源に転換できる上、ミサイルも節約できる。最善策だ……採用する」


 副長は無言で軍帽を深く被り直した。


「よし、減速中止。針路変更、タイタン軌道でスイングバイを行う。

 アルマダ乗員は至急本艦へ移乗せよ」


「了解!」


「デメテル。この状況での軌道予測を基に戦隊の射撃制御は可能か?」


「はい。演算負荷は大きいですが、接敵までに完了します。

 ただし、無電封鎖の解除が必要です」


「理由は?」


「私のコアは第二戦隊オリンピアにあります。

 この端末単体では演算能力が不足しています。

 僚艦端末を利用した分散処理で補えます」


 予想通りだった。コアと切り離された状態では、性能が明らかに低下している。


「通信の暗号化は万全だな?」


「はい。私の量子暗号ならば、解析される頃には戦闘は終わっています」


「ならば許可する。頼んだぞ、デメテル。

 戦隊総員、装甲宇宙服(AES)を着用せよ!」


「……了解。全艦に伝達します」


 通信士官は一瞬だけ躊躇したが、すぐに暗号電文を送信した。


 本来、装甲宇宙服(AES)は小型艦やデブリ宙域での作業用だ。

 だがピエトロは最悪を想定していた。


 第一戦隊は、後方から迫る連邦艦隊を背に、タイタンへ向けて進み続ける。

 挟撃を避けるために――



◆第一戦隊のタイタン突入から30分後

連邦標準時

同日 20時30分


火星より60光秒の宙域


シリウス防衛艦隊 第二戦隊旗艦

装甲巡航艦「オリンピア」


アルマンド・バルデス中佐



 CICのスクリーンいっぱいに、赤い火星が広がる。


「特務戦隊、我が戦隊から離脱していきます」


 船務長が淡々と報告する。


 ――苦楽を共にしたアルクトゥルスも、これで最後か。


 誰もが一見平静を装っていた。

 だが、その視線は例外なくスクリーンに向けられていた。


 別れを惜しむように――。


 予想外の戦闘はあったが、ここまでは計画通りだ。

 あとは地球圏への同時攻撃。そして帰還。


「よし、第二戦隊、針路そのまま。全艦加速、投射準備。現宙域を離脱する!」


 第二戦隊は、敵探知圏外から史上初の星系内短距離ジャンプを敢行するため、最大加速に入った。


 次の瞬間、凄まじいGがクルーを座席に叩きつける。

 慣性制御でも、この加速は完全には打ち消せない。


「増加コンデンサーの残量は!」


「60%! 転写開始まで10分!」


「各部点検急げ! いつでも撃てるようにしろ! 作戦の仕上げだ!」


「目標座標、計算完了! 規定速度到達後、転写開始可能です!」


 だが、その直後――


「……対デブリ防楯、損耗大!」


「艦首武装、砲身冷却機構が作動しません!」


 次々と異常報告が入る。


「……あと何回撃てる?」


「規定では……2回が限界です」


 重い沈黙。


「……荷電粒子砲、エネルギー最大充填。砲身限界を超えても構わん」


「それでは一発で使用不能になります!」


 砲雷長が思わず声を荒げた。


 だがバルデスは静かに続ける。


「我々は物理的損害ではなく、“敵の判断”を破壊する必要がある」


「投射後、一撃で装甲巡航艦を沈める」


「その衝撃で、敵の思考を止める」


 ヘラス級装甲巡航艦――連邦最大級の艦だ。

 それが一撃で沈めば、戦局への心理的影響は計り知れない。


「慎重に戦う余裕はない」


 その言葉に、デメテルが現れる。


「砲雷長、リスクは高いですが合理的です。

 敵は我々の性能も限界も把握していません。

 一撃で印象を固定すべきです」


 砲雷長は葛藤しながらも、やがて頷いた。


「……了解。砲身充填開始」


 数で劣るシリウスが勝つには、初撃で決めるしかない。


 第一戦隊はタイタンを撹乱し、

 第二戦隊が火星を叩く。


 そして地球で合流し、最後の一撃を放つ――


 それが、この作戦の骨子だった。

 最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖(さんたくるす)です。


 またしても短くなって申し訳ないです!

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