第九話
「というわけです、先輩方。僕が決闘を挑まれた経緯は理解してくれましたか?」
どうしてこんなにも僕はいろいろな人に絡まれるんだろうね?
まったく、自分の運の悪さには辟易しちゃうよ。
僕はただ普通に生きているだけだって言うのにさ。
あの程度の煽りで決闘を挑もうとするとか、最近の貴族は短気すぎないかな?
さすがの僕もあれは予想外だったね。
ああいうのが今後の国を担っていくって考えたら怖気しかしないよ。
「はぁ⋯やはりお前の思考は私達に理解できん。どうしてそんな自分から問題を引き起こすのか。」
「まぁまぁシュナちゃん。何事にも物怖じしないのがルアナくんのいいところなんですから。少しくらいは大目に見てあげましょうよ。」
好き勝手にそんな会話を繰り広げるのは、僕と同じように学院長室へと呼び出された二人の女子生徒。
風紀委員長ことシュナ先輩と生徒会長ことリィル先輩だ。
言わずと知れた、ゼルナヴァ学院の最強の一角と謳われている人たちである。
「それで、学院長はいつになったら来るんですか?」
「シルヴェスタ先生は来ないよ?今日はあくまで私達の顔合わせだから、教師がいても邪魔だろうって言ってどっか行っちゃったし。」
僕の問いに答えたのはリィル先輩。
「ほんとうですか…シュナ先輩。」
「あぁ。ほんとうだ。私もその場にいたしな。」
「さいですか。じゃあ適当な話しでもしましょうか。自己紹介とかはしなくても大丈夫ですね?」
そうして、時は進んでいく。
✚✚✚
「結構人が来てるなぁ。さすがは公爵家のご令息の初決闘、すごく注目されてるね。」
想像以上に集まってきていたオーディエンスたちを一瞥して、対面に立っている不良貴族にそう告げる。
「降参するなら今のうちだぜ。まぁどっちにしろ、テメェの無様な姿が全校生徒に知られちまうわけだがよぉ。」
降参?
彼はいったい何を言っているのだろうか?
まさか大勢の人が集まってるだけで、僕が降参するとでも思ったのだろうか。
それはそれは…頭が実に弱いとしか言いようがないねぇ。
たしかに僕はごく普通の一般人だけど、人前に立たされた程度で逃げ出すようなほど心臓が弱いわけじゃないんだ。
それに…ここで逃げ出したりしたら、まるで僕が悪いことをしたみたいじゃないか。
悪いことをしていないんだから、僕が身を引くことはあり得ない。
そっちが土下座して、僕の靴を舐めるって言うのなら考えてあげないこともないけどね。
「前も思ったんだけどさ、キミは公爵令息よりも道化師の才のほうがあるんじゃない?こんなにも滑稽な姿を見せて、平然としていられるのは普通じゃできないしさ!!」
彼がどこかの劇団で、ピエロのような格好をしているところを想像する。
うんうん、絶対に平民の子どもにウケると思うよ。
同じ平民の僕がこう言ってるんだから、きっと間違いない!!
「テメェは確実に潰してやる。二度と軽口をたたけねぇほど、徹底的に痛めつけてやるよ。」
「人が本気で言っていることを軽口だと決めつけるなんて……ひどいなぁ。うっかり殺されちゃっても、文句が言えないレベルの発言だよ?そんなんだから、みんなに愚かで滑稽って思われるんじゃない?」
僕はひどいことを言われたのにも関わらず、諭すような優しい口調で告げる。
あぁ、僕の心はコイツと違ってほんとに澄み切ってるんだなぁ。
そんな僕に嫌なことをしてくるこういうヤツは……死んでも問題ないよね。
「まぁ口論なんてどうでもいいから、さっさと始めようよ。キミは何を言っても、自分のわがままを撤回する気はなさそうだし……もう時間の無駄でしょ。」
「結論だけは同意だな。ちっ、まったく反吐が出そうだぜ。」
僕らは審判を任されている先生へと目を向ける。
先生はコクリと頷いて、開始の合図を出した。
✚✚✚
決闘が始まってからだいたい数分。
わずかな時間しか経過していないのにも関わらず、戦いは決着が着きそうになっていた。
それも、誰しもが予想しない形で。
「オイオイオイ!!どうしたよォ、第二学年最強さん!!テメェの力はこんなもんかァ!?だとしたら、期待外れにも程があるぜ!?」
無数に放たれた火の玉が、縦横無尽にフィールド内を駆け巡る。
それらが狙うのは、ボロボロになっているルアナだ。
「くぅ!?………ぐあぁッッ!!」
吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。
それを見た不良くんは実につまらなさそうな表情で、つばを吐き出した。
「ちっ⋯マジで時間の無駄だったじゃねぇか。オイ、ルアナパイセンよォ。今なら、土下座で許してやるよ。まぁやんなかったら、どうなるかわかんねぇけどなァ。」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、ルアナのもとへと歩み寄り、不良くんはそう告げる。
その言葉を聞いたルアナは、よろめきながらも地面に膝をついた。
そして、ゆっくりと頭を垂れていく。
「ほんとに───────。」
申し訳ございませんでした。
あるいは、ソレに準ずるような謝罪の言葉が出てくるものだと誰しもが思っていたのだろう。
ゆえに、その言葉は誰しもの意表を突いたのだ。
「キミはほんとうに滑稽だね。滑稽すぎて、哀れを通り越してもはや笑っちゃうくらいだよ。」
不良くんの背後に姿を現した僕は、笑いを抑えきれずにニヤけながらそう告げた。




