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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#59 未来を映す姿見が見つかったら… 最終話

最終話

番外編:第5弾

ノアとパトリックの約束

ノアが、アーノルド王太子の側近になってから10年が経った。この10年の間に、王位は、ヴィクトールからアーノルドへと継承されていた。王太子妃だったケイトは、皇后になった。


パトリックは今もアンダーソン伯爵家で暮らしていて、ノアとは定期的に会っていた。

「ねぇ、パパ。僕って、ものすごく恵まれてるよね?」

王都のアルベルティン邸を訪れていたパトリックが、ノアへ問いかけた。母親のロザリーヌが亡くなり、父親であるノアとも離れて暮らす、そんなパトリックを恵まれているとは思えず、ノアは答えられなかった。

「だって。血の繋がりがないのに、伯爵家のみんなは優しくしてくれているから。このアルベルティン家もそうだし、ロックハート家やエヴァンス家、ヴェルナー家のみんなにもね。」

「俺がリクを守るのは当然だから、うちは別にしても。確かに、両陛下や男爵家の人たち、たくさんの人がリクを気にかけてくれているよな。」

「前にね。ハンスの奥さんのサラさんに、ママの話をしてもらったんだ。そのとき、サラさんのことも聞いたんだよ。」

ハンスの妻のサラはとある貴族の婚外子で、使用人以下の扱いを受けて育った。ロザリーヌは両親に強いられ、その屋敷で働かされていたのだ。

「サラさんは婚外子だからって、虐待を受けていたんだって。ハンスやメアリー義母様たちも婚外子だけど男爵家の養子になっているから、僕は知らなかったんだ。世間で婚外子がどんな目で見られているかを。」

「そうだな。伯爵家と男爵家が特別なだけで、世間ではサラのような境遇の者が多いのだろう。」

「だけどハンスはね、自分もサラさんと同じ婚外子なのに、出逢ってからずっと冷たい態度だったんだって。」

「ハンスも、エスターさんと同じで、身内以外には厳しいからな。虐待されて育ったサラの境遇には同情していたけど、容姿も性格も好みじゃなかったと言っていたしな。」

エスターが、フィリアから教会への慰問に誘われた際、ハンスも同行し、そこで実家から逃げ出し教会に身を寄せていたサラと出逢った。サラの境遇に、フィリアは心を痛めたが、エスターとハンスは興味を示さなかった。それどころか、自身の生い立ちを嘆くばかりで、教会から外の世界へ踏み出そうとしないサラに苛立ちを覚えていた。そしてハンスは、いつまでたっても前に進もうとしないサラへ、境遇を嘆いていてもなにも変わらないと厳しい言葉を投げかけた。その言葉が、サラを奮い立たせるとともに、ハンスへ好意を抱くきっかけとなったのだ。しかしハンスはサラの想いに応えず、サラは長いこと片想いをしていた。そんなふたりの関係に変化をもたらしたのは、月兎の血による発情だった。

「僕ね、サラさんの話を聞いてから、エスター義姉様に他の家での婚外子の人たちの扱いを聞いたんだ。それで、僕は恵まれているって気づいたんだよ。」

「ごめんな。リクを伯爵家の養子にしてしまって…。」

「だけどパパは、僕と暮らせるように努力をしてくれたでしょ?それを断ったのは僕だからね。リーニャと一緒にいたいからって。」

「俺は、リリアーナ嬢に負けてしまったんだよな。」

「ごめんね、パパ。だけど、僕はものすごく幸せなんだよ?パパとシャーロット様にも子どもが生まれて、遺伝上のきょうだいもできたしね。」

パトリックは、ノアとシャーロットとの間に何年も子どもが生まれない理由を、ノアがロザリーヌを忘れられないからだと思っていたが、実際は、シャーロットが避妊薬を飲んでいたからだった。ロザリーヌが亡くなるきっかけとなったが出産だったこともあり、シャーロットは出産に恐怖心を抱いていた。そして、さらに追い打ちをかけたのが、知人の出産に居合わせたことだった。これまで、公爵令嬢として常に美しい立ち振舞いを徹底していたシャーロットは、『人前であんな醜態を晒す真似なんて出来ない』と拒否感をあらわにしたのだ。それでいて、エスター主催の"大人のお茶会"で聞いた閨事に関心を持ち、茶会で得た知識を試そうとノアに迫った。これは醜態ではないのかと聞いたところ、ノアになら醜態を晒しても平気なのだとシャーロットは言った。そして5年前。自分たちに子どもができないことをパトリックが心配していると聞いたシャーロットは、理由を言わないでとノアに口止めしていた。それも、今となっては笑い話だった。

