表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/59

#58 変わらない関係

番外編:第4弾

アビゲイルとエレノアのその後

ガイアスの披露宴が終わってから、アビゲイルは娘たちと観光を満喫した。その後、娘たちは隣国へ帰ったが、アビゲイルは母国に残ると決めた。


そして今。アビゲイルは、チャールズが亡くって以降、訪れることのなかった王宮へ来ていた。ここに住んでいたのはほんの数年だったが、チャールズと出逢い、ともに過ごしたこの場所に懐かしさを感じながら城の中を歩いている。

向かっているのはエレノアの部屋だった。エレノアはヴェッティン領で暮らしていたが、兄の先代公爵が亡くなってしばらく経った頃、王宮へ戻って来たとヴィクトールから聞いたのだ。エレノアに話したいことがあったアビゲイルは、彼女を訪ねることにした。

部屋へ向かっている途中、エレノアの診察へ向かうエヴァンス卿とばったり再会した。

「エヴァンス卿、まだ王宮で働いていたのね。昔は、あんなに宮廷医を辞めたがっていたのに。」

「後任が見つからんのですよ。孫のラザラスを宮廷医にとの声も上がったんですがね。性格に難ありだと、陛下に却下されたんです。」

「性格に難あり??あなたよりも!?」

「あぁ…。王妃様は、お変わりありませんね。この、言葉が突き刺さる感じ、懐かしいですな。」

「だって、人心掌握に長けた陛下が掌握できないと諦めたのでしょう??」

「うちの孫は、愛妻家なんでね。王室より嫁を優先させる者に、宮廷医は勤まらんでしょ?実際、感染症が蔓延しているさなか、特効薬を完成させたから自分の役目は果たしたと言い、仕事を放り出して嫁に会いに行ってしまったので…。」

ルーカスから、ラザラスがフィリアに会いに行くと言い残し、避難先のヴェルナー領へ行ってしまったと聞いたときのことを思い出し、エヴァンス卿は遠い目をするのだった。

「他の後任候補にしても。息子は領地、もうひとりの孫は王都で良医と呼ばれ信頼を得ているが故に、宮廷医にしてしまえば、良医を王家で独占するなと民からの非難、批判、抗議が相次ぐでしょうし。他の親族は正義感の塊なんで、身分の高いお方しか治療しない他の宮廷医と衝突するに決まってますからな…。」

「つまり、エヴァンス卿みたいに適当なくらいがちょうどいいってことね。」

「出た出た。悪意のない失礼な物言いは健在ですな。」

「あなたも変わりないようね。」

エヴァンス卿が宮廷医を続けているのは、人手不足だけが理由ではなかった。

『母上が、もう子どもができなくなってしまったのは、どうしてなんだ?』

昔、幼いヴィクトールに投げかけられたその言葉が消えず、ずっと胸の中に残っているからだった。


「おや、目の調子がおかしいようだわ。見たくもない顔が見えるなんて。私も、もう年だわね。」

そう言ってエレノアは、わざとらしく目をこすり、瞬きをした。

「エレノア様ったら、相変わらずですわね。」

アビゲイルの顔を見た途端、皮肉全開のエレノアに、呆れてため息をついたのはエヴァンス卿だった。

「無意味ないがみ合いは止めましょうね。我々は全員、60を越えてるんですから。王太后様に至ってはもはや70ですぞ。健康状態は年相応ではありますが、イライラすると血圧が上がってしまいますよ。」

女性に年齢の話をするなんて失礼だと、ふたりから息のそろった反論をされたが、エヴァンス卿は聞き流して診察をはじめた。その相変わらず飄々とした態度に、折れたのはふたりの方だった。診察を受けるエレノアから視線をそらしたアビゲイルは、サイドテーブルにあるゴシップ誌を手に取った。

「エレノア様も、このような雑誌をお読みになるのですね。」

「あら、知らないの??それに、あなたの息子のことが載っているわよ。ついでに、あなたもね。」

ページをぺらぺらめくると、先日の合同披露宴の様子が詳しく書かれていて、アビゲイルと娘たちが訪れた観光地やホテルのスイートルームに宿泊したことまで載っていた。

「記事にしていいか確認されたのは、この雑誌のことだったのね。」

エスターとジルベスターから了承を求められていたアビゲイルは、このことかと納得した。

「伯爵はまた、娘にネタにされてしまったのか。再婚相手は離縁した妻の義妹で、年は娘より年下の16歳。さらには、離縁した妻との合同披露宴なんて、ゴシップ好きな婦人たちの格好の餌食でしょうな。」

