Ep.7 英雄はかくして語られない。
「あ”~~~~~~~~、やっっっっっ……っと解放されたぁ~~~~~~~~!!」
人間の営む都市アースグラードの広大な街中の片隅にひっそりと佇む宿屋兼酒場の『黄昏のひさし亭』にて。
日陰者たちが集いがちなうらぶれた集会所は、その日も日が暮れてなお騒がしかった。
いつもと違ったのは、その中心で卓を囲んでいる一団、カイ・ヴル・デリオラ・リルの四人に加えて疲労困憊といった様子のカイルがいたことか。
「三日三晩組合に缶詰で調書取らされてたんだってェ? ご苦労さんだわね」
グラス片手に酒を楽しみながら、新しいネイルを見せびらかすヴル。
それを横目にぐったりとテーブルに突っ伏しながら、カイルはかすれた声をあげた。
「冗談じゃないですよほんとに……。大臣だの騎士団長だのとお偉い方々まで聴取に参加されるし、組合のトップの方々に囲まれて尋問めいた聴取が一晩中続くし……」
「それだけ今回の騒動が我が国家にとり、ひいては我々人類にとっての一大事だった、ということですね。歴史的な場面に居合わせることができなかった我が身の不運を嘆くばかりです」
眉尻を下げながら心底そのように思っています、とばかりに真面目くさった表情でそうのたまうデリオラに対して、渦中の中心人物であったカイは不愉快そうに顔を強張らせるばかりだった。
「ケッ、よく言うぜ。いい歳して色気づいたババアと、師事してた女に懸想して尻を追い回してるインテリぶり野郎が。要らねェ時ばっか首突っ込んできやがるクセになァ」
「よしきた喧嘩ね買うわ、ケツの穴までむしってやる表に出なさいクソガキ」
「言葉が過ぎますよ、カイさん? 親しき仲に礼儀あり、と言いますでしょう。折檻ですね」
懲りもせずにつまらないことで騒ぎ、取っ組み合う三人の姿はもはやこの『黄昏のひさし亭』において日常茶飯事だった。
周囲のあらくれものたちも誰が勝つかで賭けをし始める始末。
唯一喧嘩などどこ吹く風とばかりに、並べられた皿からもりもりと食事に邁進するリルの姿もまたお約束だ。
「他人事みたいに装ってますけど、グランツさんとロロララさんもそのうち呼び出されますよ」
カイルの道連れじみた発言に、しかしカイは興味なさそうに耳に小指を突っ込んで聞き流した。
「行かねーよ。時間のムダだろ」
「行かねー、って……。そうはいかないでしょ。これからアウスター周辺の哨戒とか、”砂喰竜”の対策もしないといけないですし、ふたりに支払われる報奨金の提示もそこでされるでしょうし」
「あー要らん要らん。駆除依頼の報酬は正式に受け取ったし、それ以外のことで長々と拘束されるのはゴメンだな」
「うー」
手をひらひらと振り拒否を示すカイと、その真似事をするリルの様子に、カイルは頭痛を感じて頭を抱えた。
ただ、そこそこに長い付き合いだからこそそう言いそうな気がしていたのもまた事実。
なぜ聴聞に応じないのか代わりにカイルが問い詰められることになるのは必至だが、当人たちが頑として無視を決め込むのであれば一介の職員であるカイルにはどうすることもできない。
諦めて謂れのない叱責に甘んじるよりほかにないのだ。
来る未来にいまから吐き気を感じながら、カイルは懐からさほど大きくない麻袋を取り出した。
「それはそれとして、おふたりにこれを」
「なんだ? コイツは……カネか?」
「あの周辺の村々から代表者が何人かやってきて、駆除依頼の依頼金とは別に、心ばかりの礼をと。まぁあんだけの騒ぎでしたから、村民の方々も大層不安だったんでしょうね。無事、事なきをえてそれはそれは頭を何度も下げて感謝していましたよ」
「礼を言われるようなことはしてねェんだが……ま、いいか」
いまさらその礼をカイルに突き返したところでカイルが困るだけなのは考えずとも判ることだ。
カイはその麻袋を受け取ると、英雄が受け取る報酬としては決して多くないその袋の重みを確認するように一度、二度と浮かせては掴み、その価値を計る。
「――よし! 野郎ども、今日は奢りだァ! 呑め、食え、騒げ! シャーリー、酒だ、酒持ってこい!」
「おー!」
「よしきた! 呑むわよっ!」
「景気がよろしいことで」
アースグラードの広大な街中の片隅にひっそりと佇む宿屋兼酒場の『黄昏のひさし亭』は、その日も夜通し騒がしかった。
「あの……カイさん? 言いにくいんだけど……全然おカネ足りてないです」
「はッ……? これで? 嘘だろ……」




