Ep.2 『組合』
人間の営む大都市、アースグラードには様々な組合がある。
商人組合、職人組合といった大きい規模のものから、妻人が集う婦人会や衣食住に関する商いに従事する者たちのみで寄り合った三基協会など限られた範囲での互助といった題目のものまで多岐に渡る。
傭兵組合もまた、アースグラードに根差した組合のひとつだ。
人間の活動圏である人間界の内でも、都市部から離れた郊外だと魔物や魔獣が活動しており、相応の危険もある。
仮に都市部の中であろうと、反目し合う人間同士の諍いだってさして珍しくもない。
そのような時に、荒事の専門家として派兵されるのが傭兵組合に属する人員というわけだ。
「――グランツさん、今回の依頼お願いできますか?」
その面立ちにまだあどけなさの残る容貌で、小首をわずかに傾げるこちらの受付嬢が、名をカイルといった。
その出で立ちは制服として一律で、基本はクラシカルなブラウスとロングスカートだ。
ほかには傭兵組合の受付嬢の制服として唯一特徴的な、襟ぐりのカラーと組合員を示す徽章のついた帽子だけが全体を見た時に印象的だ。
その眼鏡の奥から問いかけるような視線を受け止めてから、カイは依頼書の内容に目を落とした。
「都市南部アウスター周辺に大小含む人型魔物とそれらが使役すると思しき小型魔獣が棲みつき始めた……か」
「ハイ。近隣の農村では人的被害こそまだ目立っていないものの、作物や家畜に被害が及んでいるようでして。住民にまで被害が出るのも時間の問題だと言われておりますので、迅速な駆除をお願いしたく」
「報酬は――悪くねえな。まァアウスター近郊は穀倉地帯だしな。さすがに国もちっとヤバそうだと踏んだか」
「ご明察です。ですので、危険性と緊急性も考慮して腕の確かな方にお任せしたいというのがお上の総意……なの、ですが……。あの」
もごもごと歯の奥になにかが詰まったような物言いに、カイは怪訝そうに眉を吊り上げて横目でカイルを見やった。
カイルは続く言葉を問い詰めるような目線を無視して、カウンターに肘をつき体重を預けるカイの巨体の背後を覗き込むようにめいっぱい背伸びをしてほっそりとした首を伸ばす。
「本日はグランツさんおひとりでしたか? ほかの皆さまは……?」
「ああ? ほかの皆さまって、誰のこったよ?」
「いや、いつも皆さま一緒じゃないですか。スヴァルジェリヴル様とか、ハインケス様とか」
カイルが人差し指を揺らしながら名前を挙げていくと、みるみるうちにカイの眉が吊り上がっていく。
「おいテメーコラ、もしかしてオレをアイツらとセットだと思ってんじゃねーだろうな」
「えっ、違うんですか?」
「アイツらはいっつもオレが受けた依頼に勝手についてきて分け前をブンどっていくならず者だ! 一緒にすんじゃァねえ!」
耳元でとんでもない声量で怒鳴りつけられ、カイルは思わず耳をふさいだ。
隣のカウンターから同じ格好の同僚と、依頼の説明を受けている最中と思しき一行の好奇の目が注がれてなんとも居心地が悪い。
「申し訳ありませんでした。ですからそう叫ばないでください」
「チッ。ヴルのやつァ今日はネイルの予約と買い物がウンタラ言って珍しく朝早くにどっか行った。デリオラの野郎も用事だとかで出かけてる。リルはまだ寝てらあ。ま、昼過ぎには目覚めてどうせこっちくんだろ」
拗ねたようにそっぽを向いたカイにじっとりとした目線を送りつつ、カイルは短く嘆息した。
「仲がいいんだか悪いんだか」
「いいワケねェーだろ!」
「あーハイハイすみませんでした! んで、どうしましょう? さすがのグランツさんでもひとりでこの規模の駆除依頼は」
「問題ねェ」
「はっ? いやいや、無茶ですって」
「あァ? ざけンなコラ、余裕だっていってンだろコラ」
「無謀です!」
「誰にモノ言ってンだ⁉」
互いに引くことなく喧々囂々と張り合っても平行線だ。
眼鏡のつるに指をかけながら、カイルは諦めるように妥協案を模索する。
「……それでは、せめてだれかほかの方と一緒に」
「足でまといは要らん」
「……。じゃあロロララさんが後から合流できそうなんですね? 少々お待ちを、いま言伝を残して……」
「アイツにドコソコに来いっつったって判りやしねェよ。勝手にニオイで捜し当てるだろ。さっさと行くぞ」
「あっ、ちょっと! 証人がついていかないと、ああもう! せめて着替えさせてくださいよ!」
引き留めるカイルを気にも留めずに踵を返して出口へ向かうカイ。
カイルはカウンター内のドアに体当たりしてバックヤードへ引っ込むと、ばたばたと準備室へと突進していき、”証人”として随行するための準備を進めていった。
とにかく大急ぎで。しかし、確認は怠らない。忘れ物でもあろうものなら一大事。最悪自身の命にすら関わるのだ。
動きやすい恰好、職務に必要な道具、外出報告書、以上を指差し確認して、カイルは再びばたばたと駆け出した。
「カイル君、いってらっしゃい」
隣のカウンターの同僚に手を振り返し、外へと飛び出すと、出口の横でカイが待っていたようだった。
置いて行かれたわけではなかったようだ。胸をひとつ撫でおろして、カイルは額の汗を拭う。
「ほら、行くぞ」
「ゆっくり準備くらいさせてくださいよ……」
「悠長にしている場合じゃねーだろ?」
臆面もなく真面目くさった顔でそうのたまうカイに、カイルは喉元までせり上がってきていた文句の数々を呑みこむよりほかになかった。
のしのし歩く巨体の横を、ぱたぱたと小さな歩幅が忙しなく往復する。
「……なあ、ところで前から気になってたんだが。オマエ、なんで受付嬢なんてやってンだ? ”嬢”じゃねーのに」
「ボクだって好きでやってるわけじゃないですよっ! 上長のシュミです!!」
「オマエのシュミというわけではなく?」
「ちがいますよ!!」




