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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#57 烏の濡羽色 ②

番外編:第3弾 リーバイ✕メアリー 最終話




パトリックの誕生日を祝うため、急いで帰宅したリーバイを出迎えたのは、社交界で見せる取り繕った笑顔のエスターだった。

「おかえりなさいませ。お父様のお帰りを、今か今かとお待ちしておりましたわ。」

「…あぁ。今、帰った。」

リーバイが帰宅すると、すぐに家族会議がはじまった。議題はもちろん、リーバイとメアリーのこれからについて。話し合いの参加者は、当事者であるリーバイとメアリー、エスターとウィルバート、リーバイの産みの親のマリー、それからメアリーの兄であるイーサンとネイサン。


リーバイとメアリーの関係に口出しするエスターに対して、イーサンとネイサンが対抗する。

エスターが、『娘より若い子に手を出すなんて、恥ずかしくないのですか?』とリーバイを責めれば、イーサンとネイサンが、『自分が老い先短い相手を手玉に取ろうとしてたことは棚に上げるのか??』や、『自分の祖父と同じ年代の老人の後妻を狙っていたことは、恥ずかしいことじゃないのか??』と以前のエスターの結婚観を蒸し返し。

『メアリーには、お父様よりも、もっといい相手がいるはずなのよ。』とエスターが言えば、『いい相手かどうかは、メアリーが決めることだよな??』とイーサンが反論し。

『お父様に、メアリーとお腹の子を幸せにできるとは思えませんわ。』とエスターが決めつけると、『メアリーの幸せは、お嬢が決めることじゃないよな?"自分の人生は自分で決める。"いつもそう言ってるのは、誰だっけ??』とネイサンが問いかけた。

そしてふたりは声をそろえ、『お嬢だよな!?』とエスターを問いただした。

エスターは、自身の信条に首を絞められるのだった。

「お嬢様が、兄たちに論破されるなんて…。」

イーサンとネイサンに言い返すことができないエスターを見て、メアリーは驚きの声を上げた。

「エスター。これからどうするかを決めるのは、お義父様とメアリーですよ。僕たちは、見守りましょう。」

ウィルバートになだめられ、エスターは渋々頷いた。

『つまり…。子を授かったから、このところ求めてこなかったのか??』

リーバイはあごに手を当て、ひとりごとを言った。それは小さな声だったが、この場にいるマリー以外の耳には聞こえていたのだ。

「お父様!?今のは、どういう意味ですか??メアリーの方が、お父様を求めているように聞こえたのですが。」

リーバイは、"しまった"と眉間にシワを寄せた。この場にいる者たちは、耳が異常にいいということを失念していたから。

「では、体の疼きが治まったのは、子どもが宿ったからなのですね。伯爵様をお慰めしたかったのですが、私の方が何度もお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした。」

「メアリー!!」

リーバイは、ふたりの秘め事を口外するメアリーを止めようと、彼女の名前を呼んだのだが、メアリーは違う捉え方をした。爵位ではなく、いつものように名前で呼んで欲しいのだと。

「リーバイ様??」

意図は通じなかったが、リーバイは微笑みながらメアリーの頭をなで、彼女の体を気遣った。そして、一緒になってくれるかとプロポーズをした。メアリーはすぐには頷くことが出来なかったが、リーバイの感情の色から不安と幸福を感じ取り、自分と同じ気持ちだと気づき首を縦に振った。メアリーがプロポーズを受け入れると、リーバイの纏う黒色の中から、鮮やかな色たちが輝きを放ちながらあふれた。その色たちを目にしたメアリーは、胸がいっぱいになった。どうしたら黒い色を消せるだろうとリーバイの感情の色を伺い、これまでいろいろ試してきたが、今リーバイの感情を動かしているのは自分なのだと実感できたから。

