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星間戦争史 ~人類文明の多極化について~  作者: 三田来栖
第一部 シリウス事変

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13/14

第十一話 「戦闘準備」

今日から週末までは12時更新です。よろしくお願いします。

連邦標準時

2314年3月14日 20時00分


タイタンより10光秒の宙域

シリウス艦隊 第一戦隊旗艦「アンドレア」


ピエトロ・カヴール大佐



 司令官――そう呼ばれるこの男は、装甲巡航艦アンドレアの艦長であり、第一戦隊の指揮官でもあった。


 叩き上げの軍人らしい無駄のない視線が、CICのスクリーンに注がれている。


 「司令官、まもなく減速完了します。ご指示を。」


 横から聞こえる副長の声はまさに冷静沈着である。


「ああ、全艦ミサイル発射準備。目標、タイタン軌道港及び燃料貯蔵区画。並行して全艦アクティブステルス解除、荷電粒子砲、発射準備だ。」


 ピエトロがそう言い終えるとCICに耳障りなブザーが鳴り響いた。


「司令!索敵システムに感あり!七時方向より不明艦隊近づく!距離12光秒!」


「…哨戒帰りの戦隊か!航法士!接敵予想時刻は?」


「はい、予測……標準時二〇二五分に我が戦隊の射程に入ります!」


 報告を聞くと副長から再び声が掛かった。


「司令、意見具申します。すぐに減速を停止してタイタンでスイングバイを行いましょう。そうすればタイタンにも敵戦隊にも攻撃可能です。時間の節約になるかと。」


 確かにミサイルならこの速度でもタイタン軌道軍港に攻撃することはできる。そして反転する手間も省ける。敵はまだこちらを敵と認識していないことも踏まえるなら、この策は有効だろう。


「また、限界が近い駆逐艦アルマダを分離して”特務戦隊”と同じやり方でタイタン軌道で自爆させては如何でしょうか?本艦の収容人数にはまだ余裕があります、それに…あの状態では帰還できるか怪しいでしょう…。」


