29. 追い込み訓練
「ところで…ユーゾフはどうしたんですか?」
翌朝、王都へ行くに当たってより気合を入れた早朝訓練でチラリとユーゾフを見ながらアッシュに小声で尋ねたリーフィニア。
視線の先ではユーゾフが「やる気出ねぇ…マジでやる気出ん…。異世界チートで無双できないならもうがんばる意味なくね?」とブツブツ1人で呟きながらしゃがみ込んでいる。
同じように見遣りながらアッシュは苦笑いして答えた。
「あー…夢破れて道に迷ってるらしい。まぁすぐ復活するだろ」
言ってからユーゾフに近づき手を引くアッシュ。
引っ張られてもだらりと脱力してぶら下がるユーゾフに言葉をかける。
「ほら立てユーゾフ。始めんぞ」
「うー…兄上。おれは一体なにをモチベーションに訓練したらいいんだ」
「取り敢えずリーフィニアの為で良いだろ。お前の魔法が役立つかもしんねえぞ?3歳児が魔法使うなんて普通考えねえから油断させられるだろうし」
「え?まじで?やっぱおれスゴイ?」
「おう。スゴイスゴイ」
煽てられて目の輝きが戻ってきたユーゾフは「よくかんがえたら努力しすぎた系主人公の道もあるじゃん!もしかしてそっちか!?」とシャッキリ立ち上がった。
「な?」と親指でユーゾフを指すアッシュにリーフィニアは思わず笑いを漏らす。
リーフィニアの笑顔に癒されつつ、アッシュは腰につけたマジックバッグをゴソゴソと漁った。
「予定ではじっくりやるつもりだったけど、あまり時間が無いからな。出発まで、より実践的な訓練にしようと思う。これを腕に付けて欲しいんだけど…手を出してくれるか?」
取り出されたのは野球ボールサイズの半透明な球体がぶら下げられたリボンだ。
片手で結ぶのは難しい為、アッシュ自らリーフィニアの左腕に結びつける。
「これは?」
「的だ。今から俺が壊しに掛かるから、リーフィニアは破壊されないように魔法で守ってほしい。ただし、的はこれだけじゃない」
説明しながらアッシュはユーゾフも手招きして呼んだ。
素直に近付いてきたユーゾフの腕にも同じように球体を結びつける。
それだけでなく、訓練で使用している木人形の首にも同じ的を下げた。
「取り敢えず3つもあれば良いか。この的のどれかを合図無しで狙ってくから、リーフィニアはとにかく守り抜いてほしい。咄嗟の時にも反射的に魔法を使えるようにする訓練だ。難しいとは思うけど頑張ってくれ」
「わ、わかりました」
「いやちょっとまって兄上!的じゃなくて腕に攻撃当たったらどうすんの!?」
緊張しつつも素直に了承したリーフィニアと違い、ユーゾフが悲鳴のように訴える。
アッシュは落ち着いた様子でいつもの双刃刀ではなく硬めのスポンジらしき物で作られた棒を取り出した。
「万が一当たっても怪我しないように、この柔らかい素材で出来た武器で狙うから大丈夫だ。それに外したりなんかしないから安心しろ」
「そ、それなら…。まぁたしかに兄上の腕前なら外さないか。おれ信じるよ?」
「あぁ、ありがと…な!」
と、言い切るや否やアッシュはいきなりユーゾフの的を打ちにいく。
「うぎゃあ!?」と声しか出ず動けないユーゾフの横で、リーフィニアが即座に反応した。
「! ドュルラーク!」
ーーキン バシッ!
