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第七話

「なるほど、最初は睨み合っていたわけだが、そこから口論が始まり、先ほどのような殴り合いに発展していったというわけか…。」


あごに手を当てて、一年生たちの証言から原因をまとめていくリリー先生。

訓練場の床に正座をしている五十人の一年生。

リリー先生の横で、彼ら一年生たちが喧嘩をし始めないように見張っている二人の教師。

そんな光景を横目で見ながら、僕たち2年Sクラスの生徒はペアで組手を行っている。


僕がペアを組んでいるのは当然のごとくゼルであり、僕からしたらそれ以外の相手が考えられなかった。

濃密な魔力が乗せられた拳の連打を上半身だけを動かして、その場から一切移動せずに捌き切る。

さらにはカウンターの要領で、ゼルのみぞおち辺り目掛けて軽めのジャブを放つ。


「っと、危ない。相変わらず、ルアナの身体能力は一般人の範疇を逸脱しているね。」


「それを言うなら、ゼルも同じじゃないかな?僕とここまで殴り合えるのは、この学年だと数人しかいないと思うよ。もちろんゼルはその数人のうちの一人さ。」


会話の内容とは裏腹に、どんどんと激しさを増していく拳の応酬。

昨日の戦いはあまりにも不完全燃焼だったゆえに、思わず笑みがこぼれてしまう。


「フフッ、僕は今すごく楽しいよ…ゼル。こうして誰かと戦えることが、さ!!」


声を張り上げて、僕は思いっきり右足を振り上げた。

とっさにゼルは腕を交差させて、蹴りを防ごうとする。

が、威力を殺し切ることができずに、ゼルは後退する。


「ちょっと休憩しよう、ルアナ。君と十分以上戦うのは、さすがにキツイからさ。」


そう言って、ゼルは地面に大の字になって寝っ転がる。

僕も地面に腰を下ろし、ほんの少しだけ乱れた呼吸を整えるのであった。


この時の僕は気づいていなかった。

リリー先生のいるほうから、いくつかの視線が僕に注がれていたことを。


✚✚✚


時はお昼時。

僕は学校での数少ない楽しみである学食を食べに、食堂へと足を運んでいた──はずだった。


「それで…僕になんの用?もしこれでその話がくだらないことだったら、殺しはしないけど……そうだね、足が曲がるべきじゃない方向に曲がることになるかもね。」


校舎裏。優しげに微笑みながら、僕は目の前の少年少女に告げる。

二人は少し怯んだような様子を見せるが、それ以上にその瞳には怒りの炎がくすぶっていた。


うーん、僕はコイツらになにかした覚えはないんだけどなぁ。

またなんか変ないちゃもんでもつけられるのかな?


しかし…この子たち、なかなかに強そうだ。

昨日戦ったザーなんとか公爵家のヤツとその取り巻きたちとは比にならないほど。

今年の1年生はなかなかどうして、粒ぞろいみたいだね。


この場に呼び出されてだいたい数分、ようやく夜色の髪の少年が口を開いた。


「お前、我が主に何をした?貴様と会ってから、あの御方…ジルフェイド様がなにかにすごく怯えている。そしてそのなにかは、お前の可能性ご高い。」


ジルフェイド、ジルフェイドかー…彼は誰のことを言ってるんだろう?

どこかで聞いたことがある気がするけど、まったく分からない。

まぁ、知り合いじゃないということだけは分かる。


「キミはいったい何を言っているんだい?僕にジルフェイドっていう知り合いはいないよ。僕のことを誰かと勘違いしてるんじゃないかな?」


「──そうか。すまないな、余計な時間をとらせてしまった。もう行ってもらって構わないぞ。」


少し考えるような素振りを見せ、少年のほうが口を動かす。

その言葉に、僕は微笑を浮かべ───彼の脇腹に拳を突き刺した。


「ガハッ。」


肺から空気が漏れ出るような音がして、彼は地面に膝をつく。

僕の行動に、桜色の髪を持つ少女のほうが驚いたように拳を構える。


いったいどうしたのだろう?

僕がなにか驚かせるようなことでもしてしまっていたのかな?

僕はわけが分からず、キョトンとした顔をしていると、少女がいきなり僕に向かって声を荒らげる。


「貴方!!どうしていきなり兄さんを殴ったのですかっ!?」


「えっ?キミ、いったい何を言ってるんだい?僕は最初に言ったよね。話がくだらないことだったら、足が変な方向に曲がるかもしれないって。むしろ拳一発で済ませてあげることに感謝してほしいんだけど。」


彼女はギリッと音を立てて歯を食いしばり、僕に向けて拳を振り抜こうとした。

あっそう、キミはそういうタイプの人間なんだね。

キミのお兄さんとやらに免じて、キミは殴らなかったというのに……その本人は自身が助かったことをまったく理解していないらしい。


「待てっ、ヒイロ!!」


僕が蹴りを放とうとしたその瞬間、膝をついていた少年がそう声を張り上げた。

その声を聞いた少女は、ピタリとその動きを止める。


「すみませんでした。俺たちがくだらない話をしたばかりにこんなことをさせてしまって。ヒイロが殴ろうとしたことも、本当に申し訳ありません。」


僕に対して頭を下げる男に、少女は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

僕の予想した通り、この少女は常識の通じないキチガイタイプらしい。

じゃないとこの年齢で自分が悪いことをしたのに、謝らないだなんてことをしないはずがないからね。


「別にいいよ。むしろ僕はキミが妹のためだけに頭を下げれることに感動すらしているんだ。だからさ、これで手打ちにしてあげる。」


今度は脇腹ではなく、みぞおちへと拳を叩き込む。

まぁさっきと一緒で魔力は一切込めてないから、内臓が破裂したりすることはないだろう。

せいぜい嘔吐するくらいだと思うよ?


「それじゃあね。キミたちが楽しい学校生活を送れるようにわずかながらも祈っているよ。」


えづいている少年に背を向け、手をヒラヒラと振ってその場を去っていく。


✚✚✚


この時のルアナはまだ知らない。

自身がこれからどんどんとトラブルに巻き込まれていくことになるということを。

そして、自身がこの世界の主人公やその他の主要キャラ、彼と同じイレギュラー(転生者)たちに目をつけられていることを。


ルアナはこれからもそのことを知ることはない…いや、知ろうとしないだろう。

彼はただ、他者を絶望の渦中に叩き落としたいだけであり、相手の感情などに興味はないからだ。


彼は素知らぬ顔で、これから関わろうとした他者の運命を悪い方向へと捻じ曲げる。

なぜなら彼は、邪悪だからだ。



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