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第八話

「うーん、どっちにしよう。ハンバーグカレーが王道なんだろうけど、スタミナ丼も捨てがたい。あー、悩むなぁ。」


僕は食堂のメニューを見ながら、悩みに塗れたつぶやきを漏らす。

先ほどまで名も知らぬ生徒に呼び出されていたため、すでに食堂の席の大半は埋まっている。


「すごく口惜しいけど、季節限定のトッピングができるスタミナ丼にしよう。ハンバーグカレーには申し訳ないけど、キミはまた今度食べさせてもらうことにするよ。」


僕はどこかに存在しているかもしれないハンバーグカレーの化身に謝罪を飛ばし、スタミナ丼の食券を買う。

そうして料理が作られるのを待つこと数分。

料理を受け取り、空いている席に腰を掛けた。


「それじゃあ───いただきます。」


両手を合わせて、そうつぶやく。

右手でスプーンを握り、食事を口へと運ぼうとしていた僕に、背後から誰かが声をかけてきた。


「昨日ぶりだな、ルアナ。突然だが、隣に失礼するぞ。」


声の主…風紀委員長殿ことシュナ先輩はそう言って、僕の隣へと座る。

チラリと何を頼んだのかと思って視線を向けてみると、彼女は麺類の入ったどんぶりを持っていた。


くっ、そういう選択肢もあったか!!

麺類は僕の射程範囲内に入ってなかったよ。

まぁそれはさておき──。


「僕になにか用ですか?とくになにか問題を起こしたような記憶はありませんよ?」


「別に、なにか苦言を呈しにきたわけではない。用事があるのは間違いないが、責めたりする予定はないからそう身構えるな。」


怒っているように感じさせる仏頂面でシュナ先輩はそう告げる。

しかしそれが彼女のいつも通りだと僕は知っているため、不愉快に感じたりすることはない。


「話というのはお前も代表に選ばれたであろう武闘大会のチーム戦の話だ。念のため聞いておくが、真面目にやってくれると考えていいのだな?」


あぁ、なんだ。

そんなことか。

何ごとかと身構えていた僕がバカだった。

僕はフッと笑みを零して、シュナ先輩に優しげな声音で言葉を投げかける。


「はい。安心してください。報酬があるので最低限の働きはしますから。」


「そうか。」


淡白な、短い返事。

僕が動いてあげるんだから、もう少し喜んでも良いと思うのだが……まぁ良いとしよう。


「まだ話があるんだったら、放課後にでもしてください。どうせ、シュナ先輩も呼ばれているんでしょう?」


「そうだな。そうさせてもらおう。」


そうして僕は空になったお皿を持って、食堂から去っていくのであった。


✚✚✚


放課後。

授業が終わり、各々が教室から出ようとしていたその時。

一年生であろう数人の生徒たちが、僕たちの教室に入ってきた。


「おいおい。ザーツェルムを倒したヤツがいるって聞いたから少しは期待してたのによぉ……雑魚しかいねぇじゃねぇか。」


目つきの悪い短髪の不良みたいなヤツが、見た目通りの口調でそう言う。

誰かに喧嘩を売りに来たのかな?

たしかにSクラスは喧嘩を売られやすいけど、まさか上の学年にするとは思わなかったよ。

まぁ僕には関係ないだろうから学園長室に行かせてもらうけど。


前の扉は彼らが占拠しているため、僕は後ろの扉へと向かう。


「あん?ここまで言われて誰も言い返さねぇとか、そんなに俺様が怖いのか?見る目はあるみてぇだが、つまらねぇなぁ。」


「ブフッ。」


不良くんのその一言に、僕は思わず吹き出してしまう。

ヤバっと思ったのも束の間、プルプルと怒りで震えているであろう不良くんとその取り巻きがこちらをジロリと睨みつけてくる。

ゼルたちクラスメイトはギョッとした表情を僕に向けてきた。


「テメェ、なに笑ってんだ?どこが可笑しかったのか言ってみろよ。」


努めて冷静にしようとしているのが分かる声音。

普通だったらここで謝ったりして、なんとか平穏に終わらせようとするのだろう。


だけどさ……それじゃあ面白くない。

そんな平凡な終わらせ方じゃあ、絶望を得ることはできないよ。


「キミのその、俺様最強だからっていう自信満々な顔が実に醜くて、それでいて滑稽でさ。そんなのを見せられたから、笑っちゃったんだ。あぁでも、別にキミが悪いって言ってるわけじゃないんだ。キミが自分が無知で、醜悪で、愚鈍な人間なのを自覚していないのはしょうがないことだからね。だってキミはどうしようもない無能なんだから!!」


僕は口を三日月のように歪め、満面の笑みで告げた。

あー、実にいい気分だよ。

それにしても…人を貶すのは、どうしてこんなにも気持ちがいいのだろう。


「僕が言いたいことは分かってくれたかな?これからは自分のことをもう少しだけ見つめて生きていったほうが良いと思うよ。じゃないとこれからも多くの人に僕と同じようなことを思われちゃうからね。それじゃあ僕は帰らせてもらうよ。」


彼らに背を向けて、宣言通り教室を出ようと足を動かす。

そんな僕の背中にパシリと何かが投げ当てられた。


「コレは……もしかしてアレかい?決闘の申し込みっていう認識で構わないかな?」


僕の問いに答えたのはゼル。

どうやら貴族の間では、自身の手袋を相手に投げつけるのは、決闘を申し込んでいるということらしい。

今回は僕が知ってたから良かったけどさぁ……もう少し、僕ら平民に配慮してほしいな。


まぁ、それはともかく……。


「つまりこの手袋にはキミのプライドとかそういう大事なものが乗っかっているわけだ。じゃあそうだね。────とりあえずコレはお返しだ。」


躊躇なく、僕は地面へと落ちている手袋を踏みにじった。


「まず最初に聞かせてよ。どうして僕に決闘を挑もうと思ったの?それを教えてくれないなら、決闘を受ける気が湧かないんだけど。」


汚れを擦るように、グリグリと手袋を地面へと押し付ける。

もちろん馬鹿にするような、ニヤニヤとした笑みも忘れずに。


「端的に言うなら、テメェを死ぬほどぶちのめしてぇからだ。まさか逃げるだなんて言わねぇよなぁ⋯第二学年最強のルアナ先輩よぉ。」


「そうかいそうかい。それは大層な目標だ。まぁ叶わないと思うけどね?夢と現実の区別がついてないお子ちゃまのキミは僕が直々に磨り潰してあげよう。泣いて感謝するといい。」


こうして、新学期早々から僕の決闘が決まったのであった。



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