ちなみに、大人のお茶会のメンバーは。フィリア、エスター、ケイト、メアリー、スカーレット、シャーロットで、講師はバーバラの店から招いていた。


「でもママを思うと、かわいそうだなって…。ねぇ、パパ。僕たちは、ママがいなくなったこの世界で生きていくけど、ママが幸せになる世界があってもいいと思わない??その世界では、パパとママと僕が一緒に暮らしているんだよ。」

「そんな夢は、これまで何度も何度も思い描いたよ。」

「パパも知ってるでしょ?僕は、小さい頃に聞いた話を覚えてるって。あの頃は言葉の意味がわからなかったけど、最近わかるようになったことがあるんだ。ラシュはね、未来を変えたんだよ。」

「ラザラスさんが未来を変えた??」

「ラシュの見た未来では、フィーアとエスター義姉様が死んじゃうんだって。…僕のせいでね。」

「あの、ふたりが亡くなる??なんだよその未来。だとしても、どうしてそれがリクのせいなんだよ!?」

「ママが死んでひとりになった僕は、お義父様に連れられて伯爵邸へ行ったんだ。だけど、僕をお義父様の婚外子だと勘違いしたシルヴィア様が、魔力暴走を起こしてしまったんだよ。ここまではね、本当にあった話。」

パトリックは、何年にも渡り耳にしてきたまわりの会話から、未来を映す姿見があることを突き止めたのだ。

「ラシュが見た未来では、その魔力暴走に巻き込まれてエスター義姉様は亡くなって、お腹にリオがいたフィーアは、義姉様が亡くなったショックで早産になるんだ。それで、だんだん心も体も弱っていって、幼いリオを残して死んじゃうんだって。ママと僕みたいに…。」

「未来を見たって話、リクは信じてるのか?いや別に、ラザラスさんが嘘をついてると言ってるわけではないけど。そんな嘘をつく意味もないしな…。」

未来を見たなどという話を鵜呑みにすることは出来ないが、ラザラスが嘘をついているとも思えず、ノアは頭を悩ませる。

「フィーアも未来を見たみたいだよ。リオの名前を呼びながら死んでいく自分の未来を。その未来を、ラシュとフィーアとウィル義兄様が変えたんだ。パパも、変だと思ったことない?パパが泣いたとき、ラシュもフィーアもものすごく泣いていたよね??」

「確かに、泣いていたが…。」

ノアは、これまでにラザラスからかけられた言葉を思い返した。

無理にロザリーヌを忘れなくても構わない。ロザリーヌの後を追ってはいけない。パトリックと、ちゃんと向き合うこと。パトリックが、自分のせいでロザリーヌが亡くなったと思わないように気にかけること。

ラザラスが、これらの言葉を口にした理由は…。

「僕はね、ママの運命を変えたいんだけど、パパはどう思う?」

「だけど、運命を変えるってどうやって…。その方法は聞けたのか??」

「未来を映す姿見があるんだよ。今は、どこにあるかわからないけど…。イーサンとネイサンがよく行く魔道具屋に、僕も何度か連れて行ってもらったんだ。ふたりは行く度に、店主と姿見がいつどこに現れるか話し合ってて、みんなの予想ではね、そろそろ魔道具屋か、フィーアのドレスルームに現れるんじゃないかって。」

ノアは、イーサンとネイサンに『自分も行く』と言って聞かず、強引について行くパトリックの姿が目に浮かんだ。

「そうか…。それならまず、その姿見が見つからないことにはどうにもならないんだな…。」

「うん。それに姿見が見つかっても、時空を越える魔術が使えなければ過去に送れないんだ。その未来では、イーサンとネイサンが使えたみたいだけど、今はエスター義姉様とフィーアが生きているから、その魔術が使えるようになるかはわからないよね…。」

「あの双子にとって、エスターさんとフィリアさんは、自分たちを理解してくれる特別な存在なんだよな。だから、おふたりが亡くなった事実を捻じ曲げたとしても不思議ではないよ。どんな犠牲を払ってもな。」

「パパ、ごめんね。姿見を見つけてもないのに、ママの運命を変えるだなんて言い出して。」

ノアは、しょんぼりするパトリックの頭をなでた。

「リクは、すごいな。何年も前に聞いた会話から、姿見の存在に気づくなんて。やっぱり、過ごしている時間が長いから似てくるのか、情報から答えを導き出すところエスターさんたちみたいだな。」

「血は繋がってないのに、おかしいよね。」

そう言ったパトリックは、どこか嬉しそうだった。

「僕は今も幸せだけど、パパとママと一緒に暮らしたかったって思ってるんだよ。だけど、僕が伯爵邸へ行かないと、たくさんの人の人生が変わるんだ。そうなるとたぶん、リーニャとは出逢えないと思う…。」

「俺も、ロザリンとリクと一緒に暮らすのを夢見たよ。だけどな、リク。泣くほど嫌なら、リリアーナ嬢と出逢えない人生なんて考えなくていいんだからな。それに悩むのは、姿見を見つけてからじゃないか?」