そのあとメアリーは、体が疼くようになった経緯を説明した。リーバイと肌を重ねたことがきっかけとなり、メアリーの中の兎の血が覚醒し、発情期が訪れるようになったのだ。リーバイが一方的に求めたのではなく、むしろメアリーの方が求めていたと知ったエスターは、ふたりの気持ちを汲み取った。

話し合いの行方を見守っていたマリーは、メアリーが自分と同じ道を辿らずにすみ安堵するのだった。そして、心からリーバイとメアリーの幸せを願った。


リーバイとメアリーは結婚の許しを得るため男爵家を訪れた。

一度結んだ男爵家との縁を、自ら切ってしまったリーバイは、今度こそはこの縁を育み、紡ぐと頭を下げた。娘のシルヴィアと離縁したリーバイが、自分たちの養子であるメアリーを再婚相手に選んだことに前男爵夫妻は驚きつつも、ふたりを祝福した。

その傍らでは、メアリーの産みの親のナナリーが言葉も出ないほど驚いていた。


結婚の許しをもらったふたりは、次に国王へ結婚報告をした。メアリーとの年の差をからかわれることを予め覚悟していたリーバイは、ヴィクトールからの予想外の提案に思わず眉間にシワを寄せた。それは、もうすぐガイアスとシルヴィアの披露宴が開かれたるため、リーバイとメアリーも合同で披露宴をしてはどうかという内容だった。離縁したシルヴィアとの合同披露宴を提案され、毎度のことながら、ヴィクトールに面白がられていると感じたリーバイは、深いため息をついた。

そして、王からの提案を断ることなど出来ないメアリーは、頷いてしまう。

けれど、このヴィクトールの気まぐれな思いつきは、いい結果をもたらすのだった。



リーバイとメアリーの結婚式は、湖畔のチャペルで執り行われた。

メアリーは皆の貴重な時間を奪うのは申し訳ないと、母親のナナリー、兄のイーサンとネイサン、義理のきょうだいの中で仲のいいケイトだけを招待した。それから、形だけのつもりで養父母である前男爵夫妻へ招待状を送ったところ、ふたりは快く出席した。

リーバイとメアリーは、参列者たちからめいいっぱいの祝福を受けた。特に喜んでいたのは、新たな伯爵夫人が気性の穏やかなメアリーでよかったと安堵しているアンダーソン伯爵家の使用人一同だった。


結婚式の数日後。

王都のレストランで、ガイアスとシルヴィア、リーバイとメアリーの合同披露宴が開かれた。


まだ準備中の会場では、暇を持て余したパトリックがノアに会いたいと駄々をこねていた。3歳ながら、エスターに言っても無駄だと理解しているパトリックは、甘えるような目で必死にケイトにお願いをするのだった。パトリックのおねだりに負け、ケイトは転移石を使いアルベルティン邸へノアを迎えに行った。エスターがパトリックのあざとさに呆れていると、その様子を見ていたシェフが、幼い頃のノアもああしておねだりしていたと笑った。パトリックがノアの息子だとは知らずに。

レストランの一室ではメアリーが義理の姉たちから、結婚式に招待しなかったことを問い詰められていた。

「この披露宴がなかったら、私は招待されてなくても結婚式に勝手に参列していたと思うわ。せっかく、メアリーのためにウエディングドレスをつくったのに、式に呼んでくれないなんて。」

「ごめんなさい。でも、ミアだけじゃなく、みんなすごく忙しいじゃない。私のために、わざわざ休みを取ってもらうなんて悪いもの。みんなのお客様にもね。」

『やめてよ、水くさい。』

皆が声をそろえた。母親は違うが、遺伝上は姉妹なのだからと。

メアリーに挨拶した義姉たちは会場へ移動した。すると、開宴が近づくにつれバーバラは緊張が強まり、終いには、自分はこの披露宴へ出席しない方がいいのではないかと後ろ向きな発言をするのだった。

