23. 実力者揃い
「炎獄絶波!」
唱えた直後、炎の波動がいくつも飛んでいきバギアリル達が吹っ飛ばされ炎上する。
しかもそれだけに止まらなかった。
「翠玉乱波!」
小さな沢山の水球をまるでマシンガンのように撃ち出す。
水球の威力は強く、バギアリル達の体は穴だらけになって倒れた。
アッシュの魔法を見たリーフィニアは目を丸くする。
「属性魔法を複数も…!?」
リーフィニアが驚いたのには理由があった。
この世界は誰もが魔力を有し、必ず何かしらの魔法を使えはする。
その種類は自然界の力を操る属性魔法・武器に属性を持たせる付与魔法・身体強化などの補助魔法や物を大きくするなどの物質変化魔法など様々だ。
しかしながら個々が使えるのはどれか一種類であり、属性魔法の場合は基本的に1つの属性しか操れないのが常である。
例えば妹のミルディでいうと植物魔法しか使う事が出来ないしそれが当たり前だ。
付与魔法であれば複数の属性を操れたりもするが、純粋な属性魔法を複数使えるのは異例中の異例だった。
ーーボォッ
「っと、コイツにはあんま効かないみたいだな」
そんな異例の複数属性を使うアッシュはクイーンにも炎をぶつけたけれど、他のバギアリルと違い硬い外殻に守られてあまりダメージを受けてはいない様子だ。
けれどアッシュは怯みもせず、反撃してきたクイーンの鎌を避けて双刃刀を振りかぶった。
「なら、これでどうだ!」
身体を捻り渾身の力を込めて双刃刀を投げつける。
一直線に飛んだ双刃刀は硬い外殻をも貫きクイーンの額へと突き刺さった。
しかし体の大きなクイーンは頭部といえど刃が刺さった程度では致命傷にはならず、寧ろ激昂してアッシュに噛みつこうと動き出す。
だがそれすら見越していたアッシュは逃げもせずに手を翳した。
「雷流炸法!!」
まさかの3つ目の属性となる雷の塊が放たれる。
雷は先程突き刺した双刃刀へと飛んでいき、外側の刃に命中したかと思った瞬間に柄を伝って内側の刃からクイーンの体内に放出された。
ーーバリバリバリバリ
《ギキャァァァア!》
内部から全身に広がる雷を受けたクイーンは壮絶なダメージに断末魔をあげる。
完全に再起不能となり、黒焦げになって地面へと伏した。
戦いっぷりを見たリーフィニアは感動すら覚える。
(すごい、1人で大型の魔物を倒してしまったわ…!複数の属性魔法も完璧に使い熟しているし、アッシュ様なんてカッコいいの)
リーフィニアは魔物と遭遇しても脅えることしかできなかったというのに、それよりもずっと強い魔物を討伐してしまったアッシュに抱く憧憬の念。
騎士達に指示しながら残りの魔物を殲滅していく姿も頼もしくて心臓がドキドキと高鳴った。
今日だけでアッシュを見る目が何転したことか。
リーフィニアの中で、アッシュに対する特別な感情が芽生え始めていた。
と、ここで急に見張り兵が声を上げる。
「!敵の増援です!複数のバギアリルが森から出てきてます!」
討伐終了の空気になっていたところに、更に現れたバギアリル。
「はぁ!?第二陣とかふざけんな!」と思わずアッシュも悪態を吐いた。
リーフィニアの隣にいるユーゾフも不憫そうな顔をする。
「うわぁ、終わったと思ったのに延長戦とか兄上かわいそー」
見たところ小型のみで殲滅自体は難しくなさそうだが、いかんせん数が多く時間が掛かりそうだ。
すると、リーフィニア達の後ろに控えていたガハルも動き出した。
「まったく、アッシュ様が大型の魔物を華麗に討伐したのに水を差すとはけしからん輩ですね。少々躾をして参ります」
言うや否や、見張り台から飛び降りる。
外壁の突起を足場にしながら地上まで降り立ち、アッシュ達の所まで素早く移動した。
そしてナイフを出し目にも止まらぬ速さで斬っていく。
執事が戦いだすという異常事態に、リーフィニアは仰天した。
「え!?ガハルも戦えるの!?」
「あ、そっか。姉さまはビックリだよね」
ユーゾフは微塵も動じず飄々と説明しだす。
「大型の魔物の出現は少ないけど、小型魔物の襲撃はトムタッタだと日常茶飯事でさ。オストラヴァ家にいる人間は大体みんな戦闘能力が高いんだよ」
「そうなの!?それじゃあもしかして、カーサやリアムも戦えるって事…?」
「うん。さすがに兄上には劣るけど、結構みんな強いよ。リアムとかこないだも畑を荒らそうとした魔物を土魔法で生き埋めにしてたし」
使用人達まで強いと知り、リーフィニアはなんとも言えぬ息を吐いた。
どんどんと魔物を駆除していくアッシュ達を改めて眺める。
「…」
