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悪女の呪いが解けたのでもう構わなくて大丈夫です旦那様  作者: 獅子十うさぎ


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19. アップルパイ



「あの…お呼びでしょうか?」


現れたのはリーフィニアの専属メイドであるジュマだった。

急な呼び出しと中にいるメンバーを見て戸惑った様子を見せるジュマ。

一番近くにいたユーゾフがとてとてと近付き明るい調子で話しかける。


「いらっしゃいジュマ。いまね、リーフィニア姉さま懐柔作戦の会議をしてたんだよ」


「え?それってどういう…」


と、ジュマが言い切らない内にアッシュがピシッと指差し告げた。


「ジュマ、君を本作戦の指揮官に任命する」


「本当にどういうことですか!?」


突然与えられた謎の重要ポストに仰天しながらツッコミを入れてしまう。

動揺の激しいジュマにカーサが寄り添って説明した。


「気負わなくて大丈夫ですよジュマ。要はアッシュ様がリーフィニア様と仲良くなる為に手を貸してほしいという話ですから」


「あ、なんだそうなんですね。それなら喜んで!」


想像よりも平和的な内容にホッとするジュマ。

慕っている主人であるリーフィニアと仲良くしたいという申し出ならば大歓迎だ。

乗り気になってくれたジュマに今度はきちんと相談するアッシュ。


「俺達は本来のリーフィニアがどんな人物か知らないからな。闇雲に行動するよりもジュマに助言を貰いたいんだ。例えばリーフィニアの好みとかは把握してるか?」


「はい!以前と好みが変わっていない限りは大丈夫です!いくらでも聞いてください!」


頼もしい返事に皆が笑み頷く。

そしてジュマを中心に、リーフィニア懐柔作戦の話し合いが進められたのだった。






「リーフィニア様、おはようございます!」


「? おはようジュマ」


翌日、朝食を持って部屋に訪れたジュマに元気よく挨拶されたリーフィニアは首を傾げつつ挨拶を返した。

リーフィニアが悪女から解放されてからというもの日に日にジュマの表情は明るくなっていたが、それにしたって今日はいつにも増して元気だ。

ご機嫌なジュマにリーフィニアから質問する。


「どうしたのジュマ?何か良い事でもあったの?」


「はい!じつはリーフィニア様に朗報を持ってきたんです!」


「朗報?」


聞かれたジュマはニコニコとしながら直ぐに内容を話し出した。


「リーフィニア様、料理長様からアップルパイの作り方を教えてもらいたいって言ってましたよね?」


「ええ。え?それじゃあ、もしかして…」


「そうなんです!料理長様に確認しましたら、リーフィニア様の為ならって喜んで了承してくださいました!」


今度は、ジュマに負けない程にリーフィニアがパァッと顔を明るくする。


「まぁ!本当に?いつ頃なら都合が良いかしら?」


悪女と化してからお菓子作りも出来なかった為、早く教えてもらいたくてウズウズしてしまうリーフィニア。

反応を予想していたジュマはニコリと笑って答える。


「いつ来ても問題無いように既に準備を整えていると仰ってましたよ!」


「そう!それなら朝食を食べたら早速伺おうかしら?」


「はい!そうしましょう!」


ジュマに促された事で尚更やる気が溢れたリーフィニアは逸る気持ちを抑えながら朝食に手をつけた。

下品にならない程度に早めに食事を済ませ、汚れても構わない動きやすい服へと着替える。

そしてジュマと足取り軽く厨房へ向かった。



「リーフィニア様、お待ちしてました!」


厨房へ着くとニカッと笑みを湛えながら料理長が出迎えてくれる。

歓迎してくれて嬉しいが悪女時に罵倒した食堂以来初めて顔を合わせたので、リーフィニアはまず先に頭を下げた。


「オッタ、以前は美味しい料理に心にも無い批判をしてしまってごめんなさい。それなのにレシピを教えてくれるなんて…とても感謝してるわ」


朗らかに笑ういじらしい姿に、アッシュが真剣になるのも納得だと思いながら料理長オッタは首を横に振る。


「いやいや、事情はあっしも窺いやしたから!それに最近は感想をわざわざメモでくれてますし、もうあの時のことは忘れましたよ!あ、エプロンはこちらを使ってください!」