「どう考えても、娼館のオーナーなんて場違いもいいとこだわ。だってこの披露宴には、男爵家の方々や国王陛下もお見えになるのよね??」

「男爵家のみんなや陛下は、私の披露宴にもいらしていたじゃない。」

「お嬢様のときは、湖畔という広々とした空間でゲストもたくさんいたけど、今日の会場は、限られた空間ですからね!?陛下の目に留まったらどうしよう…。」

「バーバラ、気にしないでいいのよ。私が、うちのゲストに対してケチなんてつけさせないから安心して。たとえ、相手が陛下でもよ!!」

エスターの発言には、頼もしいと思うより、国王相手に不敬を働かないかと不安しかない一同だった。

「でもまぁ、陛下は別としても。バーバラとダグラス、ジルベスターの三人は、男爵家の屋敷で暮らしたことがないから、男爵家のみんなに対して気が引けるのもわかるわ。出自を知ったのも、十数年前のことだものね。」

「母はいっさい父親の話をしてくれなかったから、私は客との間にできたんだと思っていたのよね。自分にこんなにたくさんのきょうだいがいると知ったときは、本当に驚いたわ。」

「あら?客との間にっていうのは、あながち間違いではいないわよね??」

エスターの発言に、『大旦那様を客扱いしないでください!!』とミアとコリンナとスザンヌが噛みついた。

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。あなたたちのその忠誠心の強さ、怖いのよ。」

「あはは。確かに私には、みんなが持つ強い忠誠心はないわ~。それに、ダグラスも居心地悪そうに、さっきから会場の花を手直しているわね。」

10年以上前。とある商家の庭師をしていたダグラスは、エスターに引き抜かれ、伯爵家と湖の間にある家に一家で移り住み、伯爵家の庭師になった。ダグラスは自身の出自を知っても、これまで通り平民としての暮らしを守るため、リーバイやシルヴィア、男爵家の人々と距離を取っていた。

「あら、バーバラ。高貴な方ばかりで緊張してるのは、みんな一緒よ。マイクなんて、落ち着かないからって、厨房で料理をしてるわ。私もこの衣装でなければ、厨房の手伝いをしたいもの。平気なのは普段から貴族の接客をしている、ハンスにミア、コリンナ、あとマシューくらいよ。」

「何言ってるのよ、スザンヌ。私だって緊張してるわ。さっき、メアリーのところへ行ったとき、シルヴィアお嬢様にもご挨拶したじゃない?そしたら、私がつくったこのおそろいの衣装を素敵だって褒めてくださったのよ!!」

「ミアのそれは、緊張の種類が違うわよ。でも、ミアは昔からシルヴィアお嬢様のファンだったものね。私は、シルヴィアお嬢様が、『姉妹でおそろいの衣装を着てるなんて、仲がいいのね。あら、私も姉妹だったわね。』とおっしゃるから、反応に困ってしまったわ…。」

コリンナの話に、みんなは何度も頷いた。

「イーサンとネイサン、ケイトは緊張してないと思うわよ。それから、ジルベスターも例外だわ。ジルベスターにとって、この披露宴会場はネタの宝庫みたいなものでしょうからね。」

他人事のように話すエスターに、『新聞とゴシップ誌の売り上げが楽しみだ、と顔に書いてありますよ。』と皆が指摘した。

二組の結婚式と、この合同披露宴はエスターとジルベスターにとって独占スクープなのだ。この記事を掲載した新聞とゴシップ誌が売れると確信して、口元が緩んでいるエスターが、『あらやだ』と頬に手を当てていると、ノアがレストランに到着した。

「ほら見て。場違いだって言うなら、ノア様もよ?パトリックが会いたいって言うから、急遽ケイトが連れて来たけど、まったくの部外者だものね。…ところで、ケイト。ずいぶん髪が乱れてるけど、なにがあったの??」

