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悪女の呪いが解けたのでもう構わなくて大丈夫です旦那様  作者: 獅子十うさぎ


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22. 次期当主の実力



「魔物…が…?」


確かに、執事のガハルからそういう事もあると習いはした。

しかしまさかこんな早期に魔物の襲撃という事態に遭遇するとは思っておらず、リーフィニアは頭がパニックになる。

そんなリーフィニアの手を引き、アッシュは早足で建物の外へと出た。


「リーフィニア、護衛を呼ぶから馬車で先に屋敷へ戻っててくれ」


「え!?あの、アッシュ様は?」


口振りからアッシュは共に戻る気が無いと分かり小走りになりながら聞く。

手を挙げて護衛に場所を知らせ、アッシュは上着を脱いだ。


「俺は魔物の討伐に行ってくる」


討伐という単語に、リーフィニアは耳を疑い瞠目した。

安全な場所からの指揮ではなく、アッシュ自身が直接戦いの場に出ると言うのだろうか。


「そ、そんな!危険です!」


「大丈夫だ。これもオストラヴァ家の仕事だし慣れてるから」


「討伐も…!?え、で、でも…」


上着を脱いだアッシュの身体はその辺の貴族令息とは違いしっかりとした筋肉がついていて、慣れているという言葉にも嘘は無さそうに見受けられる。

けれども魔物の討伐までも請け負っているだなんて直ぐには受け入れ難く心配と不安が募った。

もしかしたらアッシュも妹と同じ目に遭うかもしれないと怖くなるが、かと言って代々続けられてきたであろう仕事をするなと止める訳にもいかない。

リーフィニアは迷いで視線を彷徨わせてから、ギュッと拳を握りアッシュを真っ直ぐに見た。


「でしたら、私も同行させてください!」


「は!?」


いきなりの申し出に今度はアッシュが瞠目する。


「いや、大型の魔物が出現したんだぞ?そんな危険な場所に戦闘経験も無い人間を連れてく訳にはいかないだろ。大人しく屋敷に戻っててくれ」


「嫌です!アッシュ様は危険を犯して戦おうとしてるのに、自分だけ安全な場所でぬくぬくしてるなんて事できません!決して邪魔はしませんので、どうか連れて行ってください!」


