兵士たちの噂話
訓練場は静まり返っていた。
いや、ほとんど、というべきか。
武器庫のそばの木製のベンチに、二人の人影が座り、午後の光の中を舞う塵を眺めていた。どちらも訓練はしていない。どちらも警備もしていない。この一時間、二人とも一度も動いていなかった。
マーカスが身を乗り出した。「お前も見てるか、俺と同じもの?」
ドリアンは目を細めた。「どっちの話だ? あの、槍持ちのブロンドか?」
「エレナだよ。ああ。今じゃ【大槍】って呼ばれてる。とんでもない女だ」
「とんでもない、ね」ドリアンは足を伸ばした。「まあ、そういう言い方もあるな」
マーカスはにやりと笑った。彼はこの六年、王都に配属されていた。そこで学んだことはただ一つ——勇者たちの訓練を眺めている方が、実際に働くよりよっぽどマシだということだ。
「彼女の動き方、気づいてるか?」マーカスが尋ねた。「まるで体の中にワイヤーが入ってるみたいだ。張り詰めて、弾けるような」
「俺は、主に脚を見てるけどな」
「変態め」
「お前が始めた話だろ」
マーカスは笑った。ドリアンは年下で、頭も悪く、なぜかそれ以上に怠け者だった。何もせず眺めているには、完璧な相棒だった。
「よし、よし」ドリアンが手を振った。「言ってみろよ。お前の一番は誰だ? あくまで、観察の範囲でな」
マーカスは顎を掻いた。「あの小さいの。ミオだ。治癒師の」
「マジかよ? あいつ、十二歳くらいに見えるけど」
「十九だよ、馬鹿。それに、あの——」彼は曖昧に手を振った。「——あの、無垢な感じがいいんだよ。大きな目。優しい声。刺した後にちゃんと謝ってくれそうなタイプだろ」
「それ……妙に具体的だな」
「お前が聞いたんだろ」
ドリアンは鼻を鳴らした。視線が訓練場を横切っていく。「よし、じゃあスズは? 金色のあの子」
「スズか? いや、あいつはうるさすぎる。子犬みたいに跳ね回ってさ。可愛いのは可愛いけど——」マーカスは言葉を止めた。「いや、待てよ。あいつ、元気があっていいな。絶対に楽しいタイプだぜ」
「楽しい、ね」
「うるさい」
「変態はお前の方だろ」
一人の人影が走り抜けていった——黒髪、鋭い顔立ち、まるで何か大事な用事に遅れているかのような足取り。
「あれ、ハルだよな? 無口なやつ」
「ああ。あんまり喋らないな。いつも地図とか作戦ばっか見てる。たぶん、自分が誰よりも優れてると思ってるタイプだ」
「あの、謎めいて陰のある感じ、女は好きだろうな」
「お前が好きなんだろ」
「俺は可愛い子が好きなんだよ」ドリアンは小石を投げつけた。「それとは違う」
「違うか?」
次に二人はレンを見た。訓練用の剣を人形に振るい、腕には炎が揺らめき、いつもと同じ笑みを顔に貼りつけている。
「レンか。【炎の担い手】。モテ男」ドリアンが大げさにため息をついた。「あの髪型だったら、俺だって無敵だったのにな」
「あの髪型だったところで、お前はお前のままだよ。ブサイクで役立たず」
「ひどいな」
「事実は痛いもんだ。とにかく——あいつは見た目がいい。背が高くて、がっしりしてて、自信満々。おまけに火魔法使い。部屋に入っただけで、女全員が振り返るんだろうな」
「それ、お前の願望を語ってるだけだろ、俺のじゃなくて」
「現実を語ってるんだよ。あいつは歩く恋愛小説だ」
ドリアンは片眉を上げた。「お前、恋愛小説読むのか?」
「俺は——」マーカスは口をつぐんだ。「話がそれてきたな」
◇
カイトが、どこからともなく現れた。
一瞬前まで、二人の隣のベンチは空だった。次の瞬間には、彼がそこに座り、短剣を磨いていた。
ドリアンはベンチから転げ落ちそうになった。「うわあっ——」
「な——」マーカスは肘掛けを掴んだ。
カイトは笑った。その笑みは、目までは届いていなかった。「気にするな。ただ休んでるだけだ」
彼は再び姿を消した。
ドリアンは、何もない空間を見つめた。「……あいつ、嫌いだ」
「恐ろしいやつだよな。だけど——」マーカスは声を落とした。「——なんつーか、綺麗な顔してるよな」
「お前、もう手遅れだな」
◇
そして、エレナがいた。
彼女は訓練場の一番奥で、槍を手に、型稽古を繰り返していた。一つ一つの動きが精密だった。制御が行き届いていた。まるで、殺すことを目的とした舞のようだった。