「レストランの座標は転移石に登録してなかったので、アルベルティン邸からこの会場までの移動手段をノア様に相談したのです。そしたら、レストランの場所はわかるから任せろとおっしゃって、私を抱えると風魔法で空中を駆け出し、屋根の上を移動して来ました。」

「それ、便利そうね。今度、次男に教えてもらいましょう。」

「エスター。お祖母様と叔母上たちも到着したので、挨拶に行きましょうか。」

エスターはウィルバートが差し出した手を取り、アビゲイルたちのもとへ挨拶へ伺った。エスターは自己紹介したあと、ウィルバートとふたりで結婚の報告をした。アビゲイルはまず、結婚式に出席出来なかったことを謝り、次に、結婚相手がマリーの孫だと隠していたのは、驚かせるためだったのかと尋ねた。笑ってごまかそうとするウィルバートへ、今度は叔母たちから、ふたりの結婚のきっかけは銀狼の血が暴走したせいなのかと質問が飛んだ。エスターは、ガイアスとシルヴィアのはじまりはそうだが、自分たちは違うと正直に答えた。

ウィルバートは、あそこにいるのがガイアスとシルヴィアとの間に生まれた子どもだと、義祖父母に抱かれている双子の赤ちゃんへ目を向けた。それから、ひ孫が生まれるのはもう少し先になると、エスターのお腹をさすりながら言った。

双子の赤ちゃんを抱いているのが先代の男爵夫妻だと聞いたアビゲイルは、挨拶へ向かった。息子のガイアスが、夫妻の大事な娘であるシルヴィアへ無体を働き、その上、嫁に来てもらうのだからお詫びと感謝を伝えなければと。しかし、元王妃から頭を下げられた夫妻の方は恐縮してしまう。一方アビゲイルは、ともに年を重ねる夫妻の姿をうらやましそうに見つめた。

そこへヴィクトールが到着し、王の登場に会場の雰囲気が引き締まった。


大きな拍手に迎えられ、主役の4人が席に着く。

ガイアスが手短に挨拶をすませたのに対し、リーバイはこの披露宴が合同となった経緯を説明し、王の指示とはいえ、合同での披露宴を許可してくれたガイアスとシルヴィアへ感謝の言葉を述べ、ふたりの結婚を祝福した。

元妻の再婚を祝福するリーバイを見て笑うヴィクトールを、アビゲイルが注意する。エスターとシルヴィアは、普段必要最低限の言葉しか話さないリーバイが、流暢に長々と挨拶しているため目を大きくして見ていた。

会食がはじまると、待ちかねたように喜んでいたのはガイアスだった。ガイアスの見事な食べっぷりに、シェフは感激していた。エスターは、ノアへ、シェフはヴェッティン公爵邸で働いていたとき、破棄される料理に胸を痛めていたのだと話し、みんなにも残さず食べるよう言った。

特に、マイクは酒場を、スザンヌは食堂を経営してるからシェフの気持ちがわかるだろうと。マイクの酒場が《アスター》で、スザンヌの食堂が《ステラ》だと知ったノアは、驚いた。その酒場と食堂は、ロザリーヌがメイド仲間のアンネのためにもらった避妊薬のお礼として、常連になるよう勧められた店だったから。ノアからその話を聞いたバーバラもまた、娼館に避妊薬を買いに来たあの子が、亡くなったパトリックの母親だったことに気づき驚いた。そして内心、ハラハラしていた。バーバラは、友人のために避妊薬を求めたロザリーヌへ、たとえ相手の繁殖力が強かったとしても確実に効果が得られる、錬金術でつくられた高額な避妊薬を渡した。しかし、タダであげたことをエスターに咎められて以降、錬金術でつくった避妊薬は本当に緊急なときだけ使うことにしたのだ。だから、今回メアリーに頼まれた際も普通の避妊薬を渡していた。避妊薬と一緒に精力剤も求めたため、メアリーが自分で使うとは思わなかったから。だが。今回のメアリーの件こそが、その本当に緊急なときだったのだ。もしもバーバラが、錬金術でつくられた避妊薬を渡していたら、メアリーは子どもを授からなかっただろう…。この事実を、バーバラは生涯口外しないと決めた。