「エヴァンス卿は、このゴシップ誌をつくっている出版社の所有者を知っていたの??」

「エスター嬢ちゃんは、うちの孫の友人ですからな。」

「ゴシップ誌といっても、この《シリウス》の掲載記事はすべて事実なのよ。他のゴシップ誌と違って、嘘を本当のように見せるのではなく、事実がおもしろおかしく書かれているわ。その出版社のオーナーが、伯爵の娘なのよ。」

「その、うちの孫のお嫁さんなんです。」

満面の笑みを浮かべるアビゲイルに、エレノアは目を細めた。

「知っているわよ!!うちの孫たちの妃候補だったのだから。」

「まぁ、早い話が、領地から王都へ出てきたヴェルナー辺境伯令息に、王子殿下方の妃候補を掻っ攫われたってことですな。どこかで聞いたような話ですがね。」

「…またそうやって、人のことを小馬鹿にして。いつかあなたに、罰が当たることを願うわ。」

「またまた~。王太后ともあろうお方が、そんな恐ろしいことをおっしゃって。どの道、エスター嬢ちゃんに妃なんて務まるはずないですからな。嬢ちゃんには王家に対する忠誠心がないので。うちの孫と一緒でね…。」

「だけど陛下は、エスターちゃんのことを、エレノア様と私を足したような娘だと言っていたのだけれど??」

エヴァンス卿はなるほどと頷いた。

「確かに、嬢ちゃんは王妃様と同じ風属性と、王太后様のように人を動かす力を持ってますな。人を動かすと言っても、相手を脅して従える王太后様とは違い、嬢ちゃんは"基本"、人と友好的な関係を築いていますけど。」

「基本??」

「嬢ちゃんの許せないことは、大事な人やものを傷つけられることなので、それを犯した相手には苛烈な報復が待っているのです。弱みやら悪行やらをゴシップ誌に載せたり、家業を妨害したり、廃業に追い込んだりと容赦ないんで、ある意味、王太后様よりもたちが悪いかもしれませんな。」

「いちいち私を引合いに出さないでちょうだい。それと、アーノルドは自分で王太子妃候補を見つけたから、彼女のことはもういいわ。…ただね、その相手というのが、彼女の同い年の叔母なのよね。」

エレノアは、アーノルドが妃に望んだ相手の出自に複雑な思いを抱いていた。ケイトは男爵家の養子になっているが、産みの親は元娼婦なのだ。出自が知れ渡れば王太子妃に相応しくないという声が上がるのが目に見えていた。

「今は、異母妹である伯爵夫人の侍女をしているようだけれど。あなたの息子の新たな嫁とも、異母姉妹の関係にあるらしいわね。」

「そのなら、披露宴のときに会いましたわ。エレノア様の又甥のノア君に抱えられて、屋根から飛び降りて来たのです。」

「いやはや、屋根から飛び降りるなんて、誰かを彷彿とさせますね。」

「娘たちにも言われたわ。風を操作して屋根を移動するなんて、私みたいだって。」

「自分も昔、王妃様に抱えられて屋根の上を移動したことがありましたな。二度と体験したくありませんが。」

エヴァンス卿は、アビゲイルに抱えられ屋根を移動し、ヴェッティン邸へ向かった際の恐怖を思い出した。

「そう。兄の孫の、ノアにも会ったのね。」

「前公爵が亡くなられて、もう4年になるのですね。」

「ええ、もう4年なのよ。最近、月日の流れがとても早く感じるわ。…ノアにとっては、苦しくて長い4年だったようだけれど。」

ノアは先日、王太子の側近になるべきかを相談するためエレノアのもとを訪ねていた。自分に婚外子がいることを打ち明け、側近には、兄のクリスの方が相応しいのではないかと尋ねた。

エレノアにとってクリスとノアは、ふたりとも兄の孫であるため優劣をつけ難かったが、自身の孫のアーノルドの側近になるのなら、身辺に問題のない者の方が望ましいと考えていた。だが、国王であるヴィクトールも、王太子であるアーノルドも、ノアを側近にと望んでいるのだ。

