蒼く燃やせ
「よしっ!。……ふっ、『火拳』。」
重が火拳を発動する。場所は校内の闘技場。淀みなく発動された燃える拳。現状重の誇る最大攻撃力の魔法である。
(ここからだ。…集中しろ。イメージは出来ている。蒼く燃え上がれ。)
重の纏う魔力が跳ね上がっていく。
「…×10、20、30、…100。…」
重が唱えるごとに火拳の勢いは増していき遂には右腕の全てを飲み込むまでになっていた。重の額に汗が浮かび上がる。
(…くっ、まだか?。これ以上は…)
その表情は苦悶に満ちていた。火拳によるダメージによるものである。
「…ダメだ。……はぁ、はぁ…、」
火拳を解除しへたり込んでしまう重。息を切らして地面に座り込む。
「あれ以上重ね掛けは出来ない。はぁ…いいことを思いついたと思ったのに。」
重の脳裏には合宿で見た木暮の蒼炎があった。明らかに常ならざる炎。炎すら飲み込む炎。その力を手に入れようとしていた。
「……もう1回やるか。」
重が気合を入れ直し立ち上がる。すると闘技場に人が入ってくるのが見えた。重が使っている闘技場は校舎からは離れており使用者はあまりいない。というより重達しか使っているところをみたことがなかった。
「やってるね、重君。調子はどうだい?。」
半ズボンにTシャツ、サンダルと夏全開のいでたちで現れたのは若草であった。
「全然ですね。思った通りにいかなくて…。」
「…君がやろうとしているのは蒼い炎かい?。」
「え?なんでわかったんですか?。そうです俺あの炎を使いたくて。火拳にあと掛けで火炎を加えてるんですけど一向に駄目なんですよ。」
「あの蒼い炎はね…かなり難しいと思うよ。多分僕でも…」
そう言い若草が魔力を纏い始める。辺りに風が吹き荒れ砂が舞う。
「…いけるか?。………灯れ。」
若草の指先に蒼い炎が灯る。それは重が追い求めたものだった。
「え!すげー!。大樹さん、凄いですよ。それです俺がやりたいの。」
興奮を隠せない重。若草の成功により蒼炎が火帝だけのものでないと判明したからである。
「くっ…これは、……『ドサッ』」
突然若草が崩れ落ちてしまう。
「大樹さん⁉︎どうしたんですか!。」
「はぁ、はぁ…。いや〜、魔力を思いの外持っていかれてしまってね。思わず倒れてしまったよ。僕にはこの魔法は使えないようだ。あくまで僕にはね。」
若草が立ち上がりながら言う。
「正確には使わないと言った方が正しいね。費用対効果が悪すぎる。これだけの魔力さらに集中を戦いの中で用いることは僕には出来ない。」
若草の魔力コントロールをもってしても使用は出来ない。それはつまりほとんどの人が使用できないことを表していた。
「そうですか…大樹さんでも難しいんですね。」
落ち込む重。新しい切り札になる可能性があっただけにその落胆も大きい。
「…ただし僕には使えないが君ならどうかわからない。君の多重魔法は常識から非するものだからね。コツは大きくしないこと。あの炎は密度が違う。焦らずにやるといい。もし…君がその炎を使えるようになったらその時は僕と本気でやろう。」
「わかりました。そうですよね、こんな炎すぐに使えるわけないですよね。まぁ、じっくりやりますよ。」
まだ諦めない。強くなれる可能性があるなら試す。Level2までしか使えないと言う魔導師としては致命的な欠点が重に強い心を植えつけていた。
「楽しみにしているよ君がその炎を操る日を。」