アッシュもそうだがこんなにすんなりとリーフィニアの状況を受け入れてくれる皆の姿を見ると、自分が嫁いだのがオストラヴァ辺境伯家で本当に良かったなと改めて思う。

きっと他家ではこうはならなかっただろうと推測しながらリーフィニアはエプロンを受け取った。


「ありがとう。それじゃあ早速、ご指導願いますね」


「任せてくだせぇ!」


そうして始めたお菓子作りは、リーフィニアにとって本当に楽しい時間だった。



「おぉ、貴族令嬢とは思えないほど包丁捌きもさまになってますね!」


林檎を切るリーフィニアを褒めちぎるオッタ。

久しぶりに握った包丁だけれど体はある程度感覚を覚えているようだ。


「褒めてもらえて嬉しいわ。これを鍋に入れたら良いのね?」


「ええ!そしたら砂糖とレモン果汁をかけて放置してくだせぇ。林檎から水分が出たらそれで煮込むんです」


「まあ、林檎の水分だけで煮込むの?だからあんなに濃厚だったのね」


直ぐに理解して忘れないようにメモまで取るリーフィニア。

教え甲斐を感じたオッタも饒舌になる。


「もちろん、林檎も拘ってましてね。トムタッタ中の農家を直接廻って最も自分の理想に近いモノを選び抜いたんす!」


「そういえばトムタッタは農業にも力を入れているのよね?沢山ある農家に直接足を運ぶなんて凄い情熱ね」


「美味いもんを作る為なら手間暇は惜しめませんから!因みにこのアップルパイ、生クリームを添えても美味しいんですよ!」


オッタの口から出た新情報にリーフィニアは更に目を輝かせた。


「それは是非食べてみたいわ!想像だけでも美味しそうですものっ」


「お、なら今回は生クリーム添えでいきましょうか!」


「そうしましょう!あ、生クリームも私に任せて!泡立て器5分で作れるのが私の特技なのっ」


それを聞いてオッタはぱちくりしながらリーフィニアの腕を見る。

自分の腕の3分の1くらいしかない腕を前に半信半疑な顔をした。


「その細腕で?魔道具も使わずにですか?」


「ええそうよ。大丈夫、見ててちょうだい」


少し心配しつつも、オッタはボウルと泡立て器を用意して冷蔵庫から生クリームも出す。

リーフィニアは氷で冷やす事もせず、生クリームが冷たい内に砂糖を入れて泡立て器を叩きつけるように混ぜ始めた。

やはり腕の筋肉が足りないため途中途中で手を振るように休憩を挟みつつもめげずに混ぜ、本当に5分程でクリーム状に仕上げる。

これにはオッタも本気で感心してみせた。


「ほぉー、本当に作っちまうとは…!空気の入れ方が上手いんですね。リーフィニア様がお菓子作りを好きなのがよく伝わりましたよ!」


「ふふ、ありがとう。ちょっと飛沫が飛びすぎちゃうのが難点だけどね」


ボウルの周りに飛び散った生クリームを拭きながら苦笑いするリーフィニア。

しかしオッタは力強く否定する。


「その程度まったく問題ありませんよ!いやぁ、ホントに大したもんです!パイが焼き上がったら早速添えましょう!あ、そうだ!」


何かを思いついたようで、オッタは拳を握りリーフィニアにずいっと近付いた。


「折角作ったんですし、出来上がったらアッシュ様にも差し入れてはいかがですか!?」


「え?」


この提案にはリーフィニアも少したじろぐ。

つい尻込みして俯いてしまった。


「いえ…私なんかから貰っても、逆に迷惑になってしまうと思うわ。私はこれまで沢山アッシュ様に迷惑をかけているし、嫌われているもの」


が、オッタの方は笑顔を崩す事なく続ける。


「なら尚更です!これまでの謝罪として持っていきましょう!アッシュ様はこのアップルパイが大好物ですから、きっとリーフィニア様の気持ちも伝わりますよ!」


謝罪の為と聞き、リーフィニアも顔を上げた。

口先だけでなく別途謝りたいとは思っていたし、アッシュの大好物ならば確かにお詫びの品としてちょうど良いだろう。

それに誠意を見せるなら使いに任せず自分の手で渡した方がいい。

納得したリーフィニアはコクリと頷いた。


「…そうね、そうするわ。ありがとうオッタ」


了承したリーフィニアは、尚更気合を入れてパイ作りに励む。

そして見映え良く完成したパイを手に、後ろでオッタとジュマが小さくガッツポーズをとっているのにも気付かずアッシュの部屋へと向かったのだった。




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