ノアが、ヴェッティン家の血筋の者としては珍しく、素直な性格だからだろう。

「ノア君の心からは、嘆きや悲痛な声が聞こえてきたのです。彼は、今にも心が壊れてしまいそうなほど、危うい状態でしたわ。」

「ノアは1年以上前に倒れてね。当時私が暮していたヴェッティン家のカントリーハウスで、しばらくの間療養していたわ。だけど結局、やつれた状態のまま屋敷をあとにしたの。私が王都へ戻って来たのは、ノアが心配だったからよ。」

「アンダーソン伯爵家の養子だという真っ赤な髪をした男の子の存在が、ノア君の心の拠り所のようですね。私の目には、兄弟のように見えましたわ。」

「そう…。ふたりは似ているのね…。」

エレノアは、ノアとパトリックのこれからを悲観していた。パトリックを自身の子どもであると公表できないノアは、罪悪感に押し潰されてしまうだろう。だかといって、婚外子がいると知れ渡れば、ノアの生家であるヴェッティン家と婿入りしたアルベルティン家の汚点になってしまうのだ。

「まぁまぁ。そんなに深刻にならんでも大丈夫だと思いますがね。」

「あなたに、なにがわかるというの!?」

エレノアは、事情も知らないエヴァンス卿が簡単に大丈夫だと口にしたことに苛立ちを覚えた。

「伯爵が養子にした、ノア様の隠し子の話ですよね?」

「隠し子って…。」

エヴァンス卿の発言に、エレノアは言葉を詰まらせる。

「伯爵家では養子にする際、ヴェッティン家から言いがかりをつけられることを見越して、あらかじめ陛下へ根回しし、さらにヴェッティン家の弱みを探していましたからね。自分のところへは、まだ王宮で働いていたケイトが聞きに来たんですよ。」

エヴァンス卿は、約1年前のことを思い出して答えた。

「ちなみに、ケイトは情報を得るために王宮のメイドを辞めて、ノア様が婿入りするアルベルティン家のメイドになったんです。あのときは、まさか男爵令嬢になって戻って来るとは思いませんでしたな。しかも、王太子妃候補にまでなってるとは、劇的な展開ですな。」

「どういうこと?あなたとケイト嬢は、以前から知り合いだったの!?」

エレノアは、自分よりもエヴァンス卿の方が事情を知っていたことに驚愕する。

「うちの孫のラザラスと、エスター嬢ちゃんは幼馴染ですからな。嬢ちゃんのおじとおばとも、自然と顔を合わせる機会が生まれたのです。自分も、男爵家の遺伝因子に作用する薬をつくる手伝いをしましたしな。」

「兎の血だと聞いたわ。うちは狼だけど、血の影響を受けているのは同じようね。」

「耳がいいのも同じですな。」

「そうそう!!披露宴の出席者のほとんどが耳がよくってね、席が離れていても会話ができちゃったのよ。逆を言えば、会話が筒抜けってことなのだけれどね。」

「嬢ちゃんたちはその耳のよさを活かして、普段から情報を集めているのです。そうして掴んだ弱みは、ノア様の隠し子や、ケイトを守る盾になるでしょう。先程も言った通り、嬢ちゃんは身内を馬鹿にされたり、害されたりするのを決して許しませんからな。」

これまで、ゴシップ誌に記事を掲載された貴族たちの末路を思い出し、エレノアは妙に納得した。

「ところで、あなた…。まさかとは思うけれど、ヴェッティン家の情報を漏らしてないでしょうね??」

訝しげな表情で、エレノアは尋ねた。

「王太后様が、第二王子を亡きものにしようとして王妃様を怒らせた話ならしましたが?」

「待ちなさい。それ聞き捨てならないわね。私は、王妃の子どもを殺害しようとしてないわよ。だいたい、王妃自ら母乳を与えているなんて思いもよらなかったのだから。」

「王太后様の行為は正当化出来ませんよ。危険性は低くとも、毒になり得る物を贈る自体、許されないことですから。それで、怒った王妃様に領地戦を挑まれそうになってましたよね。ですが、乳母に任せず、王妃自身が育児をしていたのには確かに驚きましたけど。」