そんなバーバラへ、ノアは、常連とまではいかなくても、ロザリーヌの代わりに客として酒場と食堂へ顔を出すと約束した。するとパトリックが、自分も一緒に行くと言ったため、ノアは一緒に行こうと微笑んで指切りをした。

暖かい雰囲気に包まれる中、儲かりそうな話を耳に捉えたエスターが別のテーブルの会話に割って入った。

アビゲイルたちが、せっかくだから観光もしたいと話していたので、王都一のホテル《ニュイテトワレ》に宿泊し、アンダーソン伯爵領の湖を見に行ってはどうかと勧めた。湖畔にはガイアスが購入した別荘もあり、転移石を使えばすぐ着くからと。加えてエスターは、滞在日数に余裕があるのなら馬車で移動し、伯爵領までの道中に金を使ってもらいたいのだと本音を漏らした。その話にマシューも、宿泊の際はスイートルームを用意すると申し出て、ジルベスターは、元王妃が宿泊したホテルだとゴシップ誌に掲載しても構わないか確認を取った。

祝いの席だというのに金の話をする娘のエスターに、リーバイは頭が痛かった。エスターの本音を聞いたヴィクトールは、転移石を市場に出さない理由を理解した。転移石があふれてしまうと、目的地までの道中で立ち寄られていた町が経由されなくなり、その土地の収入源が減るからだと。エスターはそれだけではないと言い、揺れない馬車で旅客事業に参入するためでもあると説明した。その話にハンスたちは、『フィリア様のための馬車』と口を揃えた。エスターは、馬車酔いしやすいフィリアのために、イーサンとネイサンに馬車を揺れないようにする魔道具をつくらせた。ヴェルナー家にある魔石のおかげで、念願の魔道具をつくることができたのだ。もうすぐ、その魔道具を使った辻馬車や乗合馬車をあちこちで見かけるようになるだろう。

フィリアのための馬車と聞いたノアは、そういえば会場にフィリアとラザラスの姿がないことに気がついた。フィリアは、この会場に来てメアリーを祝福したかったが、妊娠中は人が集まる場所は避けようとラザラスが説得したのだ。

ロザリーヌのことで、出産が命がけだと思い知ったノアは、パトリックの頭をなでた。すると。

「のあさま、あそぼう!!」

飽きてしまったパトリックが、ノアに遊ぼうとせがみはじめた。

「ノア様、パトリックに王都を案内してくださる??」

エスターに押しつけられた感は否めないが、ノアは快諾した。

「そうだ、ノアよ。そなたに話があったのだ。」

ノアは、従叔父いとこおじであるヴィクトールに手招きで呼ばれ、耳打ちされた。

「そなた、王太子の側近にならないか?」

ヴィクトールからの突然の提案に、ノアは困惑する。

「陛下…。祝いの席で言う話ですか??」

「ここでの会話なら、外部に漏れることもないからな。載せて良い記事と、そうでないものの判別はつくであろう?」

ジルベスターは離れた席にいたが、自身に問われていると察し、激しく頷いた。

「返事はすぐでなくとも構わぬ。一度、よく考えてみてくれ。だが側近になれば、パトリックを守る力を手に入れられるかもしれぬぞ?」

ノアは、以前リーバイに言われた言葉を思い出した。今の自分には、パトリックを守る力がないと。そして確信した。ヴィクトールは、返事はすぐでなくとも構わないと言ったが、自分が断るとは思ってないということを。

「陛下も、人が悪い。パトリックの名を出せば断れないと確信をお持ちなのでしょう?いえ、陛下だけでなく、今ここにいるほとんどの者が、俺が承諾すると思ったはずです。みんな、異常に耳がいいようですからね!?」

