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悪女の呪いが解けたのでもう構わなくて大丈夫です旦那様  作者: 獅子十うさぎ


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4. 突然の異変



「うぅーん…やっぱり納得いかないぃ」


自室のベッドの傍に置いた机に沢山の紙を広げながら愚痴るように言ったミルディ。

近くに居たリーフィニアが近付いて質問する。


「どうしたのミルディ?何が納得いかないの?」


「うぅ、お姉様これ見てぇ」


ミルディが指し示した紙は文章を書き綴った手紙らしき物だ。

少し心配になったリーフィニアは眉を下げる。


「まさか…誰かから心無い手紙でも届いたの?」


「あぁー違うの!そうじゃなくて、自分の字に納得できないって話!」


「なんだ、そうだったのね」


慌てて否定したミルディの言葉を聞いてホッとするリーフィニア。

ミルディは手の中でペンを遊ばせながら説明した。


「暫く安静にしなきゃいけなかったから、最近は暇つぶしに手紙ばっかり書いてたでしょ?だけど自分の字がどうしても気に入らなくって…」


話を聞いたリーフィニアはミルディの書いた手紙を覗き込む。

少し丸みを帯びてはいるものの、決して汚くはない文字を見て微笑んだ。


「あら、可愛らしい字で良いじゃない。私は好きよ?」


「うー、でもなんか違うのよぉ。せめて最後の名前のサインだけでも綺麗に書ければ…。あ、そうだ!お姉様は普段どんな感じで書いてる?お手本に書いて見せてくれない?」


「え?私のサインを?」


「うん!この辺で良いから!お願いっ」


ミルディは沢山重ねた紙の適当な余白部分を指差す。

可愛い妹からの頼みに嬉しさが滲んだリーフィニアは、言われるがままにサラサラとサインしてみせた。


「わぁ…!やっぱりお姉様の字は綺麗ね!」


「そ、そうかしら?」


「うん!すごく理想的!これを見本にして練習してみるわっ」


リーフィニアの字を見てやる気が出たようで、ミルディは紙を追加してサインの練習をし始める。

頑張る姿に自然と笑みをこぼしながらリーフィニアは言葉をかけた。


「ふふ、ミルディ。文字の練習も良いけど、そろそろクリード様とのお茶の約束の時間よ?」


「えー待って、もうちょっとでコツ掴めそうなの…!婚約者のお姉様が居れば充分だろうし、私の事は気にせず二人で楽しんでっ」


「そうは言うけど、貴女のお見舞いも兼ねてるのよ?」


「うぅー、でも…」


説得を試みたがミルディはペンを止めようとしない。

納得できるまでやりたいのだなと解釈したリーフィニアは肩を落とした。


「もう、仕方ないわね。それじゃあキリの良いところで顔だけでも見せにきてね」


「はーい」


折れてくれたリーフィニアにニコニコと返事をするミルディ。

そんなミルディを部屋に残し、ひと足先にリーフィニアは応接室へと向かった。




「リーフィニア、久しぶりだね。あれ?ミルディは?」


応接室でソファに座って質問を投げかけてきたのはクリードだ。

ミルディの治療や療養のためにバタバタしていたのであの日以来初めての訪問だった。

そのため心配もあり、予定より少し早く来たらしい。


「クリード様、お待たせしました。ミルディはもう少ししたら来ると思いますわ。わざわざ来てくださったのにすみません」


「いや、大丈夫だ。そういうところもミルディらしいしな」


これまでにも他のものに関心が向いてしまい遅刻するなんて事をやっていたミルディ。

クリードが心の広い人で良かったとつくづく思いながらリーフィニアもクリードの向かい側に座った。

直ぐにメイドがお茶を入れ、二人の前にカップを置く。


「美味しい茶葉が手に入ったから、ミルディのお見舞いも兼ねて持ってきたんだ。是非飲んでみてくれ」


「まあ、ありがとうございます。頂きますね」


リーフィニアは勧められるがままにコクリとひとくち口にする。

柑橘系の爽やかな香りがフワリと鼻から抜けていった。


「フルーティでとても美味しいですね」


「だろう?オレンジやレモンの皮をブレンドしてあるらしいんだ。きっと口に合うだろうと思って」


「はい、香りも味もとても好みです。これならミルディも気にいると思います」


焼き菓子に混ぜ込んでも美味しくなりそう…などと呟きながら満足気に口に含むリーフィニアを見て、クリードも笑みを作り紅茶を飲む。

それから視線を落として口を開いた。


「あの日は…守ってやれなくてすまなかった。ミルディの怪我が傷もなく治って、本当に良かったよ」


あの時のことを振り返って告げたクリードの言葉に、リーフィニアも俯いて答える。


「はい…運ばれた病院に腕の良いお医者様がいらして幸いでした。もし傷が残っていたら…それどころか助かっていなかったら…私……」


自分のせいでミルディを失うのではと恐怖した心情が蘇り、体を震わせるリーフィニア。

ハッとしたクリードはリーフィニアの隣に移動し気遣うように背中をさすった。

おかげで気を持ち直せたリーフィニアは顔を上げる。


「私…これからもっとミルディを大事にします。今度は、私があの子を助けてあげたいから」


前を向き決意を固めるリーフィニアの様子に微笑みながらもクリードは眉を下げた。


「リーフィニア、君は既に充分ミルディを大事にしているよ」


「いえ、まだ足りませんわ。命懸けで私を守ってくれたミルディに返すには全然足りませんものっ」


「ははは、決意がすごいな」


そう言ってから、クリードは少しだけ視線を迷わせてリーフィニアを見る。


「まさか…ミルディの為なら何だってするなんて言い出したりしないよな?」


半分冗談のように質問したクリード。

聞かれたリーフィニアも一瞬動きが止まる。

しかし、直ぐに真剣な表情で頷いた。


「…できます」


「え?今…なんて?」


驚いたクリードは思わず聞き返す。

改めて問われても、リーフィニアは一切考えを曲げる気がないといった姿勢ではっきりと告げた。


「ミルディの為なら…私はどんな事でもします」


ーードクンッ


そう宣言した、直後のことだった。

心臓が突然大きく反応し、激しい動悸と脳味噌が震えるような感覚に襲われる。

「リーフィニア…気持ちはわかるけどミルディもそこまでは望んでいないんじゃないか?」とクリードが言葉を続けているが、まるで遠くで話しているかのようだった。

声も出せず浅く呼吸しながら、症状が落ち着くのを待つことしかできない。

と、その時だ。


ーータタタ ガチャッ


「お姉様!」


嬉しそうな顔で部屋に飛び込んできたミルディ。

紙を手に持ち駆けてくるミルディを目にした途端、スッと症状が落ち着いた。

ほっとしながらミルディの言葉に耳を傾ける。


「見てお姉様!お姉様のサインを参考にしたおかげでやっと納得のいくサインが書けたの!どう?」


頬を紅潮させ、沢山書かれたサインの最後の名前をミルディは指差す。

リーフィニアの横でクリードが先に声を掛けた。


「ミルディ…お見舞いに来た僕には挨拶してくれないのかい?」


「あ!ク、クリード様ご機嫌よう」


「もう遅いよ…」


クリードの呆れた返しに笑って誤魔化すミルディ。

よく見る微笑ましい光景を目にし、リーフィニアも相好を崩す。

いや、そうしたつもりだった。



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― 新着の感想 ―
xから読ませていただきました。 物語を読み進めるほどに、主人公が置かれている状況の理不尽さと、それでも必死に自分を保とうとする姿に強く心を惹かれました。周囲から「悪女」として見られてしまう中で、本来の…
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