「うん…。そうだね。それに姿見が見つかって、時空を越える魔術が使えるようになっても、ラシュとウィル義兄様が姿見を過去に送るのを邪魔してくると思うんだ。ママが生きてる世界では、ラシュはフィーアと仲が悪くて、ウィル義兄様はエスター義姉様と関わりを持てないかもしれないから。」

「そのふたりを説得するのは難しそうだな。」

「ふたりとも、奥さんのことが大好きだもんね。だからこそ僕は、仲が悪いラシュとフィーアを想像できないんだよ。フィーアはね、ラシュに愛されてないと思ってたんだって。誰が見たって、ラシュはフィーアのことが好きだってわかるのに、信じられないよね?」

「ラザラスさんとエスターさんは、『俺のリア』『私のリア』って張り合ったり、リアの飴、リアの湖、リアの刺繍、リアの馬車とか、口を開けば、『リアリア』言ってるからな。俺が、フィリアさんからもらった、"次男"って刺繍されたハンカチも欲しがってたし。自分も次男だから、問題ないって。」

「それなのに、どうしてすれ違っちゃったんだろうね??僕は、リーニャとすれ違いたくないな。」

「まわりから見たらわかりきっていることでも、本人たちにはわからないこともあるんだよ。」

「そっか。ママも、パパの幸せのためだと思って、パパから離れたんだよね。そんなわけないのにね。パパは、ママが亡くなって大泣きしたんだから。」

「あぁ…。それで、リクにうるさいって怒られたな。それにしてもリク、そんな幼いときのことをよく覚えているな。」

大泣きした話を蒸し返され、バツが悪くなったノアは話をそらした。

「みんな、僕がいてもいろんな話をしていたんだよ。小さいから、どんな話かわからないと思ったんだろうな。ママの話を聞きたくて、バーバラを訪ねたときもね、避妊薬の話をされたんだ。」

「…それは、誰と行ったんだ?」

「一緒に行く人は、そのときによって違うよ?」

「何度も行ってるのか…。ちなみに、何歳から行ってるんだ??」

「はじめて行ったのは、3歳だよ。」

パトリックにとってバーバラの娼館を訪ねることは、ミアやコリンナ、スザンヌの店へ行くのと同じ感覚だったのだろう。それを理解できても、ロザリーヌの話を聞くためとはいえ、幼いときから息子が娼館に出入りしていると聞いて、ノアは複雑だった。

「バーバラは、錬金術で作った値段の高い避妊薬をママにあげたことで、エスター義姉様に叱られたんだって。その薬は特別でね、兎の血が暴走したときのための、ハンスやイーサン、ネイサン用だったから。」

「3歳の子ども相手になんて話をしてるんだよ…。」

「そのことがあったから、メアリー義母様が薬をもらいに行ったとき、高い方じゃなく、普通の避妊薬を渡したんだってさ。義母様が使うとは思わなくて。だから僕、バーバラに感謝してるんだよ。そのおかげで、リーニャが生まれたんだからね。」

「バーバラは懺悔のつもりでリクに話したんだろうな。まったく、リクは牧師じゃないぞ。」

バーバラは自分の失態を隠し通すつもりだったが、秘密を抱えているのがつらくになり、話すことで心のもやもやを消そうとした。そこで、3歳の子どもならすぐ話を忘れると思い、パトリックへ打ち明けたのだ。パトリックが超記憶を持っているとは知らずに。

「なぁ。やっぱりリクは、リリアーナ嬢のいない世界なんて生きられないんじゃないか??」

「それは僕も、そう思うけど。ママを幸せにしてあげたいって気持ちも、本当なんだよ…。」

ノアは、パトリックを力強く抱き締めた。

「それなら。もしも、未来を映す姿見が見つかったときには、協力してロザリンの運命を変えような。」

「それじゃー。イーサンとネイサンにやる気を出してもらうために、珍しい魔石を用意しておかなきゃいけないね。術が完成したら、ラシュとウィル義兄様には、邪魔しないでって必死にお願いするよ。」

「ふたりも必死に阻止してきそうだけどな。」

「パパ、負けちゃダメだよ。」

「俺、あのふたりに勝てるかな…。とにかくまずは、その姿見を見つけようか。」


こうして。

ノアとパトリックは新たな約束を結んだのだ。

もしも、未来を映す姿見を見つけ、過去に送ることが出来たなら…。いつ、どこへ送るのが最適解か。そして、その世界線の自分たちは、どんな未来を掴むのだろうかと想像を膨らませた。

ノア、16歳の誕生日。

部屋でひとり、自分とロザリーヌの誕生日を祝っていたノアは、部屋の隅に見覚えのない姿見が置いてあるのに気がついた━━━。

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