8 to do:2 説教
霧の東側、外との境目にそっと立つ。カインが一歩遅れて隣に並んだ。
やっぱりこちら側には敵の姿はない。
ほっと息を吐いた。
どの方向へ行こうか、スモークはどこで焚くのが効果的か考えていると、急にカインが私の顎を掴んだ。
正面に向けたあと、右に向かせた。私の顔に何かついているのか聞こうと口を開いた瞬間に、カチッと乾いた音がした。
直後、耳の下、首の付け根に何かがグサリと刺さる。
「痛った!」
「投与完了:体内ナノマシン上位制御型」
カインの手には大きな注射器。
信じられない思いでカインを見上げる。
反射的に瞬きをしてから、やっと声が出た。
「それ、投与前に言ってくれない!?」
「了解」
どうしてこれに限って事後報告なんだ。私は注射が大嫌いだって、知ってて不意打ちしたんじゃないのか。
ズキズキするそこを押さえる。
うめき声ともため息ともつかない声が漏れて、無理やり気を取り直す。
慎重に数メートル進んで、周囲を確認する。
ヘルメット内の通信機が回復しかけているのか、ブツブツと音がし始めた。
この状況のせいかさっき投与された上位ナノのせいか、胸が高鳴る。
カインに合図をすると、スモークを投げた。
煙が広がるのを確認し、一気に崖の淵まで駆ける。
自分の脚じゃないみたいに速い。心臓が強く脈打つのに、息は乱れない。
「これ、さっきの上位ナノのせいでしょ。でもあとで説教だからね」
まだ途切れがちな通信にカインの声が入る。
「敵車両1台:連携対象を捜索開始」
振り返り、シールドを展開して身体を屈める。
一拍遅れてエネルギーとナノマシンの鎖が機銃の弾を受け止めた。
「……これ、いいな」
連射機銃なのに、衝撃が小さい。
仕組みはよくわからないけど、これ、金属の盾よりも良いかもしれない。
少し心配していたけれど、エネルギー残量の減り方も問題無い。これならまだ耐えられる。
ドライバーもガンナーも私に引きつけられている。
車両が霧の横を通るタイミングに合わせてカインが動いた。
カインの足が地面を蹴るたび、鉄の塊を殴りつけるような音を立て、踵のジェットが草を焼きながらそれを押し出す。
……力技の走行システムだと思う。もっとスマートな推進方法は無かったのか。
それでも、カインの重そうな鉄の身体が弾丸のような速度で射出され、車両側面に飛びつく。
射線が私から逸れた。カインに気付いたんだろう。でももう遅い。
盾を構えながら後ずさって、低い崖の向こうに飛び降りた。
次はカインの番だ。
強い衝撃が金属に叩きつけられる音が響く。
背面ドアの破壊。……殴っているのか、蹴っているのか。そういう音だろう。
空気の振動が1発1発の重さを伝えてくる。4発目で、金属が限界を迎えた音。
「カイン、大丈夫……?」
恐る恐る通信を飛ばす。
「現在背面ドア破壊中。破損部より拡張。」
続く金属がねじれる嫌な音が耳に突き刺さり、鳥肌が立つ。
それに被さる敵兵の叫び声。
『おいおいおい! 敵は1人じゃねえのかよ! ロボがいるなんて聞いてないぞ! 振り落とせ!』
『リーダー早く来てくれ! 早く! ケツから入られる!』
通信と通信の外側、両方からタイヤが激しく暴れている音が聞こえる。
次いで小銃の音と、2人分の何かが砕ける不穏な低い音。
崖から車両が飛び出してきて、目の前で車体を揺らして着地した。
「制圧完了」
運転席から立ち上がったカインの姿を見て、いつの間にか小さく止めていた息を吐いた。
「っ‥‥、よくやった‥‥カイン」
喜ぶのはまだ早い。
でもこれで戦力は半分に削った。
読んでくださってありがとうございます!
外見だと違いが分からないけど内側で機構が変わるタイプの◯◯モードが好きです。




