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悪女の呪いが解けたのでもう構わなくて大丈夫です旦那様  作者: 獅子十うさぎ


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15/21

15. 使用人達の再評価



(皆さんと仲良くなるのは無理でも、せめて自分の仕事はしなくちゃ)


食事の後、リーフィニアは自室にてそう意気込みを新たにしていた。

そんなリーフィニアの心の声に応えるように扉がノックされる。


ーーコンコンコン


「若奥様、お呼びでしょうか」


現れたのは執事のガハルだ。

机に向かっていたリーフィニアは立ち上がって出迎える。


「ええ、急にごめんなさい。貴方にお願いがあって呼ばせてもらったの」


「はい。何用ですか?」


「いまお屋敷の管理は全て貴方がしているのよね?」


ピクリ、と小さくガハルは反応した。

警戒心を強めながら悟られないよう微笑みを作る。


「左様でございます。奥様が亡くなられてから、ご多忙な旦那様に代わり私が勤めさせていただいております」


再確認したリーフィニアはこくりと頷きガハルを真っ直ぐに見据えた。

堂々とした姿勢を崩さないように口を開く。


「本来それは当主夫人の仕事…つまり、私がすべき仕事になるわよね?」


「はい、その通りです」


「それで、お願いなんだけど…」


笑顔で肯定しながら、ガハルは神経を尖らせた。

恐らくリーフィニアの要求は夫人の権限を寄越せというものだろう。

その内容には予算や人員の管理など使用人の生活に直結するような事柄も多い。

やろうと思えば気に入らないという理由だけで全員クビにすることだって出来るのだ。

いくら結婚して次期当主夫人になったからといっても好き放題されては非常に困る。


ガハルはどのように対処しようかあらゆる想定を笑顔の裏で繰り広げながら続く言葉を待った。

が、そのどれにも当てはまらない願いをリーフィニアは告げる。


「ここへ来たばかりで屋敷の事もまだ何も分からないの。今のままではとても夫人としての仕事も務まらないから、どうか教えてもらえないかしら?」


教えてほしい、という低姿勢な頼みにガハルは毒気が抜かれた顔をした。

だがそれも一瞬のことで警戒心は弛めず答える。


「畏まりました。では早速資料をご用意させていただきます。本日から始めますか?」


「ええ、貴方の都合が良ければお願いしたいわ」


「承知いたしました」


直ぐに始めるかという質問にも一切怯まない辺り、口先だけではないように窺えた。

だがまだ油断はできないと気を引き締めながら退室するガハル。

これまでの事を思えばいきなり重要な仕事を任せるなんてもっての外で、見せても問題無い資料だけを集めるべく奔走し部屋へと戻った。



ーードサッ


「ず…随分あるのね…」


目の前に積まれた紙の束に、思わずリーフィニアは引き攣り笑いする。

対してニコリとガハルは落ち着いた笑顔を作った。


「いえ若奥様、こちらはほんの一部でございます。まずはここ5年分の大まかな予算の動きをまとめました。もう少し資料が必要でしたらお申し付けください」


「あ…ありがとう」


ほんの一部と聞きリーフィニアは僅かに顔色も悪くなる。

けれど直ぐに自分を叱責して資料に目を落とした。


(折角私の為にこうしてまとめてくれたんだもの!ちゃんとしなきゃ!)


3年のブランクがあるとはいえ、悪女となる前は勉学にもしっかりと励んでいたリーフィニアは黙々と読み込む内に徐々に流れが掴めてくる。

必死に読み込む様子をガハルも鋭く観察した。

表情や目の動きからも読んでいるフリをしているようには見えない。

そしてそれは次のリーフィニアの言葉で確信へと変わった。


「…? ねえ、ガハル。質問なんだけど」


「! はい、何でしょうか?」


メイド長から報告を受けてはいたものの、自身の名を呼ばれ本当に覚えてくれたのだなと思いながら耳を傾ける。

リーフィニアは資料の一部を指差して訊ねた。


「3年前のこの月…予算の動きが他と大きく違っているのだけれど何故かしら?」


ふむ、と感心して頷きながらガハルは答える。


「若奥様は隣国との国境に『貪りの森』が広がっているのはご存知ですか?」


「ええ。確か凶暴な魔物も多く棲んでいる森よね?国境を守る天然の要塞のような働きもしていると聞いたことがあるわ」


「左様でございます」


きちんと知識を身に付けていることを意外に思いながらガハルは大きく頷いた。


「貪りの森は国境沿いであるここトムタッタとも隣接しているので魔物の出現も珍しくないのですが、稀に大型の魔物が現れ街に被害を与える事があるのです。若奥様が指摘された月はまさにそれに当たります」


「魔物が…」


妹が自分を庇って魔物に襲われた事件を思い出して一気に顔色が悪くなるリーフィニア。

ガハルはリーフィニアが魔物に怯えているのだと解釈し、落ち着かせるように続けた。


「ご安心ください。幸いにも死者はおりませんでしたし、ここの騎士団はとても優秀です。魔物との戦闘にも慣れておりますし、若奥様に被害が及ばぬよう必ずやお護りしましょう」