マーカスは身を乗り出した。「よし、次はあの子だ。あれは、お前を叩き潰す女だな」
「叩き潰されて、礼を言うね、俺は」
「ほら見ろ、やっぱり変態だ」
「俺はただ、鑑賞してるだけだ」
「同じことだろ」
二人はしばらく彼女を見つめた。エレナは槍を回し、突き出し、引き戻す。肩の高さで切り揃えられた黒髪が、光を受けて輝いた。
「そういや、あいつって何なんだ?」ドリアンが尋ねた。「いつも一人でいるよな」
「噂じゃ、誰かを探してるらしい。何年か前に消えた勇者とかで」
「七人目のか?」
「ああ。力のなかったやつだ。追放されたとかなんとか。それ以来ずっと、あちこち聞き回ってるらしい」
ドリアンは首を傾げた。「へえ。じゃあ、あの——」彼女の方へ手振りをした。「——槍のオーラの下に、意外と柔らかいとこがあるんだな」
「本人の前でそれ言うなよ」
「馬鹿じゃないんでな、俺は」
二人はまた黙り込んだ。
マーカスは声をひそめた。「よし。本当に聞きたい話、するか?」
「何だよ」
「王妃様だよ」
ドリアンはむせた。「お前——正気か? 王族だぞ」
「だから何だ? 俺にだって目はある。あの人、毎日あの玉座に座って、扇を手に、涼しい顔してる。でも、近くで見たことあるか?」
「……ない」
「俺はある」マーカスは背もたれに寄りかかり、城の窓を見つめた。「透き通るような白い肌、鋭い顔立ち、銀髪をきっちり結い上げてる。まるで二十年、一日も年を取ってないみたいだ。それに、あの、すべてを見透かすような目——」
「それ、捕食者の描写だろ」
「美しい女性の描写だよ」
「あの人、結婚してるだろ。王様と」
「だから何だ? 見るのは自由だろ」
「処刑されるぞ」
「それだけの価値はある」
ドリアンは彼を見つめた。「お前、死にたいのか?」
マーカスはにやりと笑った。「趣味がいいだけだ」
話題はレアナに移った。
彼女は訓練場の端に立っていた。銀の髪飾りを頭に、暗い布を目に巻いて。彼女は決して動かないように見えた。ただ、見ているだけだった。
「あの子はどうだ?」ドリアンが尋ねた。「あの、盲目の」
「レアナか。予見者、とかなんとか。よく知らん。不気味なやつだ」
「どう不気味なんだ?」
「見えないはずなのに、こっちを見てくる。それに、知ってるはずのないことを知ってる」
「例えば?」
「先週、俺がヤギのことを考えてるって言い当てられた」
ドリアンは吹き出した。「……本当に考えてたのか?」
「そこは、今の話とは関係ないだろ」
「まあまあ」ドリアンは目元を拭った。「でも、体つきはいいよな。細くて、優雅で。あの、謎めいた雰囲気全部含めて」
「お前、誰でもいいんじゃないのか?」
「俺には幅があるんだよ」
◇
影が二人の上に落ちた。
エレナがベンチの後ろに立っていた。槍を肩に預けて。目は平坦で、何の感銘も受けていない様子だった。
「楽しそうね」
マーカスとドリアンは固まった。
「俺たちは、ただ——」マーカスが言いかけた。
「ただ、何?」エレナの声が鋭く切り込んだ。「みんなが訓練してる間、尻を椅子にくっつけてただけ?」
ドリアンが慌てて言葉を探した。「観察です。俺たちは観察してただけで」
「観察」
「警備上の理由で」
「警備、ね」
彼女は瞬きすらしなかった。
「王妃様の話、聞こえてたけど。それに、レアナの話も。それと——私の話も」
マーカスは息を呑んだ。「あれは——」
「立って」
二人は立ち上がった。
「私が『やめろ』って言うまで、走り込みなさい。その後、武器庫の掃除。それから、王様に報告しないでいてあげてる自分がどれだけ運がいいか、じっくり考えなさい」
「でも——」ドリアンが言いかけた。
エレナが片眉を上げた。
「……はい、了解です」
二人は走り出した。
エレナは、槍を肩に預けたまま、二人が走り去るのを見つめていた。
(馬鹿ども)
彼女は訓練場へと向き直った。
だが、彼女の心はそこになかった。玉座の間に、ケイデンが消えたあの日に、そして、あの王が浮かべた笑みに——向いていた。
彼女は槍を握る手に、力を込めた。
(馬鹿ども)
だが今度は、衛兵たちのことを考えていたわけではなかった。




