Ep.3 おかしなふたり。
都市部中枢の外縁部を通り過ぎると、やがて街道と野と森とが続く。点在する農村以外は人の手が入っていない自然が広がっている。
もはやちょっとした旅といっても差し支えがないのだが、道中面白いものも特になく、さしたる歓談などもなく。
半日も歩かないうちに最初の農村に辿り着いた。
「やや、お待ちしておりましたぞ! さあさあこちらへ、大したおもてなしもできませんが……」
歳のわりにはだいぶ壮健そうな老人が、幾人かの壮年の男女を従えて出迎えてくれた。
これはよくある話で、都市部中枢から程遠い郊外での駆除依頼では、付近の村々が派兵された傭兵を手厚くもてなしてくれる。
彼らの仕事ぶりが、周辺の治安を左右するのだから当然の扱いとされているのだ。
村民たちもまた持てる限りの食事、酒、接待でもってもてなそうと準備をしていたはずだ。が、
「いや結構。さっさと仕事に入りたい。一番近い目標はどのあたりだ?」
その巨漢が仏頂面で首を横に振るものだから、一同はひどく狼狽していた。
「ええっと……な、なにかお気を害することでもありましたかな?」
手を揉みしだく老人は、その手のうちに酷く汗を握っていた。
このたび派兵されてきたのは、どうやらたったふたりの男。巨漢と比べればはるかに小柄な青年は腕が立つ傭兵のようには到底見えなかったので、おそらく組合員の証人だろうというのが老人の見立てであった。
老人の経験上、男性の傭兵は特に酒と村娘の接待を好む傾向が強い。
若い女衆は宴会の席で準備をさせている為、出迎えに同行させなかったが、それが目の前の大男の顰蹙を買ったのだろうか。
いやな汗を背筋に伝わせた老人がカイの顔色を窺うように見上げると、
「何度も言わせンな。コッチゃさっさと仕事に入りたいんだ。教えろ、一番近い目標はどのあたりだ?」
実際のところカイは特段凄んだわけでもない。だが、老人の目には強面に凄まれたようにしか見えず、全身を襲った怖気に心の臓も縮む思いだった。
「あ、あの! この村を南西方向へしばらく街道沿いにいくと、隣の村があるのですが。隣村との中間、街道をすこし外れたところにある林に魔物が棲みついておりまして……! まずはそちらをお願いできますと!」
老人の背後に控えたひとりの男が、身振り手振りで説明していく。
カイにとってはその情報があれば十分だった。
「判った。さっそく向かおう」
「えっ⁉ あの、差し出がましいことですが……お、お連れの方も、よろしいのですか……?」
それはカイの巨体に隠れてしまう証人、カイルを慮っての村民の言葉だった。
まれにタフな傭兵がもてなしを受けずにそのまま依頼に向かおうとすることはあるにはある。
だがほぼ例外なく、随伴する証人はその強行軍についていけず、結局は村で多少なり休憩していくものだ。
しかし外套をすっぽりかぶったカイルはけろっとした様子で、
「問題ありません。今回の依頼は聞くところによると広い範囲に魔物が棲みついてしまっているとのこと。速やかに駆除にかかる、彼の判断が賢明でしょう」
村民一同からすれば、なんというか規格外なふたりだった。
「お、おふたりがそうおっしゃるのであれば……」
「駆除が終わり次第、次の村に向かうから解散していいぞ」
「は、はぁ」
話を切り上げ、早々に発ったふたりの背中を、遠く小さくなるまで呆けた顔で見つめる村民たち。
見るからにあくどい強面というか、『飯! 酒! 女!』と言い出しても違和感のないごろつきまがいの風体で、案外そうでもないという珍妙さになんとも言い難い可笑しさを感じて、ふたりの姿が見えなくなってもまだ見送る。
それはなかなか戻ってこない一同を不思議に思ったそのほかの村民たちが様子を見に来るまで続いた。