 確かにそれならミサイルを軍港攻撃に使う必要すらない。悪くない手だ。だが…自らの母艦を離れる——


——それはクルーにとってどれほど悔しいことか。副長もピエトロもそれはよく理解していた。


「…確かにな。アルマダには申し訳ないが…不調のアルマダを戦術資源に転換できる上、ミサイルの節約にもなる。これ以上なく良い策…だな…採用する。」


 副長は何も言わずに軍帽を深く被り直した。


「よし、減速中止!続いて針路変更!タイタン軌道でスイングバイを行う!アルマダの乗員は至急本艦に移乗せよ。」


「了解!」


「デメテル!この場合の敵と我々の軌道予測を元に戦隊の射撃を制御できるか?」


「はい、演算負荷が大きいですが…接敵までには可能です。ただし、無電封鎖の解除が必要です。」


 デメテルは冷静に答えた。


「理由はなんだね?」


 大方予想はついているが、一応聞いてみる。


「私のコアは第二戦隊のオリンピアにあります。この端末単体では演算能力が足りません。ただし、僚艦の端末も使い、分散処理を行えばこの問題を解決できます。」


 やはりそうか。コアと接続できない状態ではここまで性能が落ちるか。心なしか感情も希薄になったような気もする。


「なるほど、もちろん僚艦との通信の暗号化は完璧だろうな?それならば許可する。」


「ええ、私の量子暗号ならば、解析が終わる頃には…この戦闘は終わっているでしょう。」


「ならば問題あるまい。ではデメテル頼んだぞ!…戦隊総員!装甲宇宙服を着用せよ!」


「…それはつまり…分かりました。全艦に伝達します。」


 通信士官は一瞬だけ躊躇ったが、すぐに全艦に暗号電文を送信した。


 本来ならば装甲宇宙服などという代物は、被弾時に危険が大きい小型艦か、デブリの多い宙域での船外活動時しか出番のない物だ。ピエトロは最悪を想定していた。


 そして、第一戦隊は後方から迫る連邦艦隊を尻目に、タイタンに向けて進み続けた。敵からの挟撃を防ぐ為に…。



◆第一戦隊のタイタン突入から30分後

連邦標準時

同日 20時30分


火星より60光秒の宙域

第二戦隊旗艦 「オリンピア」

アルマンド・バルデス中佐


 CICのスクリーンいっぱいに赤い火星が広がる。


「特務戦隊、我が戦隊から離脱していきます。」


 ——苦楽を共にしたアルクトゥルスもこれで最後か…。


 船務長が索敵システムを見ながら、落ち着き払った声で報告した。皆、一見落ち着いているが、全員がスクリーンに映る特務戦隊を見ていた。まるで別れを惜しむように…。


 予想外の戦闘もあったが、ここまではなんとか作戦通りだ。あとは地球圏の共同攻撃。そして、帰還。もう少しだ。


「よし、第二戦隊、針路そのまま。全艦加速。投射準備。現宙域を離脱する!」


 敵の探知圏外から、銀色の艦隊は史上初の星系内での短距離ジャンプを敢行するため、最大限に加速して離脱していった。


 そして、内臓が沈むようなGが第二戦隊のクルーを座席に叩きつけた。まだ慣性制御は加速状態のGを打ち消せるような性能ではないのだ。


「増加コンデンサーの残量は!」


 強力なGに耐えながら、バルデスが尋ねた。

オリンピアやアンドレアを始めとする、改ヘラス級は機関砲塔を減らす代わりに、弾薬庫があった区画にコンデンサーを詰め込んでいた。エネルギー負荷の高い星系内ジャンプを実現する為に。


「残り60%です!転写開始まで10分!」


「よし、各部点検急げ!いつでも撃てるようにしておけ!この作戦の仕上げだ!」


「艦長!目標座標の計算完了!規定速度に到達次第、全艦高次元転写を開始します!」


 航海長がモニターを見て固まった。


「…!対デブリ防楯の損耗激しい!」


 そして航海長からの報告が入る。これまでにない規模の加速で、デブリから守る増加装甲板が摩耗しているようだ。


「艦長!艦首武装の砲身冷却機構が作動しません!」


 追い討ちをかけるように砲雷士官からの報告が入る。


「…あと何回撃てる?」


 そう尋ねるバルデスの口調は重かった。


「…規定通りなら…保って2回…です。」


 砲雷士官が慎重に述べる。


「…分かった。荷電粒子砲、エネルギー充填開始、砲身限界を超えても構わん…。」


「それでは一発で撃てなくなります!」


 砲雷長が立ち上がりそうな勢いで反論する。


——だが…


「いや、我々は物理的損害以上に、敵の“判断”を破壊しなければならん。」


「…投射後に一撃で確実に装甲巡航艦を沈める。それくらいの衝撃を与えれば、敵は迂闊に反撃できなくなる。」


 ヘラス級装甲巡航艦は、地球連邦が現在運用する中では最大の軍艦だ。それが一撃で撃沈される衝撃は大きいだろう。


「先日のように慎重に攻撃する余裕はない!」


 バルデスが間を置きながら、自分の見解を述べた。そして、デメテルが無表情でテーブルモニターに現れた。


「砲雷長、リスクは大きいですが、やる価値はあります。敵は先日の我々の戦闘すら認識していません。今なら能力も限界も秘匿されています。一撃で印象を固定すべきです。」


「…しかし…それでは本艦の打撃力は…。」


 砲雷長はデメテルの言う内容を頭では理解していた。しかし、それでもオリンピアが決定打を失う不安が大きいようだ。


「デメテルの言う通りだ。我々には余裕がない。しかし、彼女が言う通り、敵と我々には情報格差がある。これを活かさない手はないだろう。」


 艦長席の横の副長がバルデスの意見を補強した。


「…了解です。それでは砲身充填開始します。」



 数で大きく劣るシリウス自治政府が、連邦と戦うには初撃で可能な限り戦力を削る必要があった。


 第一戦隊はタイタンを撹乱し、第二戦隊が火星を叩く。そして、両者が再度地球で合流して最後の一撃を放つ——


——それが今回の作戦の骨子だった。


 最後までお読みいただきありがとうございます。作者の三田来栖(さんたくるす)です。


 またしても短くなって申し訳ないです!

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