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悪人ヅラのやべーやつら。  作者: ことり


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Ep.5 迫る巨影。 


「グランツさんって、なんというか……ためらったり、とかないですよね」


 いくつかのゴブリンの巣を潰して回ったのち。

 カイルがふと口にした疑問に、カイの表情全体に疑問符が広がった。


「はァ?」


「うーん、なんて言ったらいいんですかね? ほかの人なら、戦意を失った魔物とかを追撃する時は結構手をゆるめたりする人も多いんですよね。追い払えばいいだろう、みたいな感じに見えるというか。そのへん、グランツさんはかなり徹底してるなって」


「意味わかンねーな。駆除依頼の目的は討滅だろーが。逃がしたヤツがまた徒党を組んで同じことをしはじめたらどうする?」


「まあそうなんですよね。おっしゃる通りです」


 カイルも魔物に対してかわいそう、みたいな感情を抱いたりするわけではない。

 過去に魔物や魔獣を見逃して徹底的に追撃しなかった者や、弄ぶように手をゆるめて結果的に殲滅できなかった者たちはどう思い、何を考えていたのだろうか。

 それを知るすべはないが、すくなくともプロの傭兵としてはカイの言が正しいということを認識しておかなければならないだろう。


「ゴブリンなら珍しいケースではあるが人間の子どもや女をさらって、ただただ虐げる目的だけのために虜《とりこ》にしていたって事例もあるしな。互いに種族が違えば価値観も倫理観も違うモンだ。生活を脅かす存在を”駆除”するのに徹底的にやらねーなら意味ねェだろ」


 カイは先程からしゃがみこんで手を動かしていた成果を、振り向いてカイルが立っていると思しきあたりの地面に転がした。


 ゴブリンの群れのなかでも比較的屈強な体格、険しい面立ち、強者の風格をまとっていたホブゴブリンの首級だ。


 筋肉質で骨太な体躯は人間の戦士とと見比べても遜色ない。

 それでいて種族的な特徴をしっかりと持ち、その上武器や個体によって魔法的技術まで扱う知能を有する。

 経験豊富な傭兵でさえ苦戦する魔物を、事もなげに討ち果たした本人がそう言うのだから説得力もひとしおだろう。


「ンだよ?」


 怪訝そうに首をかしげるカイ。

 おそらく外套を脱ぎ捨て、転がされた首級をバッグに放り込んだカイルの表情がわかりやすくある感情を物語っていたのであろう。


「あ、スミマセン。なんか意外で……。グランツさんって、なんにも考えずにとにかく武器を振り回してるようにみえて、結構考えてるんだなって」


「バカだと思ってるってことかァ? ま、否定はしねーけどな」


 軽く血振りをして大剣を担ぎ直したカイは、身を屈めてカイルに目線を合わせた。

 大きなキズ痕の奥から、胡乱げな眼差しがカイルを突き刺す。


「つーかテメー、前から思ってたが、ヴルやデリオラの野郎と比べてオレへの態度が違うくねーか? アイツらには一線引いてンのにオレにはなーんか馴れ馴れしいよな?」


「えっ、そうですか? カイルとカイで名前が似てるからですかね?」


「なんだそりゃ」


 その時、カイのこめかみがピクリと引き攣った。

 中空を見上げて凝視するその鋭い目が、まるで遠くにいるなにかの不穏な動きを察知したかのように一点に見据えられる。


「グランツさん?」


「ちと疑問だったンだよなぁ~~~。こんだけの規模のゴブリンの集団が魔獣を率いて人間の生活圏に移動してくるっつーのはよ。まるでなにかに追い立てられてるようじゃねェか?」


「それって、つまり――」


 カイルの言葉の続きを引き継ぐように、低く大地を揺さぶる鳴き声が響き渡る。


 ひび割れた地面を突き破るように姿を現したのは、歪んだ掘削具のように大きく発達した下顎で大地を抉る巨大な魔獣。

 褪せた黄灰色の全身は人間やゴブリンなどはるか矮小に見えるほど大きく、地中より這い出る体は鱗状。飛び出した長い尾は砂煙を払うように振り回され、いよいよ以てその巨躯が露わになる。


 全容を窺い見るにまるで鰐《わに》のようなその魔物は通常、人間界付近で見かけることはまずない類のもの。


「ま、まさか……っ」


「――”砂喰竜《サンドイーター》”」


 ”砂喰竜《サンドイーター》”。竜種のなかでも地上棲のもので、その掘削具めいた下顎で削り取るように大地を抉り、咀嚼するように獲物ごと食らうその様をして名付けられた魔獣だ。


「やばいですよグランツさん! ててっ、撤退です! 撤退して討伐隊の編成を!」


「それだと近くの村は全滅だろーが」


「そ、それもそうか……。いやいやでもボクらふたりじゃなにもできっこないですよ⁉」


「できるかどうかで考えンのは机に座ってあくせく書き物してるヤツらだけで十分だろ。オレらの考え方はやるかやらねーかだ」


 そう言い放ち、大剣を構える。


「それにオレらはふたりじゃねェ。寝坊で遅刻したバカがようやく来やがったぜ?」


 カイがちらりと目線だけを上に向けると、大地に小さな小さな影が映る。

 その影はすさまじい速度で魔獣へ迫ると、ひとつの人影がひび割れた外皮の魔獣の背へと組みついた。


「お――――――――!」


 それは、カイあるところにその姿あり。

 リ・ル・ロロララその人だった。


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