「…ありがとう。心強いわ」


気遣ってくれるガハルにどうにか笑みを返す。

しかし尚も顔色が優れないリーフィニアを案じたガハルは警戒心を解き穏やかに話しかけた。


「申し訳ありません。そういった資料も共に用意すべきでしたね。私めの落ち度です。改めて必要資料を用意しますので、どうか若奥様は休憩なさってください」


本当はリーフィニアを試す為にわざと用意しなかったのだが、自身のミスという形にして誤魔化す。

休憩を促され「え、でも…」と躊躇するリーフィニアに更に提案した。


「気分転換に庭園のお散歩などいかがでしょう?適度に息抜きされた方が勉学も捗りますよ」


「…そうね。そうするわ」


心配してくれているガハルの気持ちを汲み、素直に従うことにしたリーフィニア。

ジュマ達も引き連れて久し振りに庭園へと向かった。




「まぁ…!」


前回来た時からそれ程期間は空いていないが、庭園の様相は大きく変化していて思わず声が漏れた。

全てではないが別の種類の花に植え替えられ、以前聞いていた通り緑の生垣に見えた場所には薔薇の花も咲き乱れている。

もちろん前回来た時も素晴らしい庭園だと感じたけれど、また違った華やかさで美しい景観となっていた。


(ガハルの言う通り来て良かったわ…なんだか一気に心が晴れた気がするもの)


花のいい香りを含んだ新鮮な空気を吸いながら気持ちが凪いでいくのを実感する。

それからガゼボの方へと目を向けた。


「少しあそこで休んで良いかしら」


「はい。ではお茶も用意しますね」


「ありがとう」


前回見た時にとても素敵だと思ったけれど、結局立ち入る事なく終わってしまったガゼボ。

改めて近くで見てやはり美しいと感じながらリーフィニアは繊細な花柄模様が彫られた白い椅子に腰掛けた。

少しだけ高さのある位置から眺めれば、また庭園が映えて見える。


と、ガゼボ近くの小道からカサリと葉の擦れる音が聞こえた。

反射的にパッと目を向ける。


「!」


そこで驚いた様子で立ち竦んでいたのは庭師の少年だ。

リーフィニアと目が合った瞬間、即座に頭を下げ立ち去ろうとする。


「あ、待ってリアム!」


咄嗟にリーフィニアは庭師の少年を引き留めた。

瞠目しながら振り返る少年。


「え…どうしてボクの名前を…」


「ジュマから聞いたの。こんな素敵な庭園を手掛けたリアムとちゃんと話がしたくて」


が、名を呼んでもらえてもリアムは依然として警戒しながらボソボソと言葉を返した。


「一体…ボクと何の話をするんですか…?」


「え、えっと…」


ジリジリと距離を取ろうとするリアムにリーフィニアは焦って目を左右に動かす。

ここは興味のある共通の話題を振るべきだろうと、近くの花を指差した。


「あ、あの花!ペチュニアだったわよね?」


「え…はい」


「様々な色があるけれど、私は特にこのピンクと白の組み合わせのものが好きなの。ここに植えててくれて嬉しいわ」


花を褒められてリアムの表情が弛んだのを見越し、リーフィニアはガゼボの階段を降りて近くに寄る。

リアムの足元付近に咲く花へと視線を送った。


「あ、そっちはジギタリスね?薔薇との相性も良くて好きよ。それから…このゲラニウムもとても可愛らしいわ。あら、そっちにはオステオスペルマムも植えてるのね」


目を輝かせながら次々と花の名前を言い当てるリーフィニアに、リアムはぽかんとする。

薔薇が咲いてないと難癖をつけてきた令嬢と同一人物に思えず動揺しながら口を開いた。


「詳しいん…ですね」


「ふふ、私の妹がとても花好きでね。話を聞いているうちに私まで覚えてしまったの」


「そうなんですか。花が好きなら、妹さんはきっとお優しい方なんですね」


リアムの褒め言葉を聞き、リーフィニアは嬉しそうにふわりと微笑む。


「ええ、とっても優しくて可愛くて家族想いのいい子よ。私の自慢の妹なの」


そう言ってから、リーフィニアは目を伏せて表情に影を落とした。


「なのに…そんな妹を私はたくさん傷つけてしまったわ…。いつかちゃんと謝れると良いんだけれど…」


泣きそうなくらいに切なげに告げるリーフィニア。

先程までは逃げようとしていた筈のリアムもなんだか心配になってしまう。

あまり深く考えずについ口から提案が出てしまった。


「でしたら…その時は妹さんの好きな花束も渡してはいかがですか?ボクが見繕いますよ」


そう口に出してから、リアムはしまったと硬直する。

お前如きが何様だと叱責されるかもしれないと思ったからだ。

だが、予想に反してリーフィニアは顔をパァと明るくした。


「まぁっ、本当に?是非お願いしたいわ!ありがとうリアム」


言葉にも表情にも嘘があるようには見受けられない。

本気でリアムに頼みたいのだという気持ちが伝わってきた。

リーフィニアに対する認識に変化が生じたのをリアムも自覚する。



そしてそんな使用人達からの報告を、当然アッシュも受け取ることとなった。





評価やブクマ、とても執筆の励みになります。

ありがとうございます


できれば最終話まで毎日更新したい…!

がんばりますっ


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