リーフィニアの硬化が間に合い、的は壊れることなくただユーゾフの腕の下で激しく揺れる。
素早い対応に感心して頷くアッシュ。
「お、よく反応できたな」
「ふぅ…焦りました」
「それにしては正確に的だけ硬化できてるよ。硬さも充分だ」
「あ、ありがとうございます」
アッシュに褒められてリーフィニアは照れながら嬉しそうにする。
横で心臓をバクバクさせながら「ちくしょう取れねえ!兄上おれのリボンだけ固結びしてやがる!」と騒ぐユーゾフをスルーして、アッシュは「それじゃこの調子で続けるぞ」と続行を宣言した。
普段やる指導をしながら突然攻撃モーションに入る形でリーフィニア・木人形・逃げ惑うユーゾフの的をランダムに狙っていく。
リーフィニアはアッシュの動きを注視して、どうにか攻撃を防ぎ続けた。
「おー、やるな。騎士にも負けてない集中力だぞ」
心底感心した様子で武器を下ろすアッシュ。
いつもの休憩の合図にホッとして息を吐くリーフィニアに話を振った。
「あーそうだ忘れるとこだった。訓練が終わったら庭園に行ってくれるか?」
「庭園に?」
「ああ。王都に行くって聞いたリアムがリーフィニアに会いたいって言ってたんだ。庭師の仕事で自分は王都に付いていけないから、その前に渡したい物があるってさ」
それを聞きソワソワするリーフィニア。
目線を上に向け渡したい物とは何だろうと想像しながら口元を緩める。
「それは楽しみです。わかりました、訓練が終わったら直ぐに行きま…」
が、リーフィニアが返事をし切る前に突然アッシュが棒を横薙ぎした。
完全に気を抜いていたリーフィニアの的に攻撃が綺麗に命中する。
ーーバシッ パカ
「あ…!」
魔法で防がれる事のなかった球はまるでくす玉のようにパッカリと開いてしまった。
分かりやすい当たり判定を前に、リーフィニアは眉を下げて情けない顔でアッシュを見る。
「アッシュ様ずるいです」
リーフィニアの可愛らしい反応に少々後ろめたい気持ちになりながらも、教官らしくアッシュは平然を装って笑んだ。
「今から攻撃するって宣言してから襲う敵なんていないからな。油断してる時にこそ狙ってくぞ」
「うぅ…」
正論なだけに口答え出来ず、油断は大敵だと学ぶリーフィニア。
しかしそんなリーフィニアに代わってユーゾフが意地の悪い顔でアッシュを煽る。
「うわぁ、そりゃそんな誉れ高い敵なんていないだろうけど兄上鬼くせぇ~」
だが、アッシュはノーダメージでさらりと返した。
「お前もいずれ魔物と戦うんだ。その内同じ訓練するからな」
「他人事じゃなかった!」
意趣返しにちょっとからかっただけのつもりが、自分にも返ってきて頭を抱えるユーゾフ。
2人のやり取りが可笑しくて、リーフィニアは元気が出ると共に再びやる気を取り戻した。
それを見越してアッシュも武器を持ち直す。
「備えにやり過ぎなんて無いし、明日からはもっと難易度上げてくからな。それじゃ続けるぞ」
「はい!」
そうして再開された様々なパターンを想定した訓練にリーフィニアは必死に食らいついていく。
咄嗟の対応が体に染み込むように、魔力の限界ギリギリまで続けたのだった。
そして訓練後、リーフィニアは言われた通り直ぐさま庭園へと向かった。
「リアム!」
植木の手入れをしているリアムの姿を見るや明るく声を掛けるリーフィニア。
呼ばれたリアムは直ぐに手を止めて立ち上がった。
「リーフィニア様、来てくださってありがとうございます。本来ならこちらから伺うべきなのにすみません」
「いいのよ。何か理由があるんでしょう?」
使用人の非礼を叱る素振りもなく受け入れてくれたリーフィニアに、本当に良い方が来てくれたなと改めて思いながらリアムはこくりと頷く。
「はい。この間、妹さんへの花束を用意したらどうかってお話をしましたよね。それで一応こんなのを用意してみたんです」
悪女化が解けてから初めてまともに会話した時の話だ。
約束を覚えていてくれた事に喜びを覚えながらリアムが手にした丸型のバスケットを覗き込む。
次の瞬間、リーフィニアは表情をパァと明るくした。
「まぁ…!すごく可愛いわ」
バスケットの中心部にあったのは、沢山のカーネーションで形作られたピンク色のクマだ。
花だけで作ったテディベアがバスケットの中に鎮座しているといった感じで、愛らしさに顔を綻ばせずにはいられなかった。
好感触に安堵してリアムはクマ周りの空間を指差す。
「これだけじゃなく、クマを囲うように他の花々で隙間を埋め尽くしたいんです。それでどの花にするかをリーフィニア様に決めてもらいたくて。リーフィニア様の方が妹さんの好みも分かるでしょうし、そうした方が喜んでもらえるんじゃないかなと思うので」
敢えてリアムは完成させずにリーフィニアの手で仕上げるのを勧めてくれたのだ。
リーフィニアとしてもミルディの為に花束を作ってあげたい気持ちはあり、気遣いに喜んで了承した。
「とっても素敵な提案ね。是非やらせてもらうわ」
どんな色合いにしようか、どんな花を組み合わせたら見映えが良いかなど考えながら見回すリーフィニア。
リアムと2人で庭園を歩き回って相談しながら選定し、どんどんと様々な花で隙間を埋めていく。
そして庭園を一周する頃には色とりどりの花が詰まったとても華やかで可愛らしいバスケットが完成したのだった。
「完璧ですね。これならきっと妹さんも喜んでくれると思います」
「ふふ、そうね。ありがとうリアム」
リアムの言葉に謙遜せずに頷けるほどの素晴らしい出来栄え。
花が萎れてしまわないように品質保持可能なマジックバッグへと仕舞いながら、受け取ったミルディの反応を期待してまた頬が緩む。
そんな楽しみを1つ増やしつつ、沢山の準備で忙しなく過ごす日々。
そして気付けばあっという間に出発の日を迎え、リーフィニア達は馬車で王都へと向かったのだった。
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皆々様に感謝して、最後まで続けられるよう頑張ります!