「狼と兎は耳がいいからな。わはははっ!」

この会場にいるほとんどの者は耳がいいため、席が離れていても会話が成り立っているのだった。つまり、この会場では小声も耳打ちも意味がないのだ。ヴィクトールの笑い声につられて、パトリックも笑っていた。

「その髪色は目立ちますから、ノア様にも魔道具を差し上げますわ。」

ノアは、エスターから、髪色を変える魔道具を受け取った。この魔道具を社交界に広めて欲しいという、エスターの意図を理解した上で。

「リク、何色がいい?」

「ママとおんなじいろ!!」

「ロザリンの色な。」

「のあさまも、おんなじ!?」

「ああ、おんなじだな。」

そのとき、髪色を変えたノアの姿を見たロザリーヌの両親が悲鳴を上げ、慌てふためきながら厨房へ戻って行った。ノアが、ロザリーヌの家を訪ねた際に被っていたウィッグの色が、この髪色だったのだ。あのときの恐怖を思い出した両親は逃げ惑い、厨房からは大きな物音が聞こえてきた。ノアは厨房を一瞥すると、パトリックの目にふたりが映らないよう店を出て行った。

物音が気になり厨房を覗いたメアリーは顔を引きつらせ、リーバイの袖を引っ張りながら、あのふたりからパトリックと同じ色が見えると訴えた。厨房を確認したリーバイは、ため息をついた。エスターから、ロザリーヌの両親がここで働いていることを聞かされていなかったのだ。エスターは堂々とした様子で、パトリックをあのふたりから守るため目の届くところで働かせているのだと説明した。リーバイは頭を押さえ、それを前もって説明するように言っているのだと声を荒らげた。その様子を見ていたシルヴィアは、リーバイが大声を出せることに驚き、エスターの相変わらずな秘密主義には呆れていた。20年ともに暮らした元夫と娘に対して他人事のような態度のシルヴィアに、前男爵夫妻は嘆くのだった。

その隙に、高貴な人々に囲まれ、いたたまれなくなった新婦の母であるナナリーは、ハンスたちの席へ逃げて来た。

「マリーさんは、仲間だと思っていたのに。辺境伯様の乳母で、元王妃様とも仲がよくて、国王陛下とも昔から知り合いだなんて…。」

「メアリーが恨めしそうな顔で、逃げたナナリーのことを見てるぞ。」

ハンスに言われても、ナナリーはメアリーの方に目を向けなかった。

「私は、ただのメイドだもの。あのような高貴な方々と同じ席に着くだなんて、おこがましいわ。あなたたちの母親たちなんてね、私が、『披露宴に一緒に出席して』って必死にお願いしたのに、出席者を知ったら、みんなして逃げたのよ!?」

『あぁ……。』

各々、自分の母親を思い浮かべて納得した。

「俺たちも、大旦那様と大奥様から、メアリーの結婚を祝って欲しいと頼まれていなければ、全員が出席していたかわからないよな。」

「あら、ハンスは薄情ね。私は、結婚式にも出たかったわ。私がつくったウエディングドレスを着たメアリーを見たかったのに!ケイトはいいわよね。招待されたんだから。」

「メアリーは、みんなに気を遣ってしまうのよ。ほら。メアリーが幼い頃に、みんなは男爵家から出ていたでしょ?きょうだいだと言われても、一緒に暮らした記憶がないから、実感がないのだと思うわ。そういう点では、ダグラスとジルベスター、バーバラと同じよ。」

「そうね。実の兄たちが"あれ"だから、メアリーに手をかけてあげられなくて、あの子は甘え方を知らずに育ってしまったのよ。だから、みんなの時間を奪えないなんて変に気を回しちゃって、式に招待出来なかったようなの。」

