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悪女の呪いが解けたのでもう構わなくて大丈夫です旦那様  作者: 獅子十うさぎ


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8. 悪女懐柔作戦




「あ!お、お嬢様、トムタッタに着いたようですよ!」


森や平野ばかり続いていた景色に変化が起き、ジュマが指差して伝える。

外敵から護る為に高い塀に囲まれた街トムタッタが見えてきたのだ。


(凄い…まるで要塞みたい)


石の塀で全く街が見えない堅牢な姿に何だか圧倒されてしまう。

巨大な門もとても重そうで、数人の兵士による厳重体制が敷かれていた。


とはいえ予め婚姻の話は伝わっていたので、馬車はすんなりと門を通される。

そしてそこから広がった街並みに体は興味が無さそうに横目だけを向けたが、本体は食い入るように眺めた。


(まぁっ、なんて素敵な街なの!思っていたよりずっと活気もあるわ!)


トムタッタは辺境と言われているのでド田舎と勘違いされがちだが、実際は国境に接しているだけあって外国との交易も盛んでとても賑わっている大きな街だ。

外壁から見た雰囲気とは打って変わって明るい表情の人々が往来している。

王都では見られないような珍しい店なども多く建ち並び、リーフィニアは見ているだけでも心が躍った。


(まさかこんなに素晴らしい街だったなんて。自分の足で歩いて見て周りたいわ。きっと、無理だろうけど…)


意思に従ってくれない体は、この街を見ても目を輝かせる事もない。

散策など絶対にしないだろう。

名残惜しい気持ちでせめてもと景色を目に焼き付けるリーフィニア。


馬車は大通りを走り続け、街の中心地へと進んでいった。

やがて大きなお屋敷が見えてくる。


(あれが…オストラヴァ辺境伯家の邸ね。豪華絢爛ではないけれど、敷地も広いし頑丈そうで立派な屋敷だわ)


屋敷は石を基調としていて色味は全体的にグレーだが、ちょっとした襲撃ではびくともしなそうな頑強なものだった。

敷地内には屋敷だけでなくいくつかの建物があり、騎士達の訓練場まである。

屋敷の正面玄関前には数人が待機していて出迎えに出てきてくれているのだと伺えた。


(いよいよ…邸の人達との対面ね…)


緊張と不安を抱きながら、リーフィニアはドキドキとオストラヴァ辺境伯邸へ目を向ける。


その一方で、オストラヴァ辺境伯家にも緊張が走っていた。






「ついに来ちまったな…」


近付いてくる馬車を見ながら呟いたのは結婚相手となるアッシュだ。

アッシュの隣には弟のユーゾフも控えていて、馬車を指差しながら執事に質問する。


「なんか馬車4台も来てるけど、そんな大所帯なの?」


そう、侯爵家からの馬車は小さくもないのに4台にも及んでいた。

それを護るように騎乗した護衛までも数人おり、一体何人の人間がやって来たのかと疑問に思ったのだ。

執事はジッと確認してから丁寧にユーゾフに答えた。


「いえ。造りを見るに人が乗っているのは先頭の馬車のみで、後の3台は全て荷物のようですね」


「え!?マジで!?」


驚くユーゾフとは裏腹に、メイド長は冷静に対処する。


「あれは荷物整理も一苦労ですね…。少し人員を増やしてきます」


三角眼鏡をクイッと上げ近くのメイドに直ぐに指示を出す。

辿り着く前から既にお騒がせし始めたリーフィニアに、まだ会ったことのないユーゾフは軽い衝撃を受けながら呟いた。


「うわぁ…さすがは悪女。マジックバッグも存在する世界観であんな量持ってくるとは。噂に反してトランク1つだけを持参してくるっていう定番イベントもちょっと期待してたのに」