この時、リーフィニアの脳裏にはあの日の出来事が浮かんでいた。
沢山の後悔や悲しみ、怖さを知ってしまった日を。
そしてじっと考え…ある決意を固めたのだった。
「ったく、しつこい奴らだったな…」
約1時間後、全ての魔物を討伐したもののデートの邪魔をされた挙句に長引かせられたアッシュがげんなりしながら戻ってきた。
そんなアッシュに見張り台から降りたリーフィニアはパタパタと駆け寄る。
「アッシュ様、お疲れ様です!あの、とても…とても素晴らしいご活躍でした!」
予想外に明るく出迎えてくれたリーフィニアに少し驚くアッシュ。
リーフィニアは目をキラキラとさせて手を組みアッシュを見上げた。
「あんな大きな魔物を討伐してしまうなんて本当に凄いです!見惚れてしまう程の身のこなしで、私本気で感服いたしました!」
「あ、それは、ありがとう」
まさかこんなに褒めてもらえるとは思わず、アッシュは先程まで恨みがましかった魔物にすら感謝しそうになる。
リーフィニアの背後の方ではユーゾフ含め事情を知りアッシュを応援してる皆が両手でガッツポーズをしていた。
目で『やめろお前ら』と訴えるアッシュに、リーフィニアは続けてモゴモゴと口を開く。
「あの、それで、アッシュ様。折り入ってお願いがあるのですが…」
「ん?お願い?」
「は、はい。先程、オストラヴァ家の方々は皆戦闘能力も高いというお話を伺いました。で、ですので…」
両手をキュッと握り、お腹に力を込めてリーフィニアは懇願した。
「私に、戦闘を師事してくださる方を付けてはいただけませんか!?」
およそ貴族夫人が望まないであろう願いに、アッシュは当惑して聞き間違いかと耳を疑う。
生真面目すぎてそれも夫人の仕事だと思い込んでいるのかと考え、やんわりと説得を試みた。
「いや、リーフィニア。オストラヴァ家に嫁いだからって無理して戦力になろうとしなくても良いんだぞ?さすがにそこまで強要したりしないから」
「いえ…確かにそれも理由の1つではありますが、戦えるようになりたいのには別に理由があるんです」
どうやら義務感で言った訳ではない様子に、アッシュは口を閉じて耳を傾ける。
声のトーンを落としつつも理由を話し出すリーフィニア。
「…3年程前、魔物と遭遇して襲われた事があるのですが…その時、私を庇って妹が大怪我を負ってしまったんです」
「…!」
貴族令嬢が魔物による大怪我を負ったと聞き息を呑む。
舞踏会では元気そうな姿だっただけにそんな事件があっただなんて思いもよらなかった。
「幸い怪我自体は傷跡も残らず完治しましたが…一歩間違えれば死んでいてもおかしくない状況でした。目の前で大切な妹を失っていたかもしれないんです」
リーフィニアの手は震えていて、それだけで当時の恐怖心が伝わってくる。
大切な家族を失う辛さを思い出しアッシュも唇を噛んだ。
「もう二度と、あんな思いはしたくありません。私も大切な人を守れるようになりたいんです。ですのでどうか…お願いします!」
リーフィニアの切実な願いを受け、断るなんて選択肢は除外された。
その思いを汲まなければとアッシュは静かに頷く。
「…わかった」
「!」
了承を受けて、リーフィニアはパッと顔を上げた。
喜色に染まる顔を真っ直ぐに見返してアッシュは言葉を続ける。
「なら、その役目は俺が引き受けるよ」
瞬間、リーフィニアは硬直して『俺が引き受ける』という言葉を脳内で反復した。
間を空けてから理解と同時に慌てふためく。
「そっ、そんな!お忙しいアッシュ様に直接師事していただくなんて畏れ多いです!流石に烏滸がましいと言いますか…!」
「そんな事ない。オストラヴァ家の者を指導するのだって当主になる者の務めだしな。それに元々ユーゾフからも指導を頼まれてたから、どうせなら一緒にやった方が効率も良いだろ」
ユーゾフも、と聞きリーフィニアは確認するように振り向いた。
魔法を早く覚えたくてアッシュに以前から頼み込んでいたユーゾフはこくこくと全力で頷いて肯定する。
確かに元より訓練予定があったのならば、新たに誰か雇ったりするよりも一緒に訓練を受ける方がアッシュの手間にもならないだろう。
アッシュの申し出を断る方が却って迷惑になると推量したリーフィニアは大人しく頭を下げた。
「それでしたら…その、よろしくお願いします」
ほんの少し、アッシュに教えてもらえるという事にドキドキするリーフィニア。
因みにアッシュの方もこれでリーフィニアと堂々と交流する口実が出来たと気持ちが浮つく。
そんな2人の訓練は、翌日の早朝から行われる事となった。