今日、男爵家の一同が集まることができたのは、ヴィクトールの気まぐれな思いつきのおかげなのだ。メアリーは、シルヴィアと一緒なことで、男爵家の人々が集まっても罪悪感を持たずにすんでいた。もしこれが、メアリーのためだけに集まっていたとしたら、彼女はいたたまれなかっただろう。

「みんな、今日はメアリーのために集まってくれて、ありがとね。みんな母親が違うのに、きょうだい仲よくやってくれて助かるわ。あなたたちが、メアリーのきょうだいでよかった。」

ナナリーはメアリーに目を向けてから、イーサンとネイサンを見て、皆に念を押した。

「"あれ"の面倒も、頼むわね??」

「あいつらだって成長してるぞ。伯爵様とメアリーの結婚に難色を示したエスターお嬢様を説得したのは、あのふたりなんだから。」

「あの子たち、語彙力があったのね。」

「今なんか、王宮とヴェルナー辺境伯邸、それから湖畔の別荘を転移魔法陣で繋ぐよう、陛下から頼まれているところだぞ。あ…。お嬢様が金の話をはじめたな…。」

嫌な予感がした途端、ハンスはエスターに呼ばれ、交渉の場に引っ張り出された。

「ハンスも大変ね…。それにしても、みんな立派になったわ。自分の店を持ってるんだもの。ダグラスは、伯爵家の庭だけじゃなく、湖畔の花もきれいに咲かせているし。そうそうダグラスには、メアリーがいつもお世話になってるわね。」

「い、…いや?世話になってるのは、むしろ、こちらの方だが…??」

おどおどするダグラスを、一同が心配そうに見つめていると。

「じつは、俺…。自分の出自を妻にも息子にも、言ってなかったんだ…。」

複雑な出自なだけに、皆はダグラスに理解を示した。

「それで、息子のトムがな…。どうやら、メアリーに想いを寄せていたらしい。俺が出自を隠していたせいで、トムは、メアリーが自分の叔母だと知らずに…。」

ダグラスの話に、全員、かける言葉が見つからなかった。

「伯爵様とメアリーの結婚が決まり、落ち込むトムに、メアリーとシルヴィア様は叔母で、エスターお嬢様はいとこだと打ち明けたのだが、激怒してな…。2ヶ月経った今でも、口をきいてくれんのだ…。」

「…きっと、時間が解決してくれるわ。それに、メアリーみたいな子ならどこにでもいるわよ。」

ナナリーにとってメアリーは、他のきょうだいのように突出した才能のない普通の子だった。そう考えると、急に不安になった。

「待って…。本当にあの子に、伯爵夫人が務まるのかしら??だって、メイドの仕事しかできない子なのよ!?」

「ナナリー、大丈夫よ。私が、メアリーの侍女になって支えてあげるから。」

「ケイトっ!!王宮勤めで得た、あなたの知識と情報があれば、心強いわ!!メアリーのことよろしく頼むわね!」

「ケイトっ!!今の話、本当!?私の侍女になってくれるの!?」

自分の侍女になるという話が聞こえたメアリーは、メインテーブルからケイトのもとに駆け寄り、抱きついた。

「ええ。伯爵様にも了承を得ているわ。かわいい妹が貴族社会で揉まれるのを黙って見ていられないもの。」


この選択が、ケイトの人生を大きく変えることになるのだった。



後日。

ヴィクトールの計らいにより、リーバイとメアリー、ガイアスとシルヴィアの結婚お披露目を兼ねた夜会が王宮で開かれた。

合同披露宴は新聞やゴシップ誌に取り上げられたため、4人は多くの人から注目を集めていた。ジルベスターの記事のせいだとむくれていたメアリーは、ケイトに背中を押され、リーバイになだめられながらダンスフロアへ向かった。

