力を備えて
「『火拳』…付加…」
重の腕から出る炎。煌めきながら燃える炎は姿を変える。
「ダメか。…なら」
「『蛍火』×100。を留める。」
本来誘導弾となる蛍火。その炎を留めることにより重の火拳はその形を剣に変える。
「…『火剣』。」
剣というよりは籠手に刃が付属したような形になったそれを重は見つめる。
『ボッ、ボボッ…』
その刃は徐々に長さを増していく。
「よし、良い感じ。これで俺の苦手な中距離を打開する鍵が手に入ったな。」
遠距離に関して言えば多重魔法による重爆撃や、新しい必殺技である双砲火などの火力を有し学園でも屈指の殲滅力を持ち、ゼロ距離では火拳での格闘といったパターンがあったが重自身の間合いから出られた場合危険を覚悟で打って出るしかなかった。その欠点を補うために考えた方法だった。
「あとは…これの使い方か。これはあくまで体の延長線。剣技ではないよな。体術、そうなると…あの人かな。」
重の頭に1人の人物が思い当たる。その拳を武器とし戦う小さな先輩の姿。あまり言葉は交わしたことはないが当たって砕けろの精神で頼むことにする。…一応若草にちょっと口利きをしてもらうことは忘れないようにする。
「…うん、代償も抑えられてるな。」
火拳を解きその腕を見る。魔力による代替の証拠である光の粒子が明らかに以前より少なくなっていた。自身の腕を魔力で薄く覆っているためである。
「…でも何もない時ぐらいゼロにしないと。戦闘中そんなに集中できないしね。」
「確実に強くなる。…道は見えた。」
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「おいで、ミニ大樹君。」
静かな闘技場。他の闘技場とは違って喧騒は感じられない。それも当然である。七星に与えられた専用の闘技場であるからである。そこで若草はミニ大樹君を召喚していた。体の前で腕を組んだ状態でミニ大樹君が現れる。
「さて…と、新しいギミックを組みこもうか。」
そう言うと若草は目を閉じる。両手をダラっと下げ脱力する。そして若草の思考は深く深く沈んでいく。
(…次、…コレは違う。…これは一部改良の余地あり。…あり。)
次々と頭の中で自分が実現可能な魔法とミニ大樹君との親和性を試していく。
(接敵時の耐久……増やす…姿を…魔力効率は…僕なら…20%強化…)
頭の中でアイデアが固まり始め若草は右手をミニ大樹君に差し出す。
『ピトッ…』
それに合わせるようにミニ大樹君も腕を出し若草の手と触れ合う。
『パリッ!…パリリリリ』
1人と1体の間に魔力が流れる。
「…これで良いかな。さぁいこうか、大樹君。」
『バッ!』
若草と大樹君は躍動する。
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「貴方が無藤さんですか。」
学園長室で如月の隣に座る無藤と学園長は向き合っていた。以前如月に見せられた書面には無藤をこの学園で採用するようにとの内容が書かれていた。
「あの件は私も知っています。私として正直…納得がいっていません。」
「ぴくっ…」
学園長の言葉に無藤が反応する。
「とは言っても釈放についてではありません。…そもそも貴方の拘束に納得していませんでした。」
「俺の事を知ってるのか。そうだな、お前も国家魔導師だったな。…それでどうするんだ?元囚人である俺を使うのか?。」
「先ほども言った通り貴方の拘束自体に納得していないのです。何の問題もありません。貴方ほどの実力者にいてもらえるなら学園にとっても喜ばしいことです。」
「…ここに厄介になろう。」
「…ふっ、まとまったようだな。俺の仕事はここまでだ。」
2人のやりとりを見守っていた如月が席を立ちながら言う。
「次に会う時は…戦争かもしれんな。」
不吉な事を言い如月が退室する。その顔はそれを望んでいるかのように見えた。