「あなた、おもしろがってるわよね!?」

エレノアとエヴァンス卿が言い合いをしている中、アビゲイルは首を傾げていた。

「チャーリーはなにも言わなかったけれど、本来は乳母に任せなければいけなかったということかしら?」

「陛下は、あなたには甘かったから、好きにさせてやりたかったのでしょう。」

「だから、私がヴィクトール王子へ母乳を与えたとき、王子の乳母があたふたしていたのね。」

「ちょっと…。あなた、うちのヴィクトールに母乳を与えていたの??」

「はい。エレノアのお体が回復なさるまでの間、うちのガイアスと一緒に。」

「ヴィクトールが、やたらあなたに懐いているのはそのせいね…。」

エヴァンス卿は、エレノアの機嫌が悪くなるのを察知すると、とばっちりを食らう前に、『ほどほどに。』と言って静かに退室した。


ふたりきりになったことろで、アビゲイルは本題に入った。

「先程、ノア君が心配だから王都へ戻って来たとおっしゃっていましたけど、理由はそれだけではありませんよね?」

確かに、エレノアが王都へ戻って来た理由はノアのことだけではなく、一部の貴族から恨みを買っているヴェッティン家が心配だったからでもある。

クリスは家門のためを思い、次期公爵夫人に、悪意に負けない強い心を持つ、隣国の王女を選んだのだ。結婚にクリスの気持ちは関係なく、家門のためのこの結婚は、じつにヴェッティン家の者らしい選択だった。

しかし…。

「昔、兄と私がしてきた仕打ちのしわ寄せが、現ヴェッティン公爵や次期公爵にきているの。もしも私が、傲慢な態度を改めていたら、ノアの兄のクリスは家門のいざこざに巻き込まれることもなく、もっと違う人生を歩めていたかもしれないわ…。」

エレノアは、現公爵と次期公爵のクリスが、自分たちがしてきた傲慢な行いの煽りを受けているのを止めると決めたのだ。

「自分の行いのせいで、子どもや孫たちに苦労をかけるのは忍びないですものね。ですが、エレノアがここに戻って来た1番の理由は、チャーリーとの思い出が残る、この王宮が恋しくなったからではないですか??」

一瞬驚いた顔をしたエレノアは、すぐに真顔に戻り、平静を装った。

「そんなわけないじゃない。陛下とのいい思い出なんてないのだから。私たちの関係は夫婦というより、仕事のパートナーだったもの。ただの同僚よ。」

「もう。エレノア様は、相変わらず素直ではありませんわね。ですが、人に誤解されやすく不器用なのが、ヴェッティン家の血筋の特徴なのでしょうね。」

「あなたは、なにが言いたいのかしら?」

「じつは。今日、私が訪ねたのは、エレノア様に謝りたいことがあるからなのです。」

アビゲイルは、エレノアの目を真っ直ぐに見つめた。

「私に謝罪を求めるのではなくて、あなたの方が私に謝ると言うの?」

「申し訳こざいません…。私、チャーリーを心配するあまり、彼とエレノア様の初夜のやり取りを盗み聞きしてしまいました。私の耳は、離れた部屋の声も聞くことができるので…。」

「なんですって??」

「あの夜。チャーリーが部屋を出て行ったあと、エレノア様が泣きながら、行かないでと彼の名を何度も呼んでいるのを聞いてしまいました。」

怒りと羞恥が入り混じったエレノアは、ワナワナと震えた。

「エレノア様は、今も変わらずチャーリーを想っているから、王宮に戻られたのですよね?私も、同じですわ。チャーリーがいない現実が受け入れられず、隣国へ逃げていたけれど、今はチャーリーの面影を探してしまうのです。だから私、この国に戻ることに決めましたわ。」

「そう…。」

エレノアもまた、チャールズが亡くなってから実家の領地で過ごしていたが、残りの人生が短くなり、彼の面影を求めて王宮へ戻って来たのだ。

「私は、王都ではなく、ヴェルナー領で暮らすのでご安心ください。そういえば陛下が、また王宮とヴェルナー邸を転移魔法陣で繋ぐとおっしゃっていましたわ。それから別荘も。兄弟で隣同士に別荘を建てるなんて、本当に仲がいいですわよね。」

エレノアは、ヴィクトールが毎日ヴェルナー邸を訪れる様子が思い浮かんだ。以前のチャールズのように。それから、その別荘でもヴィクトールとガイアスがともに過ごすのが想像できた。そしてそこで、母親である自分より、アビゲイルを気遣うヴィクトールの姿も。

「やっぱり、私。あなたのこと好きじゃないわ…。」

今の話のどの部分が、エレノアの気に触ったのかはわからなかったが、アビゲイルは微笑みながら答えた。

「ええ。知ってますわ。」

次回で完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