可愛すぎるリーフィニアに必死に懇願されたアッシュは困惑して閉目し眉間に皺を寄せた。

「ん~…」と声を漏らしながら逡巡し、パッと方向転換する。


「わかった。その代わり、巻き込まれないように見張り台に居てくれ。絶対に他の騎士から離れるなよ?」


「はい、わかりました!」


無理なお願いを聞いてくれたアッシュに力強く頷く。

避難誘導を受けながら避難所に向かう人波に逆らって外壁の方へ向かう2人。

大きな扉のある門前には既に警戒体制の騎士達が集まっていて、到着と同時にアッシュは声を張り指示を出した。


「皆揃ってるな!?討伐隊は俺に続いてくれ!後衛は撃ち漏らしが街に入らないよう頼む!今出現している魔物だけで済むとは限らないから、見張りもより一層警戒してくれ!」


「はい!」


本当に何度も襲撃を経験しているらしく、皆が皆行動も迅速で乱れがない。

そこへ先程アッシュが呼んだ護衛2人も合流してきた。


「アッシュ様!」


「あぁ、来たな。お前達はリーフィニアと見張り台だ。万が一魔物が迫ったら迎撃よりもリーフィニアの身の安全の確保を最優先するように。頼んだぞ」


「は!」


護衛に命令を下し、アッシュは腰のマジックバッグから戦闘用のフィンガレスグローブを取り出して嵌め今一度リーフィニアと目を合わせる。


「リーフィニア、出来るだけ安全には配慮するけど何が起こるか分からない。もし危険を感じたら俺に構わず即時避難するって約束してくれ」


「…っ、わかり…ました」


アッシュを放置して逃げるなんてと拒否したかったが、これ以上我儘も言えない。

了承してくれたリーフィニアに頷いて、アッシュは騎士達と共に扉の外へと向かった。

リーフィニアも護衛と一緒に、外壁と一体になっている見張り台へと急ぐ。


「足元にお気を付けください。階段も長いですので無理しないでくださいね」


「ありがとう」


護衛騎士の言った通り、石造りの見張り台へと登る道は長い螺旋階段となっていた。

ダンスなどする為にある程度の体力はつけているものの、階段を登り続けるというのはなかなかにキツい。

それでもアッシュが心配で、リーフィニアは急ぎ足で階段を登り切った。


「はぁ…はぁ…。あ、アッシュ様は…?」


息を切らせながらも直ぐにアッシュの所在を見張りの兵に尋ねる。

見張り兵は急に訪れたリーフィニアにも落ち着いた様子で「あそこです」と場所を指し示してくれた。

視認しようと石壁まで行き眼下の景色を一望する。


「っ、アッシュ様…」


壁の向こうは野原が広がっていて、右手には整備された道が続いているが左手は距離があるものの広大な森で埋め尽くされていた。

そしてその森の方へと騎士を引き連れ向かうアッシュの姿。

なんだか禍々しく見える森からは、蟻の姿をした複数の黒い魔物が街の方へと向かってきているのも確認できた。

バギアリルという名の凶暴な魔物だ。

その群れの中心には少し赤みがかっていて他の何倍もの大きさがあるバギアリルクイーンもいた。

前脚がまるでカマキリのようになっていて、あれが貪りの森に棲む魔物なのかとゾッとする。

恐らく5メートル近くの体高があり遠目で見ても姿形が分かる程なのに、あんなものと戦って無事で済むのかと体に震えが走った。


と、怯えるリーフィニアに凍てついた空気を壊すかのような声が掛かる。


「あれ?姉さま!」


「!ユーゾフ、あなたも来たの?」


そう、現れたのはユーゾフだ。

まだ小さい子どもの登場にリーフィニアは驚いて目を見張る。

外壁は上部が通路状になっており、ユーゾフは他の場所から登ってその通路を駆けてきたらしい。

ユーゾフの後ろには執事のガハルも付き添っていて、勝手に屋敷を抜け出したのではないのだと窺い知れた。


「おれもオストラヴァ家の人間だから、いずれは参戦することになるしね。今はまだ参加できないけど兄上の戦い方を見学して勉強してるんだ」


んっしょと予め設置されていた台座に登り地上を見下ろすユーゾフ。

「今から魔法を鍛えまくってチート主人公な人生を送ってやるぜ」と呟くユーゾフの下心にも気付かず、リーフィニアは感心して私もしっかりしなきゃと自身を叱咤した。

そんなリーフィニアにユーゾフは軽い調子で補足する。


「因みに父上も下で待機してるよ。いまは跡を継ぐ予定の兄上に戦闘も任せてるけど、いざとなったら加勢するだろうから兄上がやられることは無いと思う」


ユーゾフが指差した場所を見ると、確かに門の近くで腕を組みながら監督する辺境伯の姿があった。

話ぶりから察するに辺境伯は相当な実力者なのだろう。

なんだか気持ちも軽くなったところで、いよいよアッシュ達は戦闘態勢へと入った。



「クイーンは俺が相手する!お前達は他のバギアリルを一掃してくれ!行くぞ!」


アッシュの指示で、騎士達が一斉に魔物への攻撃を開始する。

武器を使ったり自分の得意とする魔法を使ったりと戦い方は様々だ。

やはり戦い慣れているようで、怖気付く事もなく一人一人がしっかりと魔物を殲滅していっている。

と、群れの仲間を攻撃され怒ったクイーンが鎌を振り上げた。


《ギシャァァア!》


雄叫びと共に小型と戦う騎士の1人へと振り下ろす。

だが、即座にアッシュが地面を蹴って間に入った。


「させるかよ!」


ーーガキィン!


鎌を弾いたアッシュが手にしていたのは、両端に刃が付いた薙刀のような武器だ。

弾いただけでなく横回転して別の脚も斬りつける。

背後から別の小型も迫ったが、間髪入れずに後ろ向きのまま頭部へ刃を突き刺し瞬殺した。

流れるような動きにユーゾフが感嘆の息を漏らす。


「うわぁ~、やっぱ兄上双刃刀(そうじんとう)の扱い上手いなぁ。ゲームのキャラ感すげぇ」


「双刃刀?」


聞き慣れない名前につい聞き返すリーフィニア。

質問されたユーゾフはウキウキと解説し始める。


「我がオストラヴァ家で代々受け継がれてる武器だよ!アレを使い熟すのも当主になる条件だったりするんだ。兄上は歴代でもピカイチだって言われるくらいの双刃刀の使い手なんだよ!」


鼻高々に説明してから「けど代々受け継がれた武器使うとか主人公っぽくて羨ましい…!」少々嘆きだすユーゾフ。

そこはスルーして、リーフィニアは完璧な身のこなしで戦うアッシュに視線を戻す。

魔物の攻撃を柄で受けたかと思いきや後ろに流し、勢いを殺さず斬撃を繰り出す動きは流麗で見惚れるほどだった。


「アッシュ様…そんなに凄い方だったのね」


リーフィニアはアッシュに尊敬の眼差しを向けて呟く。

それを見たユーゾフはハッとした。

ここは兄を盛り立てるチャンスの場ではないかと気付き意気込んで話しだす。


「兄上がすごいのはそれだけじゃないんだよ!多分いま使うから見てて!」


「?」


よく分からないが、言われるがままに凝視した。

クイーンと戦うアッシュへと複数のバギアリルが迫り始める。

するとアッシュは右手の双刃刀でクイーンを斬り上げながら左手を小型のバギアリル達へ向けた。




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