「そんな謙虚な女が人の顔面にワインなんてかけるかよ」


「そりゃそうか」


呆れ顔でツッコミを入れたアッシュに納得してから兄弟2人で作った笑顔を貼り付ける。

アッシュは馬車が停車するのに合わせて扉の前に移動し、御者が扉を開いてからエスコートするべく手を差し出した。


「ようこそ、エルネスト侯爵令嬢。オストラヴァ家一同歓迎いたします」


扉の前に立ったリーフィニアに向け出来うる限り丁寧に言葉を掛けたアッシュ。

リーフィニアは一度驚いた様子で瞠目してから、即座に汚物でも見るように見下ろした。


「なによアンタ。何か変な物でも食べましたの?取り敢えずその汚い手を引っ込めてくださる?」


ーーピキッ


あまりの酷い言い草にアッシュの血管が浮き立つ。

周囲がアワアワと焦りだしたが、アッシュは忍耐力を総動員して負けじと手を差し出した。


「長旅でお疲れのようですね。気が立つのも当然です。婚約者として責任を持って部屋までご案内いたしますよ」


「まあお優しいのね?でもごめんなさい。アナタの顔を見てたら余計に疲れてきましたわ。そこの貴女、案内して」


アッシュの手を無視して馬車を降り、目に付いたメイドに指示するリーフィニア。

リーフィニアが屋敷の中に入っていくまで同じ姿勢で動かずにいたアッシュは、ゆっくりと手を握りしめて怒りのオーラを全身から放出した。


「…あんのクソアマ。折角歩み寄ってんのに随分な態度だなぁ…?」


「あっ、兄上!まだ再会して1分も経ってないから!」


「そっ、そうです!まだこれからですよ!」


初日から大喧嘩でも始まりそうな空気に周りが必死に説得する。

アッシュは吐けるだけ息をゆっくり吐き、どうにか怒りを鎮めた。


「あぁ、分かってる。こっからが勝負だからな。皆んな、よろしく頼むな」


平静を取り戻したアッシュに言われ、皆がこくりと頷いて応える。

まずはメイド長が一歩前に出て胸に手を当てた。


「では、ワタクシめが先陣を切らせていただきます。お疲れのお嬢様をしっかりと世話して参りますね」


自信満々に告げてから急いでリーフィニアの後を追っていく。

他のメンバーもそれぞれの役目を果たそうと屋敷の中へ移動したのだった。





(あぁあ…っ、会って早々もうやらかしてしまったわ…!)


廊下を我が物顔で歩きながら、リーフィニア(本体)は半泣きで頭を抱えていた。

出迎えをしてもらえた時点で途轍もなく感激していたのに、実際の態度は完全に真逆である。


(あんなに迷惑をかけてしまったオストラヴァ様が大人の対応をしてくださったのに、それを無下にしてしまうなんて…!出来る事なら今すぐ引き返して謝らせていただきたいわっ)


もちろん、悪女の体はそんな事を許してはくれない。

振り返らずただ自分に用意された部屋へと歩いた。


「こちらになります」


(わぁ…)


開かれた扉の先にあった一室を見て、リーフィニアは心が浮き立つ。

広い部屋はとても綺麗に整えられていて、品の良い調度品が並んでいた。

恐らく持参する家具などと色味で喧嘩しないようにの配慮か全体的に白っぽく清潔感がある。

華美になる事なく落ち着いた雰囲気は心底安らげそうで自分好みの部屋になっていた。


しかし、心とは裏腹に体は悪態をつく。


「はぁ…随分と質素な部屋ねぇ?いずれこの家の夫人となるわたくしにこんな部屋が相応しいと?」


案内をしたメイドをギロリと睨みつけるリーフィニア。

が、ビクリとしたメイドを庇うようにササッとメイド長が間に入った。


「とんでもございません!お嬢様の好みに合わせて改装できるようにと敢えて抑えめにしたのです!ご指示いただければいくらでも装飾いたします」


「ふぅん。そう」


素っ気なく答えたがそれ以上の文句が無かったので納得してもらえたと解釈したメイド長は意気揚々と説明を続ける。


「こちらがドレッサー、そしてこちらは浴室になっております」


「ドレッサーにひと部屋用意してるのは及第点ね。そっちの扉は何ですの?」


リーフィニアはメイド長が開いている扉とは反対側の壁にある扉に顔を向けて質問した。

メイド長は笑顔で伝える。


「はい。そちらはアッシュ様の寝室と繋がる扉でございます」


その瞬間、リーフィニアは『オストラヴァ様の寝室と…!?』と夫婦になる現実を目の当たりにして赤面した。

とはいえそれは本体の話で、実際の顔は嫌悪に歪む。


「…あの男の寝室と繋がってるですって?」


一気に機嫌の悪くなったリーフィニアを前にメイド長も焦りを募らせて弁明する。


「は、はい。お嬢様は近く奥様となられますので、このような造りは当然なのです。もちろんお嬢様の許しもなく開けられることはございませんのでご安心ください」


「ハッ、当然ね。まったくどうかしてるわ。別の部屋にはできないの?」


「ほ、他のお部屋ですと、ここより少しばかり狭くなってしまいますが…」


「チッ…なら良いわ」


貴族として基本的にそうなるというのはリーフィニアも知識としてある訳で、流石に塞げとまでは言わないようだ。

不機嫌そうに別の指示を出す。


「取り敢えず、疲れたからお風呂に入りたいわ」


「はい!既にお湯の用意は出来ております!どうぞこちらへ」


行動を予測しての完璧な用意に自身の中でガッツポーズして案内するメイド長。

控えている他のメイド達にも目を向ける。


『あなた達、ここが腕の見せ所よ!お嬢様に気に入られるよう全力で腕前を披露なさい!』


『はい!メイド長!』


アイコンタクトで意思疎通をし、テキパキと手際よく入浴の用意に取り掛かった。

実際、オストラヴァ家のメイドは仕事の出来る者ばかりだ。

大抵の令嬢なら直ぐにでも気に入るだろう。


そう、大抵の令嬢なら。




読んでくださって本当にありがとうございます!

評価やブクマしていただけたら筆者は喜びます。


…あ、た、足りないですかね?

すっっっっっっっっっっごく喜びます!!



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