ひとりになったケイトのもとへ、王太子のアーノルドが近づいて来た。

「久し振りだね、ケイト。どうか、僕と結婚してくれませんか?」

そう言ってアーノルドは、手を差し出した。突然の出来事に、ケイトは他の誰かに向けた言葉ではないかと、キョロキョロと辺りを見回した。

「あはは。すまない、間違えた。僕と踊ってくれませんか?」

「殿下、ご無沙汰しております。今の…。とんでもない言い間違いでしたわね。」

「だが、君を王太子妃に望んでいるのは本心なんだ。君は、適任だからね。王宮の内情にも、貴族の情報にも詳しく、なにより他人の悪意に屈しはしないだろう?」

「殿下は以前、王太子妃にエスターお嬢様を望まれていらっしゃいましたよね?」

「彼女の能力は王妃にぴったりだろう?僕でなくても、弟の妃にとも考えたのだが、彼女の手綱は握れそうにないからな。結局は、従兄いとこに嫁いでしまったんだが。そんなとき、君が男爵家の養子だとノアから聞いたんだ。」

「私なら、手綱を握れると??」

ケイトが怪訝そうに尋ねると、王太子はニヤっと笑った。

「君は、養父母から勧められた縁談を断ることが出来るか?それに妹思いの君は、またとないこの好機を逃すはずがないだろう。自分が王太子妃になれば、アンダーソン伯爵夫人を守る力を得られるのだからな。」

「…殿下は、国王陛下そっくりでいらっしゃいますね。陛下も、そのようなお言葉でノア様を王太子殿下の側近にお誘いしていましたわ。」

「あはは。そうなのか。返事はすぐでなくて構わないから、よく考えてくれ。では、ひとまず踊ろうか。」

差し出された手を取ったケイトは、このあとの展開が、手に取るようにわかってしまった。思いつきのようなこの求婚が、じつは周到に準備されたものだと気づいたから。ケイトが暗躍し情報を得てきたのと同様に、ケイトの情報もまた王室に掴まれているのだ。

自分がこの求婚を断ったとしても、アーノルドは養父母に縁談を持ちかけ、この縁談を勧めるよう言葉巧みに誘導するだろう。前男爵夫妻から勧められた縁談なら断れない。そしてなにより、メアリーを守る力は喉から手が出るほど欲しかった。

「弱みがあることが、エスターお嬢様と私の大きな違いですわね。」

ダンスをしながら、諦めたようにケイトが口にした。

「いや、彼女にも弱みはあるだろう??ロックハート小侯爵夫人がな。まぁ…、夫人を利用したら、彼女にこの王宮をふっ飛ばされそうだけどな。」

「ふふふっ。そうですわね。フィリア様を利用しようものなら、お嬢様の旋風が吹き荒れるでしょうね。」

曲が終わり、アーノルドから離れようとしたケイトはギョッとした。左手の薬指に指輪がはめられたから。

「殿下っ!?返事はすぐでなくてもよいとおっしゃいましたよね??」

「ダンス一曲分は待ったじゃないか。それに、もたもたして、また弟と競合なんてごめんだからな。せっかくケイトが、メイドから男爵令嬢に転身して戻って来てくれたんだ。僕は、このチャンスを逃すつもりはないよ。」


王宮でメイドとして働いていたとき、情報を得るためにアーノルドに接触し過ぎたせいで興味を持たれたのだとケイトは思った。だがじつは、アーノルドがケイトに興味を持ったきっかけは別にあった。

あるときまでは、エスターもラザラスも、もちろんフィリアも、王宮でケイトと遭遇しても他人を装っていた。しかし…。ラザラスとのすれ違いを解消し、雪解けのあとの春のような状態となったフィリアは、舞踏会の会場で給仕をしていたケイトを見つけると、彼女に向かって手を振ったのだ。それも、ものすごく親しげに。

そう。アーノルドがケイトに興味を持つきっかけとなったのは、フィリアがケイトに手を振っているのを目撃したからだった。


そこから、ケイトの素性を調べ上げ、王太子妃としての資質を見出したのだ。

お花畑フィリアによるバタフライエフェクト

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