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悪女の呪いが解けたのでもう構わなくて大丈夫です旦那様  作者: 獅子十うさぎ


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14/20

14. 悪女…?



「失礼します」


ーーふわっ


丁寧な所作でリーフィニアが入室した途端に、その場の全員が空間の華やぎを感じた。

皆が皆で呆然としてしまう。


リーフィニアが身に纏っていたのは、淡い桜色のドレスだ。

ハイネックの白い内着とオフショルダーのワンピースを組み合わせたようなデザインで、プリーツの多いふんわりとした印象の物。

普段はしっかり1つに括っている髪もおろされ、ハーフアップにしてリボンで緩くまとめていた。

つり目に見えるほどの厚化粧もしておらず、ナチュラルなメイクを施された顔は垂れ目で優しげな面立ちをしている。

これまで見たものとは180度違うその姿はとても柔らかい雰囲気で、言葉に出来ないくらいあまりにも可愛らしいものだった。


(え。もろ好み)


よもや見た瞬間のアッシュの心の第一声がコレである。

しかし直ぐにハッとして正気になるよう自分に言い聞かせるアッシュに、リーフィニアは微笑みを湛えて挨拶した。


「おはようございます。朝食をご一緒してもよろしいでしょうか…旦那様」


(旦那様!!)


自分の好みどストライクな姿で口にするその単語の破壊力たるや。

だがハニートラップにも引っ掛からないように教育されてきたアッシュは、決して顔に出さないように冷静な表情で見据えた。

心を鬼にして鋭い口調で質問する。


「…急に一緒に食事をなんて、一体何が目的だ?回りくどいやり方なんかしないで、はっきり言ったらどうだ」


さりげなく片手を横に伸ばし、隣で顔を強張らせているユーゾフを守るようにリーフィニアから遮る。

ユーゾフが居るため余計に警戒されていると気付いたリーフィニアは慌てて言った。


「なっ、何も企んでなんていません!わ、私もこの家に入りましたし、できれば皆さんと仲良くしたいと思って…」


けれどリーフィニアの言葉を聞いたアッシュは逆に心が冷める。

更に目を細めて言い放った。


「そうしようとした俺達を何度も踏み躙ったのは…他でもないお前だろ。やっぱり気が変わりましたで通じると思うか?」


「!」


まったく持ってその通りだった。

これまでいがみ合っていたにも関わらずアッシュ達はリーフィニアを迎え入れ歩み寄ろうとしてくれた。

でもそれを自分は一蹴して突き放し傷付けたのだ。

リーフィニアは自分の浅はかさに俯く。


(本当にそう…。あれだけの事をしておいて今更仲良くだなんて、あまりにも虫がよすぎるわ)


もちろん、あれは呪いか何かのせいなんだと言いたい気持ちもある。

けれど普通に考えて信じてくれる筈がないし、下手な言い訳だと思われ状況が悪化するかもしれない。


そう考えて返す言葉が無く黙り込んだリーフィニアを見て、やはり何かを企んでいたのだと判断したアッシュは即座に席を立ちユーゾフの手を引いた。


「悪い、朝食は部屋でとる。ユーゾフの分もまとめて持ってきてくれ」


「はい、畏まりました」


近くの使用人に頼んで直ぐに出口へ向かうアッシュ。

もしもここにユーゾフが居なければ、疑念があっても食事くらいは共にしていただろう。

けれど弟をリーフィニアの魔の手から逃れさせたい今のアッシュに即時退室以外の行動など考えられなかった。

「ぁ…」と小さく声をこぼしたリーフィニアに振り返らず食堂を後にする。


ーーバタン


無情に閉扉された音の後に残ったのは、シンとした空気のみ。

気まずそうにメイドがリーフィニアに声を掛ける。


「あの、リーフィニア様…お食事をお持ちしてよろしいでしょうか…?」


八つ当たりされるのではという恐怖にも耐えながら聞いてくれたメイドに、リーフィニアは何とか気を持ち直して答えた。


「ええ、お願いするわ」


例えアッシュ達が居なくても、このまま食事もせずに戻るのは良くないだろう。

着席したリーフィニアの前に朝食が並べられていく。

気落ちしながらもリーフィニアはスープをひと口飲んだ。


「…美味しい」


相変わらずの美味しい食事は少し気分も上向けてくれる。


(ダメね…この程度でくじてけちゃ何も変わらないわ。自分にできる事を少しずつでもしていこう)


そう気持ちを改め、リーフィニアは使用人の方へ顔を向けた。


「あの、料理長へ伝言を頼めるかしら?」


「な、何かお気に召さないものがございましたか?」


狼狽えながらビクビクとする使用人。

毎日のように文句をつけていたのだから仕方ないが、リーフィニアは苦笑して続けた。


「いいえ、そうじゃないわ。『いつも美味しい食事をありがとう。今日の朝食もとても素晴らしいわ』と伝えてほしいの」


「え?」


聞いた使用人は思わずポカーンとする。

動揺がおさまらないままたどたどしく頷いた。


「は、はい…。畏まりました」


これまでのリーフィニアからは考えられない言葉に、食堂にいた使用人達は一様に目を見合せて疑問符を浮かべる。


まさかそんな状態になっているなどと考えもしていないアッシュは、自室でユーゾフと2人だけの朝食をとろうとしていた。




「兄上、あの人どうしたんだろ?なんかマジで別人みたいだったけど…」


あの日以来リーフィニアに苦手意識があるユーゾフから見ても、その変わりっぷりはかなり衝撃だったようだ。

ちぎったパンを口に含みながらアッシュに真剣な目を向ける。


「もしかして、結婚を機に改心したとか」


「だったとしてもあんな性根の腐った奴が一瞬で変われるわけないだろ。それも仕草や口調までなんてな。演技って考えた方がよっぽど自然だ」


「たしかに」


次期当主だけあってあの短時間でも見た目だけでなく動き一つまで別人のようになっていると見抜いていたアッシュ。

肩を落としながら言ったアッシュの答えにユーゾフも直ぐに納得した。

悪女リーフィニアの毒牙の餌食になったのはつい先日のこと。

そう簡単に心を入れ替えたなどと思えるはずもない。

リーフィニアの姿に心が揺らぎはしたものの、アッシュは家を守る為にも出来る限り理性的に判断をした。


「これまでと違った動きをしてきたんだから、何かしらの目的がある筈だ。一先ず様子見して探ってみるか。そのうち本性を現すだろ」


「わー。碌でもないこと企んでそうですでに怖いんだけど」


「大丈夫。俺もだ」


兄弟2人でゾゾーと鳥肌を立てながらパンを頬張る。

しかし、そんな2人の予想を大きく裏切ってくるなどとはこの時は考えもしなかった。




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